「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」 に適合していることの確認を行うことの可否に関する部会報告 (別添1) - 別紙5 麒麟麦酒株式会社から申請されたトマトに係わる「組み替えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」に適合していることの確認を行うことの可否について
麒麟麦酒株式会社から申請されたトマト(開発者:米国Calgene社、FLAVRSAVRTMトマト)について「組替えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」(以下指針という。)に適合した安全性評価がなされているか否かについて検討した。
1 申請された食品の概要
フレーバーセーバートマト(以下「FLAVRSAVRTMトマト」という。)は、アンチセンス・ポリガラクチュロナーゼ遺伝子(以下「FLAVRSAVRTM遺伝子」という。)により、果実の軟化速度を遅延させることにより収穫後の日持ち性を良くし、果実の腐敗及び収穫後のトマトの病気の発生が低減される。
FLAVRSAVRTMトマトには、トマト果実の細胞壁に存在するペクチンの可溶化とそれに伴う果実の軟化をもたらす酵素であるポリガラクチュロナーゼ(Polygalacturonase:以下「PG」という。)の発現を抑制するために、それをコードする遺伝子と相補的な塩基配列を持つFLAVRSAVRTM遺伝子が導入されている。
また、選択マーカー遺伝子として、Escherichia coli(以下、「E.coli」という。)に由来し、APH(3')Ⅱ(NPTⅡ)蛋白質を発現するカナマイシン抵抗性遺伝子(以下、kanr遺伝子(nptⅡ遺伝子)」という。)が導入されている。
2 指針の適用の可否について
FLAVRSAVRTMトマトの指針適用の可否については、指針の第1章第3(1)~(4)に従って申請資料の検討を行った。
(1)遺伝的素材に関する資料
宿主はトマトである。遺伝子供与体は、栽培トマト(L.esculentum cv Caligrande cv Cambe1133)に由来する。
この食品は、アンチセンス方式による遺伝子組み換えであるため、組み換え体におけるPGの発現量は0.01umo1/min・mg proteinであり、宿主トマトのそれに比較して少ない。また、kanr遺伝子により、発現するAPH(3')Ⅱ蛋白質の発現量は、1.75ug/g以下である。
(2)広範囲なヒトの安全な食経験に関する資料
宿主である栽培トマトはLycopersicon esculentum Millに属し、食品として古くから利用されている作物であり、広範囲で安全な人の食経験を有する。
kanr遺伝子の供与体であるE.coliは、ヒトの直接の食物源ではないが、環境中に広く分布しており、kanr遺伝子(nptⅡ遺伝子)の発現蛋白質であるAPH(3')Ⅱ(NPTⅡ)蛋白質は、微生物界に幅広く分布している。
(3)食品の構成成分などに関する資料
FLAVRSAVRTMトマトは、主要構成成分(蛋白質、ビタミン、ミネラル)及び毒性物質(トマチン、ソラニン、チャコニン)に関し、既存のトマトと同等であった。
(4)既存種と新品種の使用方法の相違に関する資料
FLAVRSAVR TMトマトの食品としての使用方法は、既存のトマトと同等である。なお、既存のトマトとの相違は果実の軟化をもたらすPGの発現をコードする遺伝子のアンチセンス遺伝子の発現により、収穫後の日持ち性が向上し、果実の腐敗及び収穫後の病気の発生を低減させる点である。
(5)指針適用の可否に関する結論
申請に際して提出された資料に関する以上の知見からすると、FLAVRSAVRTMトマトは既存のトマトと同等とみなし得るものと考えられ、指針の適用範囲内であると判断できる。
3 指針への適合性
フレーバーセーバートマトの指針への適合性については、指針の別表2(付表を含む。)に従って申請資料の検討を行った。
(1)組換え体の利用目的及び利用方法
