薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会 毒性・添加物合同部会:食用赤色2号及び臭素酸カリウムについて
平成13年9月25日 薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会 毒性・添加物合同部会が開催され、食用赤色2号及び臭素酸カリウムの取扱いについて審議された。
公表された審議資料は次のとおりである。
なお、審議の結果、両品目の取扱いを直ちに変更する必要はないことが確認されたが、今後、新たな試験・検討を行い、その結果を見て再度検討することとなった。
(三栄源食品化学研究振興財団)
資料一覧
資料1 食用赤色2号及び臭素酸カリウムについて
資料2 食用赤色2号について
2-1 WHO Food Additives Series No.13, 1978
2-2 Boffey, P.M., Science, 191, 450-451, 1976
2-3 WHO Technical Report Series No.576, 1975
2-4 WHO Food Additives Series No.8, 1975
2-5 WHO Technical Report Series No.631, 1978
2-6 WHO Technical Report Series No.710, 1984
2-7 WHO Food Additives Series No.19, 1984
2-8 Clode, S.A., et al., Food and Chemical Toxicology, 25, 937-946, 1987
2-9 Tsuda, S., et al., Toxicological Sciences, 61, 92-99, 2001
2-10 「第7版 食品添加物公定書解説書」廣川書店
資料3 臭素酸カリウムについて
3-1 WHO Technical Report Series No.696, 1983
3-2 WHO Food Additives Series No.18, 1983
3-3 WHO Technical Report Series No.776, 1989
3-4 WHO Food Additives Series No.24, 1989
3-5 WHO Technical Report Series No.828, 1992
3-6 WHO Food Additives Series No.30, 1992
3-7 WHO Technical Report Series No.859, 1995
3-8 Himata, K., et al., Food Additives and Contaminants, 14, 809-818, 1997
3-9 食品衛生研究 Vol.47, 74-78, 1997
3-10 Dennis, M.J., et al., Food Additives and Contaminants, 11, 633-639, 1994
資料1食用赤色2号及び臭素酸カリウムについて
(写)
資料2食用赤色2号(別名:アマランス)について
1.経緯
①昭和23(1948)年、我が国において食品添加物として指定
②昭和51(1976)年、米国において発がん性を疑う試験結果が得られたため使用禁止措置
③同年、米国のデータに関し、我が国においても食品衛生調査会の委員等による検討を行った結果、当該データは発がん性を疑う根拠とはならず、食用赤色2号は人の健康を損なうおそれがないとの結論を得る
④昭和53(1978)年、FAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)はそれまでに得られた知見からは食用赤色2号には発がん性は認められないと評価
⑤昭和59(1984)年、JECFAは欧州において追加実施された長期投与による動物試験成績を基に最終評価し、発がん性は認められないと結論
2.我が国における使用状況
(1)用途:菓子、清涼飲料水、冷菓などの着色(着色料)
