第21回研究成果報告書(2015年)
[研究成果報告書 索引]
Abs.No
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研 究 テ ー マ
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研 究 者
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食品添加物を気にする母親に育てられている幼児の身体的および心理的特徴とその支援 |
徳田 克己 筑波大学医学医療系 |
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沖縄県産四季柑およびシークワーサーの抗膵がん活性を指標とした成分評価 |
森田 洋行 富山大学和漢医薬学総合研究所天然物化学分野 |
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サッカリンナトリウムの赤外吸収スペクトル試験法の設定に関する研究 |
坂本 知昭 国立医薬品食品衛生研究所薬品部 |
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酸化防止剤と金属の複合反応による活性酸素種生成に関する研究 |
岩崎 雄介 星薬科大学薬品分析化学教室 |
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食品添加物等の各種理化学情報検索システム構築に関する研究 |
杉本 直樹 国立医薬品食品衛生研究所食品添加物部 |
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酸化ストレス、細胞老化、オートファジー関連因子の解析を通した脂肪性肝疾患治療薬および抗精神薬投与の脂肪関連疾患への影響評価と抗酸化物質投与による予防効果に関する研究 |
吉田 敏則 東京農工大学大学院農学研究院 |
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クチナシ青色素の効率的な単離精製法に関する研究 |
松山 さゆり 金城大学薬学部 |
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亜鉛欠乏予防に効果のある食品添加物に関する食品科学的研究 |
神戸 大朋 京都大学大学院生命科学研究科 |
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ヨウ素デンプン反応の発色の数値化によるデンプン類の基原確認法の開発 |
宮崎 玉樹 国立医薬品食品衛生研究所薬品部 |
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幼児期の人工甘味料の摂取が、腸内細菌叢と全身代謝に及ぼす影響の解明 |
上番増 喬 徳島大学大学院医歯薬学研究部 |
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凍結乾燥に伴う酵素失活のsugar surfactant による高度抑制 |
今村 維克 岡山大学大学院自然科学研究科 |
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ベニバナの食品添加色素収量の増加及び安定化に向けた遺伝育種学的研究 |
笹沼 恒男 山形大学農学部 |
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食品中ナノマテリアルの免疫毒性評価とその安全性確保に向けて |
吉岡 靖雄 大阪大学大学院薬学研究科 |
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放射性核種の吸収・分布・排泄に及ぼす多糖類の影響に関する基礎的研究 |
榎本 秀一 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 |
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「クチナシ赤色素」の化学構造および色素形成メカニズムの解明 |
伊藤 裕才 共立女子大学家政学部 |
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非遺伝毒性肝発がん物質ダンマル樹脂の発がんメカニズムの解明 |
鰐渕 英機 大阪市立大学大学院医学研究科 |
