既存添加物の安全性の見直しに関する調査研究(平成20年度調査)
既存添加物の安全性の見直しに関する調査研究
(平成21年9月3日 薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会添加物部会)
「既存添加物の安全性の見直しに関する調査研究」の報告書が、平成21年9月3日に開催された薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会添加物部会において公表されました。
調査研究報告書
既存添加物の安全性の見直しに関する調査研究
平成21年3月
主任研究者 |
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井上 達 |
国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター長
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研究協力者 |
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菅野 純 |
国立医薬品食品衛生研所毒性部長 |
棚元 憲一 |
国立医薬品食品衛生研究所食品添加物部長 |
中江 大 |
東京都健康安全研究センター参事研究員 |
長尾 美奈子 |
慶應義塾大学薬学部客員教授 |
中澤 憲一 |
国立医薬品食品衛生研究所薬理部長 |
西川 秋佳 |
国立医薬品食品衛生研究所病理部長 |
能美 健彦 |
国立医薬品食品衛生研究所変異遺伝部長 |
広瀬 明彦 |
国立医薬品食品衛生研所総合評価研究室長 |
目次A.研究要旨B.研究目的C.研究方法D.研究結果E.考察F.結論 別添 カテキン ジャマイカカッシア抽出物 ダイズサポニン トコトリエノール ばい煎コメヌカ抽出物 フェルラ酸 没食子酸A.研究要旨 平成8年度厚生科学研究報告書「既存天然添加物の安全性評価に関する調査研究」(主任研究者 林裕造)(以下、「林班報告書」という。)においては、国際的な評価結果、欧米での許認可状況、安全性試験成績結果等から、既存添加物の基本的な安全性について検討した結果、489品目のうち139品目について、今後、新たな毒性試験の実施も含め、安全性について検討することが必要であると報告されている。 本研究は、林班報告書において更に検討する必要があるとされた139品目のうち、以下に掲げるものを除く35品目を対象に、新たに安全性試験成績の収集できた品目について検討を行った。・平成11年度「既存添加物の安全性評価に関する調査研究」(主任研究者 黒川雄二)(以下、「黒川班報告書」という。)において報告された13品目・平成15年度「既存添加物の安全性の見直しに関する調査研究」(主任研究者 井上達)(以下、「平成15年度井上班報告書」という。)において報告された16品目・平成16年度「既存添加物の安全性の見直しに関する調査研究」(主任研究者 井上達)(以下、「平成16年度井上班報告書」という。)において報告された14品目・平成18年度「既存添加物の安全性の見直しに関する調査研究」(主任研究者 井上達)(以下、「平成18年度井上班報告書」という。)において報告された7品目・平成19年度「既存添加物の安全性の見直しに関する調査研究」(主任研究者 井上達)(以下、「平成19年度井上班報告書」という。)において報告された8品目・これまでに既存添加物名簿から消除された品目(このうち安全性を確認する必要があるとされた添加物は46品目) 本報告書においては、カテキン、ジャマイカカッシア抽出物、ダイズサポニン、トコトリエノール、ばい煎コメヌカ抽出物、フェルラ酸、没食子酸の7品目についての検討結果をまとめて収載している。 検討した7品目については、90日間以上の反復投与試験及び変異原性試験等の成績を入手し、これらの試験成績より、それらの既存添加物について基本的な安全性を評価することができた。結論としては、評価した7品目については、添加物として現在使用されている範囲において直ちにヒトの健康に対して有害性影響を及ぼすような毒性はないと考えられた。 B.研究目的: 平成7年5月の食品衛生法改正によっては、食品添加物の指定範囲が、従来の化学的合成品から天然香料等を除くすべての添加物に拡大された。本改正に伴い、従来から販売・製造・使用等がなされてきた「化学的合成品以外の添加物(天然香料等を除く。以下「天然添加物」という。)」については、経過措置として、その範囲を既存添加物名簿に掲載して確定させた上で、引き続き、販売・製造・輸入等を認めることとされた。
しかしながら、これら既存添加物名簿に掲げられた天然添加物については、従来から指定されている添加物と異なり、各品目毎に安全性のチェックがなされているものではなく、国会等において、その安全性の確認が求められているところである。
これを受けて、平成8年度に公表された林班報告書では、既存添加物489品目について、国際的な評価結果や欧米での許認可状況及び安全性試験成績結果等の情報を用いて、基本的な安全性について検討がなされ、「489品目の内、159品目については、既に国際的な評価がなされており、基本的な安全性が確認されている。さらに、41品目については入手した試験成績の評価により、150品目についてはその基原・製法・本質からみて、いずれも現段階において安全性の検討を早急に行う必要はないものと考えられた。」と報告されており、残る139品目についてさらに検討が必要であるとされている。平成11年度に公表された黒川班報告書では、「林班報告書により安全性の確認が必要とされた139品目の内、14品目の既存添加物については、現時点で直ちにヒトへの健康影響を示唆するような試験結果が認められず、新たな安全性試験を早急に実施する必要がないものと考えられた。」(この内の1品目は,流通実態がないため、既存添加物名簿から消除された。)と報告されている。さらに、平成15年度に公表された井上班報告書では「安全性の見直しを行った17品目については、現時点において、直ちにヒトへの健康影響を示唆するような試験結果は認められなかった。」(この内の1品目については、念のため、追加試験の実施している。)と報告されている。また、平成16年度、平成18年度、及び平成19年度に公表された井上班報告書では、それぞれ14品目、7品目、及び8品目について「現時点で直ちにヒトの健康に対する有害性影響を示唆するような試験結果は認められなかった。」と報告されている。