(2)使用基準:以下のものに使用してはならない。
カステラ、きなこ、魚肉漬物、鯨肉漬物、こんぶ類、しょう油、食肉、食肉漬物、スポンジケーキ、鮮魚介類(鯨肉を含む)、茶、のり類、マーマレード、豆類、みそ、めん類(ワンタンを含む)、野菜及びわかめ類
(3)摂取量調査結果:
平成11年マーケットバスケット調査 -0mg/日/人
平成7~8年マーケットバスケット調査 -0.007mg/日/人
3.欧米の状況
(1)米国:使用禁止
米国において発がん性を疑う試験結果が得られたことから、FD & C Red No.2及び当色素添加物を含有するすべての混合物について、発行済の認可証は、昭和51(1976)年1月28日以降は取り消され失効している。また、当期日以降に当色素添加物を食品、医薬品、化粧品の製造に使用すれば、不純物混和品とみなされる。
(2)EU:使用可能
ただし、以下の通り使用基準が設定されている。
アルコール15%以下のアペリチフワイン類、スピリット類:30mg/l
魚卵:30mg/l
アメリカーノ:100mg/l
ビターソーダ、ビタービーノ:100mg/l
なお、ADIは0-0.8mg/kg体重と評価されている。
4.安全性に関する知見
(1)FDAによる食用赤色2号に関する実験結果とその問題点
ア)実験結果概略(WHO Food Additives series No.13, 1978より)(資料2-1)
各群、雄50匹、雌50匹の離乳したラットに0,0.003,0.03,0.3あるいは3%(0, 1.5, 15, 150あるいは1500mg/kg)のアマランスを約2年半混餌投与した。この実験に使用したラットはアマランス処置した親ラットから生まれたF2a同腹子の中からランダムに選んだ。何匹かのラットが間違ったケージに不注意に入れられたため、コントロール群と投与群との間で多くのラットが移動した。いろいろな良性及び悪性の腫瘍が観察されたがコントロール群と投与群で明らかな差はみられなかった。病理学的データを統計解析した場合、一日量1500mg/kg の投与を続けた雌ラットで悪性腫瘍数の有意な増加が認められた。良性腫瘍と悪性腫瘍の全腫瘍数には高投与群とコントロール群との間で有意差はみられなかった。全身状態、生存率、体重増加、血液学、臨床化学あるいは関連組織重量に影響はみとめられなかった。
イ)問題点(Science, vol.191, 450~451, 1976等より)(資料2-2)
① 実験は、500匹のラットを用い、赤色2号の投与レベルを変えた4群と赤色2号を投与しない対照群との計5群に分けて開始されたが、十分な管理が実施されず、不特定数のラットが誤ったケージに入ってしまったこと。
② 実験途中で死亡したラットに対して速やかな剖検が実施されなかったため、途中死亡ラットに関する評価可能なデータが収集できなかったこと。
③ 途中死亡したラットが非常に多く、実験終了まで生存し正当に剖検が実施されたラット数は500匹中96匹に過ぎなかったこと。
④ FDAの生物学統計学者は、高用量群と低用量群において観察された良性腫瘍及び悪性腫瘍の総数に有意な差は認められないが、高用量群の雌では低用量群雌との比較において悪性腫瘍数に有意な増加が認められると報告している。しかしながら、良性腫瘍と悪性腫瘍をどのように算定したのか不明であること及び個々のラットと各腫瘍との関係が不明であるため、統計処理についての正否を判断することができないこと。
(2)JECFAにおける安全性評価の概略
ア)1975年評価(第19回会合)(資料2-3,2-4)
アマランスの発がん性と催奇形性について、新規データにより評価が行われた。いくつかの試験において委員会で設定した規格とは異なる規格のアマランスが用いられていたため評価が困難であったが、規格に適合するものの場合、毒性学的根拠に基づき暫定ADIは0-0.75mg/kg体重とすることが適正とされた。委員会は、標準的なサンプルを用いた国際的な共同研究を実施するよう要求。
イ)1978年評価(第22回会合)(資料2-1,2-5)
