食品規格設定に係る毒性・残留農薬合同部会報告について - ジメチルビンホス
ジメチルビンホス
1.品目名:ジメチルビンホス(DIMETHYLVINHOS)
2.用 途:殺虫剤(有機リン系)
3.安全性
(1)単回投与試験
急性経口LD50はマウスで200~220 mg/kg、ラットで155~210 mg/kgと考えられる。
(2)反復投与/発がん性試験
CD-1マウスを用いた混餌(5、40、320 ppm)投与による97週間の発がん性試験において、320 ppm投与群で脳コリンエステラーゼ活性低下等が認められる。本試験における無毒性量は40 ppm(4.5 mg/kg)と考えられる。発がん性は認められない。
F344ラット×WistarラットのF1世代を用いた混餌(1、3、10、100 ppm)投与による24ヵ月間の反復投与試験において、100 ppm投与群で肝、腎及び副腎重量増加、脳コリンエステラーゼ活性低下等が認められる。本試験における無毒性量は10 ppm(0.405 mg/kg)と考えられる。発がん性にかかる所見は認められない。
ビーグル犬を用いた混餌(50、300、1,800 ppm)投与による52週間の反復投与試験において、1,800 ppm投与群でアルカリホスファターゼの上昇、副腎重量の増加等が、300 ppm以上投与群で甲状腺重量増加等が認められる。なお、300 ppm以上の投与群で、血漿・赤血球コリンエステラーゼ活性の低下がみられるが、脳コリンエステラーゼ活性の低下は認められない。本試験における無毒性量は50 ppm(1.8 mg/kg)と考えられる。
なお、ニワトリを用いた強制経口(325 mg/kg、21日間隔で2回)投与による急性遅発性神経毒性試験において、遅発性神経毒性は認められない。
(3)繁殖試験
SDラットを用いた混餌(10、50、250 ppm)投与による2世代繁殖試験において、250 ppm投与群のF1子動物で生存出産子数の減少、F1及びF2で離乳時平均体重の減少、行動発達・性成熟の遅延等が、50 ppm以上投与群のF1世代の親動物で飲水量の減少、妊娠期間中の体重増加抑制等が認められる。本試験における無毒性量は10 ppm(0.7 mg/kg)と考えられる。
(4)催奇形性試験
SDラットを用いた強制経口(3、10、20 mg/kg)投与による催奇形性試験において、10 mg/kg以上の投与群母動物で体重増加抑制、摂餌量減少、副腎肥大等が、20 mg/kg投与群胎児動物の体重の低値、化骨遅延等が認められる。本試験における無毒性量は母動物3 mg/kg、胎児動物10 mg/kgと考えられる。催奇形性は認められない。
ニュージーランドホワイトウサギを用いた強制経口(30、90、270 mg/kg)投与による催奇形性試験において、270 mg/kg投与群母動物で異常姿勢、体重増加抑制、摂餌量減少等が認められる。胎児動物では、検体投与に起因した影響は認められない。本試験における無毒性量は母動物90 mg/kg、胎児動物270 mg/kgと考えられる。催奇形性は認められない。
(5)変異原性試験
細菌を用いた復帰変異試験、宿主経由復帰変異試験、マウスを用いた小核試験の結果は、いずれも陰性と認められる。Rec-assayの結果は陽性、CHL培養細胞を用いた染色体異常試験の結果は、構造異常で弱い陽性、倍数体で陽性と認められるが、上述の他の試験成績等から、生体内における変異原性は有しないものと考えられる。
(6)その他
上記を含め、別添1に示した試験成績が提出されている。
4.ADIの設定
以上の結果を踏まえ、次のように評価する。
無毒性量 0.405 mg/kg/日
動物種 ラット
投与量/投与経路 10 ppm/混餌
試験期間 24ヶ月
試験の種類 反復投与試験
安全係数 100
ADI 0.004 mg/kg/日
5.基準値案
別添2の基準値案のとおりである。基準値案の上限まで本農薬が残留したすべての農作物を摂食すると仮定した場合、国民栄養調査結果に基づき試算すると、摂取される農薬の量(理論最大摂取量)のADIに対する比は、10.5%である。
(別添1)
<毒性試験一覧表>
資料No. |
試験の種類(期間) |
動物種 |
試 験 機 関 |
1 |
急性毒性 7日間観察 |
マウス♂ |
東京歯科大学 |
♀ |
2 |
急性毒性 7日間観察 |
ラット♂ |
♀ |
3 |
急性毒性 7日間観察 |
マウス♂ |
♀ |
4 |
急性毒性 7日間観察 |
ラット♂ |
♀ |
5 |
急性毒性 7日間観察 |
マウス♂ |
♀ |
6 |
急性毒性 7日間観察 |
