食品規格設定に係る毒性・残留農薬合同部会報告について - ジフェノコナゾール
ジフェノコナゾール
1. 品目名:ジフェノコナゾール(DIFENOCONAZOLE)
2. 用途:殺菌剤 (トリアゾール系)
3.安全性
(1)単回投与試験
急性経口LD50はマウスで 1044~1409 mg/kg、ラットで 1453 mg/kg と考えられる。
(2)反復投与/発がん性試験
ICRマウスを用いた混餌(10、30、300、2,500、4,500 ppm)投与による78週間の発がん性試験において、4,500ppm投与群で死亡例が、2,500ppm以上の投与群で、肝重量の増加、肝細胞腺腫、肝細胞がんの増加が、300ppm以上の与群で体重増加抑制、SDHの上昇、肝細胞壊死、肝脂肪変性、肝細胞肥大及び胆汁うっ滞が認められる。肝細胞腫瘍の増加が認められたのは、2,500 ppm以上の高用量投与群のみである。変異原性試験成績から遺伝子傷害性はなく、肝酵素誘導試験の成績等からプロモーション作用によるものと考えられる。 また、本系マウスにはこれらの腫瘍が自然発生的に高率で発生することが知られていることなどから、本試験における無毒性量は、30 ppm(4.65 mg/kg)と考えられる。
SDラットを用いた混餌(10、20、500、2,500 ppm)投与による 104 週間の反復投与/発がん性併合試験において、2,500 ppm投与群で摂餌量減少、肝臓の比重量増加、赤血球数減少等が、500ppm以上の投与群で体重増加抑制、肝細胞肥大、血小板数減少等が認められる。 本試験における無毒性量は、20 ppm(0.96 mg/kg)と考えられる。発がん性は認められない。
ビーグル犬を用いた混餌(20、100、500、1,500 ppm)投与による52週間の反復投与試験において、1,500 ppm投与群で摂餌量減少等が、500 ppm以上の投与群で体重増加抑制等が認められる。本試験における無毒性量は、100 ppm(3.4mg/kg)と考えられる。
(3)繁殖試験
SDラットを用いた混餌(25、250、2,500 ppm)投与による2世代繁殖試験において、2,500ppm投与群のF0及びF1親動物で体重増加抑制、摂餌量減少が、F1及びF2子動物で体重増加の抑制が認められる。本試験における無毒性量は、250 ppm(15.89mg/kg)と考えられる。
(4)催奇形性試験
SDラットを用いた強制経口(2、20、100、200 mg/kg)投与による催奇形性試験において、母動物は 100 mg/kg 以上の投与群で体重増加抑制、摂餌量減少等が、胎児動物は 200 mg/kg 投与群で第14肋骨の増加が認められる。本試験における無毒性量は、母動物で 20 mg/kg、胎児動物で 100 mg/kgと考えられる。催奇形性は認められない。
ニュージーランドホワイトウサギを用いた強制経口(1、25、75 mg/kg)投与による催奇形性試験において、75 mg/kg 投与群母動物で体重減少、摂餌量減少等が認められる。また、着床後死亡の軽度な増加が認められる。本試験による無毒性量は母動物、胎児動物とも25 mg/kgと考えられる。催奇形性は認められない。
(5)変異原性試験
細菌を用いた復帰変異試験、マウスリンパ腫細胞を用いた前進突然変異試験、チャイニーズハムスター骨髄細胞を用いた核異常試験、ヒトリンパ球を用いた染色体異常試験、ラット肝初代培養細胞及びヒト線維芽細胞を用いた不定期DNA合成試験の結果は、いずれも陰性と認められる。
(6)その他
上記を含め、別添1に示した試験成績が提出されている。
4.吸収・分布・代謝・排泄
SDラットを用いた経口(0.5mg/kg)投与の試験において、Tmaxは約0.5~2時間、Cmaxは0.17~0.33μgeq./ml、T1/2は約20時間と考えられる。投与後2日までに投与量の 73~76%は胆汁中に排泄され腸肝循環される。投与後7日までに大部分は糞中に(雄では70%、雌では75%)、一部は尿中に(雄では15%、雌では16%)排泄される。主要代謝物として水酸化体、加水分解体が認められた。組織内濃度は肝、賢、副腎で血漿中に比べ高濃度である。
トマトを用いた試験において、収穫時に植物体から検出される残留放射能の51~66%は未変化体であり、そのほかアルコール体、ケトン体が認められる。
上記を含め、別添1に示した試験成績が提出されている。
5.ADIの設定
以上の結果を踏まえ、次のように評価する。
無毒性量 0.9 6 mg/kg/日
動物種 ラット
投与量/投与経路 20 ppm/混餌
試験期間 104週間
試験の種類 反復投与/発がん性併合試験
安全係数 100
ADI 0.0096 mg/kg/日
6.基準値案
別添2の基準値秦のとおりである。基準値案の上限まで本農薬が残留したすべての農作物を摂食すると仮定した場合、国民栄養調査結果に基づき試算すると、摂取される農薬の量(理論最大摂取量)のADIに対する比は、19.3%である。
(別添1)
〈毒性試験一覧表〉
資料 No. |
試験の種類・期間 |
供試生物 |
試験機関 |
1 |
急性毒性(14日間観察) |
ラット |
チバガイギー社(米国) |
2 |
急性毒性(14日間観察) |
ウサギ |
チバガイギー社(米国) |
3 |
急性毒性(21日間観察) |
ウサギ |
チバガイギー社(米国) |
4 |
急性毒性(14日間観察) |
マウス |
臨床医科学研究所 |
5 |
亜急性毒性(13週間) |
ラット |
Research and Consulting Company(スイス国) |
6 |
亜急性毒性(13週間) |
マウス |
残留農薬研究所 |
