既存添加物の安全性評価に関する調査研究(平成8年度調査)
主任研究者 林 裕造 北里大学薬学部客員教授
研究要旨
平成8年4月16日に告示された既存の天然添加物の489品目について、国際的な評価結果及び欧米での許認可状況の調査を行うとともに、安全性試験成績を収集し、その試験結果の評価を行うことにより、既存の天然添加物の基本的な安全性について検討した。
研究協力者 |
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金井 美恵子 |
相模女子大学短期大学部家政科講師 |
祖父尼 俊雄 |
国立医薬品食品衛生研究所安全性生物試験研究セン夕ー変異遺伝部長 |
田中 悟 |
国立医薬品食品衛生研究所客員研究員 |
廣瀬 明彦 |
国立医薬品食品衛生研究所安全性生物試験研究セン夕ー総合評価研究室主任研究官 |
山田 隆 |
国立医薬品食品衛生研究所食品添加物部長 |
A.研究目的
平成7年5月の食品衛生法改正により、食品添加物の指定制の範囲が従来の化学的合成品から天然香料等を除くすべての添加物に拡大された。本改正に伴い従来から販売・製造・使用等がなされてきた化学的合成品以外の添加物(天然香料等を除く。以下「天然添加物」という。)については、経過措置として、その範囲を既存添加物名簿として確定した上で、引き続き、販売・製造・輸入等を認めることとされた。
しかしながら、これら既存添加物名簿に掲げられた天然添加物については、従来から指定されている添加物と異なり、各品目毎に安全性のチェックがなされているものではなく、国会等において、その安全性の確認が求められているところである。
本調査研究は、既存添加物に掲げられた天然添加物489品目について、国際的な評価結果及び欧米の許認可状況調査を行うとともに、国内外の試験成績を収集し、その試験成績の評価分析を行うことにより、天然添加物の基本的な安全性を検討することを目的とした。
B.研究方法
既存添加物489品目のうち、平成7年8月の暫定名簿に示された466品目については、平成7年度の厚生科学研究において、国際機関、欧米等における評価の状況及び国内外での安全性試験実施の状況について調査したので、今年度は既存添加物名簿に追加収載された23品目について、①FAO/WHO合同食品添加物専門家会議(以下「JECFA」という。)における安全性評価状況、②米国における許認可状況、③EUにおける許認可状況を調査するとともに、④安全性試験成績を収集し、平成7年度の調査結果と合わせ再整理した。
JECFAにおける安全性評価状況については、原則として年1回定期的に開催されているJECFAの会議結果として世界保健機構(WHO)より平成8年2月までに公表された議事録によった。また、欧米における許認可状況については、米国は連邦規則集(以下「CFR」という。)1997年版に基づき、EUは1994年の食品添加物指令(着色料及び甘味料対象、それぞれ94/36/EC,94/34/EC)、19 9 5年の食品添加物指令(着色料と甘味料以外の食品添加物対象、95/2/EC)1988年の加工助剤指令(88/344/EEC)に基づき、その流通が認められているか否かについて調査した。なお、米国において流通が認められている添加物を米政府が公式に列記したものはCFR以外になく、本調査もCFRによったところであるが、CFRにおいても、例えば、「一般に安全と認められている物質」(以下「GRAS物質」という。)については列記されているものに限られるものではないと明記されているなど、CFRに掲げられていないからといって直ちにその流通が禁止されているわけではないので留意が必要である。
いずれの場合においても、天然添加物は、化学的合成品と異なり、構造式等により物質を特定することが困難であり、国や地域により様々な名称で流通しているので、調査研究に当たっては科学的に実質的に同等と考えられるものについてその状況が明らかになるように努めたところである。
また、国際的な評価がなく、欧米のいずれにおいても許可されていない品目のうち、28日以上の反復投与毒性試験成績及び変異原性試験成績の双方の資料を入手し得た41品目について、品目毎に安全性試験成績の評価を行った。
C.研究結果
① JECFAにおける安全性評価状況
既存添加物名簿に追加収載された天然添加物23品目を含む489品目についてJECFAにおける評価結果を整理すると、一日摂取許容量(以下「ADI」という。)が設定されたもの又はADIの設定が毒性学上必要ないとされたもの(ADI is not specified又はADI is not limitted)が58品目(AD Iが設定されたものが13品目、ADIの設定が毒性学上必要ないとされたものが45品目)ADIが暫定的に設定されているものが4品目、ADIは設定されていないが現行の使用は毒性学的に問題ないと判断されたもの(GMP(食品の製造に適正に使用される限り問題ない)、acceptable(現行の使用条件下で許容される))が12品目となり、合計74品目の評価が行われている。それらの品目を表1に示した。
② 欧米における許認可状況
