薬事・食品衛生審議会資料

 

平成13年06月21日

 

 

畜水産食品中に残留する動物用医薬品の基準設定に関する 薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会乳肉水産食品・毒性合同部会報告につい - 薬食審 第111号:(別紙)の(別添4) ネオマイシンの審議結果

 
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(別添4)
ネオマイシンの審議結果
 
(1)使用方法
       ネオマイシン(Neomycin)は、土壌中のStreptomyces fradiaeより分離されたアミノグリコシド系抗生物質で大腸菌、赤痢菌、サルモネラ、腸炎ビブリオ等の広域なグラム陰性及びジフテリア菌、ブドウ球菌等のグラム陽性菌に効果がある。わが国及び諸外国で牛、豚、鶏の細菌性下痢症に経口投与で使用されている。また、人に対しても内服薬、外用薬として使用が認められている。
(2)ADIの設定について
      1)吸収・排泄
       モルモットを用いた経口投与試験(5、10、100mg/kg体重)では、100mg/kg投与後1時間及び2時間の血漿中の濃度はそれぞれ、1.5、0.45mg/mlであった。5、10mg/kgでは、採取した全時点(1、2、3、4時間後)、100mg/kg群では、投与後3、4時間後に採取したものが検出限界濃度(<0.10mg/ml)以下であった。
       鶏を用いた静脈単回投与試験(20mg/kg体重)では、血中濃度曲線は二次関数的減少を示し、消失相のT1/2は約6時間、AUCは約196mg・h/mlであった。同様に筋肉内単回投与試験では、最高血中濃度Cmaxは約17mg/mlで、投与後40分で最高血中濃度に達した。AUCは約132mg・h/mlであり、バイオアベイラビリティは約70%であった。
       羊を用いた静脈内投与試験(20mg/kg体重)ではT1/2は、約3時間で、20分以内に分布平行状態に達した。筋肉内投与(10mg/kg体重)では、1時間でピーク濃度に達し、投与後12時間後には血漿中からネオマイシンは検出されなかった。投与後12時間以内の乳中からは極微量が検出された。
       子牛(2~6カ月齢)を用いた5日間経口投与試験(22mg/kg体重/日)では、血漿中の平均ピーク濃度は0~0.06mg/mlで、到達時間は1~96時間であった。
       子牛(3~60日齢)に放射能標識C14ネオマイシンを経口投与(30mg/kg体重)した試験では、放射活性の殆ど(85~97%)が糞便から検出された。尿中の放射活性は牛の加齢に伴い11%~0.5%に減少し、3日齢の子牛でのC14ネオマイシン量は腎臓、肝臓、筋肉内でそれぞれ、55、1.93、0.09ppmであった。

      2)毒性試験

      (1)単回投与試験
       ネオマイシンの単回投与試験でのLD50は、マウスの経口投与では2250~>2500mg/kg体重、静脈内投与では40~158mg/kg体重、皮下投与では400~550mg/kg体重、腹腔内投与では658~1,000mg/kg体重であった。

      (2)反復投与試験
       ラットを用いた長期毒性・発がん性併合試験(0、6.25、12.5、25mg/kg体重/日:3世代生殖毒性試験で得られたF1に104週間同濃度の被験物質を混餌投与)では、有意差はなかったが、25mg/kg体重/日投与群で15頭中3頭が難聴を示した。他の指標では投与に関連した影響は見られなかった。また発がん性を示す所見は得られなかった。この試験のNOELは12.5mg/kg体重/日であった。

      (3)生殖毒性試験
       ラットを用いた3世代生殖毒性試験(0、6.25、12.5、25mg/kg体重/日:混餌投与:投与11週間後F0世代ラットを交配してF1a世代をつくり、繰り返す)では、全世代を通じて投与に関連した影響は認められなかった。本試験のNOELは 25mg/kg体重/日であった。

      (4)催奇形性試験
       ラットを用いた催奇形性試験(妊娠6日までは0、6.25、12.5、25mg/kg体重/日、妊娠6~15日は0、62.5、125、250mg/kg体重/日、妊娠16~20日は用量を戻してそれぞれ混餌投与)において、母体への毒性、胎児毒性、催奇形性はいずれも見られなかった。

