一覧へ戻る 平成13年08月27日 薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会 毒性・器具容器包装合同部会の審議結果概要 - 資料9 本文へ戻る資料9「玩具由来のDEHPあるいはDINP暴露に関する推定」 食品保健部基準課 玩具由来のDEHPあるいはDINP暴露に関する推定として、以下の検討を行った。I 暴露の推定に当たっての前提1) 乳幼児の Mouthing行動 乳幼児の Mouthing行動の実態調査について、オランダでは 3~36ヵ月齢を対象に調査が行われたが、日本での予備試験の結果 6~10ヶ月齢のMouthing時間が長いことが判明したことから、この月齢児をビデオ等を用いた詳細調査の対象とした。 平成11年度25例及び平成12年度15例の詳細調査のデータを整理した結果は表1(下記PDFファイル参照)のとおり。2) Chewingによるポリ塩化ビニル製品からのDINPの溶出 ポリ塩化ビニル製品からの Chewingによる溶出試験成績中、最も参加数が多い試験(平成 11 年度実施:成人25例がDINP含量 39%の 8.48cm2 の試験片を 15分間 Chewing )の成績を試算に用いた。 なお、オランダ、米国における小児の暴露量の推定においては、口腔中に含むおもちゃの表面積を10cm2としており、10cm2のものを1時間 Chewingした場合に換算してデータを整理した結果は表2(下記PDFファイル参照)のとおり。3) その他キ 暴露評価の対象となった6~10ヵ月児の平均体重は、6、7、8、9及び10ヵ月令の男児及び女児の平均体重を算術平均した8.37kg (表3参照(下記PDFファイル参照))。キ 玩具中塩化ビニル製玩具の比率は不明であるが、便宜的にすべてポリ塩化ビニル製とみなす。キ 平成10年 10月に試験のため収集したポリ塩化ビニル製玩具中のDEHP及びDINPの検出率は、 DEHP:26%(15/58) (平均含有量は21%、含量の幅は3.3~38%) DINP:83%(48/58) (平均含有量は31%、含量の幅は1.5~59%)であり、 平成13年1月の調査では、 DEHP:32%(9/28) (平均含有量は21%、含量の幅は0.5~39%) DINP:54%(15/28) (平均含有量は24%、含量の幅は0.6~40%)であるが、DEHPあるいはDINPの検出率は100%、含量は39%とみなす。キ in vivoでのDEHPとDINPの溶出挙動を比較したデータは少ないが、DEHPとDINPの溶出挙動を同じとみなして試算。II おしゃぶり等について (社)日本玩具協会によると、玩具のうち、日本で製造した「歯固め」、「おしゃぶり」には、ポリ塩化ビニルは用いられていないとのことであり、ポリ塩化ビニル製の「おしゃぶり」等が市場に多量存在しているというような状況ではないと考えられるが、「おしゃぶり」等は元来が Mouthing されるように作られたものであり、長時間 Mouthing されることが想定されるものである。 今回の調査においても、40例中 11 例が「おしゃぶり」をMouthing しており、最長のMouthing時間は 314.1分、最短 0.6分、平均73.9分で、30分以上のMouthing例は5例(314.1、163.9、132.7、90.4及び46.7分)あった。 成人の Chewing による溶出試験での平均値 109.3(μg/10cm2/hr)からは 183.8分以上のMouthingにより、及び溶出試験での長大値 241.04(μg/10cm2/hr)からは83.3分以上のMouthing により、DEHPのTDIの下限値(40μg/kg/日)以上の暴露が想定される。 また、溶出試験での最大値 241.04(μg/10cm2/hr)から 312.5 分以上の Mouthingにより、DINPのTDI(150μg/kg/日)以上の暴露が想定される。 注) 「おしゃぶり」を使用する乳幼児の「おしゃぶり」の使用を止めさせても、他のものを口に入れる傾向があるわけでなく、「おしゃぶり」をしゃぶっている状態は他のMouthing状態とは異なる。 III 玩具等について それぞれのMouthing時間の平均値でみると玩具のMouthing時間が最も長い。 