食品規格設定に係る毒性・残留農薬合同部会報告について - パクロブトラゾール
パクロブトラゾール
1.品目名:パクロブトラゾール(PACLOBUTRAZOL)
2.用途:植物成長調整剤(トリアゾール系)
3.安全性
(1)単回投与試験
急性経口LD50はマウスで5,000㎎/㎏超、ラットで2,884~3,631㎎/㎏と考えられる。
(2)反復投与/発がん性試験
CD-1マウスを用いた混餌(25、125、750ppm)投与による2年間の反復投与/発がん性併合試験において、750ppm投与群で肝重量及び腎重量の増加、肝細胞脂肪変性等が認められる。本試験における無毒性量は、125ppm(15.0㎎/㎏)と考えられる。発がん性は認められない。
SDラットを用いた混餌(50、250、1,250ppm)投与による2年間の反復投与/発がん性併合試験において、1,250ppm投与群で体重増加抑制、肝重量増加、肝小葉中心性肥大、血小板数低下等が認められる。本試験における無毒性量は、250ppm(10㎎/㎏)と考えられる。発がん性は認められない。
ビーグル犬を用いた強制経口(15、75、300㎎/㎏)投与による1年間の反復投与試験において、300㎎/㎏投与群で体重増加抑制、腎及び副腎重量の増加、肝細胞肥大、アルブミンの減少等が認められる。また、肝重量増加、肝N-アミノピリンデメチラーゼ活性の上昇がみられているが、適応性の変化と考えられ、本試験における無毒性量は、75㎎/㎏と考えられる。
(3)繁殖試験
Wistarラットを用いた混餌(50、250、1,250ppm)投与による2世代繁殖試験において、1,250ppm投与群で、F0及びF1親動物並びにF1及びF2子動物の肝重量増加及び肝小葉中心性脂肪変性等が、F0及びF1親動物の体重増加抑制が、250ppm以上の投与群でF1同腹子数の減少、F0及びF1世代に紅涙、眼瞼の肥厚が認められる。本試験における無毒性量は、50ppm(4.79㎎/㎏)と考えられる。
(4)催奇形性試験
Wistarラットを用いた強制経口(2.5、10、40、100㎎/㎏)投与による催奇形性試験において、40㎎/㎏以上の投与群の胎児動物で腎孟拡張、尿管屈曲、化骨不全、第14肋骨の増加等が認められる。親動物では検体投与に起因する影響はみられていない。本試験における無毒性量は、母動物で100㎎/㎏、胎児動物で10㎎/㎏と考えられる。催奇形性は認められない。
ニュージーランドホワイトウサギを用いた強制経口(25、75、125㎎/㎏)投与による催奇形性試験において、125㎎/㎏投与群の母動物で体重減少、摂餌量低下等が、胎児動物で脾の退色、短い第13肋骨の増加等が、75㎎/㎏以上の投与群の胎児動物で第7頸椎横突起の化骨不全が認められる。本試験における無毒性量は母動物で75㎎/㎏、胎児動物で25㎎/㎏と考えられる。催奇形性は認められない。
(5)変異原性試験
細菌を用いた復帰変異試験、Rec-assay、ラット骨髄細胞を用いた染色体異常試験の結果は、いずれも陰性と認められる。
(6)その他
上記を含め、別添1に示した試験成績が提出されている。
4.吸収・分布・代謝・排泄
SDラットを用いた経口(5㎎/㎏)投与の試験において、Tmaxは2時間、Cmaxは雄で0.784、雌で1.724μg eq./g、T1/2は約7時間である。96時間後までに投与量の90~93%が尿及び糞中に(雄では53%が糞中に、雌では53%が尿中に) 排泄される。主要排泄物はtert-ブチル基の酸化体及びそのグルクロン酸抱合体等である。
放射性同位元素を用いた水稲の試験において、玄米での残留は少量であり、水稲において大部分が代謝され、玄米では主にトリアゾールアラニン、トリアゾール酢酸を生成する。
上記を含め、別添1に示した試験成績が提出されている。
5.ADIの設定
以上の結果を踏まえ、次のように評価する。
無毒性量 4.79㎎/㎏/日
動物種 ラット
投与量/投与経路 50ppm/混餌
試験期間 2世代
試験の種類 繁殖試験
安全係数 100
ADI 0.047㎎/㎏/日
6.基準値案
別添2の基準値案のとおりである。基準値案の上限まで本農薬が残留したすべての農作物を摂食すると仮定した場合、国民栄養調査結果に基づき試算すると、摂取される農薬の量(理論最大摂取量)のADIに対する比は、2.8%である。
(別添1)
<毒性試験一覧表>
資料No. |
試験の種類・期間 |
供試生物 |
試験機関 |
1 |
急性毒性試験 14日間観察 |
ラット |
(財)残留農薬研究所 |
2 |
急性毒性試験 21日間観察 |
マウス |
(財)残留農薬研究所 |
3 |
急性毒性試験 14日間観察 |