本研究は、平成8年度林班報告書で安全性について検討することが必要と指摘された天然添加物139品目から、これまでに安全性の見直しが終了した品目及び既に既存添加物名簿から消除された品目を除く、35品目を対象として、国内外の試験成績を収集し、その試験成績の評価を行うことにより、それらの基本的な安全性を検討することを目的とした。
C.研究方法
本研究は、林班報告書において安全性の確認が必要とされた既存添加物139品目の内、これまでに安全性の見直しが終了した品目及び既に既存添加物名簿から消除された品目を除く35品目の中で、90日間以上の反復投与試験及び変異原性試験等の必要な成績を入手し得た7品目について、品目毎に安全性試験成績の評価を行った。
D.研究結果
本研究で安全性の見直しを行った7品目のうち、ダイズサポニン、ばい煎コメヌカ抽出物を除く5品目については、90日間反復投与試験や変異原性試験の成績を踏まえ、1年間反復投与試験等の追加試験成績を入手した。それぞれの試験成績の概要は別添のとおりである。
ばい煎コメヌカ抽出物及びダイズサポニンについては、現時点において、直ちにヒトへの健康影響を示唆するような試験結果は認められなかった。
カテキンについては、変異原性試験成績及び90日間反復投与試験で甲状腺等の臓器重量の増加が認められたことを踏まえて実施された1年間反復投与毒性/発がん性併合試験で、肝臓や甲状腺への毒性を示唆する所見は認められなかった。これらの試験成績から総合的に評価すると、ヒトの健康に対して有害影響を及ぼすような毒性はないと考えられた。
ジャマイカカッシア抽出物については、中期肝発がん性試験等の成績を踏まえて実施された1年間反復投与毒性試験で、肝臓の酵素誘導に起因すると思われる甲状腺濾胞上皮の瀰慢性過形成が認められるとともに、大量投与による肝臓への発がん促進作用が示唆されたが、無毒性量の範囲内での安全性は確認された。生産量調査(平成19年度厚生労働科学研究報告書)に基づく摂取量推計(0.0016mg/ヒト/日)を踏まえると、添加物として現在使用されている範囲において直ちにヒトの健康に対して有害影響を及ぼすことはないと考えられた。
トコトリエノールについては、90日間反復投与試験で精巣重量の増加と卵巣・子宮重量の減少等が認められたことを踏まえて実施されたハーシュバーガー試験、子宮肥大反応試験及び1年間反復投与毒性/発がん性併合試験では、1年間反復投与毒性/発がん性試験の高用量投与群で肝細胞結節性過形成の増加及び腺腫の軽度の増加が認められたが、その程度及び生産量調査(平成19年度厚生労働科学研究報告書)に基づく摂取量推計(1.69mg/ヒト/日)を踏まえると、添加物として現在使用されている範囲において直ちにヒトの健康に対して有害影響を及ぼすことはないと考えられた。
フェルラ酸については、90日間反復投与試験で精巣の精上皮変性が認められたことを踏まえて実施された1年間反復投与毒性/発がん性併合試験で、精巣への毒性を示唆する所見は認めらなかった。これらの試験成績から総合的に評価すると、ヒトの健康に対して有害影響を及ぼすような毒性はないと考えられた。
没食子酸については、90日反復投与試験で精巣重量の増加等が認められたことを踏まえて実施された90日反復投与試験及び1年間反復投与毒性試験で、精巣への毒性を示唆する所見は認めらなかった。これらの試験成績から総合的に評価すると、ヒトの健康に対して有害影響を及ぼすような毒性はないと考えられた。
E.考察
本研究では、林班報告書において安全性の確認を必要とされた既存添加物の内、見直しの済んでいない35品目を対象に安全性評価のための試験成績の収集を行い、少なくとも90日間以上の反復投与試験成績及び変異原性試験成績の双方が入手できた7品目について、それらの試験成績を評価したところ、いずれの品目についても、添加物として現在使用されている範囲において直ちにヒトの健康に対して有害性影響を及ぼすような毒性はないと考えられた。
なお、本報告に先立って、厚生労働省は、平成16年7月に、アカネ色素の発がん性に関する食品安全委員会及び薬事・食品衛生審議会の評価を踏まえて同色素を既存添加物名簿から消除し、その使用を禁止した。さらに、同省は、使用実態のない既存添加物として、平成16年12月に38品目、平成19年9月に32品目を消除した。
このように、既存添加物の見直し作業は,現時点までに着実に進行しているが、今後ともさらに使用実態の調査等を行い、必要な品目から効率的に見直しを進めていく必要があると考える。
F.結論
本研究は、新たに7品目の天然添加物について、基本的な安全性が確認されていることを明らかとした。これらについては、いずれも現段階においてさらなる安全性の検討を早急に行う必要がないものと考えられた。
1.食品添加物名 カテキン2.基原・製法・本質 ツバキ科チャ(Camellia sinensis O.KZE)の茎若しくは葉、マメ科ペグアセンヤク(Acacia catechu WILLD.)の幹枝又はアカネ科ガンビール(Uncaria gambir ROXBURGH)の幹枝若しくは葉より、乾留した後、水又はエタノールで抽出し、精製して得られたもの、又は熱時水で抽 出した後、メタノール若しくは酢酸エチルで分配して得られたものである。成分はカテキン類である。3.主な用途 酸化防止剤4.安全性試験成績の概要(1)90日間反復投与試験 F344/DuCrjラットを用いた混餌(0.3、1.25、5.0%)投与による90日間の反復投与試験において、雄の5%群では体重増加抑制、血清ALTとALPの高値、肝臓及び腎臓の相対重量の増加が認められた。