2種のラットを用いた催奇形性試験では、アマランスを200mg/kgの用量で強制経口投与あるいは飲料水と混ぜて投与した場合、副作用は観察されなかった。同様に、猫に1日264mg/kgの用量まで投与した場合、催奇形性は認められなかった。
ラットの長期投与試験結果も入手可能であったが(米国における試験)、この実験には技術的な不備があったために適切な評価ができなかった。委員会はこの化合物の構造から判断して、経口的に摂取される場合は発がん性は有さないだろうとの見解を示した。しかしながら、アマランスは広く使用される可能性があることから、委員会は長期投与による追加試験を要求した。以前に設定された暫定ADI:0-0.75mg/kg 体重は1982年まで延長された。
ウ)1984年評価(第28回会合)(資料2-6,2-7,2-8)
ラットにおける子宮内暴露期間を含んだ長期混餌投与試験の結果を考察した。その試験では、用量依存性の腎盂石灰沈着症は認められたものの、発がん性は認められなかった。最も高用量である二つの群(250及び1250mg/kg)においては盲腸肥大が見られており、これによりミネラルの吸収率が変化し、腎盂石灰沈着の生成に影響を及ぼした可能性がある。二つの動物種における長期試験が要請されていたものの、当委員会においては既存のいくつかの混餌試験の結果が入手可能であった。これらのすべての試験のデータ及びラットにおける長期試験から得られたデータにより、アマランスの評価を完了させることが可能であると考えられた。ラットにおける長期試験の無作用量である50mg/kgから、ADI:0-0.5mg/kg体重が設定された。
(3)最近の知見
ア)Toxicological Sciences 61, 92-99, 2001(資料2-9)
DNA Damage Induced by Red Food Dyes Orally Administered to Pregnant and Male Mice
日本を含めた多くの国で食用色素添加物として使用されている合成赤色タール色素の遺伝毒性について調査した。予備試験として、4グループの妊娠期(懐胎11日)マウスにアマランス(赤色2号)、アルーラレッド(赤色40号)あるいはアシッドレッド(赤色106号)を2000mg/kgの用量で投与し、投与後3,6,及び24時間後の脳、肺、肝、腎、腺胃、結腸、膀胱及び胎児をサンプルとした。アマランス及びアルーラレッドの投与3時間後の結腸において陽性反応が、また、アマランス投与6時間後の肺において弱い陽性反応が認められた。アシッドレッドはどのサンプルにおいてもDNA損傷を誘導しなかった。その他の組織及び胎児においてはDNA損傷は認められなかった。次いで、雄性マウスによりアマランス、アルーラレッド及び関連する色素添加物であるニューコクシン(赤色102号)について試験した。3色素では結腸において10mg/kgの用量からDNA損傷を誘導した。ニューコクシン6.5mg/10mlを含有する市販の紅ショウガ漬けの浸出液20mlを用いて試験した結果、結腸、腺胃及び膀胱においてDNA損傷が認められた。その強度について齧歯類におけるその他の発がん性物質と比較した。齧歯類における肝発がん物質であるp-ジメチルアミノアゾベンゼンは1mg/kgで結腸DNAの損傷を誘発したが、肝においては500mg/kgの用量のみでDNA損傷を惹起した。1mg/kgのN-ニトロソジメチルアミンは肝及び膀胱でDNA損傷を誘導したが、結腸においてはDNA損傷は認められなかった。N-ニトロソジエチルアミンは14mg/kgの用量においては試験したどの組織においてもDNA損傷を誘導しなかった。試験した3つのazo型色素においては非常に低い用量で結腸のDNA損傷が認められていることから、azo型色素に関するより広範囲な評価を行う必要がある。
イ)第28回日本トキシコロジー学会学術年会講演要旨(平成13年6月)
タール系合成色素のin vivo遺伝毒性評価
川口恵未
1、佐々木有
1、津田修治
2
1 八戸工業高等専門学校 物質工学科、2 岩手大学 農学部 獣医学科