      (5)遺伝毒性試験
       細菌を用いる復帰突然変異試験、ほ乳類培養細胞を用いる遺伝子突然変異試験、およびマウス骨髄を用いた染色体異常試験(200mg/kgまで試験)が行われ、結果はすべて陰性であった。従って、生体にとって問題となるような遺伝毒性はないものと考える。

      (6)特殊試験
      a) 腎毒性試験
       マウスを用いた14日間皮下投与試験(30、100、300、600、1,000mg/kg体重/ 日)では、最高用量群で2例が死亡し、全ての用量群で腎毒性が見られた。
       モルモットを用いた3カ月間皮下投与試験(10、20、60mg/kg体重/日)では、腎臓の病理組織学的検索を行ったところ、全ての用量群で尿細管上皮の変性と壊死を伴った亜急性から慢性の巣状間質性腎炎が認められ、投与量に比例してその病変の程度が増加した。
       イヌを用いた1ヶ月筋肉内投与試験(24、48、96mg/kg体重/日)において、病理組織学的検査で、全ての投与群で尿細管上皮の変性と壊死を伴った巣状間質性腎炎が認められた。イヌを用いた6週間経口投与試験(100mg/kg体重/日)においては、腎毒性はみられなかった。
      b) 聴器毒性に関する試験
       モルモットを用いた90日間経口投与試験(ネオマイシン硫酸塩として0、1、5、10mg/kg体重/日を経口投与:陽性対照群として、10、100mg/kg体重/日を皮下投与)では、100mg/kg皮下投与群でプレイヤー耳介反射の閾値と蝸牛管の有毛細胞数に聴器毒性を示唆する変化が認められたが、10mg/kg皮下投与群及び全ての経口投与群では聴器毒性は認められなかった。本試験のNOELは10mg/kg 体重/日(ネオマイシンに換算すると6mg/kg/日)であった。
       ネコを用いた試験(臨床処方用ネオマイシンでは、20、40、100mg/kg体重/日を30、60、90日間皮下投与、粗製ネオマイシンは経口的に1日2回、500mg/kg 体重/日を30日間投与)では、臨床処方用のネオマイシン100mgを30日間投与したネコのみに前庭機能の障害が認められた。蝸牛管機能の低下は全ての投与群でみられ、その程度は皮下投与群で顕著であった。
      c) 刺激性、感受性増加に関する試験
       モルモットを用いた胸膜内投与試験では特に刺激性は認められなかった。モルモットを用いたパッチテストでは、カナマイシンとストレプトマイシンに交差感受性陽性の反応が認められた。

      (7)腸内細菌叢に関する試験
      a) In vitro 試験
       ほとんどがヒトから分離された種々の細菌に対するいくつかのIn vitro微生物学的試験では高密度接種条件で最も感受性の高い細菌(Escherichia coliとLactobacillus spp.)で得られたMIC5064mg/mlであった。
      b) In vivo 試験
       ネオマイシンを健常な雑種犬37頭(400mg/kg体重/日:2、4、10日間投与)、24人のヒト(6g/日:1、3日間投与)に経口投与したところ、いずれにおいても糞便中の大腸菌群は24~48時間以内に減少又は消失した。400mg/kg体重/日を10日間投与されたイヌの10頭中4頭で投与後5~6日目に耐性大腸菌株が出現した。ヒトへの投与群では耐性は認められなかった。
       ヒト腸内細菌共生マウスに1、2、3、4g/Lを飲水投与した。それらの0、1、3、5、7、14、28、35日目の糞便サンプルを培養した。数々の偏性嫌気性菌、グラム陰性偏性嫌気性菌、E.coli、Enterococciは1g/L群で35日以降も変化が無かった。2、3g/L群ではE.coli、Enterococciは減少し、グラム陰性偏性嫌気性菌は増加した。本試験のNOAELは、1g/Lに相当する125mg/kg体重/日であった。