また、1.25%以上の群で甲状腺の相対重量の低下、0.3%以上の群で血清T-Choの低下がみられたが、毒性学的意義は乏しいと考えられた。一方、雌の5%群では血清AST、ALT及びALPの高値、肝臓、腎臓及び甲状腺の相対重量の増加が認められ、1.25%以上の群で甲状腺の実重量が軽度に増加した。無影響量は、雄で0.3%未満(179.9mg/kg/day)、雌で0.3%(188.5mg/kg/day)、無毒性量は雌雄で1.25%(雄 763.9mg/kg/day、雌 820.1mg/kg/day)と考えられた。1)(2)遺伝毒性試験 細菌を用いた復帰突然変異試験では、TA98株に対してS9mix存在下3.2倍の復帰変異コロニーを誘発し、かつ濃度依存性を示したことから陽性と判断される。2)、3) 哺乳類培養細胞を用いた染色体異常試験では、72時間連続処理及びS9mixを加えない短時間処理法で陽性を示した。2)、4) マウス(ICR系、雄)の骨髄を用いた小核試験では、限界用量である2000 mg/kg×2まで試験されており、いずれの用量においても小核を有する多染性赤血球の頻度に有意な増加は認められず、また、全赤血球に対する多染性赤血球の割合に有意な減少は認められなかったことから、陰性と判断される。2)、5)以上の結果から、in vitroでは遺伝毒性を示すものの、in vivo骨髄小核試験及び発がん性試験の結果を考慮すると、生体にとって特段問題となる遺伝毒性は無いものと考えられる。(3)1年間反復投与毒性/発がん性併合試験 Wistar Hannoverラットを用いた混餌(0.02、0.3、1.0、3.0%)投与による1年間反復投与毒性試験では、被験物質の投与に関連する死亡及び一般状態への影響は認められなかった。3.0%群の雌で体重の増加抑制傾向が認められた。血液学的検査では、雌の3.0%群で単球の増加を認めた。血液生化学的検査では、雌では3.0%群でA/G比の増加が認められた。臓器重量では、雄3.0%群で肝相対重量の増加が認められた。病理組織学的検査では、3.0%群の雄で小葉中心性肝細胞肥大の増加が認められ、肝におけるcytocrhome P450系酵素(CYP)の誘導を免疫組織化学染色で確認したころ、同群の肝細胞肥大に一致してCYP3A2発現の増強が認められた。なお、肝細胞増殖活性と肝前がん病変(GST-P陽性巣)の増加は認められなかった。 Wistar Hannoverラットを用いた混餌(0.02、0.3、1.0、3.0%)投与による2年間発がん性試験では、被験物質の投与に関連する死亡及び一般状態への影響は認められなかった。3.0%群の雌雄では体重の増加抑制傾向が認められた。肝重量測定では、実重量及び相対重量の増加は認められなかった。病理組織学的検査では、3.0%群の雄で肝細胞肥大の増加が認められた。腫瘍発生については、対照群と3.0%群の比較で、被験物質の投与に関連した増加は認められず、腫瘍発生の早期化、悪性度の増強なども認められなかった。 両試験における3.0%群の体重増加抑制は、その他の検査項目で投与に関連した明らかな毒性所見が認められないことから、3.0%という高濃度含有飼料での長期飼育による栄養学的不足の結果であると考えた。また、3.0%群の雄に認められた肝臓の変化は、肝障害を示唆する所見は観察されず、CYP3A2の発現が増加したことから、薬物代謝酵素誘導による適応性の変化であり、毒性変化ではないと考えた。以上から、無影響量は、雄で1.0%(416.44mg/kg/日)、雌で3.0%(1539.80mg/kg/日)、無毒性量は雌雄で3.0%(雄 1265.77mg/kg/日、雌 1539.80mg/kg/日)と考えられる。6)(引用文献)1.広瀬雅雄:平成13年度食品添加物規格基準設定等試験検査、国立医薬品食品衛生研究所病理部長2.林真:厚生省等による食品添加物の変異原性評価データシート(昭和54年度~平成10年度分)3.宮部正樹:平成7年度食品添加物安全性評価等の試験検査、名古屋市衛生研究所4.祖父尼俊雄:平成7年度食品添加物安全性再評価等の試験、国立衛生試験所安全性生物試験研究センター変異遺伝部5.栗田年代:平成7年度食品添加物安全性再評価等の試験検査、財団法人残留農薬研究所6.中江大:平成17年厚生労働科学研究費補助金、天然添加物の発がん性等に関する研究
1.食品添加物名 ジャマイカカッシア抽出物(ジャマイカカッシアの幹枝又は樹皮から得られた、クアシン及びネオクアシンを主成分とするものをいう。)2.基原、製法、本質 ニガキ科ジャマイカカッシア(Quassia excelsa SW.)の幹枝又は樹皮より、水で抽出して得られたものである。有効成分はクアシン及びネオクアシンである。3.主な用途 苦味料等4.安全性試験成績の概要(1)90日間反復投与試験 F344系ラットに、被験物質を0.005、0.05及び0.5%の濃度で飼料に混入し、90日反復投与試験を行った。その結果、動物の死亡は認められず、一般状態、摂餌量及び体重に変化は認められなかった。 血液生化学的検査において、雌の0.5%群ではγ-GTPの増加が認められ肝臓への影響が示唆された。 蛋白および非蛋白窒素では、雌雄の0.5%群でTPとAlbの増加が認められた。また脂質では、雄の0.5%群でTGの減少、雌の0.5%群でT-Choの増加が認められた。電解質では、雌雄の0.5%群でCaの増加、雌の0.5%群でPの増加が認められた。これらのうち、TP、Alb、Ca及びPの変化は正常範囲内の変動と考え、統計学的な有意差は認められるものの、毒性学的に意義のある変化とは考えられなかった。 臓器重量では、雌雄の0.5%群で肝臓の絶対及び相対重量の増加が認められた。さらに、雄では腎臓の相対重量の増加が認められたが病理組織学的検査を含め他の検査では、腎障害を示唆するような変化は認められなかった。 病理組織学的検査では、雌雄の0.5%群で肝細胞の肥大及び甲状腺濾胞細胞の過形成が認められた。 以上から、無毒性量は雌雄とも0.05%(雄:27.9 mg/kg/day、雌:30.1 mg/kg/day)と考えられた。