玩具の Mouthing時間の最長例は 69.2分であり、この値と成人のChewing試験でのDINP の溶出の最大値241.04(μg/10cm2/hr)から算出される暴露量は 33.2(μg/kg/日)。 Ⅳ 特定の仮定をおいた場合について 総 Mouthing 時間の最大値は 351.8 分、おしゃぶりの Mouthing 時間を除外した総Mouthing時間の最大値は136.5分であり、かなり長時間Mouthingする場合があること、また、成人の Chewing によるポリ塩化ビニル製試験片からの DINP の唾液への溶出試験結果から、多量に溶出する場合があることが判明した。 このため、Mouthing行動による暴露という視点も含め、Chewingによる溶出が大きく、かつ、長時間 Mouthing した場合の暴露量の推定試算を行った。1. 検討その1(下記PDFファイル参照)1) DEHP あるいは DINP の暴露の検討に際し、Mouthing 時間について、便宜的に A) Mouthing時間の短い群 (短時間群:下位25%群)B) Mouthing時間の平均的な群 (中間群:25~75%群)C) Mouthing時間の長い群 (長時間群:上位25%群) の3群に分類し、40例の中から Mouthing時間の長い10例を長時間群とした。 なお、Mouthing時間については、「玩具のMouthing時間と合成樹脂のMouthing時間の合計」、「おしゃぶりのMouthing時間を除外した総Mouthing時間」及び「総Mouthing時間」の3通りについて試算した。 注) 「おしゃぶりの Mouthing 時間を除外した総Mouthing 時間」は、総Mouthing 時間からおしゃぶりのMouthing時間を単純に減じたものであり、この Mouthing 時間による試算は、通常は玩具以外のものもしゃぶる子供が、おしゃぶり以外の玩具のみをしゃぶることを想定した試算となる。 2) 唾液中への溶出量のデータについても同様に、便宜的に、 A) 溶出量の少ない群 (低溶出群:下位約25%群)B) 溶出量が平均的な群 (中間群:約25~約75%群)C) 溶出量が多い群 (高溶出群:上位約25%群) の3群に分類し、25例の中から溶出量の高い6例(上位24%)を高溶出群とした。高溶出群での溶出の平均値は184.43(μg/10cm2/hr)。3) 長時間群と高溶出群の条件が重なった場合を想定して暴露量を試算すると、キ 玩具の Mouthing 時間と合成樹脂の Mouthing 時間のそれぞれ長時間群の平均値の合計は 86.14 分であり、これにより推定した暴露量は 31.63(μg/kg/日)。キ おしゃぶりを除く総 Mouthing時間の長時間群の平均 Mouthing時間は 110.76分であり、これにより推定した暴露量は 40.68(μg/kg/日)。キ 総 Mouthing時間の長時間群の平均 Mouthing 時間は 168.41 分であり、これにより推定した暴露量は 61.85(μg/kg/日)。キ 上記の値をDEHPのTDIの下限値(40μg/kg/日)と比較すると、それぞれ79.1%、101.7%及び154.6%に相当し、DINPのTDI(150μg/kg/日)と比較すると、それぞれ21.1%、27.1%及び41.2%に相当する。2. 検討その21) 今回用いることができるMouthingのデータ中、「玩具のMouthing時間と合成樹脂のMouthing時間の合計」、「おしゃぶりのMouthing時間を除外した総Mouthing時間」及び「総Mouthing時間」の個々のデータ(n=40)と「唾液中への溶出量のデータ」の個々のデータ(n=25)との積(n=1,000)を求め試算すると、キ 玩具の Mouthing 時間と合成樹脂の Mouthing時間の合計では、計算上の暴露が40(μg/kg/日)を超える例は7/1,000、150(μg/kg/日)を超える例は0。キ おしゃぶりの Mouthing 時間を除外した総 Mouthing 時間では、計算上の暴露が40(μg/kg/日)を超える例は35/1,000、150(μg/kg/日)を超える例は0。