      (8)ヒトにおける所見
      a) 腎毒性
       ネオマイシンによる治療を受けている63人の患者(男性34人、女性29人で年齢は9ヶ月から63歳まで-内22人は60歳以上)について臨床検査が行われた。薬剤投与に関連した腎毒性の発現は何人かの患者で報告された。連続して尿検査を受けた32人の内、24人に微細顆粒円柱が認められた。筋注によりネオマイシン治療を受けた他の剖検例では重い尿細管障害を認める症例もあった。
      b) 聴器毒性
       ネオマイシンを1.5~2g/日を9日間筋肉内投与患者について聴力検査と前庭機能検査を行ったところ、5人の患者で難聴が報告され、前庭機能の喪失が2人の患者で発生した。高用量(全量で18gから633g)を経口投与された患者で病理組織学的内耳変化を伴う聴覚喪失が報告されている。
      c) 過敏症
       ネオマイシンの投与を受けた皮膚感染症の患者675人の調査によると、ネオマイシンへの感受性インデックスは非常に低い。ネオマイシン投与(例えば外耳剤、眼剤)による接触性皮膚炎の症例は遅延性(ツベルクリン型)であり、表皮過敏症ではないと報告されている。ネオマイシンに高感受性を示す患者の55~75%においてアトピーの所見(抗原刺激性に対する広域な免疫応答をもたらす遺伝素因)が認められたと記載されている。
      d) 吸収不良症候群
       ネオマイシン(4~12g/日)を最低4日間投与した患者の生検試料12例中11例では、特発性脂肪性下痢症患者に見られるのと同様か、それほどではないが、空腸粘膜の形態学的変化が観察された。しかし、最終投与後、18日で、その所見は正常に修復した。
       ネオマイシン硫酸塩を経口で12g/日を4日間、及び同量を空腸と回腸部位への直接的な挿管による投与が11人に行われた。経口投与により脂肪性下痢は生じたが、小腸への挿管部位を下方に移動することにより、便中の脂肪量は明らかに減少した。
       3人の健常なボランティアに8g/日のネオマイシンを7日間経口投与した。投与7日後に採取した小腸からの生検サンプルでは、粘膜の絨毛の僅かな扁平化と二糖類分解酵素の活性低下が認められた。腸上皮固有層にはプラズマ細胞や好酸球の浸潤が認められた。しかし、小腸の粘膜や固有層の酵素活性や組織学的所見は、投与中止後10日~14日で正常に戻った。

      3)ADIの設定
       以上の試験成績から次のようにADIが算定された。
       本剤の微生物学的ADIを算定すると以下のとおりとなる。
       
       MIC値64mg/mlは最も感受性が高いとされた細菌種について、高接種密度条件下で測定された。補正の必要性はないと判断された。
       ヒト消化管内での生物学的利用能は推定値として、100%が採用された。
       ヒト腸管から分離した嫌気性菌を含む多様な菌種を網羅する豊富なデータが得られているため、安全係数は1を適用した。
       動物実験から、ADIを算定すると、モルモットの聴器毒性に対するNOEL6mg/kg体重/日に基づき、安全係数を100とすると、60mg/kg体重/日となる。この数値は、微生物学的ADIよりも低い数値であるので、ADIは60mg/kg体重/日とする。


(3)残留基準値の設定について
       残留基準値については、国際基準と同様に設定しても、日本人1日あたりの肉及び乳の平均摂取量(厚生省国民栄養調査成績)から試算される理論最大摂取量は(2)の3)で得られたADIを超えないことから、以下の通りとする。

      筋肉(牛、豚、羊、やぎ、鶏、七面鳥、あひる)
      0.5 ppm
      脂肪(牛、豚、羊、やぎ、鶏、七面鳥、あひる)
      0.5 ppm
      肝臓(牛、豚、羊、やぎ、鶏、七面鳥、あひる)
      0.5 ppm
      腎臓(牛、豚、羊、やぎ、鶏、七面鳥、あひる)
      10.0 ppm
      鶏卵
      0.5 ppm
      0.5 ppm

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