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消費者の食品添加物の安全性に対する意識及びその変遷 |
堀江 正一 大妻女子大学家政学部 |
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メタボロミクスを用いたショウガ品種の分類と含有化学成分の観点から見た特徴の調査 |
若菜 大悟 星薬科大学薬化学教室 |
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食品添加物メントールによる薬物の体内動態変動要因の解析 |
五十嵐 信智 星薬科大学薬動学教室 |
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天然由来食品添加物オイゲノールの麻酔作用に関する研究 |
肥塚 崇男 山口大学農学部 |
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硫酸抱合化ポリフェノールの体内動態と機能性発現機構に関する研究 |
河合 慶親 名古屋大学大学院生命農学研究科 |
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配糖化によるクルクミンの消化管吸収改善とそのメカニズムに関する研究 |
牧野 利明 名古屋市立大学大学院薬学研究科 |
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ポリフェノール系既存添加物による新規食中毒制御法の開発 |
島村 裕子 静岡県立大学食品栄養科学部 |
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天然香料成分の抗肥満・血糖低下効果の機能解析 |
佐藤 隆一 郎東京大学大学院農学生命科学研究科 |
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ぜん動運動を備えたヒト胃消化シミュレーターによる高齢者用油脂含有食品の消化挙動の評価 |
市川 創作 筑波大学生命環境系 |
21-01
食品添加物を気にする母親に育てられている幼児の身体的および心理的特徴とその支援
筑波大学1 徳田克己1、水野智美1 富山大学2 西館有沙2 目白大学3 安心院朗子3 東京未来大学4 西村実穂4
本研究では就学前の子どもを持つ保護者の添加物に対する認識および食事に関連する行動について明らかにすること、食品添加物に過敏に反応する保護者に育てられている子どもには、身体的、心理的にどのような影響が生じているのかを保育者の視点から明らかにすることを目的として、保護者および保育者に対して質問紙調査を実施した。保護者と子どものいない保育者の添加物についての認識の比較を行ったところ、保護者の方が保育者よりも添加物を気にしていることが明らかになった。また、食の安全に敏感になり、園生活に影響を及ぼす制限を多く行っている保護者の子どもには、身体的、心理的問題が生じやすいことが確かめられた。このような保護者に対応する保育者の役割は、食事に対する過剰な制限により、子どもが食事を楽しめなくなるリスクがあることを保護者に説明して、保護者と一緒に子どもが食事を楽しむことのできる環境を整えていくことであるといえる。
21-02
沖縄県産四季柑およびシークワーサーの抗膵がん活性を指標とした成分評価
富山大学和漢医薬学総合研究所天然物化学分野 森田洋行
ミカン科植物カラマンシーCitrus microcarpa Bungeはフィリピン及び中国南部が原産のキンカン類とミカン類の雑種からなる矮性柑橘類である。食品衛生法の天然香料基原物質であり、果実(四季柑と呼ばれる)がシークワーサーC. depressaの代用として主に沖縄県で飲料や食品香料に汎用される。また、最近ではシークワーサージュースとして市販されているものの多くに四季柑が含有されて市販されるようになってきた。本研究では、筆者らが先行研究において四季柑果皮より同定した膵がん細胞に栄養飢餓状態選択的殺細胞活性を示す3種のフラボノイド、3,3'-di-O-methylquercetin、3'-methoxycalycopterin、3,3',4',5,6,7,8-heptamethoxyflavoneの含有の有無を明らかにすることを主たる目的に、沖縄県産四季柑とシークワーサー果皮の70%エタノール抽出液について成分の比較を行った。