1)(2)遺伝毒性試験 細菌(S. typhimurium TA98、TA100、TA1535、TA1537およびE. coli WP2uvrA/pKM101)を用いた復帰突然変異原性試験では、S9mix存在下でTA98、TA100、TA1537及びWP2urA/pKM101が陽性を示した。2) 哺乳類培養細胞(CHL/IU)を用いた染色体異常試験では、短時間処理法(-及び+S9mix)において、用量依存的な染色体構造異常の誘発が認められた。3) マウス(ICR系、雄)の骨髄を用いた小核試験は、限界用量である2000 mg/kg×2まで試験されており、いずれの用量においても小核の誘発は認められなかった。4) Sprague-Dawley系SPF雄ラットを用いて、被験物質を500、2000mg/kgの用量で単回強制経口投与し、in vivoラット肝不定期DNA合成試験(肝UDS試験)を行った。その結果、長時間処理および短時間処理ともに、陰性対照群と比較して、有意な放射性チミジンの取り込みの増加は認められなかった。以上の結果より、ラットの肝細胞においてDNA損傷性を有しないもの(陰性)と結論された。5)以上の結果から、in vitroでは遺伝毒性を示すものの、in vivo骨髄小核試験及び肝不定期DNA合成試験の結果を考慮すると、生体にとって特段問題となる遺伝毒性は無いものと考えられる。(3)中期肝発がん性試験 F344系ラットを用いて、diethylnitrosamineを200 mg/kg、単回腹腔内投与し、2週目より被験物質を0.05、0.5、3.0%の用量で混餌投与を開始し、3週目に肝部分切除を行った。投与は継続し8週目に屠殺、剖検した結果、3.0%群で、陽性対照であるphenobarbitalと同様に、glutahione S-transferase placental form陽性の酵素変異肝細胞巣の数と面積が増加を示し、有意差は無いものの用量依存的な傾向はその下の用量である0.5%でも見られた。 以上から、高用量でラット肝臓に対して発がん促進作用があることが示唆された。6)(4)1年間反復投与毒性試験 F344系ラットに、被験物質を0.0005、0.005、0.05、0.5%の濃度で飼料に混入し、1年間反復投与毒性試験を行った。その結果、0.5%群の雌で2例の死亡が認められたが、それ以外については、一般状態、体重及び摂餌量に変化は認められなかった。また、0.0005及び0.005%群では被験物質投与による影響は認められなかった。 血液学的検査では、0.5%群の雌雄でHb、Ht、MCV及びMCHの減少が認められた。 血液生化学的検査では、0.05%群の雄でTP及びAlbの増加が、0.5%群の雌雄でTP及びAlbの増加及びALP及びT-Bilの減少、雌でGlc、T-Cho、PL及びγ-GTPの増加が、雄でTGの増加及びChEの減少が認められた。 尿検査では、0.05%以上の群の雌及び0.5%群の雄でタンパクの増加が認められた。 臓器重量では、0.05%群の雄で肝臓重量増加が、0.5%群の雌雄で肝臓、腎臓、副腎及び甲状腺重量増加が、雌で心臓重量増加、肺相対重量増加及び脾臓相対重量減少が認められた。 病理組織学的検査では、0.05%群の雄で肝細胞肥大が、0.5%群の雌雄で肝細胞肥大、慢性進行性腎症及び甲状腺濾胞上皮の瀰慢性過形成が、雄で変異肝細胞巣の出現頻度(動物数)及び大きさの増加及び脾臓での赤芽球系の髄外造血の軽微な亢進が見られた。死亡した0.5%群の雌については、33週で切迫解剖した動物で腎臓に腎芽腫が、51週で死亡した動物で副腎に褐色細胞腫が認められた。 以上より、無毒性量は雌雄とも0.005%(雄:2.1±0.6 mg/kg/day、雌:2.5±0.6 mg/kg/day)と推定される。また、0.5%群の雄で変異肝細胞巣の出現頻度と大きさの増加が認められたことから、大量投与による肝臓への発がん促進作用の可能性が示唆された。7)(引用文献)1.関田清司:厚生労働科学研究費補助金、国立医薬品食品衛生研究所安全生成物試験研究センター2.兒島昭徳:平成12年度食品添加物規格基準作成等の試験検査、名古屋市衛生研究所3.望月信彦:平成12年度食品添加物規格基準作成等の試験検査、財団法人食品農医薬品安全性評価センター4.岩本毅:平成12年度食品添加物規格基準作成等の試験検査、財団法人残留農薬研究所5.小野宏:平成16年度食品・添加物等規格基準に関する試験検査等について、財団法人食品薬品安全センター秦野研究所6.広瀬雅雄:平成16年食品添加物安全性再評価試験、国立医薬品食品衛生研究所・病理部7.関田清司:平成17年度厚生労働科学研究費補助金、既存添加物の発がん性等に関する研究
1.食品添加物名 ダイズサポニン(ダイズの種子から得られた、サポニンを主成分とするものをいう。)2.基原、製法、本質 マメ科ダイズ(Glycine max MERRILL)の種子を粉砕し、水又はエタノールで抽出し、精製して得られたものである。主成分はサポニン(ソヤサポニン等)である。3.主な用途 乳化剤4.安全性試験成績の概要(1)90日間反復投与試験 F344系ラットに被験物質1.25、2.5、5%の濃度で飼料に混入し、90日反復投与試験を行った。その結果、動物の死亡は認められず、雄の5%群及び雌の2.5%、5%群で、投与後2週目より、雌の1.25%群で11週目より対照群と比較し有意な体重増加抑制が見られたが、摂取量に変化は認められなかった。 血液学的検査において、雄の5%群でRBCおよびHtが有意に低値を、MCVが有意に高値を示し、貧血傾向が示唆された。 血清生化学的検査において、雄の5%群および雌の2.5%以上の各群でBUNが増加し、さらに雄の5%群及び雌の1.25%以上の群で腎臓の相対重量の増加が見られ、投与の影響が示唆されたが、病理組織学的変化は認められなかった。また、雄の2.5%以上の群でTP及びAlbが有意な高値を示し、雌の1.25%以上の群ではTGが有意に減少した。 肝重量において雄の1.25%以上の群で相対重量の増加が、雌の2.5%以上の群で相対重量の増加が見られ、投与の影響と考えられたが、病理組織学的な変化は見られなかった。 