ラット♂ |
♀ |
7 |
急性毒性 10日間観察 |
ラット♂ |
東京歯科大学 |
♀ |
8 |
亜急性毒性 13週間 |
マウス |
トンストール研究所 |
9 |
亜急性毒性 13週間 |
ラット |
10 |
亜急性毒性 13週間 |
マウス |
静岡薬科大学 |
11 |
亜急性毒性 13週間 |
ラット |
12 |
亜急性毒性 4週間 |
サル |
ライフサイエンスリサーチ |
13 |
慢性毒性/発がん性併合 2年間 |
ラット |
東歯大,東大医科研,関東医師製薬 |
14 |
慢性毒性 2年間 |
イヌ |
東歯大,癌研,順天堂大,IBTL |
15-1 |
慢性毒性 1年間 |
イヌ |
ハンティンドン・リサーチ・センター |
15-2 |
発がん性 97週間 |
マウス |
ハンティンドン・リサーチ・センター |
資料No. |
試験の種類(期間) |
動物種 |
試 験 機 関 |
16-1 |
次世代に及ぼす影響 |
3世代繁殖 |
ラット |
東歯大,癌研,順天堂大,IBTL |
16-2 |
2世代繁殖 |
ラット |
ハンティンドン・リサーチ・センター(英国) |
17-1 |
催奇形性 (妊娠6~20日) |
ラット |
日本実験医学研究所 |
17-2 |
催奇形性 (妊娠6~18日) |
ウサギ |
ハンティンドン・リサーチ・センター(英国) |
18 |
変 異 原 性 |
Rec-assay |
M45,H17 |
残留農薬研究所 |
復帰変異 |
WP2hcr,TA1535,TA100 TA1537,TA1538,TA98 |
TA100(追試) |
19 |
復帰変異 |
TA98,TA100,TA102 |
静岡薬科大学 |
20
|
宿主経由 |
G-46 |
慶応大学, 日本実験医学研究所 |
マウス |
21 |
染色体異常 |
チャイニーズハムスター肺腺維芽細胞 |
食品農医薬品 安全評価センター |
22 |
小核 |
マウス |
資料No. |
試験の種類(期間) |
動物種 |
試 験 機 関 |
23 |
生体の機能に及ぼす影響 (一般薬理) |
マウスICR系(CD-1) |
食品薬品安全センター |
ラット Sprague-Dawley系 |
参考-1 |
原体中不純物の急性毒性 2,6-TCAP*(7日間観察) |
マウス |
日本化薬上尾研究所 |
2,6-ジクロルフェノール |
ラット |
文献② |
代謝物の急性毒性リン酸 |
ラット |
文献① |
2,4-ジクロルアセトフェノン |
ラット |
文献③ |
2,4-ジクロルフェニルエタノール |
ラット |
文献④ |
2,4-ジクロルマンデリックアシッド |
ラット |
文献③ |
2,4-ジクロルベンゾイックアシッド |
マウス |
文献① |
2,4-ジクロルフェナシルクロライド |
ラット |
文献③ |
原体不純物の変異原性 (復帰変異)
2,6-TCAP __________ 2,6-ジクロルフェノール (復帰変異)
|
TA-98,TA-10 |
日本化薬上尾研究所 |
|
文献⑤ |
代謝物の変異原性 (復帰変異) ジメチルリン酸 |
WP-2hcr,TA-100 |
慶応大学, 日本実験医学研究所 |
参考-2 |
急性遅発性神経毒性 (42日間) |
ニワトリ |
トンストール研究所 |
参考-3 |
1回経口投与による影響 |
ヒト |
麻布獣医科大学 女子栄養大学 |
参考-4 |
E体の急性毒性 |
マウス |
日本実験医学研究所 |
参考-5 |
ラット |
参考-6 |
ラット |
参考-7 |
E体の変異原性 |
復帰変異 TA100, TA1535, WP2uvrA, TA98, TA1537, TA1538 |
食品農医薬品安全性評価センター |
参考-8 |
in vitro 染色体異常 CHL |
参考-9 |
DNA修復 H-17,M-45 |
文献:① Registry of Toxic Effects of Chemical Substances, 1978
② 同 上 1976
③ Review of Mammalian and Human Toxicology, Birlane, 1983
④ J. Sci, Fd. Agric., 1968. Vol.19.
⑤ JETOC 情報 B, 1980.8 日本化学物質安全センター
(別添2)
食 品 規 格 (案)
ジメチルビンホス |
食品規格案基準値案 ppm |
参考基準値 登録保留基準値 ppm |
米(玄米) |
0.1 |
0.1 |