小麦のデオキシニバレノールに係る暫定的な基準値の設定について
*本通知はR4.3.31をもって廃止予定
(R3.7.30 生食発0730第8号による)
デオキシニバレノールは赤かび病菌として知られるフザリウム属真菌が産生するかび毒です。昨年開催されたFAO /WHO 合同食品添加物専門家会議において、デオキシニバレノールに関する安全性評価が行われ、現在、FAO /WHO 合同食品規格計画(コーデックス委員会)の食品添加物・汚染物質部会においてデオキシニバレノールを含有する食品のリスク管理について検討が行われているところです。
今般、平成13 年度厚生科学研究の結果として、一部の小麦が比較的高濃度にデオキシニバレノールに汚染されていることが報告され、平成14 年5 月14 日に薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会食品規格・毒性合同部会において審議が行われた結果、今回の報告内容から、我が国における小麦のデオキシニバレノールによる汚染が直ちに人の健康に影響を及ぼすことは考え難いが、デオキシニバレノールの摂取による健康リスクを低減し、健康危害を未然に防止する観点から食品衛生法第7 条に基づく規格基準の設定に向けた検討が必要であるとされ、規格基準の設定までの間、小麦に含有するデオキシニバレノールについて行政上の指導指針となる暫定的な基準値を設定すべきとの結論が得られたところです。
これを踏まえ、小麦に含有するデオキシニバレノールについての行政上の指導指針として暫定的な基準値を下記のとおりとしたので、貴管下関係者に対する指導方よろしくお願いします。
なお、平成13 年度厚生科学特別研究報告書概要を別紙1 により取りまとめたので、参考として下さい。
記
1 暫定的な基準値
小麦に含有するデオキシニバレノールの暫定的な基準値は、1.1ppm とする。
本基準値は、FAO /WHO 合同食品添加物専門家会合で定められた暫定的最大1 日耐容摂取量及び国民栄養調査による小麦類の1 人当たり1 日摂取量に基づき、小麦から小麦粉へのデオキシニバレノールの減衰を考慮し、現時点で活用し得る限りの科学的知見に基づいて定められたものです。
2 試験方法
試験方法は、原則として、定性及び定量試験を紫外分光光度型検出器付き高速液体クロマトグラフィー、水素炎イオン化検出器付きガスクロマトグラフィー、又は電子捕獲型検出器付きガスクロマトグラフィーにより行い、確認試験を液体クロマトグラフ・質量分析又はガスクロマトグラフ・質量分析により行うものとします。なお、試験法の詳細については別添 を参照して下さい。
3 暫定的な基準値の運用について
(1) 本基準値は、市場に流通する小麦の安全性を確保するための行政上の指針として定めたものであり、暫定的な基準値を超える小麦が市場に流通しないよう効果的な運用をお願いします。
(2) 検査の結果、暫定的な基準値を超えるものを発見した場合は、農林関係部局とも密接な連携を図りながら、販売の自主規制等の適切な指導を行うものとします。
(3) 規格基準設定に当たっての基礎データとするため、検査結果については集計の上、平成14 年12 月下旬目途に当職あて別紙3 の様式により報告をお願いします。
(別紙1 )
平成13 年度厚生科学特別研究報告書(概要)
1 麦類のデオキシニバレノール(DON )の汚染実態
(1) 国産小麦:サンプル数36 、DON 値0 ~2,248ppb (平均388ppb )
(2) 輸入小麦:サンプル数20 、DON 値0 ~740ppb (平均100ppb )
(3) 大麦:サンプル数3 、DON 値2 ~20ppb (平均9ppb )
(4) はだか麦:サンプル数22 、DON 値0 ~46ppb (平均6ppb )
2 考察
(1) 本研究で認められたレベルの小麦の汚染によって直ちに人の健康障害が招来されることは考え難い。
(2) 今後、小麦についてDON 摂取による健康危害を未然に防止するための対策を検討する必要があるものと考えられる。
(3) 小麦について経年的な汚染実態調査、小麦の加工過程に伴う減衰に関する研究等が必要。
(参考)
○デオキシニバレノール(DON )
・ 主にフザリウム属真菌が産生するかび毒であり、穀類(麦類、米、トウモロコシ等)を汚染する。
・ 麦の開花期から乳熟期と梅雨等の湿潤な気候が重なると赤カビ病として麦を汚染する。
・ 人においては悪心、嘔吐、下痢等の消化器症状が、マウスへの投与実験では胸腺、脾臓、心臓、肝臓への影響が報告されている。
・ 熱安定性が高く、通常の調理過程では減毒されない。
(別添)
デオキシニバレノール試験法
1 装置
定性及び定量試験として紫外分光光度型検出器付き高速液体クロマトグラフを用い、確認試験として液体クロマトグラフ・質量分析計又はガスクロマトグラフ・質量分析計を用いる。
2 試薬・試液
次に示すもの以外は、第1 食品の部D 各条の項の○ 穀類、豆類、果実、野菜、種実類、茶及びホップの2 穀類、豆類、果実、野菜、種実類、茶及びホップの成分規格の試験法の目の(2) 試薬・試液に示すものを用いる。
多機能ミニカラム注1)
