食品規格設定に係る毒性・残留農薬合同部会報告について - イミベンコナゾール
イミベンコナゾール
1.品目名:イミベンコナゾール(IMIBENCONAZOLB)
2.用途:殺菌剤(アゾール系)
3.安全性
(1)単回投与試験
急性経口LD50はマウスで5,000 mg/kg 超、ラットで2,800~3,000 mg/kgと考えられる。
(2)反復投与/発がん性試験
ICRマウスを用いた混餌(10、100、1,000 ppm)投与による18カ月間の発がん性試験において、1,000ppm投与群で体重増加抑制、食餌効率の低下、脾臓重量の増加、肝臓の比重量増加等が、100ppm以上の投与群で腿臓の髄外造血が認められる。本試験における無毒性量(*)は 10 ppm(0.984 mg/kg)と考えられる。発がん性は認められない。
SDラットを用いた混餌(25、100、500 ppm)投与による24カ月間の反復投与/発がん性併合試験において、500 ppm 投与群で摂餌量減少、肝重量の増加小葉中心性肝細胞肥大、脾臓の褐色色素沈着量の増加・暗調化、ヘマトクリット値・ヘモグロビン量・赤血球数の減少等が、100 ppm 投与群で脾臓の暗調化が認められる。本試における無毒性量は 25 ppm(0.85 mg/kg)と考えられる。発がん性は認められない。
ビーグル犬を用いた強制経口(1.5、5.0、15.0 mg/kg)投与による12カ月間の反復投与試験において、15.0mg/kg 投与群で平均赤血球容積・平均赤血球血色素量の上昇、活性化トロンボブラスチン時間の短縮、膀胱粘膜の赤色斑等が認められる。また 5.0 mg/kg 投与群で活性化トロンボブラスチン時間の短縮、膀胱粘膜の赤色斑等が認められる。本試験における無毒性量は1.5 mg/kgと考えられる。
(3)繁殖試験
SDラットを用いた混餌(30、100、300 ppm)投与による2世代繁殖試験において、100ppm以上の投与群 Fo世代雌で肝体重比重量の増加、300ppm投与群Fo世代雌とF1世代雌雄で脾臓暗調化、脾臓褐色色素沈着増加、うっ血が認められる。本試験における無毒性量は、30 ppm(2.3 mg/kg)と考えられる。
(4)催奇形性試験
SDラットを用いた強制経口(5、30、150 mg/kg)投与による催奇形性試験において、母動物は30 mg/kg 以上の投与群で体重増加抑制、脾臓重量の増加が、150 mg/kg 投与群で摂額量の低下、飲水量の増加、後期死亡胚の増加等が認められる。150 mg/kg 投与群の胎児動物に心室中隔欠損、四肢骨屈曲等が認められる。母動物毒性がみられた30 mg/kg の5倍量である150 mg/kg の投与群で催奇形性が認められる。本試験における無毒性量は、母動物 5 mg/kg、胎児動物30 mg/kgと考えられる。
ニュージーランドホワイトウサギを用いた強制経口(5、20、80 mg/kg)投与による催奇形性試験において、80 mg/kg投与群で着床数減少が認められる。 胎児動物で、検体投与に起因した影響は認められない。本試験における無毒性量は母動物20mg/kg、胎児動物80mg/kgと考えられる。催奇形性は認められない。
(5)変異原性試験
細菌を用いた復帰変異試験、Rec-assay、CHO培養細胞を用いた染色体異常試験、マウスを用いた小核試験の結果は、いずれも陰性と認められる。
(6)その他
上記を含め、別添1に示した試験成績が提出されている。
4.吸収・分布・代謝・排泄
F344ラットを用い経口(2 mg/kg)投与した試験において、Tmaxは 7.5 時間、Cmaxは約1.1μg eq./ml.T1/2は約 3.5 時間と考えられる。 投与後3日でほとんどは尿中に、一部は糞中に代謝物として排泄される。主要代謝物としてグルクロン酸・硫酸抱合体等の代謝物が認められる。組織内濃度は、脂肪組織、肝臓、腎臓で比較的高濃度である。
放射性同位元素を用いたぶどうの試験において、果実と葉で半減期は10日以内であり、80% が 20~22 日以内に分解される。収穫時果実中の14C濃度は0.4~1.5ppmである。
放射性同位元素を用いたりんごの試験において、果実での半減期は13日である。
上記を含め、別添1に示した試験成績が提出されている。
5.ADIの設定
以上の結果を踏まえ、次のように評価する。
無毒性量 0.8 5 mg/kg/日
動物種 ラット
投与量/投与経路 25 ppm/混餌
試験期間 24カ月
試験の種類 反復投与/発がん性併合試験
安全係数 100
ADI 0.0085 mg/kg/日
6.基準値案
別添2の基準値案のとおりである。基準値案の上限まで本農薬が残留したすべての農作物を摂食すると仮定した場合、国民栄養調査結果に基づき試算すると、摂取される農薬の量(理論最大摂取量)のADIに対する比は、36.9%である。
(*)最大無作用量と無毒性量