わが国で一般に用いられている合成食用色素の中には染色体異常試験で陽性となるものの、in vivoの遺伝毒性が検討されていないものが少なからず存在する。Azo化合物である赤色2号については、結腸で強い遺伝毒性を示すことを既に報告した。ここでは、赤色2号も含め、我が国で使用されている指定食品添加物の中から、azo型、xanthene型、triphenylmethane型の食用色素12種のin vivo遺伝毒性をマウス多臓器で詳細に検討した。各食用色素を2000mg/kgを最高用量として経口投与し、3,8,24時間後に屠殺し、8臓器のDNA損傷をComet assayで検出した。陽性となったものについては、低用量域で投与し、遺伝毒性が認められなくなる最高用量を求めた。Azo型色素の赤色2号、102号、黄色4号には結腸で強い遺伝毒性が認められた。これらの遺伝毒性のNOAELは1mg/kgという低い用量であり、癌原性azo化合物であるButter Yellowのそれにほぼ匹敵するものであった。また、赤色102号、黄色4号で着色されている市販の漬け物が浸かっていた液を20ml/kgで投与したところ、結腸にDNA損傷が認められた。なお、triphenylmethane型の食用色素は検討した8臓器で陰性であった。このような結果から、合成食用色素の毒性について再検討の必要性が考えられる。
azo型タール色素の安全性試験成績概要(第7版食品添加物公定書解説書(資料2-10)より)
系統 |
azo型 |
品目名 |
食用赤色2号 |
食用赤色40号 |
食用赤色102号 |
食用黄色4号 |
構造式 |
|
|
|
|
米国 |
×注2) |
○ |
(×)注3) |
○ |
EU |
○注1) |
○ |
○ |
○ |
毒性 |
慢性毒性/発がん性:
ソ連において行われた33ヶ月の混餌投与試験等により、発がん性が示唆され,この結果を受け、米国FDAではラットを用いた131週間混餌投与が実施され、高用量投与群において発がん性が認められた。一方、別のグループによりラットを用いた2世代試験が行われ、腎のカルシウム沈着以外に特記すべき所見は認められなかったと報告されている。 |
亜急性毒性:
ラット、ビーグル犬及びブタにおいて毒性は認められていない。
慢性毒性/発がん性:
104週混餌投与したところ、ビーグル犬において毒性は認められていない。
F1ラットに2年間混餌投与したところ、雌の高濃度群で体重増加が認められたが毒性の誘導、腫瘍の発生率の増加は認められなかった。
変異原性:
Ames試験及びマウスを用いた遺伝性転座試験において変異原性は認められていない。 |
亜急性毒性:
ラットに90日間混餌投与したところ、毒性は認められていない。
慢性毒性/発がん性:
ラットに64週間または20ヶ月間混餌投与したところ、毒性は認められていない。また、F1ラットに対し118週混餌投与したところ、高濃度投与群の雌ラットにおいて高頻度のタンパク尿が認められたが、腫瘍発生率については有意差が認められなかった。 |
慢性毒性/発がん性:
マウスに24ヶ月間混餌投与したところ、毒性は認められていない。
F1ラットに30ヶ月混餌投与したところ、毒性は認められなかった。
変異原性試験:
Ames試験において弱い変異原性が認められた。 |
ADI
(mg/kg/day) |
0~0.5 |
0~7 |
0~4 |
0~7.5 |
注1:食品に使用可
注2:食品に使用不可
注3:これまでに使用許可の要望がないため食品に使用不可
資料3臭素酸カリウムについて
1.経緯
①昭和28(1953)年、我が国において食品添加物として指定
使用基準:魚肉ねり製品270ppm以下、小麦粉50ppm以下
②昭和57(1982)年、我が国において実施されたラットの発がん性試験で、臭素酸カリウムに発がん性が認められたことから、食品衛生調査会での審議を経て使用基準を改正(パン以外への使用を禁止。小麦粉30ppm以下、かつ最終食品に残存しない)
③平成元(1989)年、FAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)は、臭素酸カリウムのADIは設定できず、最終製品に残存すべきでない(小麦粉への使用量は60ppm以下)と評価