ラット |
(財)残留農薬研究所 |
4 |
急性毒性試験 14日間観察 |
ラット |
CTL |
マウス |
モルモット |
ウサギ |
ラット |
ウサギ |
ラット |
5 |
ジアステレオマー 急性毒性試験 経口7日間観察 |
ラット |
CTL |
経皮14日間観察 |
ラット |
6 |
パクロブトラゾールケトン 急性毒性試験 15日間観察 |
ラット |
CTL |
7 |
トリアゾリルアラニン 急性毒性試験 14日間観察 |
ラット |
Bayer |
マウス |
ラット |
8 |
トリアゾリル酢酸 急性毒性試験 14日間観察 |
ラット |
CIBA-GEIGY |
9 |
亜急性毒性試験 13週間 |
ラット |
CTL |
10 |
亜急性毒性試験 13週間 |
ラット |
(財)安評センター |
11 |
亜急性毒性試験 13週間 |
イヌ |
CTL |
12 |
亜急性毒性試験 21日間 |
ウサギ |
HRC |
13 |
慢性毒性試験 1年間 |
イヌ |
CTL |
14 |
慢性毒性発がん性併合試験 2年間 |
ラット |
HLE |
15 |
慢性毒性発がん性併合試験 2年間 |
マウス |
HLE |
16 |
2世代繁殖試験 |
ラット |
CTL |
17 |
催奇形性試験 22日間 |
ラット |
CTL |
18 |
催奇形性試験 22日間 |
ラット |
CTL |
19 |
催奇形性試験 30日間 |
ウサギ |
CTL |
20 |
復帰変異性試験 |
S.typhimurium E.coll |
(財)残留農薬研究所 |
21 |
細胞遺伝学的試験 |
ラット |
CTL |
20 |
DNA修復試験 |
B.subtilis |
(財)残留農薬研究所 |
22 |
パクロブトラゾールケトン 復帰変異性試験 |
S.typhimurium E.coll |
(財)残留農薬研究所 |
パクロブトラゾールケトン DNA修復試験 |
B.subtilis |
(財)残留農薬研究所 |
23 |
トリアゾリルアラニン 復帰変異性試験 |
S.typhimurium |
Bayer |
24 |
トリアゾリルアラニン DNA修復試験 |
E. coll |
Bayer |
25 |
トリアゾリル酢酸 復帰変異性試験 |
S.typhimurium |
CIBA-GEIGY |
26 |
薬理試験 |
ラット マウス モルモット イ ヌ ウサギ |
CTL |
(財)残留農薬研究所:財団法人残留農薬研究所
(財)安評センター:財団法人食品農医薬品安全性評価センター
CTL:Central Toxicology Laboratory(英国)
HRC:Huntingdon Research Centre(英国)
HLE:Hazleton Laboratories Europe(英国)
<代謝分解試験一覧表><代謝分解試験一覧表>
資料No. |
試験の種類 |
供試動植物等 |
試験場所 |
M1 |
動物体内における吸収、分布及び排泄試験 |
ラット♂3 |
CTL |
ラット♀3 |
ラット♂1 |
ラット♀1 |
M2 |
動物体内における代謝試験 |
ラット♀10 |
CTL |
ラット♂4 |
HLE |
ラット♀4 |
ラット♂2 |
CTL |
ラット♀2 |
M12 |
動物体内における組織内分布試験 |
第1相 ラット♂6 |
CTL |
第1相 ラット♀6 |
第2相 ラット♂15 |
第2相 ラット♀15 |
M3 |
植物における代謝試験 |
水 稲 |
JHRS |
M4 |
植物における代謝試験 |
り ん ご |
JHRS |
M5 |
土壌における分解試験 |
粗砂質壌土 |
JHRS |
石灰質埴壌土 |
M5-1 |
土壌における分解試験 |
埴 壌 土 |
JHRS |
微砂質埴壌土 |
M6 |
土壌における溶脱試験 |
粗 砂 |
JHRS |
壌質砂土 |
石灰質埴壌土 |
粗砂質壌土 |
M7 |
水中における加水分解試験 |
緩 衝 波 (pH 4,7,9) |
JHRS |
M8 |
水中における光分解性試験 |
緩 衝 波 (pH7) |
JHRS |
CTL :Central Toxicology Laboratory, ICI(英国)
JHRS :Jealott's Hill Research Station, PPD ICI(英国)
<トリアゾリルアラニンの毒性試験一覧表>
資料No. |
試験の種類・期間 |
供試生物 |
試験機関 |
1 |
急性毒性試験 14日間観察 |
ラット |
Bayer |
マウス |
ラット |