残留農薬基準の設定に当たっては、従来、「最大無作用量」という用語を使用してきたが、近年の毒性学等の進歩により、安全性評価においては、国内的にも国際的にも、先に報告をまとめた食品添加物の指定及び使用基準改正に関する指針(案)、WHO及びUNEP、ILOが共同でまとめた「食品中の残留農薬の安全性評価に関する原則」やこれに基づくJMPRの評価、日米EU三極医薬品承認審査ハーモニゼーション国際会議で示されているように、「無毒性量(No‐observed Adverse Effect Level、NOAEL)」という用語が使用されてきている。このような国内外の知見や状況を踏まえ、残留農薬基準の設定に当たっても、今後、なんら毒性変化が認められない用量の上限として、「無毒性量」という用語を用いることとする。
なお、類似の用語として、なんら有意な変化が認められない用量の上限である「無影響量(No‐observed Effect Level、NOEL)」がある。多くの場合、「無毒性量」と「無影響量」の値は一致するが、毒性学的にみて意味をもたないような変化が観察された場合、「無影響量」の方が低い値を示す場合がある(例えば、肝機能検査値の一つであるGOT値の低下は、通例、毒性学的に意味が無いと考えられる。)
(別添1)
<毒性試験一覧表>
|
試験の種類 ・期 間 |
供試動物 |
試験機関 |
1 |
急性毒性 (14日間観察) |
ラツト |
ハンティンドンリサーチセンター(英国) |
2 |
急性毒性 (14日間観察) |
マウス |
ハンティンドンリサーチセンター(英国) |
3 |
急性毒性 (14日間観察) |
ラツト |
ハンティンドンリサーチセンター(英国) |
4 |
亜急性毒性 (13週間) |
ラツト |
ハンティンドンリサーチセンター(英国) |
5 |
急性毒性 (14日間観察) |
マウス |
(財)残留農薬研究所 |
6 |
血液に及ぼす影響 (参考資料) |
マウス |
麻布大学獣医学部 |
7 |
亜急性毒性 (13週間) |
イヌ |
ハンティンドンリサーチセンター(英国) |
8 |
慢性毒性 (12ヶ月間) |
イヌ |
(財)残留農薬研究所 |
9 |
慢性毒性/発癌性 (24ヵ月間) |
ラツト |
(財)残留農薬研究所 |
10 |
発癌性 (18ヶ月間) |
マウス |
(財)残留農薬研究所 |
11 |
繁殖性 (2世代) |
ラツト |
(財)残留農薬研究所 |
12 |
催奇形性 |
ラツト |
ハンティンドンリサーチセンター(英国) |
13 |
催奇形性 |
ラツト |
三菱化成安全科学研究所 |
14 |
催奇形性 |
ウヅギ |
ハンティンドンリサーチセンター(英国) |
15 |
催奇形性 |
ウサギ |
(財)残留農薬研究所 |
16 |
変異原性 |
微生物 |
ハンティンドンリサーチセンター(英国) |
17 |
変異原性 (in vitro染色体異常) |
ハムスター 卵巣培養細胞 |
ハンティンドンリサーチセンター(英国) |
18 |
変異原性(小 核) |
マウス |
(財)残留農薬研究所 |
19 |
変異原性(DNA修復) |
微生物 |
ハンティンドンリサーチセンター(英国) |
20-1 |
一般薬理 (中枢神経系に対する作用) |
マウス |
ハンティンドンリサーチセンター(英国) |
20-2 |
マウス |
20-3 |
マウス |
20-4 |
ラツト |
20-5 |
(呼吸、循環器系に対する作用) |
イヌ |
20-6 |
ネコ |
20-7 |
ネコ |
20-8 |
(平滑筋に対する作用) |
モルモット摘出回腸(直接) |
20-9 |
モルモット摘出回腸(直接) |
20-10 |
(消化器に対する作用) |
マウス(炭末輸送能) |
20-11 |
(骨格筋に対する作用) |
ラット(摘出横隔膜神経筋) |
20-12 |
一般薬理 (血液に対する作用) |
ヒト 赤血球 |
20-13 |
ラット |
20-14 |
(尿量、尿中電解質排泄に対する作用) |
ラット |
<代謝分解試験一覧表>
資料 No. |
試験の種類 |
供試動植物等 |
試験場所 |
21 |
動物体内における代謝 |
Fischer系 ラット雌雄 |
(財)残留農薬研究所 |
22 |
植物体内における運命 |
ぶどう樹 (果実、葉) |
(財)残留農薬研究所 |
23 |
りんご樹 (果実) |
(財)残留農薬研究所 |
24 |
土壌における運命 |
A.立川土壌 B.ニューヨーク土壌 |
(財)残留農薬研究所 |
(別添2)
食品規格(案)
イミベンコナゾール |
食品規格案 基準値案 ppm |
参考基準値 |
登録保留基準値 ppm |
らっかせい |
0.1 |
0.1 |
スイカ(果実) |
1 |
1 |
メロン類(果実) |
1 |
1 |
まくわうり(果実) |
1 |
1 |
みかん |
1 |
1 |
りんご |
1 |
1 |
日本なし |
1 |
1 |
西洋なし |
1 |
1 |
もも |
1 |
1 |
うめ |
2 |
1 |
ぶどう |
5 |
5 |
茶 |
20 |
20 |