④平成2(1990)年、イギリスにおいて、臭素酸カリウムが最終食品に残留しないという確証が得られないという理由から、使用禁止措置
⑤平成4(1992)年、JECFAは、パンへの使用を含め臭素酸カリウムの小麦粉処理剤としての使用は適切でないと評価(平成7(1995)年においてもこの結果を再確認)
⑥平成9(1997)年、我が国において、パン中の臭素酸カリウム分析法を科学技術の進歩に対応して新たに通知
2.我が国における状況
(1)用途:製造用剤(小麦粉改良剤)
(2)使用基準:臭素酸カリウムは、パン(小麦粉を原料として使用するものに限る。)以外の食品に使用してはならない。臭素酸カリウムの使用量は、臭素酸として、小麦粉1kgにつき0.030g以下でなければならない。また、使用した臭素酸カリウムについては、最終食品の完成前に臭素酸カリウムを分解又は除去しなければならない。
3.欧米の状況
(1)米国:使用可能
米国では、臭素酸カリウムは昭和33(1958)年の連邦食品医薬品化粧品法改正による食品添加物改正法制定以前から、パン生地調製剤及び小麦粉改良剤として使用が認められている既認可物質であり、使用時50ppm以下との許容量が設定されている。
FDAは、パン中臭素酸残存量の安全レベルを20ppb以下と評価しており、この値を超えないよう残留臭素酸のモニタリングが行われている。また、残留臭素酸の確認のため、パン中残留臭素酸の高感度分析法の開発を進めている。
(2)EU:使用禁止
英国では、平成元(1989)年に市販パンの調査を実施した結果、臭素酸の残留が確認されたこと等から、最終食品に残留しないという確証が得られないとして、平成2(1990)年4月に臭素酸カリウムの小麦粉改良剤としての使用を禁止している。
EUにおいても、臭素酸カリウムの食品添加物としての使用は認められていない。
4.JECFAにおける安全性評価の概略
(1)1983年評価(第27回会合)(資料3-1,3-2)
臭素酸カリウムは小麦粉改良剤として広く使用されており、第7回会合で検討されている。この物質は最近の研究において飲料水とともに摂取するときラットにおいて発がん性を示すことが明らかとなったことから、今回の委員会の協議事項とされた。小麦粉改良剤として使用された臭素酸は処理された小麦粉で調製した生成品を焼成する間に臭化物に還元されることが示されている。臭素酸カリウムは他の目的、すなわち、ビール製造における大麦処理にも使用されるが、この際も醸造過程で臭化物に還元されることが示されている。しかしながら、委員会は臭素酸カリウムをある種の魚加工製品に添加した場合では消費者が摂取する食品中にかなりの臭素酸が残留するという結果を入手している。委員会は第7回会合の評価を支持するとともに、臭素酸は消費される食品中に存在すべきではないという基本原則を示した。従って、臭素酸カリウムの使用は残留物がない場合に限り認められる。主な毒性学的問題は臭化物のMTDIに関連しているため、このMTDIについて第7回会合時点よりも最新の研究を基に次回の会合で議論されるべきである。
委員会は、臭素酸カリウム処理した小麦粉から調製したパン製品には臭素酸カリウムは残留しないという条件とともに、以前に設定した小麦粉処理剤としての臭素酸カリウムの許容量を暫定最大許容量として小麦粉1kgにつき75mgに変更することを決定した。他の食品に対しては許容量は提示されなかった。臭素酸カリウム処理された食品中の残留臭素酸カリウムレベルを確立するためにはさらなる検討が必要である。
(2)1989年評価(第33回会合)(資料3-3,3-4)
