食品添加物の指定に関する食品衛生調査会 毒性・添加物合同部会報告について - スクラロースの指定について
(別添)
スクラロースの指定について
1.品目名:スクラロース(sucralose)
(別名)トリクロロガラクトスクロース 4,1',6'-トリクロロガラクトスクロース
2.構造式:化学名:1,6-dichloro-1,6-dideoxy-β-D-fructofuranosyl-4-chloro-4-deoxy-α-D-galactopyranoside
示性式:C12H19Cl3O8
分子量:397.64
CAS番号:56038-13-2
INS番号:955
3.用途:甘味料
スクラロースは、飲料、デザート、ドレッシング等100 品目以上の食品に、甘味料として使用される。
4.起源又は発見の経緯及び使用状況等
スクラロースは、ショ糖の3つの水酸基を、選択的に塩素原子に置換することにより生成される。
1970年代に、ロンドンのクイーン・エリザベス大学において、ショ糖の化学修飾に関する実験が行われ、その後同大学とTate&Lyle 社による共同研究が行われ、ショ糖の600倍の甘味を有する本品が発見されたものである。
FAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)では、安全性の評価を行っており、1988年には、暫定ADIを一日当たり0-3.5mg/kg体重と設定し、その後1990年の第37回会議において、ADIを一日当たり0-15mg/kg体重と設定している。
添加物としての使用については、現在、カナダ、ニュージーランド、米国など 20カ国以上で、食品添加物(甘味料)として使用されている。
5.有効性
スクラロースは、甘味料として様々な食品に使われる。我が国で既に甘味料として添加することが認められているものには、食品衛生法施行規則別表第2 において、アスパルテーム、キシリトール、グリチルリチン酸二ナトリウム、サッカリン、サッカリンナトリウム、D-ソルビトール等が、また、厚生省告示第120号の既存添加物名簿において、N-アセチルグルコサミン、カンゾウ抽出物、D-キシロース、ステビア抽出物等がある。しかしながら、サッカリンナトリウム、ステビア抽出物、カンゾウ抽出物には、特有の苦み、渋味がある。また、アスパルテームは、中性あるいはアルカリ性水溶液中での保存安定性や加熱安定性が劣っている。
今回申請のあったスクラロースについては、これらの観点から検討が加えられており、ショ糖に似た甘味を持ち、苦味・金属味等を持たず、また、安定性にも優れた物質であると報告されている。(別紙1)
例えば、1%スクラロース水溶液は、30℃、pH=3.0という条件下において、336 日後においても97.1%が残存している。
6.安全性
(1)急性毒性試験-ラット及びマウスを用いて14 日間の単回強制経口投与を行った試験においては、スクラロース10.0g/kg及び16.0g/kgの用量で死亡例を認めなかった。従って、これらの種におけるLD50値は、10.0あるいは16.0g/kg超であると推測される。
(2)亜急性毒性試験-ラットにスクラロースを、10,000、25,000、50,000 ppm の用量で、4週間混餌投与した試験では、死亡例は見られなかった。50,000 ppmの用量で、脾臓及び胸腺のリンパ濾胞の萎縮が認められた。1、2、4、8%のスクラロースを9週間混餌投与したラットの試験においては、4%以上の用量で、体重の増加抑制や盲腸重量の増加が認められた。ラットに、一日あたり2,000、3,000、4,000 mg/kg の用量を、それぞれ13、9、4 週間強制経口投与した場合には、全用量で盲腸重量の増加が認められたが、毒性学的に意義のある所見は認められなかった。以上の試験において観察された盲腸重量の増加については、低吸収性で浸透圧活性物質の高用量で見られる所見であり、毒性学的意義は乏しいものと考えられる。さらに、マウスにおいても34日間の混餌投与試験が行われているが、特記すべき所見は観察されなかった。
(3)反復投与毒性試験(慢性)及び発がん性試験-ラットにスクラロースを 1 及び3%の用量で、26週間混餌投与した試験においては、両用量で体重増加抑制が認められた以外は、明らかな毒性作用は認められなかった。別の 26 週間の強制経口投与試験において体重増加抑制の原因を検討した結果、1%での体重影響は摂餌量の低下が原因であり、3%の用量ではスクラロースの示す非消化性等他の影響が加味されていることが示唆された。ビーグル犬を用いた12カ月の反復混餌投与試験では、0.3、1、3%の用量において毒性作用は認められなかった。マウスにスクラロースを3,000、10,000、30,000 ppmの用量で、混餌投与した104週間反復投与毒性/発がん性併合試験では、スクラロース投与に起因すると考えられる死亡例や一般状態の変化は観察されなかった。腫瘍性病変の発生率については、対照群と同等であった。