FLAVRSAVRTMトマトでは、PGの発現をコードする遺伝子のアンチセンス遺伝子が導入されているので、PG活性が大きく低下し、そのため果実の軟化・腐熟の発生率を低く押さえることができる。
(2)宿主である栽培トマトは、Lycopersicon esculentum Millに属し、食品として古くから利用されている作物であり、広範囲で安全な人の食経験を有する。
(3)ベクター
FLAVRSAVRTMの作出に用いられたpCGN1436は、Agrobacterium tumefaciens(以下、「A.tumefacience」という。)のバイナリーベクターpCGN1547に、kanr遺伝子はE.coliに由来する。pCGN1436に存在する全ての遺伝子は、その機能が明らかになっており、既知の有害塩基配列を含まない。また、バクテリア間での伝達性はなく、自立増殖はできない。
なお、pCGN1436の宿主への導入には、アグロバクテリウム法が用いられている。
(4)挿入遺伝子関連
1)供与体
FLAVRSAVR TMトマトに導入されたPG生合成を阻害するFLAVRSAVR TM遺伝子は、L.esculentum cv Caligrande cv Campbe1133に由来し、kanr遺伝子(npt
Ⅱ遺伝子)は、E.coliに由来する。
2)挿入遺伝子
a 構造に関する資料
FLAVRSAVR TMトマトのゲノム中に組み込まれたpCGN1436由来の挿入DNA(mas5'/kanr/mas3'/CaMV35S5'/CaMV35S5'/FLAVRSAVR/tlm3')のサイズは、1.6kbである。なお、pCGN1436の全ての遺伝子は、その特性が明らかとなっており、既知の有害塩基配列を含まない。
b 性質に関する資料
導入されたFLAVRSAVR TM遺伝子は、細胞壁に存在するペクチンを可溶化し、果実の軟化を引き起こすPG酵素活性を低下させる。また、kanr遺伝子(nptⅡ遺伝子)はアミノ配糖体系抗生物質を不活化させるAPH(3')Ⅱ蛋白質(NPTⅡ蛋白質)を産生する。
c 純度に関する資料
挿入DNAに含まれるFLAVRSAVR TM遺伝子は、その塩基配列及び特性が明らかになっている。また、宿主に導入された遺伝子はこれらの塩基配列及び特性が既に明らかになった遺伝子のみである。
d 安定性に関する資料
導入DNA及び遺伝形質は少なくとも3世代にわたり安定している。
e コピー数に関する資料
挿入DNAは、最大3コピー挿入されている。
f 発現部位、発現時期、発現量に関する資料
APH(3')Ⅱ蛋白質(NPTⅡ蛋白質)の発現量は、FLAVRSAVRTMトマトの全蛋白質中の0.08%以下、(1.75ug/g)であり、生育全期間中、全組織で発現している。
g 抗生物質耐性マーカーの安全性に関する資料
・kanr遺伝子(nptⅡ遺伝子)により発現するAPH(3')Ⅱ蛋白質(NPTⅡ蛋白質)は、FLAVRSAVRTMトマトのすべての細胞に存在し、その量は、1.75ug/g以下である。
・kanr遺伝子(nptⅡ遺伝子)の塩基配列及びAPH(3')Ⅱ蛋白質(NPTⅡ蛋白質)のアミノ酸配列は明らかになっている。
・APH(3')Ⅱ蛋白質(NPTⅡ蛋白質)は、アミノ配糖体系抗生物質をリン酸化し不活化する。
・kanr遺伝子(nptⅡ遺伝子)は、サザンブロット法にて分子量1kbpの断片として同定されている。また、APH(3')Ⅱ蛋白質(NPTⅡ蛋白質)は、ウエスタンブロット法及びELISA法により同定されており、果実中の全蛋白質の0.004%がAPH(3')Ⅱ蛋白質(NPTⅡ蛋白質)であると推定される。
・kanr遺伝子(nptⅡ遺伝子)及びAPH(3')Ⅱ蛋白質(NPTⅡ蛋白質)は、加工の際の熱に対する安定性が低い。また、加工製品のpHが4.6以下で変成することが知られている。
・生で食する場合を想定した人工胃液及び人工腸液による検討では、10分後にはkanr遺伝子が消失し、またAPH(3')Ⅱ蛋白質(NPTⅡ蛋白質)の酵素活性は、人工胃液及び人工腸液中で速やかに低下している。
・予想一日摂取量の上限値はきわめて微量であり、問題ないと考えられる。
