食品規格設定に係る毒性・残留農薬合同部会報告について - テブフェンピラド
テブフェンピラド
1.品目名:テブフェンピラド(TEBUFENPYRAD)
2.用途:殺虫剤(ピラゾール系)
3.安全性
(1)単回投与試験
急性経口LD50はマウスで210~224㎎/㎏、ラットで595~997㎎/㎏と考えられる。
(2)反復投与/発がん性試験
CD-1マウスを用いた混餌(30、500、1,000ppm)投与による78週間の発がん性試験において、1,000ppm投与群で血小板数の上昇が、500ppm以上の投与群で体重増加抑制等が認められる。本試験における無毒性量は、30ppm(3.6㎎/㎏)と考えられる。発がん性は認められない。
F344ラットを用いた混餌(5、20、150、300ppm)投与による104週間の反復投与/発がん性併合試験において、300ppm投与群で削痩及び背弯姿勢、摂餌量低下、肝臓結節、膵腺房細胞の単状過形成等が、150ppm以上の投与群で体重増加抑制、肝重量の増加、肝細胞腺腫等が認められる。5ppm以上の投与群で肝重量の増加が認められているが、5ppm投与群における重量増加は軽微であり、かつ、肝に関する血液生化学的検査値や病理所見に毒性を示唆する異常は認められていない。また、肝細胞腺腫の増加がみられたのは150ppm以上の高用量投与群のみであり、かつ、雌の300ppm投与群では本腫瘍の増加がみられていない。変異原性試験成績から遺伝子傷害性はなく、ラットにおける肝発がんプロモーション試験成績等からプロモーション作用によるものと考えられる。さらに、300ppm投与群雌で下垂体腺腫の増加がみられているが、本系ラットに本腫瘍が自然発生的に高率に発生することが知られており、今回の発生率と背景データとの関係等から、本試験における無毒性量は、5ppm(0.21㎎/㎏)と考えられる。
ビーグル犬を用いた強制経口(1、6、20㎎/㎏)投与による12カ月間の反復投与試験において、20㎎/㎏投与群で体重増加抑制等が、6㎎/㎏投与群で下痢、嘔吐、胃幽門部粘膜の軽微な糜爛等が認められる。本試験における無毒性量は、1㎎/㎏と考えられる。
(3)繁殖試験
CDラットを用いた混餌(20、100、200ppm)投与による2世代繁殖試験において、200ppm投与群のF0及びF1世代の親動物で体重増加抑制、摂餌量低下が、F1及びF2世代の乳児期に体重増加抑制が認められる。本試験における無毒性量は、100ppm(7.36㎎/㎏)と考えられる。
(4)催奇形性試験
SDラットを用いた強制経口(15、50、90㎎/㎏)投与による催奇形性試験において、90㎎/㎏投与群母動物で摂餌量の低下等が、50㎎/㎏以上の投与群で、母動物の体重増加抑制、胎児動物の両側性14肋骨発生率上昇が認められる。本試験における無毒性量は、母動物、胎児動物とも15㎎/㎏と考えられる。催奇形性は認められない。
ニュージーランドホワイトウサギを用いた強制経口(5、15、40㎎/㎏)投与による催奇形性試験において、40㎎/㎏投与群母動物で流産、体重減少等が認められる。胎児動物では検体投与に起因した影響は認められない。本試験における無毒性量は母動物15㎎/㎏、胎児動物40㎎/㎏と考えられる。催奇形性は認められない。
(5)変異原性試験
細菌を用いた復帰変異試験、Rec-assay、V79培養細胞を用いた前進突然変異試験、ラット肝培養細胞を用いた不定期DNA合成試験、マウスを用いた小核試験の結果は、いずれも陰性と認められる。ヒト培養リンパ球を用いた染色体異常試験の結果はS9mix非存在下で陽性、存在下では陰性と認められるが、上記の他の試験成績等から生体内における変異原性は有しないものと考えられる。
(6)その他
上記を含め、別添1に示した試験成績が提出されている。
4.吸収・分布・代謝・排泄
F344ラットを用いた経口(10㎎/㎏)投与の試験において、Tmaxは約8時間、Cmaxは約6.5μg eq./ml、T1/2は約31時間である。一部は尿中に、また、胆汁中に投与量の約6%が排泄され、大部分は糞中に排泄される。主要代謝物は水酸化体、硫酸抱合体で、未変化体の排泄量は投与量の0.1%以下である。
なすを用いた試験において、なす植物体内に吸収されたのち、主に水酸化体に代謝される。
ひめりんごを用いた試験において、果実施用時の量の半減期は約90日である。