30,000 ppmの用量において雌雄で飼料摂取量の低下が主な原因と考えられる体重増加の抑制、10,000 ppm以上の雌で肝相対重量の増加が認められた。また、30,000 ppm の用量において雌では赤血球の減少が見られたが、これの所見を裏付ける変化は、病理組織学的には認められず、毒性学的意義は乏しいと考えられた。発がん性は認められない。また、ラットに 3,000、10,000、30,000 ppmの用量で、混餌投与した104週間反復投与毒性/発がん性併合試験では、全投与群で体重増加の抑制が見られたが、その原因は主に飼料摂取量の低下によるもので、毒性学的意義は乏しいものと考えられた。雌の全投与群において、軽微な腎盂粘膜過形成の発生率が有意に増加し、10,000 ppm以上の用量で腎盂の鉱質沈着の増加が随伴して認められた。腎盂粘膜の過形成は、鉱質沈着による粘膜への機械刺激が原因であることが示唆され、低吸収性の物質を多量に含む餌を摂取したために誘発される盲腸膨満の生理学的反応に関連した変化と考えられた。盲腸の拡張と腎盂の鉱質沈着は、低吸収性物質である乳糖などの自然糖、キシリトール、ソルビトール等のラットへの連続投与においてもしばしば観察されることが報告されており*1,2)、毒性学的意義は低いものと考えられた。ラットにおける無毒性量は、30,000 ppm(1,500mg/kg 体重/日)であると考えられる。発がん性は認められない。
*1 Leeg Water, D.C., DE Groot, A.P. & VAN Kalmtout-Kuiper, M. Fd. Cosmet. Toxicol. (1974) The aetiolog of caecal enlalgement in the rat. 12:687‐697.
*2 Lord, G.H. & Newberne, P.M. Fd. Chem. Toxic. (1990) Renal mineralization-a ubiquitous lesion in chronic rat studies (REVIEW). 28:449‐455
(4)繁殖試験-雄ラットにスクラロースを一日当たり500mg/kgの用量で28 日間経口投与したが、精子の14CO2産生量及びATP濃度に変化はなかった。3,000、10,000、30,000 ppmの用量で親世代及び子世代に混餌投与し検討したラットの2世代繁殖試験においても、交尾率、妊娠率、受胎率、出産率、出産児数等の繁殖能力について、対照群と有意な差は観察されなかった。さらに、ラットに 3,000、10,000、30,000ppmの用量で母動物に2年間混餌投与した場合においても、交尾や受精能に影響はなく、妊娠期間に軽微な延長が認められたものの生物学的に有意なものとは考えられず、児動物に対しても特筆すべき影響は認められなかった。
(5)催奇形性試験-一日当たり500、1,000、2,000mg/kgの用量のスクラロースを雌ラットの妊娠6~15 日にかけて強制経口投与した試験では、親動物・児動物ともに影響は認められなかった。従って、本試験における無毒性量は2,000mg/kg超であると考えられた。催奇形性は認められなかった。また、一日当たりスクラロースを175、350、700mg/kgの用量で雌ウサギの妊娠6~19日にかけて強制経口投与した試験では、700mg/kgの最高用量においてのみ、親動物に、胃腸障害(下痢等)とそれに伴う体重減少が認められ、死亡例や流産が一部で観察された。しかしこれらは、低吸収性で浸透圧活性を示す物質にウサギは敏感であり、浸透圧効果を示すような化合物の高用量によって生じた非特異的な影響によるものであると考えられた。また、700mg/kgの用量においても胎児の成長や発育に影響は見られなかった。本試験における無毒性量は、親動物で 350mg/kg、児動物では700mg/kg超であると推測される。催奇形性は認められなかった。
(6)抗原性試験-モルモットを用いた試験では、30%スクラロース水溶液あるいは10%スクラロースFCA乳濁液の皮内投与による1次感作、及び50%スクラロース水溶液の皮膚塗布による 2 次感作とそれに続く惹起により、遅延型接触過敏反応は認められなかった。
(7)変異原性試験-ネズミチフス菌を用いた復帰突然変異試験において、スクラロースは、16、80、400、2,000、10,000 μg/プレートの用量において、変異原性を示さなかった。大腸菌を用いたDNA修復試験では、0.5、1、10、100、500、1,000 μg/プレートの用量において、阻止体は認められず、DNA 損傷誘発性はないと判断された。ヒト培養リンパ球を用いたin vitro 染色体異常試験では、8、40、200 μg/ml用量において、統計的に有意な影響は認められなかった。一方、マウスリンパ腫細胞を用いた in vitro 遺伝子突然変異試験において、スクラロースを1,335、1,780、2,373、3,164、4,219、5,625、7,500、10,000μg/mlの用量で処理したところ、7,500、10,000 μg/ml で弱い変異原性が認められた。しかし、マウスに1,000、5,000mg/kgの用量を単回経口投与した小核試験においては、小核の誘発は認められなかった。また、ラットに、500、1,000、2,000mg/kg の用量を5日間反復経口投与したin vivo染色体異常試験において、染色体異常の誘発は認められなかった。マウスリンパ腫細胞を用いた試験での陽性結果は、著しく高い用量での結果であること及び他の試験で全て陰性であることから考えて、特段問題とする所見ではないと判断された。