今回の会合では、委員会は基本的原則として、臭素酸は使用した食品中に残存すべきではないという以前の勧告を支持し、臭素酸カリウムはこの原則に従う場合のみその使用を認めることを再確認した。委員会は発がん性に関する新規データ及び以前の研究よりもさらに高感度な手法で実施されたパン小麦粉中の臭素酸の残留に関する新規の研究を評価した。新規試験では臭素酸を小麦粉に対し62.5mg/kgのレベルまで使用した場合においては、最終製品であるパン中で臭素酸は検出されず、また主な分解産物は臭化物として同定された。75mg/kg以上の処理濃度では、パン中に残留臭素酸が検出された。以前に設定された臭化物のADIに基づき、委員会は小麦粉処理剤としての許容レベル範囲内で臭素酸を使用した場合に発生する臭化物に関しては毒性学的危害を発現しないとの見解を示した。しかしながら、75mg/kgの使用ではパン中に残留臭素酸を検出したことから、委員会は以前に設定したパン製造時の小麦粉処理に関する許容レベルを小麦粉1kgに対し臭素酸カリウムとして0-60mgに引き下げた。この結論を導くにあたり、委員会は以前に実施されたマウス及びラットによる長期投与試験では臭素酸処理した小麦粉から製造した製品では副作用は認められていないことに注目した。委員会はいくつかのその他の使用例で食品中に臭素酸が残存する可能性があることを認識しているが、臭素酸処理した他の食品に関する毒性学的データを所有していない。このため、培焼用小麦粉以外の食品に関しては許容レベルを設定できなかった。
(3)1992年評価(第39回会合)(資料3-5,3-6)
新しい毒性学的データが評価された。臭素酸カリウムに関する最近の慢性毒性・発がん性併合試験ではラットにおいて腎細胞腫瘍、腹膜中皮腫、甲状腺ろ胞細胞腫瘍が発現し、ハムスターにおいては腎細胞腫瘍の発現率のわずかな増加が認められた。これらの実験結果及びin vivo、 in vitroでの変異原性試験結果に基づき、臭素酸カリウムは遺伝毒性発がん性物質であると結論された。新しい高感度の検出方法(注:検出方法は示されていない)では、小麦粉処理剤としての許容レベル範囲内での使用であるにもかかわらず、パン中に臭素酸が検出された。
新しい安全性データ及び臭素酸の残留に関する新規データに基づき、委員会は小麦粉処理剤としての臭素酸カリウムの使用は適切ではないと結論した。以前に設定されたパン製造での小麦粉処理に関する許容レベルは削除された。ビール製造時の臭素酸カリウムの使用に関してはビール中の濃度に関するデータがないため評価することができなかった。
(4)1995年評価(第44回会合)(資料3-7)
臭素酸カリウムは小麦粉処理剤として第7,27,33及び39回会合において評価されており、委員会は基本的原則として、臭素酸は使用した食品中に残存すべきではないという以前の勧告を支持した。この原則は臭素酸カリウムが例えばビール製造での大麦処理のように食品加工における他の用途で用いられる場合も適用される。第39回会合において、委員会は慢性毒性・発がん性併合試験及びin vivo、 in vitroでの変異原性試験結果を基に、臭素酸カリウムは遺伝毒性発がん物質であると結論した。委員会はまた、これらの試験データ及びパン中の臭素酸カリウムの残留性に関するデータを基に、小麦粉処理剤として臭素酸カリウムを使用することは適切ではないと結論した。このため、以前に設定されたパン製造時に小麦粉処理剤として使用する場合の臭素酸の許容レベルを削除した。
今回の会合では、委員会はパン中の臭素酸を測定するために開発されたGC/MS及びICP-MSを用いた新しい、より高感度の分析法を入手した(注:英国が臭素酸カリウムを禁止した際に用いた分析法)。この方法では、臭素酸カリウム処理により製造したパン中に臭素酸の残存が検出された。新しい毒性データはなかった。臭素酸カリウムは遺伝毒性及び発がん性を有し、臭素酸カリウム処理した小麦粉から製造したパン中には残留物が存在する可能性があることから、委員会は第39回会合の結論を引き続き適用することとした。
5.パン中臭素酸カリウムの分析方法について
(1)我が国における分析法(資料3-8,3-9)
高速液体クロマトグラフ法による測定(現行法:平成9(1997)年制定、平成12(2000)年一部改正)
パン中の臭素酸カリウムは、臭素酸イオンを液体クロマトグラフィーにより分離後、ポストカラム法によりo-ジアニシジンと反応発色させ定量する。
検出限界:10ppb
(2)米国における分析法
我が国とほぼ同様の測定法を採用している。
(3)英国における分析法(使用禁止措置がとられた際に用いられた分析法)