その他、雄の5%群全例に前立腺腹葉の萎縮が見られ、雌の2.5%以上の群で膣の粘液産生亢進像と上皮の萎縮並びに卵巣における閉鎖卵胞の増加が観察された。 以上から、無毒性量は雌雄とも1.25%(雄:707.2mg/kg b.w./day、雌:751.8mg/kg b.w./day)未満と判断された。1)(2)遺伝毒性試験 細菌を用いた復帰突然変異試験は陰性、哺乳類培養細胞(CHL/IU)を用いた染色体異常試験は擬陽性、in vivo小核試験(マウス骨髄)は陰性と報告されている。なお、染色体異常試験の結果は、細胞毒性に依存した非特異的なものであると考えられる。2)3)4)5)さらに、in vitro 小核試験が陰性との報告がある。2)以上の結果から、生体にとって遺伝毒性は示さないものと結論した。(引用文献)1.広瀬雅雄:平成16年度食品添加物規格基準設定等試験検査、国立医薬品食品衛生研究所・病理部2.林真等:厚生省等による食品添加物の変異原性評価データシート(昭和54年度~平成10年度分)3.宮部正樹:平成8年度食品添加物安全性再評価等の試験検査、名古屋市衛生研究所 4.祖父尼俊雄:平成8年度食品添加物安全性再評価等の試験、国立衛生試験所安全性生物試験研究センター・変異遺伝部5.蜂谷紀之:平成8年度食品添加物規格基準作成等の試験検査、秋田大学医学部
1.食品添加物名 トコトリエノール(Tocotrienol)2.基原・製法・本質 イネ科イネ(Oryza sativa LINNE)の米ぬか油、ヤシ科アブラヤシ(Elaeis guineesis JACQ.)のパーム油等より、分離して得られたものである。成分はトコトリエノールである。3.主な用途 酸化防止剤4.安全性試験成績の概要(1)反復投与試験 F344ラットを用いた混餌(0.19、0.75、3%)投与による90日間の反復投与試験で、血液学的検査において、MCHの減少が雄の3%群に、Hb及びMCHCの減少が雌の3及び0.75%群に、Htの減少が雌の3%群に認められた。血液生化学的検査において、ALTの増加が雌雄の3%群に、AST及びγ-GTの増加が雌の3%群に認められ、病理組織学的に肝細胞肥大が雄の0.75%以上の群で認められた。また、3%群で精巣重量の増加及び卵巣及び子宮重量の減少が認められた。 貧血傾向が雌の0.75%以上の群で、肝細胞肥大が雄の0.75%以上の群で認められたため、無毒性量は0.19%(雄:119.0 mg/kg/day、雌:129.8 mg/kg/day)と考えられた。また、雄の血液学的検査でのMCVの減少、血清生化学検査でのA/G及びALPの増加、副腎重量の増加が軽度ではあるが0.19%投与群でも認められたため、今回の試験では無影響量は求めることができなかった。1)(2)遺伝毒性試験 細菌を用いた復帰突然変異試験(TA98、100、1535、1537及び1538)は、50mg/プレートまで試験されており、S9mixの有無にかかわらず、陰性であった。2) 哺乳類培養細胞(CHL)を用いた染色体異常試験では、5000μg/mLまで試験されており、連続処理法ならびに短時間処理法ともトコトリエノール処理による染色体異常の明確な誘発は認められず、陰性であった。3) マウスを用いた小核試験では、限界用量を超えて3000mg/kg×2まで試験されており、小核含有多染性赤血球の頻度は陰性対照群と比較して有意差を認めず、陰性であった。4)以上の結果から、生体にとって遺伝毒性は示さないものと結論した。(3)ハーシュバーガー試験 精巣を摘出したSprague-Dawley系ラットを用いて、アンドロゲン作用を調べるために、被験物質を100、300、1000 mg/kg/dayの用量で皮下又は経口投与した。また、抗アンドロゲン作用を調べるために、テストステロンプロピオネイトを0.4 mg/kg/dayの用量で皮下投与し、同時に被験物質を100、300、1000 mg/kg/dayの用量で皮下又は経口投与した。いずれの試験においても、投与は10日間反復して行い、最終投与の約24時間後に屠殺、器官重量の測定を行った。 その結果、皮下投与では、いずれの投与群においても動物の死亡及び一般状態の異常は認められなかったが、1000mg/kg群(アンドロゲン作用試験)で摂餌量の低下が、1000 mg/kg群(抗アンドロゲン作用試験)で体重の増加抑制及び摂餌量の低下が認められた。器官重量では、肝臓重量の増加が両試験の1000 mg/kg群で認められたが、アンドロゲン作用あるいは抗アンドロゲン作用を示唆する有意な変化は認められなかった。 経口投与では、いずれの投与群においても動物の死亡は認められず、一般状態、体重及び摂餌量についても変化は認められなかった。器官重量では、測定したいずれの器官においてもアンドロゲン作用あるいは抗アンドロゲン作用を示唆する有意な変化は認められなかった。 以上の結果から、トコトリエノールは皮下及び経口投与により、生体内でアンドロゲン作用又は抗アンドロゲン作用を示さないものと判断された。5)(4)子宮肥大反応試験 卵巣を摘出したSprague-Dawley系ラットを用いて、エストロゲン作用を調べるために、被験物質を30、100、300、1000 mg/kg/dayの用量で皮下又は経口投与した。また、抗エストロゲン作用を調べるために、エチニルエストラジオールを0.6 μg/kg/dayの用量で皮下投与し、同時に被験物質を100、300、1000 mg/kg/dayの用量で皮下又は経口投与した。いずれの試験においても、投与は7日間反復して行い、最終投与の約24時間後に屠殺、子宮重量の測定を行った。 その結果、皮下及び経口投与では、いずれの投与群においても動物の死亡は認められず、一般状態、体重についても変化は認められなかった。子宮重量では、いずれの投与群においてもエストロゲン作用あるいは抗エストロゲン作用を示唆する有意な変化は認められなかった。 以上の結果から、トコトリエノールは皮下及び経口投与により、生体内でエストロゲン作用又は抗エストロゲン作用を示さないものと判断された。