その結果、これらの3種のフラボノイドのうち、3,3'-di-O-methylquercetinが微量ではあるが特徴的に四季柑果皮に含まれることが判明した。また、これ以外にも四季柑果皮はジヒドロキシカルコン配糖体であるphloretin-3',5'-di-C-glucoside、フラボン配糖体であるapigenin-8-C-glucosyl-2''-O-rhamnosideとdiosmetin-7-O-rutinosideを特徴的に含むこと及びシークワーサー果皮よりもhesperetin-7-O-rutinosideを豊富に含むことが確認された。一方、シークワーサー果皮のほうが四季柑果皮よりもnobiletin等のポリメトキシフラボン類を多く含むことが明らかとなった。
21-03
サッカリンナトリウムの赤外吸収スペクトル試験法の設定に関する研究
国立医薬品食品衛生研究所薬品部 坂本知昭 国立医薬品食品衛生研究所食品添加物部 佐藤恭子
第8版食品添加物公定書では、サッカリンナトリウムは二水和物又は無水物が規定されている。サッカリンナトリウムの品質に関する公定規格では、4つの確認試験が設定されているが、化学構造の特徴を確認できる理化学的試験法は設定されていない。そこで、食品添加物公定書への赤外吸収スペクトル測定法の設定を提案することを目的に試験条件の検討を行った。日本薬局方(JP)、欧州薬局方(EP)及び米国薬局方(USP)の試験法を参考に、乾燥条件及びIR測定条件について検討した。105℃で恒量又は16時間の乾燥、ならびに120℃で4時間の乾燥を比較したところ、105℃で16時間の乾燥で再現性の良いスペクトルを得ることがわかった。またサッカリンナトリウムは湿気を速やかに吸収するため、本研究で採用した臭化カリウム錠剤法では、すり混ぜ操作が長いことで環境中の水分の吸収がスペクトルに影響を与えることがあり、速やかなすり混ぜ操作と臭化カリウムディスクの成形時に減圧乾燥を行うことがスペクトルの再現性を向上させることが分かった。
21-04
酸化防止剤と金属の複合反応による活性酸素種生成に関する研究
星薬科大学薬品分析化学教室 岩崎雄介
食品添加物は、保存料、甘味料、着色料、香料など、食品の製造過程または食品の加工・保存の目的で使用されている。個別では安全と謳われていた食品中の化学物質でも生体内で相互的な複合反応を引き起こし、想定外な影響を与える可能性がある。本研究では食品添加物の安全性を評価するために、酸化防止剤と金属イオンの複合反応に着目し、ラジカルを選択的に検出可能な電子スピン共鳴装置(ESR)を用いた活性酸素種(ROS)生成の評価を行った。また、生体内に摂取された酸化防止剤の体内動態を評価するために安定性試験とPAMPAを用いた膜透過性試験を行った。酸化防止剤と銅イオンを反応させたところ、中性条件下においてROSの産生が認められた。しかし、酸化防止剤は中性条件下で分解され、膜透過性試験の結果からも受動輸送によって生体内に吸収される可能性が低いことから、生体内における酸化ストレスへの影響は低いことが示唆された。
21-05
食品添加物等の各種理化学情報検索システム構築に関する研究
国立医薬品食品衛生研究所食品添加物部 杉本直樹
東亜大学義平らの研究グループは,「食品添加物安全性評価のための各種理化学データ構築に関する研究(1999~2001年度三栄源食品化学研究振興財団(現:日本食品化学研究振興財団)研究助成)」を行い,食品添加物(約230品目)の理化学情報のデータベースを構築し,スペクトル情報等から食品添加物の推定が可能なWebサイトを公開した.このWebサイトは食品添加物等の情報を容易に検索入手できる唯一のものであったことから多くの研究者に利用されていた.このWebサイトは当時国内に唯一のものであったが,サーバーPCの維持が困難となり2006年頃閉鎖された.すなわち,義平らの研究グループの研究成果によるWebサイトは現時点では生かされていない.このような状況から、我々は検索データベース・サービスを提供するシステムの再建を行った.データベースを収納された古いサーバーPCのハードディスクから、食品添加物に関するIR,UV/Vis及びNMRの200以上のデータセットを抽出した.このデータセットを用いて、新しい検索データベース・システムを我々のサーバーPC上に再構築し,PHPスクリプトにより,Webサイト上に動的ページを生成し公開した.今後,検索データベース・システムを拡充するために、我々も約150品目のqNMRスペクトルを測定した.次のプロジェクトとして,我々はこの検索データベース・システムに接続するために,食品添加物の規格基準に関するデータベースの構築を開始したところである.