①GC-ECD法(gas chromatography-electron capture detector method)
検出限界:12ppb
②HPLC-ICP-MS法(high performance liquid chromatography-inductively coupled-mass spectrometry analysis)
検出限界:20ppb
上記測定法及び測定結果の概略(資料3-10)
(Food Additives and Contaminants, vol.11, No.6, 633-639, 1994より)
臭素酸の揮発性誘導体によるGC法の検出限界は12ppbであった。再現性はあったが、臭素酸をパンにスパイクした場合の回収率は低く、ブラウンパンで平均30%、ホワイトパンでは平均42%であった。さらなる研究の結果、サンプル中の構成成分と調製に使用される試薬によって誘導化反応が抑制されることが示唆された。これらのことを考慮した結果、回収率は80%になった。1989年に小売りパンのサンプルの調査を実施した際にはこのGC法が用いられている。臭素酸は分析された6検体の未包装パンすべてで検出された(中央値35ppb、レンジ17-317ppb)。一方、包装パンについては22検体中7検体で臭素酸が検出された(中央値12ppb未満、レンジ12未満-238ppb)。
これらの小売りパン中に臭素酸が残留していることを別途確認するために、2つ目の分析法としてICP-MS法が開発された。この方法における平均回収率は71%であり、検出限界は20ppbであった。臭素酸で処理した小麦粉を用いて調製したパン検体を分析することにより、GC法とICP-MS法の比較を行った。2分析法間の定量値はよく一致していた。ICP-MS法の精度(CV12%)はGC法(CV18%)よりも優っていた。
臭素酸カリウムに関する規制(小麦粉改良剤としての禁止)は1990年4月1日に施行された。以前に臭素酸が検出されている製品に対する第2次調査を1992年に実施した。すべてのサンプル中の臭素酸含量は検出限界である12ppb以下であった。
(参考)
パンの製法と臭素酸カリウムの使用について
1.製パンにおける酸化剤の役割
イーストを醗酵させて焼成するタイプのパンでは酸化剤を必要とする。酸化剤は、蛋白分解酵素の阻害、チオール基の酸化、チオール(S-H)-ジスルフィド(S-S)置換、タンパク集合効果等の作用でグルテンの性質を向上させ、小麦粉の強度(物理的)を増すことにより、パンの容積をふくらませ、食感を改良する。
酸化剤は、反応速度の違いにより速効型と遅効型に分けられる。速効型酸化剤としてはヨウ素酸、アスコルビン酸、アゾジカルボナミド等があり、これらは生地混捏時の早い段階から効果を発揮する。また、遅効型酸化剤としては臭素酸があり、臭素酸は二次醗酵工程から焼成工程の初期段階にかけて効果を発揮する。
遅効型の臭素酸カリウムの代替としては、アスコルビン酸等が用いられているが、この場合、酸化作用の発現を遅らせるため高融点の油脂によるコーティング処理や生地物性の改良等を施す必要がある。また、アスコルビン酸では臭素酸に比べ、製造工程にぶれが生じた場合の醗酵安定性に欠ける、アスコルビン酸は酸化剤、還元剤両方の作用を有することなどから、最適混捏状態や最適添加量の判断が難しい等の問題があるとされている。
2.製パン法と酸化剤の関係
製パン法は、生地製法の違いによって従来法である中種生地法、生地醗酵を省略した連続製パン法、チョーリーウッド法等に分類される。現在、日本や米国では中種生地法が主流であり、一方、イギリスではチョーリーウッド法が主に用いられている。
酸化剤の必要量は製パン法により異なり、一般に、生地により大きな機械的圧力が加わる場合やより激しい生化学変化が生じる場合は、多くの酸化剤が必要となる。図1に製パン法と酸化剤の必要量の関係を示した。
3.臭素酸カリウムの添加量以外に残留臭素酸を減少させる要因
・焼成時間(長いほど減少)
・焼成温度(高いほど減少)
・アスコルビン酸の併用
・硫酸第一鉄の添加等