5)(5)1年間反復投与毒性/発がん性併合試験 Wistar Hannoverラットを用いた混餌(0.08、0.4、2.0%)投与による1年間反復投与毒性試験では、2.0%群の雄で6匹の死亡が確認されたが、その他の群においては死亡及び一般状態の異常は認められなかった。血液学的検査では、雄では0.4%以上の群でMCVの減少、2.0%群でHb、Ht及びMCHの有意な減少及びプロトロンボン時間の延長、雌では2.0%群でHb、Ht、MCV及びMCHの減少及びMCHCの増加を示した。血液生化学的検査では、雄では0.4%以上の群でTG及びグルコースの減少、Na及びClの増加、2.0%群でA/G比、P、AST、ALT、ALP、直接Bil及びプロトロンビン時間の増加及びLDHの減少、また全ての投与群でコレステロールエステル比の減少、雌では2.0%群でTP及びALPの増加及び総Bil、直接Bil及び間接Bilの減少が認められた。臓器重量では、2.0%群の雄で脳、肺、心臓、副腎、腎臓及び精巣の相対重量の増加、雌で脳、心臓、肝臓、副腎及び腎臓の相対重量の増加が認められた。病理組織学的検査では、2.0%群の雌雄で肝臓の肝細胞結節性過形成と海綿状変性及び肺胞内への泡沫細胞の限局的な集簇が高頻度で認められた。6例の途中死亡動物では、剖検で脳底部及び腸間膜リンパ節などでの出血が、また全例に肝海綿状変性が観察され、胸部リンパ節、心内膜下、膀胱粘膜下などに出血巣がみられた。 以上から、無毒性量は雌雄とも0.4%(雄:297mg/kg/day、雌:467mg/kg/day)と推定される。 Wistar Hannoverラットを用いた混餌(0.4、2.0%)投与による2年間発がん性試験では、2.0%群の雄で死亡例が増加したため50週目から投与量を1.0%に引き下げて実験を継続した。雄では、最終体重及び臓器重量に群間差はみられなかった。雌では、最終体重が用量相関的に低値を示し、腎臓の絶対重量の用量相関的な減少、肺及び心臓の相対重量の用量相関的な増加、高用量(2.0→1.0%)群での肺、心臓及び脾臓の絶対重量の減少及び肝臓及び腎臓の相対重量の増加が認められた。剖検では、雌雄の高用量群において肝臓の結節性病変が多発しているのが観察され、それらは病理組織学的に肝細胞結節性過形成、肝細胞腺腫ないし肝細胞癌であることが確認された。高用量群の雌雄で肝細胞結節性過形成の発生増加及び雌で肝細胞腺腫のわずかな増加が認められた。6)(引用文献)1.広瀬雅雄:平成10年度食品添加物規格基準設定等試験、国立医薬品食品衛生研究所 病理部2.宮部正樹:平成9年度食品添加物規格基準作成等の試験検査、名古屋市衛生研究所3.望月信彦:平成9年度食品添加物規格基準作成等の試験検査、財団法人食品農医薬品安全性評価センター4.蜂谷紀之:平成9年度食品添加物規格基準作成等の試験検査、秋田大学 医学部5.太田亮:平成15年度食品・添加物等規格基準に関する試験検査等、財団法人食品薬品安全センター秦野研究所6.西川秋佳:平成17年度厚生労働科学研究費補助金、反復投与毒性や発がん性試験等の実施による既存添加物の安全性に関する研究
1.食品添加物名 ばい煎コメヌカ抽出物2.基原、製法、本質 イネ科イネ(Oryza sativa LINNE)の米ぬかを脱脂し、ばい煎したものを、熱時水で抽出後、温時エタノールでタンパク質を除去したものである。成分としてマルトールを含む。3.主な用途 製造用剤4.安全性試験成績の概要(1)90日間反復投与試験 F344系雌雄ラットに、混餌(0.5%、1.5%、5.0%)投与による90日反復投与試験を行った。その結果、いずれの群の動物においても死亡は認められず、一般状態、体重、摂餌量、血液学的検査及び器官重量において、被験物質に関連する変化は認められなかった。 血液生化学的検査では、5.0%群の雌でA/Gの上昇が認められたが、変化の程度が小さく、他の項目では変化が認められないことから、被験物質の投与に関連する変化ではないと判断した。 病理組織学的検査では、5.0%群の雄で肝細胞の軽微及び軽度の壊死が、雌で唾液腺の軽度の壊死、腎の皮髄境界部の尿細管の鉱質沈着及び子宮内腔の軽度の拡張が認められたが、これらの所見の発生頻度は低く、対照群との間に統計学的な差は認められないことから、被験物質の投与に関連する変化ではないと判断した。 以上から、無毒性量は雌雄で5.0%(雄:2893 mg/kg/日、雌:3096 mg/kg/日)と判断した。1)(2)遺伝毒性試験 細菌(TA98、TA100、TA1535、TA1537、TA1538)を用いた復帰突然変異試験は、200μl/plateまで試験されており、代謝活性化系存在下、TA98株及びTA1538株に対して100μl/plate以上の濃度で溶媒対象の1.5倍から1.7倍、T100株に対して200μl/plateで溶媒対象の1.6倍のHis+復帰コロニーを誘発し、濃度依存性を示した。また、再現性も認められたため擬陽性と判断した。2) 哺乳類培養細胞(CHL)を用いて、短時間処理法、連続処理法とも最高処理濃度5000μg/mlの染色体異常試験を行った結果、染色体異常の誘発は認められなかった。3) マウス(ddY系、雄)の骨髄を用いた小核試験は、3000 mg/kg×2まで試験されており、いずれの用量においても小核出現頻度の有意な増加は認められなかった。4) 以上から、細菌を用いた復帰突然変異試験で擬陽性の結果が得られているが、十分高用量まで試験されたin vivoの小核試験で陰性であることなどを総合的に評価すると、ばい煎コメヌカ抽出物が生体にとって特に問題となるような遺伝毒性を発現することはないものと考える。 (引用文献)1.菅野純:F344ラットによるばい煎コメヌカ抽出物の90日反復投与毒性試験、国立医薬品食品衛生研究所安全性生物試験研究センター毒性部2.宮部正樹:平成9年度食品添加物規格基準作成等の試験検査、名古屋市衛生研究所3.望月信彦:平成9年度食品添加物規格基準作成等の試験検査、(財)食品農医薬品安全性評価センター4.蜂谷紀之:平成9年度食品添加物規格基準作成等の試験検査、秋田大学医学部
