一覧へ戻る 平成10年06月23日 食品規格設定に係る毒性・残留農薬合同部会報告について - クロルフェナピル クロルフェナピル 1.品目名:クロルフェナピル(chlorfenapyr)2.用途:殺虫剤(ピロール環系)3.構造式 4.吸収・分布・代謝・排泄 (1)動物体内における代謝 SDラットを用いた経口(2mg/kg)投与による試験において、血液中濃度のTmaxは8時間、Cmaxは0.9~1.1μg eq./ml、T1/2βは、55~57時間と考えられる。尿糞中排泄試験において投与量から投与後72時間までの未変化体の糞中排泄率及び投与72時間後の推定消化管内残留率を引いて求めた吸収率は投与量の72~79%と推定される。投与8時間後における組織内濃度は褐色脂肪(4.5~6.3μg eq./g)、脂肪(5.0~5.8μg eq./g)等で血漿(1.6~1.9μg eq./g)中に比べ高濃度である。また、脳への分布は、投与1時間後に0.2~0.4μg eq./g、24時間後に0.3μg eq./g以下である。脊髄への分布は、投与1時間後に0.2~0.3μg eq./g、24時間後に0.1μg eq./g未満である。糞中の主要排泄物は未変化体(投与量の17~23%)である。主要な代謝反応はN-アルキル基の脱離、ピロール環の4位の水酸化及びその後の酸化、ピロール環の5位の水酸化である。投与後168時間までに投与量の10~16%が尿中に、75~82%が糞中に排泄される。なお、投与後24時間までに24~30%が胆汁中に排泄される。 (2)植物体内における代謝 ヒメリンゴを用いた試験において、葉面に塗布処理56日後の残留放射能は、処理葉表面に処理量の4.7%、処理葉内部に11.2%であり、主要残留物は未変化体である。また、果皮に塗布処理56日後の残留放射能は、処理果皮に処理量の34.8%、処理果実内部に20.1%であり、主要残留物は未変化体である。 キャベツを用いた試験において、土壌処理58日後の残留放射能は、植物体内に処理量の1.2~1.3%であり、主要残留物は未変化体である。 ナスを用いた試験において、葉面に塗布処理28日後の残留放射能は、処理葉表面に処理量の10.7%、処理葉内部に9.7%であり、主要残留物は未変化体である。また、果皮に塗布処理28日後の残留放射能は、処理果皮に処理量の17.4%、処理果実内部に12.2%であり、主要残留物は未変化体である。 なお、主要な代謝反応は、いずれもN-エトキシメチル基の脱離である。 (3)その他 上記を含め、別添1に示した試験成績が提出されている。5.安全性 (1)単回投与試験 急性経口LD50は、マウスで45~78mg/kg、ラットで304~461mg/kgと考えられる。 (2)反復投与/発がん性試験 ICRマウスを用いた混餌(20、120、240ppm)投与による18カ月間の発がん性試験において、240ppm投与群で耳介の皮膚炎、視神経・脊髄白質の空胞化が、120ppm以上の投与群で体重増加抑制、摂餌量低下、脳の白質の空胞化が認められる。本試験における無毒性量は20ppm(2.8mg/kg)と考えられる。発がん性は認められない。 SDラットを用いた混餌(60、300、600ppm)投与による104週間の反復投与/発がん性併合試験において、600ppm投与群で摂餌量低下、赤血球数の低下、ヘマトクリット値及びヘモグロビン濃度の低下等が、300ppm以上の投与群で体重増加抑制、グロブリンの増加、総コレステロールの増加、肝比重量の増加、肝細胞肥大等が認められる。本試験における無毒性量は60ppm(2.9mg/kg)と考えられる。発がん性は認められない。 ビーグル犬を用いた混餌(60、120、240ppm)投与による12カ月間の反復投与試験において、240ppm投与群で流涎、体重増加抑制、摂餌量低下が認められる。本試験における無毒性量は120ppm(4.0mg/kg)と考えられる。 ICRマウスを用いた混餌(500ppm)投与による4週間及び7週間の神経毒性試験において、500ppm投与群で体重増加抑制、大脳白質及び視神経に空胞化が認められる。本神経病変は12週間の休薬期間後回復する。神経症状の所見は認められない。 SDラットを用いた混餌(60、300、600ppm)投与による52週間の神経毒性試験において、600ppm投与群で海馬の空胞化等が、300ppm以上の投与群で体重増加抑制、小脳白質等の髄鞘の空胞化、脊髄神経根内等の髄鞘の腫脹が認められる。本神経病変は16週間の休薬期間後回復する。神経機能及び活動性の検査では影響は認められない。本試験における無毒性量は60ppm(2.6mg/kg)と考えられる。