食品規格設定に係る毒性・残留農薬合同部会報告について - ピクロラム
ピクロラム
1.品目名:ピクロラム(PICLORAM)
2.用途:除草剤(ピリジンカルボン酸系)
3.安全性
(1)単回投与試験
急性経口LD50はラットで5,000㎎/㎏超(雄)、4,012㎎/㎏(雌)と考えられる。
(2)反復投与/発がん性試験
B6C3F1マウスを用いた2年間の発ガン性試験(100、500、1,000㎎/㎏)において、1,000㎎/㎏投与群で腎重量増加が認められる。本試験における無毒性量は、500㎎/㎏と考えられる。発がん性は認められない。
F344ラットを用いた混餌(20、60、200㎎/㎏)投与による2年間の反復投与/発がん性併合試験において、60㎎/㎏以上の投与群で小葉中心性肝細胞肥大と染色性変化、肝重量の増加が認められる。本試験における無毒性量は20㎎/㎏と考えられる。発がん性はみられていないが、最大耐量を投与したとは考えられず、高投与量設定が適当でないと考えられる。
改めて実施されたF344ラットを用いた混餌(250、500㎎/㎏)投与による104週間の反復投与/発がん性併合試験において、500㎎/㎏投与群において腎乳頭壊死が、50㎎/㎏以上の投与群において慢性腎症、尿潜血、尿比重減少、小葉中心性細胞肥大と染色性変化、肝重量の増加が認められる。発がん性は認められない。
イヌを用いた混餌(7、35、175㎎/㎏)投与による1年間の反復投与試験において、175㎎/㎏投与群において肝重量の増加が認められる。本試験における無毒性量は、35㎎/㎏と考えられる。
(3)繁殖試験
CDラットを用いた2世代繁殖試験(20、200、1,000㎎/㎏)において、1,000㎎/㎏投与群のF0及びF1親動物で、尿潜血、腎重量増加、腎臓の組織学的病変、F1雄の体重低下等が認められる。本試験における無毒性量は、200㎎/㎏と考えられる。
(4)催奇形性試験
ピクロラムカリウムのCDラットを用いた強制経口(ピクロラムとして30、150、298㎎/㎏)投与による催奇形性試験において、298㎎/㎏投与群母動物で流涎過多が認められる。胎児動物では検体投与に起因した影響はみられていない。本試験における無毒性量は、母動物150㎎/㎏、胎児動物298㎎/㎏と考えられる。催奇形性は認められない。
ピクロラムカリウムのニュージーランドホワイトウサギを用いた強制経口(ピクロラムとして40、200、400㎎/㎏)投与による催奇形性試験において、200㎎/㎏以上の投与群において母動物の体重増加抑制等が認められる。胎児動物では検体投与に起因した影響はみられていない。本試験における無毒性量は、母動物40㎎/㎏、胎児動物400㎎/㎏と考えられる。催奇形性は認められない。
(5)変異原性試験
細菌を用いた復帰変異試験、Rec-assay、CHO培養細胞を用いた前進突然変異試験、ラット骨髄細胞を用いた染色体異常試験、ラット肝初代培養細胞を用いた不定期DNA合成試験、マウスを用いた小核試験の結果は、いずれも陰性と認められる。
(6)その他
上記を含め、別添1に示した試験成績が提出されている。
4.吸収・分布・代謝・排泄
F344ラットを用いた経口(10㎎/㎏)投与の試験において、投与後72時間までに、投与量の76%が尿中に、19%が糞中に未変化体として排泄される。
小麦を用いた試験において、1エーカーに0.375オンスを散布した場合、殻粒での濃度は0.08ppmであった。
上記を含め、別添1に示した試験成績が提出されている。
5.ADIの設定
以上の結果を踏まえ、次のように評価する。
無毒性量 20㎎/㎏/日
動物種 ラット
投与量/投与経路 390ppm/混餌
試験期間 2年間
試験の種類 反復投与/発がん性併合試験
安全係数 100
ADI 0.20㎎/㎏/日
6.基準値案
別添2の基準値案のとおりである。基準値案の上限まで本農薬が残留したすべての農作物を摂食すると仮定した場合、国民栄養調 査結果に基づき試算すると、摂取される農薬の量(理論最大摂取量)のADIに対する比は、0.5%である。
(別添1)
<毒性試験一覧表>
資料No. |
試 験 の 種 類 |
供 試 生 物 |
試 験 機 関 |
T-1 |
急性毒性 |
ラット |
Dow HES METRL 1) |
T-2 |
急性毒性 |
ウサギ |
Dow HES METRL |
T-3 |
急性毒性 |
ラット |
Dow HES METRL |
T-4 |
眼刺激性 |
ウサギ |
Dow HES METRL |
T-5 |
皮膚刺激性 |
ウサギ |
Dow HES METRL |
T-6 |
亜急性毒性 (6ヶ月) |
イヌ |
HEST LJRC 2) |
T-7 |
亜急性毒性 (32日) |
マウス |
Dow HES TRL 3) |
T-8 |
亜急性毒性 (13週) |
マウス |
Dow HES TRL |
T-9 |
亜急性毒性 (13週) |
ラット |
Dow HES TRL |
T-10 |
慢性毒性 (12ヶ月) |
イ ヌ |
HEST LJRC |
T-11 |