1.食品添加物名 フェルラ酸2.基原、製法、本質 イネ科イネ(Oryza sativa LINNE)の糠より得られた米糠油を、室温時 弱アルカリ性下で含水エタノール及びヘキサンで分配した後、含水エタノール画分に得られたγ-オリザノールを、加圧下熱時硫酸で加水分解し、精製して得られたもの、又は細菌(Pseudomonas)を、フトモモ科チョウジノキ(Syzygium aromaticum MERRILL et PERRY)のつぼみ及び葉より水蒸気蒸留で得られた丁子油、又は丁子油から精製して得られたオイゲノールを含む培養液で培養し、その培養液を、分離、精製して得られたものである。成分はフェルラ酸である。3.主な用途 酸化防止剤4.安全性試験成績の概要(1)90日間反復投与試験 F344ラットを用い、検体濃度を0.32、0.8、2.0、5.0%となるように調製し、混餌投与にて90日間反復経口投与試験を実施した。その結果、5.0%群の雌雄で3-7週時に脱毛が認められた。最終体重は5.0%群の雌雄で低値を示した。また、摂餌量及び摂水量とも5.0%群で低値を示した。血液学的検査において、5.0%群の雌雄で血小板の減少が見られた。血液生化学的検査の検査項目において、5.0%群の雌雄でALB、ALP、AMYの増加、2.0%群の雌でコレステロールの増加が認められた。臓器重量では、5.0%群の雌雄で肝、腎の相対重量増加、胸腺、前立腺、卵巣、子宮の相対重量の減少、2.0%群の雄で肝、腎の相対重量増加が認められた。組織学的検索では、雌雄ともに好酸性変化を伴う肝細胞肥大が用量相関性にみられ、5.0%群の雄において精巣の精上皮変性、耳下腺腺房上皮萎縮、大腿骨骨梁・皮質骨の厚さの減少が認められた。1) 以上から、無毒性量は雌雄とも0.8%と考えられた。(2)遺伝毒性試験 細菌を用いた復帰突然変異原性試験は、20mg/プレートまで試験されており、S9mixの有無にかかわらず、溶媒対照の1.5倍以上のHis+復帰コロニーを誘発しなかった。3) 哺乳類培養細胞(CHL)を用いた染色体異常試験は、構造異常ならびに倍数性細胞の出現頻度には再現性が認められ、いずれも擬陽性と判定された。2),4) マウスを用いた小核試験は、限界用量である2000mg/kg×2まで試験されており、いずれの用量においても小核誘発性はないと結論された。2),5) 以上の結果から、染色体異常試験で擬陽性の結果が得られているものの、in vivo骨髄小核試験及び発がん性試験の結果を考慮すると、生体にとって特段問題となる遺伝毒性は無いものと考えられる。(3)1年間反復投与毒性/発がん性併合試験 F344ラットを用いた混餌(0.5、1.0、2.0%)投与による1年間反復投与毒性試験では、0.5%群の雄で1匹の死亡が確認され、検体投与群で3-8週時に脱毛が認められた。体重及び摂餌量に有意な変化は認められなかった。血液学的検査では、雄では有意な変化は認められず、雌では白血球数及び血小板数の低値、赤血球数の高値、白血球型別百分率における好中球の比率低値、リンパ球及び単球の比率高値の有意な変化が認められたがいずれも濃度依存性はなく、毒性学的に意義のない変化と考えられた。血液生化学的検査では、雄では1.0%以上の群でCREの低値が認められたが、毒性学的意義に乏しい変化と考えられた。臓器重量では、雄では0.5%以上の群で脳の実重量の高値、2.0%群で膵臓及び腎の相対重量の高値、雌では2.0%群で副腎の実重量の低値、2.0%群で肝臓の相対重量の高値及び副腎の相対重量の低値が認められたが、いずれも軽微なものであり偶発的な変化と考えられた。病理組織学的検査では、いずれの臓器においても被験物質に起因すると考えられる病変は認められなかった。 以上から、無毒性量は雌雄とも2.0%(雄:557.6±117.6mg/kg/day、雌:717.4±221.6mg/kg/day)と推定される。6) F344ラットを用いた混餌(0.5、1.0、2.0%)投与による2年間発がん性試験では、被験物質の投与に起因すると考えられる死亡は認められず、被験物質投与群で一過性の脱毛を観察したが、その他の臨床徴候は認めなかった。血液学的検査では変化は認めなかった。血液生化学的検査では、雄では1.0%以上の群でTPの低値、雌では2.0%群でAG比の高値が認められたが、いずれも投与とは関連のない偶発的な変化と考えられた。雄では、最終体重に有意な差はなく、雌では、0.5%群のみで最終重量の増加がみられ、1.0%群で膵臓及び副腎の実重量の低値が、2.0%群で膵臓、副腎及び心臓の実重量及び副腎の相対重量の低値が認められた。病理組織学的検査では、雌では2.0%群で肝内胆管増殖病変の発生頻度の高値が認められたが、肝内胆管周囲炎に対する反応性変化と考えられた。 以上から、フェルラ酸投与に起因すると考えられる腫瘍性病変の発生増加は観察されず、発がん性は認められないと考えられた。7)(引用文献)1.多田幸恵:天然添加物フェルラ酸のF344ラットによる亜慢性毒性試験、東京衛研年報 Ann. Rep. Tokyo Wetr. Res. Lab. P.H., 52, 272-278, 2001 2.林真:厚生省等による食品添加物の変異原性評価データシート(昭和54年度~平成10年度分)、Environ. Mutagen Res., 22:27-44(2000)3.宮部正樹:食品添加物規格基準作成等の試験検査、名古屋市衛生研究所4.望月信彦:食品添加物規格基準作成等の試験検査、財団法人食品農医薬品安全性評価センター5.栗田年代:食品添加物規格基準作成等の試験検査、財団法人残留農薬研究所6.田中卓二:平成16年度厚生労働科学研究費補助金、反復投与毒性や発がん性試験等の実施による既存添加物の安全性評価に関する研究7.田中卓二:平成17年度厚生労働科学研究費補助金、反復投与毒性や発がん性試験等の実施による既存添加物の安全性に関する研究