既存の天然添加物に追加された23品目では、米国でGRAS物質とされているものが2品目あった以外、米国及びEUで食品添加物として使用が認められているものはなかった。これらの品目を加え、既存の天然添加物489品目について欧米における許認可状況を整理すると、米国で添加物として流通が認められているもの又はGRAS物質とされているものが136品目、EUで添加物として流通が認められているものが52品目である。それらの品目を表2及び表3に示した。
③ 安全性試験成績の収集、評価
既存の天然添加物に追加された23品目のうち、安全性試験成績が入手できたものは6品目あり、このうち、少なくとも28日間以上の反復投与毒性試験成績及び変異原性試験成績の双方が揃っているのは2品目であった。
上記①及び②において、JECFAにより安全性が評価されている又は欧米で添加物としての流通が認められていることが確認されたもの以外の品目で厚生省の委託によって国立医薬品食品衛生研究所等において安全性試験が実施されたもの又は日本食品添加物協会の協力を得て添加物関係業者から安全性試験成績を収集できたものは、今回の6品目を加えて112品目(表4)である。このうち、少なくとも28日間以上の反復投与毒性試験成績及び変異原性試験成績の双方が揃っているのは41品目であり、これら品目についてはその試験結果の評価を行うことにより、安全性について検討した。その概要は別添1のとおりである。なお、カードランと酵素分解レシチンの2品目については、CFR1997年版に新たに収載されたが、同時に安全性の検討を行っていたため、参考までに別添2として添付した。
D.考察
既存添加物名簿に掲げられている天然添加物489品目を対象に、①JECFAにおける安全性評価状況、②欧米における許認可状況を調査するとともに、③安全性試験の収集、評価を行った。
その結果、JECFAにより安全性が評価されている又は欧米で添加物としての流通が認められていることが確認されたものは、489品目のうち159品目であった。これらの品目についてはJECFA及び欧米において評価がされているので、基本的な安全性は確保されていると考えられる。
安全性試験成績を収集できた品目のうち、少なくとも28日間以上の反復投与毒性試験成績及び変異原性試験成績の双方が入手できた41品目については、その試験成績により基本的な安全性を評価することができ、現時点において、直ちにヒトへの健康影響を示唆するような試験結果は認められていないことから、新たな安全性試験を早急に実施する必要はないものと考えられた。
また、JECFA及び欧米で評価されている品目又は安全性試験成績を入手できた品目以外の289品目のうち、150品目については、その基原、製法、本質を踏まえ、その安全性について考察した。その内容については、既存添加物名簿収載品目のすべてについて、JECFA等の評価結果とあわせ表5を作成し、その備考欄に記載した。このうち、不溶性鉱物性物質については、従来から使用基準が定められていること、安全性の観点から考慮すべき事項は無機質の溶出と考えられるがその量はごく限られたものであることなどから、また、酵素については、主に食品の製造又は加工の過程で触媒として用いられるものであり、タンパク質からなることなどから、科学的に適正に製造される限り、一般に、人の健康の確保に支障となるものではないと考えられる。さらに、表5の備考欄に示したように、基原、製法、本質からみて、JECFA等で評価されたもの又は安全性試験成績が入手できたものと類似していると考えられる品目等については、類似品目の評価結果を参考に安全性を評価できるものと考えられる。表5の備考欄に考察を記したこれらの品目については、現段階において、安全性試験の実施等安全性の検討を早急に実施する必要はないものと考えられる。
JECFA、米国若しくはEUにおいて評価されている品目又は安全性試験成績を入手できた品目以外の289品目のうち、安全性に係る考察を行った上記150品目を除く、139品目については、その基本的な安全性を確認するために必要な資料の収集が未だできておらず、今後、安全性試験の実施を含め、その安全性について検討することが必要である。これらの品目は、基原、製法、本質からみて、表6のとおり分類(大分類として9、細分類も含めると25)することができると考えられるので、迅速かつ効率的に安全性の確認ができるよう、安全性試験の実施等にあっては各々の分類の中で代表的なものについてまず試験を行うなど国民の健康確保を第一に対応することが求められる。
E.結論
既存の天然添加物489品目のうち、159品目については既に国際的な評価がなされており基本的な安全性は確認されている。さらに41品目については入手した試験成績の評価により、また150品目についてはその基原、製法、本質からみて、いずれも現段階において安全性の検討を早急に行う必要はないものと考えられた。
上記以外の139品目については、基原、製法、本質に基づき分類することにより、安全性の確認を迅速かつ効率的に行うことが求められる。
〔表1~6は省略〕
参照:既存添加物の安全性評価に関する調査研究(平成11年度調査)
国際的な評価が終了している既存添加物(JECFA、FDA等)159品目(財団編):既存添加物(国際的評価済み)平成8年度.pdf
別添1の41品目
別添2の2品目