慢性毒性/発がん性併合試験 (2年) |
ラット |
Dow HES METRL |
T-12 |
薬物動態 |
ヒ ト |
Dow HES TRL |
T-13 |
復帰変異試験 |
微生物 |
HEST LJRC |
資料No. |
試 験 の 種 類 |
供 試 生 物 |
試 験 機 関 |
T-14 |
不定期DNA合成 |
ラット肝細胞 |
HEST LJRC |
T-15 |
前進変異試験 |
ハムスター卵巣細胞 |
HEST LJRC |
T-16 |
小核試験 |
マウス
骨髄細胞 |
HEST LJRC |
T-17 |
DNA修復試験 |
微生物 |
SBL 4) |
T-18 |
皮膚刺激性 |
モルモット |
Dow HES METRL |
T-19 |
催奇形性 |
ウサギ |
Dow HES TRL |
T-20 |
催奇形性 |
ラット |
Dow HES TRL |
T-21 |
催奇形性
(カリウム塩) |
ラット |
BDI 5) |
T-22 |
催奇形性
(カリウム塩) |
ウサギ |
Dow HES TRL |
T-23 |
慢性毒性/発がん性併合試験 (2年) |
ラット |
Dow HES TRL |
T-24 |
発がん性 |
マウス |
Dow HES TRL |
1) Dow HES METRL: Mammalian and Environmental Toxicology Research Laboratory. Health and Environmental Sciences, The Dow Chemical Company
2) HEST LJRC: Health and Environmental Sciences - Texas, Lake Jackson Research Center, Lake Jackson, The Dow Chemical Company.
3) Dow HES TRL: Toxicology Research Laboratory, Health and Environmental Sciences, U.S.A. Dow Chemical U.S.A.
4) SBL: Sohgo Biochemical Laboratories
5) BDI: Bio/dynamics Inc.
<代謝分解試験一覧表>
資料No. |
試 験 の 種 類 |
供 試 生 物 |
試 験 機 関 |
P-1 |
薬物動態 |
ラット |
Dow HES TRL |
P-2 |
動物代謝 |
ラット |
Dow HES TRL |
R-1 |
作物残留 |
大 麦 |
Dow BD 6) |
R-2- |
作物残留 |
とうもろこし |
Dow AGOD7) |
R-3 |
作物残留 |
綿 実 |
Dow AGOD |
R-4 |
作物残留 |
オート麦 小 麦 大 麦 |
Dow AGPD8) |
R-5 |
作物残留 |
小殻類 |
Dow AGOD |
R-6 |
作物残留 |
なたね |
Dow Elan co, ARDCLL9) |
R-7 |
作物残留 |
てんさい |
Dow AGPD |
R-8 |
作物残留 |
さとうきび |
Dow AGOD |
R-9 |
作物残留 |
さとうきび |
Dow BD |
R-10 |
作物残留 |
さとうきび |
Dow AGPD |
R-11 |
作物残留 |
小 麦 とうもろこし |
Dow AGOD |
R-12 |
作物残留 |
小 麦 大 麦 |
Dow AGOD |
R-13 |
作物残留 |
小 麦 |
Dow BD |
R-14 |
作物残留 |
小 麦 |
Dow Elan co, NAECL 10) |
R-15 |
作物残留 |
小 麦 |
Dow BD |
R-16 |
作物残留 |
小 麦 |
Dow BD |
6) Dow BD: Bioproducts Department, Dow Chemical Company
7) Dow AGOD: Ag-Organics Department, Dow Chemical Company
8) Dow AGPD: Agricultural Products Department, Dow Chemical Company
9) Dow Elanco, ARDS, LL: Agricultural Research and Development Center,
Letcomb Laboratory, Dow Elanco Limited
10) Dow Elanco, NAECL: North American Environmental Chemistry Laboratory,
Dow Elanco
(別添2)
食 品 規 格 (案)
ピクロラム |
食品規格案 基準値案 ppm |
参考基準値 |
外 国 基準値 ppm |
小 麦 大 麦 上記以外の穀類 |
0.5 0.5 0.5 |
0.5(ア) 0.5(ア) 0.5(ア) |
なたね |
0.5 |
0.05(フ) |
注)ア:米国、 フ:フランス