りんごを用いた試験において、果実中の残留物の大部分が未変化体で、一部水酸化体等が認められた。
上記を含め、別添1に示した試験成績が提出されている。
5.ADIの設定
以上の結果を踏まえ、次のように評価する。
無毒性量 0.21㎎/㎏/日
動物種 ラット
投与量/投与経路 5ppm/混餌
試験期間 104週間
試験の種類 反復投与/発がん性併合試験
安全係数 100
ADI 0.0021㎎/㎏/日
6.基準値案
別添2の基準値案のとおりである。基準値案の上限まで本農薬が残留したすべての農作物を摂食すると仮定した場合、国民栄養調査結果に基づき試算すると、摂取される農薬の量(理論最大摂取量)のADIに対する比は、64.0%である。
(別添1)
<原体及び製剤の毒性試験一覧表>
資料No. |
試験の種類・期間 |
供試生物 |
試験機関 |
T-1 |
急性毒性 14日間観察 |
ラット |
LSR1) |
T-2 |
急性毒性 14日間観察 |
マウス |
LSR |
T-3 |
急性毒性 14日間観察 |
ラット |
LSR |
T-4 |
亜急性毒性 13週間 4週間(回復) |
ラット |
LSR |
T-5 |
亜急性毒性 13週間 4週間(回復) |
マウス |
LSR |
T-6 |
亜急性毒性 13週間 |
イ ヌ |
残留農薬研究所 |
T-7 |
亜急性毒性 13週間 |
イ ヌ |
残留農薬研究所 |
T-8 |
亜急性毒性 21日間 |
ウサギ |
LSR |
T-9 |
慢性毒性 12カ月間 |
イヌ |
残留農薬研究所 |
T-10 |
慢性毒性・発癌性併合 24カ月 |
ラット |
LSR |
T-11 |
発癌性 18カ月 |
マウス |
LSR |
T-12 |
肝発癌プロモーション試験 6週間 |
ラット |
三菱化成総合研究所 |
T-13 |
繁殖性 33週間 |
ラット |
LSR |
T-14 |
催奇形性 10日間 |
ラット |
LSR |
T-15 |
催奇形性 10日間 |
ラット |
LSR |
T-16 |
催奇形性 13日間 |
ウサギ |
Argus 2) |
資料No. |
試験の種類・期間 |
供試生物 |
1群当り 供試数 |
投与方法 |
試験機関 |
T-17 |
変異原性 |
復帰突然変異 (Ames test) |
LSR |
T-18 |
変異原性 |
前進突然変異 (V79 細胞、HGPRT) |
LSR |
T-19 |
変異原性 |
細胞遺伝学的試験 (ヒトリンパ球、in vitro) |
LSR |
T-20 |
変異原性 |
小核試験(in vivo) |
LSR |
マウス |
T-21 |
変異原性 |
DNA修復試験 (Rec-Assay) |
残留農薬研究所 |
T-22 |
変異原性 |
不定期DNA合成試験 (ラット肝細胞、in vitro) |
LSR3) RTC |
T-23 |
生体の機能に及ぼす影響 |
生体内 |
一般症状への影響 ヘキソバルビタール睡眠への影響 炭末輸送能への影響 |
マウス
強制 経口
|
残留農薬研究所 |
一般症状への影響 脳波への影響 体温への影響 呼吸、血圧、心電図 心拍数への影響(無麻酔下) 血液(溶血、凝固)への影響 |
ウサギ
強制 経口
|
試 験 管 内 |
モルモット輸精管標本への作用 モルモット回腸標本への作用 ラット横隔膜神経筋標本への作用 |
1) LSR :Life Science Research
2) Argus :Argus Research Laboratories
3) LSR RTC :Life Science Research, Roma Toxicology Centre
<混在物及び代謝物の毒性試験一覧表>
資料No. |
検体名 試験の種類・期間 |
供試生物 |
1群当り 供 試 数 |
投与方法 |
試験機関 |
I-1 |
IP-9 急性毒性 14日間観察 |
マウス
|
SPR1) |
I-2 |
OH-M 急性毒性 14日間観察 |
マウス
|
三菱化成 安全科学研究所 |
I-3 |
M-OH 急性毒性 14日間観察 |
マウス
|
三菱化成 安全科学研究所 |
I-4 |
OH-M-OH 急性毒性 14日間観察 |
マウス
|
三菱化成 安全科学研究所 |
I-5 |