なお、SDラットを用いた亜急性毒性試験(150、300、600、900、1,200ppm)においても、神経病変が600ppm以上の投与群で認められている。 (3)繁殖試験 SDラットを用いた混餌(60、300、600ppm)投与による2世代繁殖試験において、600ppm投与群のF1子動物で膣開口の遅延、F2子動物で生後4日の生存率の低下が、300ppm以上の投与群のF0、F1親動物及びF1、F2子動物で低体重、F1子動物で被毛発現の遅延が認められる。60ppm以上の投与群のF1の育成期に低体重が認められているが、SDラットを用いた混餌(30、60ppm)投与による。追加試験において、F1への影響をさらに検討したところ検体投与に起因した影響は認められない。本試験における無毒性量は60ppm(3.19mg/kg)と考えられる。 (4)催奇形性試験 SDラットを用いた強制経口(25、75、225mg/kg)投与による催奇形性試験において、225mg/kg投与群で胎児動物の胸椎及び肋骨の骨化数の増加、腰椎の骨化数の低下が、75mg/kg以上の投与群で母動物の体重増加抑制、摂餌量低下、摂水量低下が認められる。本試験における無毒性量は、母動物25mg/kg、胎児動物75mg/kgと考えられる。催奇形性は認められない。 ニュージーランドホワイトウサギを用いた強制経口(5、15、30mg/kg)投与による催奇形性試験において、30mg/kg投与群で母動物の子宮重量の低値が、15mg/kg以上の投与群で母動物の体重増加抑制、摂餌量低下が、認められる。胎児動物においては、検体投与に起因した影響は認められない。本試験における無毒性量は、母動物5mg/kg、胎児動物30mg/kgと考えられる。催奇形性は認められない。 (5)変異原性試験 細菌を用いた復帰変異試験、Rec-assay、CHO培養細胞を用いた前進突然異変試験、ラット肝初代培養細胞を用いた不定期DNA合成試験、CHL培養細胞を用いた染色体異常試験、マウスを用いた小核試験の結果は、いずれも陰性と認められる。 (6)その他 上記を含め、別添1に示した試験成績が提出されている。6.ADIの設定 以上の結果を踏まえ、次のように評価する。 無毒性量 2.6mg/kg/日動物種 ラット投与量/投与経路 60ppm/混餌試験期間 52週間試験の種類 神経毒性試験 安全係数 100 ADI 0.026mg/kg/日 7.基準値案 別添2の基準値案のとおりである。基準値案の上限まで本農薬が残留したすべての農作物を摂食すると仮定した場合、国民栄養調査結果調査に基づき試算すると、摂取される農薬の量(理論最大摂取量)のADIに対する比は、28.2%である。(別添1)<毒性試験一覧表> 資料No. 試験の種類・期間 供試生物 試験機関 T-1 急性毒性14日間観察 ラット 安科研1) T-2 急性毒性14日間観察 マウス ACC2) T-3 急性神経毒性14日間観察 ラット Pharmaco LSR3) T-4 急性毒性14日間観察 ウサギ ACC T-5 亜急性毒性13週間投与 ラット ACC T-6 亜急性毒性13週間投与 マウス ACC T-7 亜急性毒性13週間投与 イヌ Pharmaco LSR T-8 亜急性毒性4週間投与 ウサギ Bio/dynamics T-9 慢性毒性12カ月間投与 イヌ Pharmaco LSR T-10 慢性毒性/発がん性24カ月間投与 ラット Hazleton Washington5) T-11 発がん性18カ月間投与 マウス Bio-Research6) T-12 慢性神経毒性12カ月間投与4カ月間回復 ラット Argus7) T-13 神経毒性4~7週間投与0~12週間回復 マウス 三菱化学(株) T-14 繁殖2世代投与期間P:♂16週、♀19週F1:♂♀23週 ラット Pharmaco LSR T-15 繁殖1世代投与期間P:♂♀16~17週間F1:♂♀11週間 ラット 安科研 T-16 催奇形性10日間投与 ラット Argus T-17 催奇形性13日間投与 ウサギ Argus T-18 変異原性復帰異変 サルモネラ菌:TA100、TA98、TA1535、TA1537、TA1538大腸菌:WP2μνγA- ACC 1):(株)三菱化成安全科学研究所(現社名は(株)三菱化学安全科学研究所)2):American Cyanamld Company(米国)3):Pharmaco LSR Inc.(米国)4):Bio/dynamics,Inc.(米国、現社名はPharmaco LSR Inc.)5):Hazleton Washington,Inc.