食品規格設定に係る毒性・残留農薬合同部会報告について - フルスルファミド
フルスルファミド
1.品目名:フルスルファミド(FLUSULFAMIDE)
2.用 途:殺菌剤(ベンゼンスルホンアニリド系)
3.安全性
(1)単回投与試験
急性経口LD50はマウスで245~254 mg/kg、ラットで132~180 mg/kgと考えられる。
(2)反復投与/発がん性試験
ICRマウスを用いた混餌(2、20、200 ppm)投与による78週間の発がん性試験において、200 ppm投与群で削痩、脳の白質空胞化、視神経線維変性等が認められる。無毒性量は、20 ppm(1.985 mg/kg)と考えられる。発がん性は認められない。
F344ラットを用いた混餌(3、30、300 ppm)投与による104週間の反復投与/発がん性併合試験において、300 ppm投与群で水晶体または硝子体の混濁、腎重量増加等が、30 ppm以上の投与群で体重増加抑制、肝重量の増加、脳の白質空胞化等が認められる。本試験における無毒性量は、3 ppm(0.1037 mg/kg)と考えられる。発がん性は認められない。
ビーグル犬を用いた混餌(2、10、50 ppm)投与による12ヶ月間の反復投与試験において、50 ppm投与群で脳の白質空胞化等が認められる。本試験における無毒性量は、10 ppm(0.246 mg/kg)と考えられる。
カニクイザルを用いた強制経口(0.063、0.315、1.575 mg/kg)投与による12ヶ月間の反復投与試験において、全投与群において検体投与に起因する毒性学的影響は何等認められない。本試験における無毒性量は、1.575 mg/kgと考えられる。
なお、本品により認められた神経病変は髄鞘に限局しており、回復期間を設けることにより回復することが認められている。
(3)繁殖試験
SDラットを用いた混餌(2、10、40 ppm)投与による2世代繁殖試験において、40 ppm投与群のF0及びF1世代の親動物で心重量低下、F1世代の子動物で体重増加抑制、10 ppm以上の投与群のF2世代の子動物で体重増加抑制が認められる。本試験における無毒性量は、2 ppm(0.1 mg/kg)と考えられる。
(4)催奇形性試験
SDラットを用いた強制経口(0.2、1、5 mg/kg)投与による催奇形性試験において、5 mg/kg投与群の母動物で胎盤の低重量、摂餌量減少、胎児動物で小眼球症、低体重が、1 mg/kg以上の母動物で体重増加抑制、胎児動物で腰肋骨の出現率の上昇が認められる。母体毒性を現す高用量において催奇形性は否定できないが、本試験における無毒性量は、母動物、胎児動物とも0.2 mg/kgと考えられる。
日本白色種ウサギを用いた強制経口(2、6、20 mg/kg)投与による催奇形性試験において、20 mg/kg投与群の母動物で摂餌量減少、胎児動物で小眼球症、鼻部形成異常、全前脳症、前頭骨癒合等が認められる。母体毒性を現す高用量において催奇形性が疑われるが、本試験における無毒性量は、母動物、胎児動物とも6 mg/kgと考えられる。
(5)変異原性試験
細菌を用いた復帰変異試験、Rec-assay、CHL培養細胞を用いた染色体異常誘発試験の結果は、いずれも陰性と認められる。
(6)その他
上記を含め、別添1に示した試験成績が提出されている。
4.吸収・分布・代謝・排泄