IP-9 変異原性 |
復帰突然変異 (Ames test)
|
SPL |
I-6 |
OH-M 変異原性 |
復帰突然変異 (Ames test)
|
SPL |
I-7 |
OH-M 変異原性 |
復帰突然変異 (Ames test)
|
SPL |
I-8 |
OH-M-OH 変異原性 |
復帰突然変異 (Ames test)
|
SPL |
1) SPL:Safepharm Laboratories
<代謝分解試験一覧表>
資料No. |
試験の種類 |
供試動植物等 |
標識位置 投与方法 処理量 |
期間 |
試験場所 |
M-1 |
動物代謝 |
ラット肝臓 S-9 |
① 非標識/in vitro 試験(GC-MS法) 1㎎又は30㎎/S-9 4ml(肝臓1.6g相当) |
4時間 |
三菱化成(株) |
M-2 |
ラット |
①非標識体/GC-MS、 NMR. HPLC法 (a) 100㎎/㎏、1回 強制経口投与 ② [ピラゾール環-3-14C] 標識 (a) 10㎎/㎏、1回 (b) 100㎎/㎏、1回 強制経口投与 |
2日 |
三菱化成(株) |
M-3 |
ラット |
①[ピラゾール環-3-14C] 標識 (a) 10㎎/㎏、1回 (b) 50㎎/㎏、1回 (c) 10㎎/㎏、非標識化合物1回/日で14日間連投後1回強制経口投与 |
7日 |
LSR1) |
M-4 |
ラット |
①[ピラゾール環-3-14C] 標識 (a) 10㎎/㎏、1回 (b) 50㎎/㎏、1回 (c) 10㎎/㎏、非標識化合物1回/日で14日間連投後1回強制経口投与 |
3日 |
LSR |
M-5 |
植物代謝
|
ナス |
①[ピラゾール環-3-14C] 標識 (a) 水耕法 0. 12μg/ml (b) 葉面塗布法 約0.65μg/㎝2 (c) 果実塗布法 11. 8μg/実1個 |
(a)3日 (b)(c)28日 |
三菱化成(株) |
M-6 |
ヒメリンゴ |
①[ピラゾール環-3-14C] 標識 (a) 葉面塗布法 葉の上側又は下側約0.61μg/㎝2 (b) 果実塗布法 6. 1μg/実1個 |
56日 |
(株)三菱化成安全科学研究所 |
M-7 |
リンゴ |
①[ピラゾール環-3-14C] 標識 ② [ベンゼン環-U-14C] 標識 (a) 散布法 約74g/10a(散布濃度 200ppm)、3回散布 |
14日 |
ACC2) |
M-8 |
土壌代謝 |
土壌 |
①[ピラゾール環-3-14C] 標識 (a) 好気的条件 約0.5μg/g ② [ベンゼン環-U-14C] 標識 (a) 好気的条件 約0.5μg/g (b) 嫌気的条件 約0.5μg/g |
①(a)②(b) 56日 ②(b)28日 |
(株)三菱化成安全科学研究所 |
1) LSR :Life Science Reserch
2) ACC :American Cyanamid Company
(別添2)
食 品 規 格 (案)
テブシェンピラド |
食品規格案 基準値案
ppm
|
参 考 基 準 値 |
登録保留 基準値
ppm
|
外 国 基準値
ppm
|
トマト なす |
0.5 0.5 |
0.5 |
0.5(ス) |
きゅうり(含ガーキン) かぼちゃ |
0.5 0.5 |
0.5 |
0.5(ス) |
スイカ(果実) メロン類(果実) まくわうり(果実) |
0.1 0.1 0.1 |
0.5 0.5 0.5 |
|
みかん なつみかんの果実全体 レモン オレンジ(含ネーブルオレンジ) グレープフルーツ ライム 上記以外のかんきつ類果実 |
0.1 1 1 1 1 1 1 |
0.5 0.5 0.5 0.5 0.5 0.5 0.5 |
0.1(オ) |
リんご 日本なし 西洋なし マルメロ びわ |
0.5 0.5 0.5 0.1 0.1 |
0.5 0.5 0.5 |
0.1(オ) 0.1(オ) |
もも おうとう(含チェリー) |
0.5 2 |
0.5 0.5 |
0.5 0.5 |
いちご |
1 |
1 |
|
ぶどう かき |
0.5 0.5 |
0.5 0.5 |
|
上記以外の果実 |
0.5 |
0.5 |
|
茶 |
2 |
2 |
|
注)登録保留基準は、国内で適用のある農作物についてのみ記載。
オ:オーストラリア、 ス:スペイン