21-06
酸化ストレス、細胞老化、オートファジー関連因子の解析を通した脂肪性肝疾患治療薬および
抗精神薬投与の脂肪関連疾患への影響評価と抗酸化物質投与による予防効果に関する研究
東京農工大学大学院農学研究院動物生命科学部門病態獣医学研究分野 吉田敏則
酵素処理イソクエルシトリン(EMIQ)の血中脂質および肝内酸化ストレスへの影響をラット二段階発がんモデルから得た血液および肝臓サンプルを用いて検討した。まず、ラットに高脂肪飼料を与え、脂質代謝修飾物質としてmalachite green (MG)を混餌投与した。EMIQを飲水投与し、比較のためNADPH oxidase(NOX)阻害剤(Apocynin, APO)を併用する群も設けた。高脂肪飼料の給餌により対照群に総コレステロール、中性脂肪およびalkaline phosphatase(ALP)の高値が観察された。MG群では対照群に比較し総コレステロールおよびALPが減少し、EMIQとの併用群ではさらにその減少作用が増強された。中性脂肪についてもEMIQによる低下傾向がみられた。EMIQおよびAPOの併用投与によりNOX構成分子p22phoxの発現が前がん病変指標であるglutathione S-transferase placental form(GST-P)陽性巣内で減少し、EMIQ併用により肝細胞のアポトーシスが増加した。続いて、薬物酵素誘導剤piperonyl butoxide (PBO)処置ラットを用いて、EMIQの肝内酸化ストレスに対する影響を検証した。比較のためビリベリー抽出物(BBE)の併用投与群も設けた。BBEまたはEMIQ併用投与により、PBO誘発性のGST-P陽性巣ならびにGST-P陽性巣中のリン酸化PTENおよびSmad4陰性巣ならびにKi-67標識率の増加が減少した。さらに、PBO誘発性の脂質過酸化指標のthibarbituric acid反応物質の増加がEMIQ併用投与により減少した。以上の結果より、EMIQはラットの高脂血症を抑制し、肝臓における酸化ストレス指標の軽減に関連して肝前がん病変を抑制することが明らかとなり、酸化防止剤が肥満に関連した病態に対し予防効果を与えることが示唆された。
21-07
クチナシ青色素の効率的な単離精製法に関する研究
金城学院大学薬学部 松山さゆり
クチナシ青色素はアカネ科クチナシ[Gardenia jasminoides J. Ellis(Gardenia augusta Merr.)]の果実より抽出して得られたイリドイド配糖体と、タンパク質分解物との混合物に、b-グルコシダーゼを添加し、分離して得られる既存添加物である。近年、天然系着色料として菓子や飲料など様々な食品に広く使用されている。しかし、クチナシ青色素は、構造が不明である上に構成成分数も不確定で、さらにクロマトグラフィーを用いて分離された例はほとんど報告されていない。そこで、我々はクチナシ青色素成分の高速向流クロマトグラフィー(HSCCC)による単離精製、薄層クロマトグラフィー(TLC)による分離条件の検討、さらに市販食品中のクチナシ青色素成分の抽出・定性を行った。TLCの分析条件を詳細に検討した結果、セルロースTLC(展開溶媒:アセトン/3-メチル-1-ブタノール/水=6:5:5)と逆相C18(展開溶媒:0.2 %TFA/アセトニトリル/エタノール=1:2:3)のTLCにより良好な分離が得られた。スポットが3つ確認できることが判明し、従来から言われているようにクチナシ青色素の色素成分が複数存在することが明確になった。単離精製には高速向流クロマトグラフィー(HSCCC)を用いて検討した。二相溶媒の条件を詳細に検討した結果、1-ブタノール/0.05 %TFA=1:1、tert-ブチルメチルエーテル/1-ブタノール/アセトニトリル/1 %TFA=2:2:1:5およびアセトン/3-メチル-1-ブタノール/0.5 %TFA=1:3:3の3つの溶媒系で、分配係数が最適であると思われたが、それらを用いて単離精製を行ったところ、すべての成分を単離するには至らず、二相溶媒の更なる検討が必要であった。また、最適化したTLCの分離条件を用いて、市販食品中のクチナシ青色素の抽出・定性を行った。5種類のクチナシ青色素製剤を分析したが、それらのスポットパターンや色調が異なり、市販食品から抽出した色素成分のTLCによる結果と比較すると、クチナシ青色素製剤のスポットパターンと一致し、どの製剤が添加されているか推察することが可能であった。