SDラットを用いた経口(5 mg/kg)投与の試験において、Tmaxは5時間、Cmaxは15.78~21.26μg eq./ml、T1/2は約18時間と考えられる。投与後48時間までに投与量の57~68%は胆汁中に排泄され、投与後5日間で77~87%が糞中に、4~7%が尿中に排泄される。主要代謝物として親化合物のN-グルクロン酸抱合体、水酸化体、クロロアニリン酸化体のβ-グルクロン酸抱合体が認められる。組織内濃度は甲状腺、肝、肺、卵巣で血漿中に比べ高濃度である。
キャベツを用いた試験において、葉面処理6日後の全残存放射能は80%以上である。6日後の処理葉から検出される未変化体は約4%であり、主要代謝物であるホルミル体、スルホンアミド体、スルホン酸の72時間後の検出量は各数%である。非処理茎葉部及び根部への移行は認められない。土壌処理6週間後の植物体への移行は1%以下である。
上記を含め、別添1に示した試験成績が提出されている。
5.ADIの設定
以上の結果を踏まえ、次のように評価する。
無毒性量 0.1 mg/kg/日
動物種 ラット
投与量/投与経路 2 ppm/混餌
試験期間 2世代
試験の種類 繁殖試験
安全係数 100
ADI 0.001 mg/kg/日
6.基準値案
別添2の基準値案のとおりである。基準値案の上限まで本農薬が残留したすべての農作物を摂食すると仮定した場合、国民栄養調査結果に基づき試算すると、摂取される農薬の量(理論最大摂取量)のADIに対する比は、14.8%である。
(別添1)
毒性試験一覧表
資料No. |
試験の種類(期間) |
供試生物 |
試 験 機 関 |
Ⅰ-1 |
急性毒性〔原体〕(14日間観察) |
ラット |
残留農薬研究所 |
Ⅰ-2 |
マウス |
Ⅰ-3 |
ラット |
Ⅰ-4 |
イヌ |
Bio/dynamics(米国) |
Ⅱ-1 |
亜急性毒性(13週間) |
ラット |
残留農薬研究所 |
Ⅱ-2 |
亜急性毒性(13週間) |
マウス |
Ⅱ-3 |
亜急性毒性(4週間) |
サル |
Hazleton(米国) |
Ⅲ-1 |
慢性毒性・発がん性(104週間) |
ラット |
残留農薬研究所 |
Ⅲ-2 |
発がん性(78週間) |
マウス |
Ⅲ-3 |
慢性毒性(52週間) |
イヌ |
Ⅲ-4 |
慢性毒性(52週間) |
サル |
Hazleton(米国) |
Ⅳ-1 |
繁殖性(2世代) |
ラット |
残留農薬研究所 |
Ⅳ-2 |
催奇形性 |
ラット |
Ⅳ-3 |
ウサギ |
Ⅴ-1 |
変異原性(復帰変異性) |
微生物 |
残留農薬研究所 |
Ⅴ-2 |
変異原性(染色体異常) |
チャイニーズハムスターの肺細胞 |
|
Ⅴ-3 |
変異原性(DNA修復) |
微生物 |
|
Ⅵ-1 |
薬理 |
行動に及ぼす影響 |
マウス |
環境保健生物 研究センター |
体温に対する作用 |
ウサギ |
呼吸、血圧心電図に対する作用 |
ウサギ |
瞳孔径に対する作用 |
ウサギ |
摘出回腸に対する作用 |
自動運動への影響 |
ウサギ |
Agonistに対する作用 |
モルモット |
炭末輸送能に対する作用 |
マウス |
胃腸粘膜刺激作用 |
ラット |
血液凝固に及ぼす影響 |
ラット |
溶血性の有無 |
ウサギ |
尿排泄に及ぼす影響 |
ラット |
骨格筋に対する作用 |
ラット |
資料No. |
試験の種類(期間) |
供試生物 |
試 験 機 関 |
Ⅵ-2 |
薬理(中枢神経関係) |
行動に及ぼす影響 |
マウス |
残留農薬研究所 |
行動に及ぼす影響 |
ウサギ |