参-4 |
急性毒性試験 14日間観察 |
ラット |
CTL |
参-5 |
亜急性毒性試験 14日間 |
ラット |
Bayer |
参-6 |
亜急性毒性試験 4週間 |
ラット |
Bayer |
2 |
亜急性毒性試験 14週間 |
ラット |
Bayer |
3 |
亜急性毒性試験 13週間 |
イヌ |
Bayer |
参-7 |
2世代繁殖試験 予備投与試験 |
ラット |
CTL |
4 |
2世代繁殖試験 |
ラット |
CTL |
5 |
催奇形性試験 22日間 |
ラット |
CTL |
6 |
復帰変異性試験 |
S. typhimurium |
Bayer |
7 |
DNA修復試験 |
E. coli |
Bayer |
参-9 |
復帰変異性試験 |
S. typhimurium |
ICI PD |
8 |
小核試験 |
マウス |
Bayer |
参-10 |
小核試験 |
マウス |
Bayer |
参-11 |
小核試験 |
チャイニーズハムスター |
CIBA-GEIGY |
参-12 |
細胞形質転換試験 |
BHK21 C13 細胞 |
HRC |
参-13 |
細胞形質転換試験 |
BALB/3T3 マウス線維芽細胞 |
CIBA-GEIGY |
参-14 |
突然変異試験 |
ハムスター V79 細胞 |
CIBA-GEIGY |
参-15 |
DNA修復試験 |
ラット肝細胞 |
CIBA-GEIGY |
ICI PD :ICI社Pharmaceuticals pision(英国)
CTL :ICI社Central Toxicology Lavoratory(英国)
HRC :Huntingdon Research Centre(英国)
<トリアゾリルアラニンの代謝試験一覧表>
資料No. |
試験の種類 |
供 試 動 物 |
試験機関 |
9 |
動物におけるバランス試験 |
ラット♂4 |
CIBA-GEIGY |
ラット♀4 |
ラット♂4 |
ラット♀4 |
10 |
動物における代謝試験 |
ラット♂4 |
CIBA-GEIGY |
ラット♀4 |
ラット♂4 |
ラット♀4 |
<トリアゾリル酢酸の毒性試験一覧表>
資料No. |
試験の種類・期間 |
供試生物 |
試験機関 |
11 |
急性毒性試験 14日間観察 |
ラット |
CIBA-GEIGY |
12 |
亜急性毒性試験 14日間 |
ラット |
CIBA-GEIGY |
13 |
復帰変異性試験 |
S.typhimurium |
CIBA-GEIGY |
<トリアゾリル酢酸の代謝試験一覧表>
資料No. |
試験の種類 |
供試動物 |
試験機関 |
14 |
動物における代謝試験 |
ラット♂1 |
R & H TD |
ラット♀1 |
ラット♂1 |
ラット♀1 |
15 |
動物におけるバランス 試験 |
ラット♂2 |
CIBA-GEIGY |
ラット♀2 |
16 |
動物における代謝試験 |
ラット♂2 |
CIBA-GEIGY |
ラット♀2 |
R & H TD:Rohm & Haas Company, Toxicology Department(米国)
(別添2)
食品規格(案)
パクロブトラゾール |
食品規格案 基準値案
ppm
|
参考基準値 |
国 際 基準値
ppm
|
登録保留 基準値
ppm
|
外 国 基準値
ppm
|
米(玄米) |
0.1 |
|
0.1 |
|
みかん |
0.5 |
|
0.5 |
|
りんご 日本なし 西洋なし マルメロ びわ |
0.5 1 1 1 1 |
0.5 |
|
1(オ) 1(オ) 1(オ) 1(オ)
|
もも ネクタリン あんず(含アプリコット) すもも(含プルーン) うめ おうとう(含チェリー) |
0.5 0.05 0.05 0.05 0.05 0.5 |
0.05 0.05 0.05 0.05 0.05 0.05 |
0.5
0.5 |
|
上記以外のベリー類果実 |
0.5 |
|
0.5 |
|
バナナ キウィー パパイヤ アボカド パイナップル グアバ マンゴー パッションフルーツ なつめやし 上記以外の果実 |
0.01 0.01 0.01 0.01 0.01 0.01 0.01 0.01 0.01 0.01 |
|
|
0.01(オ) 0.01(オ) 0.01(オ) 0.01(オ) 0.01(オ) 0.01(オ) 0.01(オ) 0.01(オ) 0.01(オ) 0.01(オ) |
アーモンド |
0.05 |
|
|
0.05(オ) |
注)登録保留基準は、国内で適用のある農作物についてのみ記載。
オ:オーストラリア