キ 総Mouthing時間では、計算上の暴露が40(μg/kg/日)を超える例は95/1,000、150(μg/kg/日)を超える例は1/1,000。2) Chewing による最大溶出例:241.04(μg/10cm2/hr)を除外した上で、同様に個々のデータの積(n=960)を求め、試算すると、キ 玩具の Mouthing 時間と合成樹脂の Mouthing 時間の合計では、計算上の暴露が 40(μg/kg/日)を超える例は 5/960、150(μg/kg/日)を超える例は0。キ おしゃぶりの Mouthing 時間を除外した総 Mouthing 時間では、計算上の暴露が40(μg/kg/日)を超える割合は20/960、150(μg/kg/日)を超える例は0。キ 総Mouthing時間では、計算上の暴露が40(μg/kg/日)を超える例は75/960、150(μg/kg/日)を超える例は0。 注) Chewingによる最大溶出例241.04(μg/kg/日)は、統計学的には「はずれ値」とみなせるものであるが、安全性を厳しく評価する観点から他の検討においては棄却していない。 3. 検討その3(下記PDFファイル参照) 今回用いることができる Mouthingのデータ中、「総Mouthing時間」、「おしゃぶりのMouthing時間を除外した総Mouthing時間」あるいは「玩具のMouthing時間と合成樹脂のMouthing時間の合計」の個々のデータ(n=40)と「唾液中への溶出量のデータ」の個々のデータ(n=25)からそれぞれ無作為に値を抽出し、その積を10,000回求めて試算すると、キ 玩具の Mouthing 時間と合成樹脂の Mouthing時間の合計では、計算上の暴露が40(μg/kg/日)を超える例は88/10,000、150(μg/kg/日)を超える例は0。キ おしゃぶりの Mouthing 時間を除外した総 Mouthing 時間では、計算上の暴露が40(μg/kg/日)を超える例は 361/10,000、150(μg/kg/日)を超える例は0。キ 総Mouthing時間では、計算上の暴露が40(μg/kg/日)を超える例は988/10,000、150(μg/kg/日)を超える例は12/10,000。V その他:留意点 これまでの試算等は、暴露を過大に見積もるいくつかの条件(仮定)を置いたものであるが、その一方で、以下のような点に留意する必要がある。キ DEHPは、油分により極めて容易に溶出する。キ 口腔中での DINP の溶出については個人間で極めて大きなばらつきがあり、唾液の量や pHとの関係は認められず、一方で同一人間の複数回実験での変動は小さい。個人間での変動要因として、玩具の Chewing の仕方(口腔内でのころがし等)や表面の形態や密度等が考えられるが、唾液中への溶出が増す要因については解明できていない。キ DINP含量38%、39%及び58%の試験片を用いた口腔内溶出試験では、各試験の溶出の最大値は240.4~267.3(μg/10cm2/hr)であり、含量が 1.5倍になっての溶出量があまり増加しなかった例もあり、また、その原因も不明である。 一方、in vitroの溶出試験では用量相関的なデータがあり、in vitroの試験結果とin vivoでの実際の溶出には乖離がある。キ 食事等の他の要因からのフタル酸エステル類の暴露については、数(μg/kg/日)程度の暴露はあるものと想定される。VI まとめ1 . Mouthing 時間が長くなる傾向のある、元来しゃぶることを目的としているおしゃぶりといった玩具が DEHP を含有する塩化ビニル製であった場合には、理論的にはDEHPのTDIの下限値を超える暴露が生じる可能性がある。2. また、DINP については、おしゃぶりに使用されたとしてもTDI を超える暴露は現実的にはまず生じないものと考えられるが、極端な条件を想定するとTDI近くの暴露が生じる可能性は否定しきれない。3. 通常は玩具以外のものもしゃぶる行動をとる乳幼児が、玩具ばかりをしゃぶると仮定した場合、その玩具が DEHP を含有するポリ塩化ビニル製であれば、暴露量はTDI値の下限値近く、場合によってはTDIを超える可能性が懸念される。 一覧へ戻る