(米国)6):Bio-Research Laboratories Ltd.(カナダ)7):Argus Research LJaboratorises,Inc.(米国) 資料No. 試験の種類・期間 供試生物 試験機関 T-19 変異原性突然変異 CHO細胞HGPRT ACC T-20 変異原性染色体異常 CHL細胞 HRC8) T-21 変異原性染色体異常 マウス ACC T-22 変異原性DNA損傷 枯草菌 安科研 T-23 変異原性DNA損傷 ラット肝細胞(不定期DNA合成) MA9) T-24 生体の機能に及ぼす影響 中枢神経系 一般症状 マウスIrwin法 安科研 ラットIrwin法 睡眠時間 マウス 体温 ラット 自発脳波 ウサギ 呼吸循環器系 ウサギ 自律神経系:瞳孔径 ラット 消化器系:腸管輸送能 マウス 骨格筋:懸垂動作 マウス 血液凝固: ラット T-25 解毒 吸収阻害薬理拮抗 マウス♂10 安科研 T-26 急性毒性14日間観察 ラット ACC T-27 急性毒性14日間観察 ラット ACC T-28 急性毒性14日間観察 ラット ACC T-29 急性毒性14日間観察 ラット ACC T-30 復帰変異 サルモネラ菌:TA100、TA98、TA1535、TA1537、TA1538大腸菌:WP2μνγA- ACC T-31 復帰変異 サルモネラ菌:TA100、TA98、TA1535、TA1537、TA1538大腸菌:WP2μνγA- ACC T-32 復帰変異 サルモネラ菌:TA100、TA98、TA1535、TA1537、TA1538大腸菌:WP2μνγA- ACC 8):Huntingdon Research Centre Ltd(英国)9):Microbiological Associates,Inc(英国)<代謝分解試験一覧表> 資料No. 試験の種類 供試動植物等 標識位置投与方法処理量 試験機関 M-1 動物体内における代謝 ラット肝臓S-9 ①非標識体(GC-MS法)②[ビロール環-2-14C]標識体in vitro試験:0.5mg/S-9 4ml(肝臓1.6g相当) (株)三菱化成安全科学研究所 M-2 ラット ①[ビロール環-2-14C](a)2mg/kg,1回(b)20mg/kg,1回 (株)三菱化成安全科学研究所 M-3 ラット ①[ビロール環-2-14C](a)2mg/kg,1回(b)20mg/kg,1回 (株)三菱化成安全科学研究所 M-4 ラット ①[ビロール環-2-14C](a)2mg/kg,1回(b)20mg/kg,1回 (株)三菱化成安全科学研究所 M-5 植物体内における代謝 ひめりんご ①[ビロール環-2-14C]標識体(a)果実塗布法0.48μg/実1個 (b)葉面塗布法 葉の全面 0.37μg/cm2 (c)揮散性 葉 面 :0.3μg/cm2薄 膜 :0.3μg/cm2濾紙 :0.48μg/cm2水溶液:0.22μg/cm2 (株)三菱化成安全科学研究所 M-6 なす ①[ビロール環-2-14C]標識体(a)水耕法0.21μg/ml (b)果実塗布法6.3μg/実1個 (c)葉面塗布法 0.22μg/cm2 (株)三菱化成安全科学研究所 M-7 キャベツ ①[ビロール環-2-14C]標識体(a)土壌処理法0.2ppm,明・暗条件下30日間分解後幼苗移植 (b)結球塗布法 結球および半径10cm以内の葉:0.3μg/cm2 (株)三菱化成安全科学研究所 M-8 土壌における運命 土壌・茨城火山灰軽埴土高知沖積埴壌土 ①[ビロール環-2-14C]標識体0.5μg/g(a)好気的条件(b)嫌気的条件(c)減菌条件②[フェニール環-U-14C]標識体0.5μg/g(a)好気的条件 (株)三菱化成安全科学研究所 M-9 動物体内における代謝 ラット雄 ①[ビロール環-2-14C]標識体2mg/kg7回(1日/1回投与) (株)三菱化成安全科学研究所 (別添2) 食品規格(案) クロルフェナピル 食品規格案基準値案 ppm 参考基準値 登録保留基準値 ppm 外国基準値 ppm てんさい 0.5 0.5 だいこん類(含ラディッシュ)(根) 0.1 0.1 だいこん類(含ラディッシュ)(葉) 3 3 はくさい 1 1 キャベツ(含芽キャベツ) 1 1 レタス(含チシャ、サラダナ) 3 3 なす 1 1 きゅうり(含ガーキン) 1 1 みかん 0.5 0.5 りんご 1 1 日本なし 1 1 西洋なし 1 1 いちご 0.2 0.2 かき 1 1 綿実(種子) 0.5 0.5(オ) 茶 50 50 注)オ:オーストラリア 一覧へ戻る