内径12~13mmのポリエチレン製のカラム管に、多機能カラム充てん剤(逆相樹脂、イオン交換樹脂、活性炭)約2.5gを充てんしたもの又はこれと同等の性能を有するものを用いる。
トリメチルシリル化剤
N―トリメチルシリルイミダゾール3mlにN,O―ビス(トリメチルシリル)アセトアミド3ml及びトリメチルクロロシラン2mlを加え、混和する。用時調製する。
3 標準品
デオキシニバレノール 本品はデオキシニバレノール98%以上を含む。
融点 本品の融点は151~153゜である。
標準溶液 本品にアセトニトリルを加えて溶かし、調製する。
4 試験溶液の調製
a 抽出法
検体を1,000μmの標準網ふるいを通るように粉砕した後、その50.0gを量り採り、500mlの三角フラスコに移す。これにアセトニトリル及び水の混液(85:15)200mlを加え、振とう機を用いて30分間激しく振り混ぜた後、グラスろ紙
注2)
を用いてすり合わせ減圧濃縮器中に吸引ろ過する。
b 精製法
多機能ミニカラムにa 抽出法で得られた溶液10mlを注入し、毎分1ml以下の流速で流出させる。デオキシニバレノールが流出する分画
注3)
の約5mlをすり合わせ試験管、又は共栓付き試験管に採る。この流出液の4.0mlを共栓付き試験管に正確に採り、45°以下で溶媒を除去する。
次いで、高速液体クロマトグラフフィー用試験溶液にあっては、上記の残留物にアセトニトリル、水及びメタノールの混液(5:90:5)1.0mlを加えて溶かした後、10,000rpmで5分間遠心分離し、上澄み液を試験溶液とする。
ガスクロマトグラフ・質量分析計用試験溶液にあっては、上記の残留物にトリメチルシリル化剤0.1mlを加え、栓をして撹拌し、室温で15分間放置する。この反応溶液に2,2,4―トリメチルペンタン1.0mlおよび水1.0mlを加えて1分間激しく振り混ぜた後、2,2,4―トリメチルペンタン層を採り、これを試験溶液とする。
5 操作法
a 定性試験
紫外分光光度型検出器付き高速液体クロマトグラフを用いて、次の操作条件で試験を行う。試験結果は標準品と一致しなければならない。
操作条件
カラム充てん剤
注4)
オクタデシルシリル化シリカゲル(粒径5μm)を用いる。
カラム管 内径4~4.6mm、長さ250mmのステンレス管を用いる。
カラム温度 40°
検出器 波長220nmで操作する。
移動相 アセトニトリル、水及びメタノールの混液(5:90:5)を用いる。
流速 1.0ml/分
b 定量試験
a 定性試験と同様の操作条件で得られた試験結果に基づき,ピーク高法又はピーク面積法により定量を行う。
c 確認試験
① 高速液体クロマトグラフ・質量分析計を用いて試験を行う場合a 定性試験と同様の操作条件で液体クロマトグラフ・質量分析を行う。試験結果は標準品と一致しなければならない。また,必要に応じてピーク高法又はピーク面積法により定量を行う。② ガスクロマトグラフ・質量分析計を用いて試験を行う場合 次の操作条件で試験を行う。試験結果は標準品について4 試験溶液の調製のガスクロマトグラフ・質量分析計用試験溶液と同様に操作をして得られたものと一致しなければならない。また,必要に応じ、ピーク高法又はピーク面積法により定量を行う。
操作条件
カラム 内径0.25~0.53mm,長さ30mのケイ酸ガラス製の細管に,ガスクロマトグラフィー用5%フェニル―メチルシリコンを0.25~1.5μmの厚さで コーティングしたもの。
カラム温度 80゜で1分間保持し、その後毎分20゜で昇温する。200°に到達後、毎分5°で昇温し、280°に到達後10分間保持する。
試験溶液注入口温度 280°
注入方式 スプリットレス
検出器 290°で操作する。
ガス流量 キャリヤーガスとしてヘリウムを用いる。
流量 1.0ml/分
注1) MultiSep227(Romer Labs社製)、Autoprep MF‐T(昭和電工社製)、押し出し式多機能カラム(MycoSep227(Romer Labs社製))などが使用できる。使用するカラムによって溶出パターンは異なるので、標準溶液を用いて事前に溶出量を確認する。なお、多機能カラム内には常に液が充填されているように留意する。
注2) Whatman GF/Bなどが使用できる。
注3) MultiSep227(Romer Labs社製)を使用する場合は、最初の流出液3mlは捨て、次いで流出する5mlを採取する。
注4) Inertsil ODS‐3(ジーエルサイエンス社製)、Mightysil RP18GP(関東化学社製)、CAPCELL PAK C18AQ(資生堂)、Shodex C18M 4E(昭和電工社製)などが使用できる。これら以外のカラムを使用する場合は、試料溶液中の溶存酸素がベースラインを上昇させることがあることから、溶存酸素の溶出位置とデオキシニバレノールの溶出位置とが重ならないカラムであり、デオキシニバレノールのピークが、注入後14~20分の間に溶出するものを使用すること。また、ベースライン上に妨害ピークが出現する場合は、移動相に0.2M酢酸アンモニウム(pH5.0)を加えることにより、ベースラインが安定することがある。