h 外来のオープンリーディングフレームの有無とその転写や発現の可能性に関する資料
FLAVRSAVRTM遺伝子には、オープンリーディングフレームは存在しない。
(5)組換え体
a 組換えDNA操作により新たに獲得された性質に関する資料 FLAVRSAVRTMトマトにあらたに導入された性質は、PGの活性低下とそれにより果実の軟化・腐熟の発生率が低く抑えられる点のみである。
b 遺伝子産物のアレルギー誘発生に関する資料
指針の別表2付表2に従って申請資料の検討を行った。
①供与体の生物の食経験に関する資料
kanr遺伝子(NPTⅡ遺伝子)の供与体はE.coliであり、FLAVRSAVRTM遺伝子は、L.esculentum cv Caligrande cv Cambe 1133由来である。栽培トマトは、食品として古くから利用されている作物であり、広範囲で安全な人の食経験を有する。また、E.coliは、ヒトの直接の食物源ではないが、環境中に広く分布している。
②遺伝子産物がアレルゲンとして知られているかに関する資料
APH(3')Ⅱ蛋白質(NPTⅡ蛋白質)がアレルギー誘発生を有するということは報告されていない。
③遺伝子産物の物理化学処理に対する感受性に関する資料
ア.人工胃液、人工腸液に関する感受性 APH(3')Ⅱ蛋白質(NPTⅡ蛋白質)は、人工胃液及び人工腸液で急速に分解され、10分以内に酵素活性が失われた。
イ.加熱処理に対する感受性
APH(3')Ⅱ蛋白質(NPTⅡ蛋白質)の酵素活性は加熱により消失した。
④遺伝子産物の摂取量を有意に変えるかに関する資料 日本人のAPH(3')Ⅱ蛋白質(NPTⅡ蛋白質)の一日平均予想摂取量は、日本人のトマトの平均摂取量11.7gをFLAVRSAVRTMから全量摂取し、加工損失が全くないと仮定した場合、0.057ugである。
⑤遺伝子産物と既知のアレルゲンとの構造相同性に関する資料 APH(3')Ⅱ蛋白質(NPTⅡ蛋白質)と既知の食物アレルゲンとの構造相同性については、データベース検索により、相同性がないことが確認された。
⑥遺伝子産物と既知の食物アレルゲンとの構造相同性に関する資料 APH(3')Ⅱ蛋白質(NPTⅡ蛋白質)の一日平均予想摂取量は0.000057mgで日本人の一日蛋白質摂取量79.7g(国民栄養の現状1995)の0.0000715%となる。
c 遺伝子産物の毒性影響に関する資料
APH(3')Ⅱ蛋白質(NPTⅡ蛋白質)との間で、構造的に有意な相同性を示す毒性物質は、検出されなかった。また、ラットに対する急性毒性試験においても、毒性は認められなかった。
d 遺伝子産物の代謝経路への影響に関する資料
e 宿主との差異に関する資料
FLAVRSAVRTMは、主要構成成分(蛋白質、ビタミン、ミネラル)及び毒性物質(トマチン、ソラニン、チャコニン)に関し、既存のトマトと同等であった。食品栄養素の分析結果では、宿主との間に有意な差異は見いだされなかった。
f 外界における生存・増殖能力に関する資料
FLAVRSAVRTMトマトの栽培法法は、通常のトマトと同様である。
g 組み換え体の生存・増殖能力の制限に関する資料
FLAVRSAVRTMトマトの生存・増殖能力は、既存のトマトと同様である。
h 組み換え体の不活性化法に関する資料
FLAVRSAVRTMトマトの低温下における枯死は、既存のトマトと同様である。
i 諸外国における許可・食用などに関する資料
FLAVRSAVRTMトマトは、米国では1994年6月に、カナダでは1995年2月に、メキシコでは1995年3月に、イギリスでは1996年2月にそれぞれ食品としての安全性が確認されている。
j 作出・育種・栽培方法に関する資料
FLAVRSAVRTMトマトの作出・育種・栽培方法は、既存のトマトと同様である。
k 種子の製法及び管理方法に関する資料 FLAVRSAVR TMトマトの製法及び管理方法は、既存のトマトと同様である。
(6)指針適合性に関する結論
申請に際して提出された資料に関する以上の知見から、FLAVRSAVRTMトマトは、指針に沿って安全性評価が行われていると判断した。