7 |
亜急性毒性(26週間) |
イヌ |
チバガイギー社(米国) |
8 |
白内障についての確認 |
イヌ |
Research and Consulting Company(スイス国) |
9 |
慢性毒性 (52週間) |
イヌ |
チバガイギー社(米国) |
10 |
慢性毒性/発癌性 (104週間) |
ラット |
Hazleton Laboratories America, Inc.(米国) |
11 |
発癌性 (78週間) |
マウス |
Hazleton Laboratories America, Inc.(米国) |
12 |
肝における酵素誘導 |
マウス |
チバガイギー社(米国) |
13 |
繁殖性 2世代 |
ラット |
チバガイギー社(米国) |
14
|
催奇形性10日間投与 |
ラット |
Argus Research Laboratories, Inc.(米国) |
催奇形性13日間投与 |
ウサギ |
チバガイギー社(米国) |
15 |
復帰変異性 |
微生物 |
チバガイギー社(スイス国) |
16 |
復帰変異性 |
マウスリンパ腫細胞 |
チバガイギー社(スイス国) |
17 |
核異常 |
チャイニーズハムスター |
チバガイギー社(スイス国) |
18 |
染色体異常 |
ヒト リンパ球 |
チバガイギー社(スイス国) |
19 |
DNA 修復 |
ラット 肝細胞 |
チバガイギー社(スイス国) |
20 |
DNA 修復 |
ヒト 線維芽細胞 |
チバガイギー社(スイス国) |
21 22
|
生体の機能に及ぼす影響 |
臨床医科学研究所 |
1)中枢神経に対する作用 |
一般状態 |
マウス |
運動協調性/筋弛緩性 |
マウス |
ヘキソバルビタール睡眠 |
マウス |
体温 |
ラット |
2)呼吸、循環器に対する作用 |
呼吸、血圧、心拍数、 心電図、血流量 |
イヌ |
3)自律神経系に対する作用 |
摘出回腸 |
モルモット |
摘出子宮 |
ラット |
4)消化器に対する作用 |
|
マウス |
5)血液凝固系に対する作用 |
|
ラット |
23 |
急性毒性 シス体 (14日間観察) |
マウス |
安評センターd |
24 |
急性毒性 トランス体 (14日間観察) |
マウス |
安評センターd |
25 |
急性毒性 (14日間観察) (CGA 205374) |
マウス |
臨床医科学研究所 |
26 |
急性毒性 (14日間観察) (CGA 205375) |
マウス |
臨床医科学研究所 |
27 |
復帰変異性 Ames Testa (CGA 205374) |
微生物 |
安評センターd |
28 |
復帰変異性 Ames Testb (CGA 205375) |
微生物 |
安評センターd |
29 |
復帰変異性 Ames Testc (CGA 189138) |
微生物 |
安評センターd |
a 代謝物C b 代謝物E c 代謝物H d (財)食品農医薬品安全性評価センター
〈代謝分解試験一覧表)
資料No. |
試験の種類(試験No.) |
供試動植物 |
試験場所 |
A-1 |
排泄及び分布 |
ラット |
チバガイギー(米国) |
A-2 |
排泄及び分布 |
ラット |
チバガイギー(米国) |
P-1 |
温室試験(ABR-87025) |
トマト |
チバガイギー(米国) |
P-2 |
圃場試験(ABR-8703 |
トマト |
チバガイギー(米国) |
P-3 |
代謝の同定 |
トマト |
Battelle社(米国) |
P-4 |
代謝の同定 |
トマト |
Battelle社(米国) |
P-5 |
温室試験(ABR-87077) |
ばれいしょ |
チバガイギー(米国) |
P-6、7 |
代謝の同定 |
ばれいしょ |
Battelle社(米国) |
P-8 |
圃場試験(ABR-87022) |
小麦 |
チバガイギー(米国) |
P-9 |
温室試験(ABR-90011) |
小麦 |
チバガイギー(米国) |
P-10 |
細胞培養液における代謝(MR1/91) |
リンゴの葉細胞 |
チバガイギー社(スイス) |
S-1 |
土壌代謝(Agri No.1294) |
土壌 |
アグリリサーチ社 |
S-2 |
光分解(Agri No.1295) |
土壌 |
アグリリサーチ社 |
S-3 |
光分解(Agri No.1296) |
土壌 |
アグリリサーチ社 |
(別添2)
食品規格(案)
ジフェノコナゾール |
食品規格案 基準値 ppm |
参考基準値 |
登録保留 基準値 ppm |
外国 基準値 ppm |
小麦 大麦 ライ麦 とうもろこし そば |
0.1 0.1 0.1 0.1 0.02 |
|
0.1(ア,ド) 0.1(ア) 0.1(ア,ド) 0.1(フ) 0.02(フ) |
大豆 らっかせい |
0.05 0.1 |
|
0.05(フ) 0.1(オ) |
ばれいしょ |
0.1 |
|
0.1(オ) |
てんさい |
0.5 |
0.5 |
|
アスパラガス |
0.02 |
|
0.02(フ) |
トマト |
0.5 |
|
0.5(オ,フ) |
りんご 日本なし 西洋なし マルメロ びわ |
1 1 1 0.5 0.5 |
1 1 1 |
0.5(オ) 0.5(オ) |
もも うめ |
1 1 |
1 1 |
|
ぶどう |
0.5 |
|
0.5(フ) |
バナナ |
0.5 |
|
0.5(オ) |
茶 |
10 |
10 |
|
<注)登録保留基準は、国内で適用作物のあるものについてのみ記載。
ア:米国、 オ:オーストラリア、ド:ドイツ、 フ:フランス