1.食品添加物名 没食子酸2.基原、製法、本質 ウルシ科ヌルデ(Rhus javanica LINNE)に発生する五倍子、ブナ科(Quercus infectoria OLIV.)に発生する没食子より、水、エタノール又は有機溶剤で抽出したタンニン、又はマメ科タラ(Caesalpinia spinosa(MOLINA)KUNTZE)の実の夾より、温時水で抽出したタンニンを、アルカリ又は酵素(タンナーゼ)により加水分解して得られたものである。成分は没食子酸である。3.主な用途 酸化防止剤4.安全性試験成績の概要(1)急性毒性試験 マウス経口投与における50 %致死量(LD50)は、雌雄とも5 g/kg以上であった。1)(2)90日間反復投与毒性試験 F344系ラットに検体0.2、0.6、1.7、5.0 %の濃度で飼料に混入し、90日間反復投与試験を行った。その結果、動物の死亡は認められず、一般状態及び摂餌量に変化は認められなかった。体重では、雌雄とも5 %群で試験開始1週目より、有意な体重増加抑制が認められた。血液学的検査では、雄では0.6 %群からHb量、Ht値の用量依存的な減少が認められ、RBC数は0.6、5.0 %群で減少を示し、5 %群のみにMCV及びMCHの減少が認められた。雌では1.7 %群以上でMCVの用量依存的な減少、RBC数、Hb量及びHt値に関しては5 %群で有意な減少を示し、5 %群でMCHの減少が認められた。雌雄とも5 %群で有核赤血球が増加していた。 臓器重量では、雄の1.7 %群以上で肝、腎及び精巣の相対重量の増加を認めたが、肝以外は軽度なものであった。5 %群で脾及び肝の絶対重量の増加を認めた。雌の1.7 %群以上で肝の相対重量の増加、5 %群で腎及び脾の相対重量の増加を認めた。病理組織学的検査では、雌雄とも5 %群で脾臓にヘモジデリン沈着、髄外造血の亢進及びうっ血が認められた。肝臓に関しては雌雄とも1.7 %群以上で小葉中心性の肝細胞肥大が認められた。雄ではAlb及びALPの増加が認められたが、A/G比、AST、ALTのいずれも変化は認められなかった。雌ではA/G比の減少傾向、繃-GPTに増加傾向が認められた以外は変化は認められなかった。腎臓では、雌雄とも5 %群においてBUNが軽度に高値を示し、その他、CRN及びいくつかの電解質の軽度の増減が認められた。腎臓の相対重量は対照群に比較して最大で16 %の増加が認められ、病理的にも最高用量群の近位尿細管上皮に褐色色素沈着が認められており、これらの一連の変化は被験物質の影響であることが示唆される。 以上の結果より本剤の無毒性量は0.2 %(119 mg/kg)と考えられる。2)(3)遺伝毒性試験 細菌(TA98、TA100、TA1535、TA1537、TA1538)を用いた復帰突然変異試験は、10 mg/plateまで試験されており、代謝活性化の有無にかかわらず陰性であった。3)哺乳類培養細胞(CHL/IU)を用いて、最高用量5mg/mLまでの染色体異常試験を行った結果、代謝活性化系の非存在下で染色体分体交換型の異常誘発性を示した。ただし、処理液のpHが非生理的条件下であることを考慮する必要がある。4) マウスの骨髄を用いた小核試験(8週齢ddyマウス雄、水溶液、2000 mg/kg/day ラ2)は、限界用量である2000 mg/kgまで試験されており、いずれの用量においても小核の誘発は認められなかった。5) また、Rec-assayでは、DNA損傷性は認められないとされている。6) 以上の結果から、生体にとって遺伝毒性は示さないものと結論した。(4)90日間反復投与毒性試験 F344系ラットを用いた混餌(0.2、1、5 %)投与による90日間反復投与試験では、動物の死亡及び一般状態の異常は認められなかった。5 %群の雌雄で体重の増加抑制が認められ、全ての被験物質投与群の雌では摂餌量の減少が認められた。血液学的検査では、5 %群の雌雄で軽度な貧血が、血液生化学的検査では、5 %群の雌雄でビリルビンの増加及びクレアチニンの減少が認められた。臓器重量では、5 %群の雌雄で肝臓及び脾臓の絶対・相対重量の増加、5 %群の雌で下垂体、卵巣及び子宮の絶対重量の増加が認められた。また、5 %群の雄で腹側前立腺の絶対・相対重量の減少及び下垂体、精巣及び精巣上体の相対重量増加が認められたが、精子検査及びホルモン検査で異常は認められず、病理組織学的検査においても前立腺の変化に差は認められなかった。病理学的検査では、5 %群の雌雄で脾臓のうっ血、褐色色素沈着、髄外造血亢進、腎臓近位尿細管上皮細胞の褐色色素沈着及び軽度のびまん性甲状腺濾胞上皮肥大が、5 %群の雄で小葉中心性肝細胞肥大、雌で小葉周辺性肝細胞肥大が認められた。7)(5)1年間反復投与毒性試験 F344系ラットを用いた混餌(0.2、0.6、1.8 %)投与による1年間反復投与試験では、動物の死亡及び一般状態の異常は認められなかった。1.8 %群の雌で体重の増加抑制が認められたが、摂餌量に差は認められなかった。血液学的検査では、1.8 %群の雌雄で軽度な貧血が認められた。血液生化学的検査では、1.8 %群の雄で直接ビリルビン、総コレステロール、AST、ALT、γ-GTPの増加及びクレアチニンの低値、同群の雌でクレアチンの低値が認められた。臓器重量では、1.8 %群の雄で肝臓の絶対・相対重量の増加が認められた。病理組織学的検査では、1.8 %群の雄で軽度な小葉中心性肝細胞肥大、同群の雌で軽度な小葉周辺性肝細胞肥大が認められた。有意な増加を示す腫瘍の発生は認められなかった。 以上の結果より、無毒性量は0.6 %(雄:107.4 mg/kg/day、雌:117.8 mg/kg/day)であると考えられた。7) (引用文献)1.滝澤行雄:平成3年度食品添加物安全性試験、秋田大学医学部2.広瀬雅雄:食品添加物安全性再評価試験、国立医薬品食品衛生研究所病理部3.宮部正樹:名古屋市衛研報(1998)、名古屋市衛生研究所4.祖父尼俊雄:平成5年度食品添加物安全性再評価等の試験、国立衛生試験所変異遺伝部5.宮澤眞紀:厚生科学研究費補助金、神奈川県衛生研究所6.栗田年代:平成5年度食品添加物安全性再評価等の試験検査、(財)残留農薬研究所7.西川秋佳:平成17年度食品・添加物等規格基準に関する試験検査、国立医薬品食品衛生研究所病理部
既存添加物の安全性見直しの状況(平成21年8月現在):既存添加物状況表H21.pdf