ヘキソバルビタール睡眠への作用 |
マウス |
脳波に対する作用 |
ウサギ |
Ⅵ-3 |
回復性 |
マウス |
日本実験医学研究所 |
Ⅵ-4
|
行動試験 |
自発運動量に及ぼす影響 |
マウス |
日本実験医学研究所 |
条件回避学習試験 |
マウス |
Ⅵ-5 |
慢性脳波に及ぼす影響 |
ラット |
環境保健生物研究センター |
Ⅵ-6 |
回復性(特殊染色) |
マウス |
実医研 |
Ⅵ-7 |
電顕検査 |
マウス |
Ⅵ-8 |
生化学的検査 |
マウス |
Ⅵ-9 |
単回投与神経毒性 |
ラット |
Ⅶ-1 |
急性毒性〔代謝分解物-スルホンアミド体〕(14日間観察) |
マウス |
Hazleton(仏国) |
Ⅶ-2 |
変異原性(復帰変異性) 〔代謝分解物-スルホンアミド体〕 |
微生物 |
Ⅶ-3 |
急性毒性〔代謝分解物-ホルミル体〕 (14日間観察) |
マウス |
Hazleton(仏国) |
Ⅶ-4 |
変異原性(復帰変異性) 〔代謝分解物-ホルミル体〕 |
微生物 |
Ⅶ-5 文献 |
急性毒性 〔代謝分解物-ニトロアニリン体〕 |
ラット ――― マウス |
GTPZAB |
Ⅶ-6 |
急性毒性〔代謝分解物-スルホン酸〕 (14日間観察) |
マウス |
Hazleton(仏国) |
Ⅶ-7 |
変異原性(復帰変異性) 〔代謝分解物-スルホン酸〕 |
微生物 |
Ⅶ-8 |
急性毒性〔代謝分解物-水酸化体〕 (14日間観察) |
マウス |
アニマルリサーチ |
Ⅶ-9 |
変異原性(復帰変異性) 〔代謝分解物-水酸化体〕 |
微生物 |
日本生物化学センター |
Ⅶ-10 |
急性毒性〔代謝分解物-酸化体-1〕 (14日間観察) |
マウス |
アニマルリサーチ |
Ⅶ-11 |
変異原性(復帰変異性) 〔代謝分解物-酸化体-1〕 |
微生物 |
日本生物化学センター |
Ⅶ-12 |
急性毒性〔代謝分解物-酸化体-2〕 (14日間観察) |
マウス |
アニマルリサーチ |
Ⅶ-13 |
変異原性(復帰変異性) 〔代謝分解物-酸化体-2〕 |
微生物 |
日本生物化学センター |
代謝分解試験一覧表
資料No. |
試 験 の 種 類 |
供試動植物等 |
試 験 場 所 |
Ⅷ-1 |
動物における吸収、分布、排泄及び蓄積性試験 |
ラット |
Huntingdon Research Centre(英国) |
動物代謝試験
|
Ⅷ-2 |
三井東圧化学 株式会社 |
Ⅷ-3,4 5 |
植物代謝試験 |
キャベツ |
Ⅷ-6,7 8 |
こかぶ |
Ⅷ-9 |
土壌代謝試験 |
畑土壌 |
Ⅷ-10 |
土壌中移行試験 |
Ⅷ-11 |
光分解試験 |
|
Ⅷ-12,13 |
|
Ⅷ-14 |
大気への揮散性試験 |
畑土壌他 |
化学分析 コンサルタント |
Ⅷ-15 |
微生物分解試験 |
微生物 |
三井東圧化学 株式会社 |
Ⅷ-16 |
Ⅷ-17 |
(別添2)
食 品 規 格 (案)
フルスルファミド |
食品規格案 基準値案 ppm |
参考基準値 |
登録保留 基準値 ppm |
ばれいしょ |
0.05 |
0.05 |
かぶ類(根) かぶ類(葉) はくさい キャベツ(含芽キャベツ) はなやさい(カリフラワー) はなやさい(ブロッコリー) 上記以外のアブラナ科野菜 |
0.1 0.1 0.1 0.1 0.1 0.1 0.1 |
0.1 0.1 0.1 0.1 0.1 0.1 0.1 |