21-08
亜鉛欠乏予防に効果のある食品添加物に関する食品科学的研究
京都大学大学院生命科学研究科 神戸大朋
亜鉛は、健康機能と密接に関わる重要な微量栄養素であり、欠乏すると、皮膚疾患、味覚障害、免疫機能低下、創傷治癒力低下などを引き起こす。さらに、高齢者では、褥瘡や舌痛、皮膚炎に悩まされることも多い。また、血清亜鉛値が高い高齢者は健康な傾向にあることが知られており、超高齢社会を迎えた我が国において、健康社会の実現のため、日々の食事により亜鉛を充足させることは重要である。しかしながら、十二指腸や空腸における亜鉛の吸収効率は30%と低い上、加齢や亜鉛の摂取量の増加に伴ってさらに低下する。そのため、亜鉛吸収効率を上昇させる因子を探索し、亜鉛欠乏予防法を確立することが望まれている。消化管からの亜鉛吸収には亜鉛トランスポーターZIP4が必須の役割を果たす。これまでの解析で、ZIP4発現促進活性を有する(即ち、亜鉛吸収効率を上昇させる)食品添加物を探索してきたが、これらの解析はマウスZip4に対する効果を検証したものであった。本研究では、新たに同定したヒトZIP4発現細胞を用いて、これまでに見出した食品添加物のヒトZIP4発現促進活性に及ぼす影響について解析を実施した。
21-09
ヨウ素デンプン反応の発色の数値化によるデンプン類の基原確認法の開発
国立医薬品食品衛生研究所 宮崎玉樹
食品原料や食品添加物として使用されるデンプン類には、基原植物の異なる種々の製品が存在する。基原植物の判別法として一般に行われるのは顕微鏡観察であるが、この手法は熟練を要するうえ、加工デンプンや食品中のデンプンの判別には適さない。また、ヨウ素に対する呈色の色味が基原によって異なることも知られているが、その表現は目視による個人の感覚と慣用色名に頼ったものである。近年、簡便で高性能な分光測色計の普及により、天然物を対象とする分野においても色情報による品質管理が広まりつつある。そこで、トウモロコシ、コムギ、バレイショ、イネを基原とする30種類のデンプン類について、ヨウ素に対する呈色を分光測色計を用いて測定した。基原植物により、L*a*b*表色系における(a*, b*)値が異なったことから、色の数値化により、基原植物が推定できる可能性が示唆された。(a*, b*)値の差は、アミロース/アミロペクチンの比率や両者の配列様式、アミロース直鎖の重合度などの違いに由来するものと考えられる。
21-10
幼児期の人工甘味料の摂取が腸内細菌叢と全身代謝に及ぼす影響の解明
徳島大学大学院医歯薬学研究部予防環境栄養学分野 上番増喬
人工甘味料は、砂糖と比較して甘味が強く、少量でも十分な甘味を呈す。人工甘味料は、血糖値を上昇させず、エネルギーになりにくいため、低エネルギー甘味料とも呼ばれている。現在、人工甘味料は、食品中のエネルギー含有量を減らすため、あるいは糖尿病患者の血糖コントロールのために、砂糖の代替品として利用されている。人工甘味料の使用は年々増加しているにも関わらず、その生体への影響については不明な点が多い。近年、人工甘味料の一つであるサッカリンが腸内細菌叢の組成の変化を介して耐糖能を悪化させることが報告された。すなわち人工甘味料の摂取は、腸内細菌叢を変化させ、生体代謝への影響を及ぼすこと懸念される。本研究では、人工甘味料の中でも特に吸収率の低いスクラロースの摂取が、腸内細菌叢および生体代謝へ及ぼす影響について、マウスを用いて検討した。スクラロースは、日本の許容摂取上限量である15mg/kg 体重と1.5mg/kg 体重の2つの異なる量を摂取させ、腸内細菌叢をPCR法で解析した。その結果Clostridium14a属菌 がスクラロース摂取量依存的に低下していた。Clostridium14a属菌はコレステロール胆汁酸代謝に影響を及ぼすことが知られている。胆汁酸によりmRNA発現が制御される結腸粘膜細胞のFGF15mRNA発現は、スクラロース摂取により減少していた。肝臓で、FGF15によりmRNA発現が制御されるCYP7a1遺伝子発現は、スクラロース摂取による影響は見られなかった。以上の事より、スクラロースの摂取は、許容摂取上限量以下であっても、腸内細菌叢やコレステロール・胆汁酸代謝に影響を及ぼすことが明らかとなった。