(8)一般薬理試験-ラット及びマウスにおいて、一般症状を観察すると、どの実験においても、スクラロースによる異常行動などは観察されなかった。また、マウス・サル・ヒトにおいて中枢神経系への作用を神経学的、病理学的に検討しているが、影響は認められていない。さらに、ヒトにおいて呼吸数、脈拍・血圧・心電図への影響はなく、呼吸器系及び循環器系への作用も認められなかった。消化器系への影響については、ラットで反復投与後に盲腸重量の増加が観察されたが、組織学的変化はなく、毒性学的に意義のあるものではなかった。水及び電解質代謝への影響については、ラットで検討されており、摂水量の増加を認めたが、電解質成分・尿量などに明らかな影響は認められなかった。
(9)その他の毒性試験-上記を含め別紙1に示した試験成績が提出されている。
7.体内動態
(1)吸収・排泄-スクラロースを経口投与した場合、マウス・ラット・イヌ・ヒト間で吸収・排泄・血中動態に差はほとんどないことが示唆されている。排泄に関しては、種によってばらつきがあるもののおよそ60~90%が糞中に排泄される。残りの10~30%は尿中に排泄され、呼気中への排泄はほとんどない。最大血漿値は投与後 30 分~3 時間に観察される。例えば、ラットに 2,000 mg/kg を経口投与した場合には、およそ1時間で10~15μg/mlの最大血漿濃度に達する。ヒトにおけるスクラロースの半減期は、2.5~23時間であった。
(2)分布-ラットにおいて、放射性標識化合物を用いた経口投与による検討では、腸管を除くと、臓器中では肝臓や腎臓が最大値を示したが、24 時間後には血漿レベル以下になった。脳内への分布は低い。
(3)代謝-ラット・イヌ・ヒトにおいて検討した結果、スクラロース経口投与後の尿及び糞中排泄物は、ほとんどが未変化体であったが、イヌ尿中に解毒過程の代謝によるグルクロン酸抱合体が代謝産物の一つとして同定されている。
(4)その他-ヒトにおいてスクラロースは、ショ糖吸収を阻害しない。また、インスリン分泌を増加しない。
上記を含め別紙1に示した試験成績が提出されている。
8.一日摂取許容量(ADI)の設定
ここに申請された資料に基づき次のように評価する。
無毒性量 |
1,500 mg/kg体重/日 |
動物種 |
ラット |
投与量 |
3%(30,000 ppm)混餌投与 |
投与期間 |
104週間 |
試験の種類 |
反復投与毒性/発がん性併合試験 |
安全係数 |
100 |
ウサギの催奇形性試験において、700mg/kg の用量で、親動物に影響が認められているが、ウサギは、低吸収性で浸透圧活性を示す物質に敏感であり、非特異的な形で下痢を起こしやすい。また、児動物に対しては、700mg/kgの用量においても催奇形性が認められていない。従って、この試験の親動物に対する無毒性量(350mg/kg)を、ADI設定の根拠に用いることは適切ではない。
以上よりスクラロースとして
9.一日摂取量の推計
スクラロースは、甘味料として様々な食品に使用される事が推定される。平成5年国民栄養調査成績の食品群別摂取量をもとに、甘味料の推定一日摂取量をショ糖に換算して計算すると、35.0gとなる。スクラロースは、ショ糖の約600倍の甘味度を有している。従って、ショ糖の摂取量を全てスクラロースに置き換えたとして計算される一日推定摂取量は、58.3mgとなる。日本人の平均体重50kgで除すると、一日あたり1.17mg/kg体重を摂取することとなる。
10.使用基準
使用基準については、下記のとおり設定することが適当であると考えられる。
スクラロースの使用量は、生菓子及び菓子にあっては、1kgにつき1.8g以下(但し、チューインガムにあっては、1kgにつき2.6g以下)、ジヤムにあっては、1kgにつき1.0g以下、清酒、合成清酒、果実酒、雑酒、清涼飲料水、乳飲料及び乳酸菌飲料(但し、希釈して飲用に供する飲料水にあっては、希釈後の飲料水)にあっては、1kgにつき0.40g以下、砂糖代替食品(コーヒー、紅茶等に直接加え、砂糖の代替として用いられるもの)にあっては、1kgにつき12g以下、その他の食品にあっては、1kgにつき0.58g以下でなければならない。但し、特別用途表示の許可又は承認を受けた場合は、この限りでない。
11.成分規格
成分規格については、別紙2のとおり設定することが適当であると考えられる。参考までにJECFAにおいて設定されている規格等との比較表を別紙3に示す。