21-11
凍結乾燥に伴う酵素失活のsugar surfactantによる高度抑制
国立大学法人岡山大学大学院自然科学研究科物質生命工学専攻 今村維克
酵素・タンパク質は食品加工等で不可欠な物質であるが,非生理的環境下ではしばしば容易に変性し,その優れた生理活性を失ってしまう.そのため酵素・タンパク質の安定化技術,とりわけ安定化物質の探索が以前より行われてきた.一方,食品添加物として広範に利用されているsugar surfactantの多くは,酵素・タンパク質の変性失活を抑制する作用を有している.本研究では,タンパク質が凍結乾燥時に曝される「凍結」よび「乾燥」操作における,各種sugar surfactantのタンパク質安定化作用を評価・比較した.sugar surfactantの極性基の構造やアルキル鎖長,およびアルキル鎖との結合形態が凍結および凍結乾燥時におけるタンパク質安定化作用に及ぼす影響について考察を加えた.さらにsugar surfactantと糖とのタンパク質安定化機構の違いに着目し,少量のsugar surfactantと著量の糖を組み合わせた糖-sugar surfactant複合系タンパク質安定化剤の有効性について検討した
21-12
消費者の食品添加物の安全性に対する意識及びその変遷
大妻女子大学家政学部食物学科 堀江正一,岩堀美樹,工藤まりな,熊木万里,高野夏美,田中千絵,林みづき,船越佳那
消費者代表の一つとして、学校給食担当者及び栄養士・管理栄養士課程に籍を置く学生に対して食品添加物の安全性に対する意識調査を実施した。学校給食担当者は、食品の安全性に対して70%以上の人が不安を感じており、その要因として食品添加物を一番に挙げ、添加物の発ガン性を心配していた。さらに、学校給食担当者は、食品を購入する際には添加物表示を50%以上の人がよく確認し、食品添加物が使われている食品はなるべく購入しないと答えていた。一方、学生は食品添加物に対して漠然とした不安を抱いているが、食品を購入する際に食品表示をよく見る割合は15%程度であり、添加物が使用されている食品の購入を避ける割合は30%にも満たなかった。学生の食品添加物に対する不安は漠然としたものであり、実際の消費行動には繋がっていないといえる。
21-13
食品中ナノマテリアルの免疫毒性評価とその安全性確保に向けて
大阪大学大学院薬学研究科毒性学分野 吉岡靖雄
近年のナノテクノロジーの発展に伴い、様々な食品中にナノ粒子が含まれていることを鑑みると、腸管などの消化器官は日常的にナノ粒子に曝露されていることが想定される。ナノ粒子は従来のサブミクロンサイズの粒子とは異なる経路で体内に吸収されている可能性が示唆されており、ナノ粒子の腸管吸収性を含めた体内動態評価は重要課題と考えられる。一方で、現在のナノ粒子の動態研究は、マウスやラットを用いた、in vivoでの各臓器への移行性評価がその大部分を占めており、ナノ粒子の腸管吸収機序等に関する理解は未だに不足しているのが現状である。そのため、食品中ナノ粒子の有効活用や安全性の担保に向けては、in vivoでの解析のみならず、腸管透過性を詳細に解析可能なin vitroにおける解析も重要となる。そこで本研究では、ナノ粒子の腸管超過性に関する、より詳細な情報収集を目的に、ヒト腸管様単層膜を形成させたCaco-2細胞を用いて、粒子径や表面性状の異なる銀ナノ粒子、金ナノ粒子の細胞内への取り込み、及び透過性を、腸管上皮細胞の極性を加味しつつ評価した。本検討では、粒子径100、50、10、5 nmの銀ナノ粒子、及び銀イオンを用いた。Caco-2細胞の管腔側(apical側)に銀ナノ粒子、銀イオンを添加し、4、8、24時間後の細胞内及び基底膜側(basolateral側)の銀量を測定した結果、いずれの銀ナノ粒子、銀イオンにおいても、時間の経過に伴い、細胞内、及びbasolateral側の銀量の増加が認められた。また、粒子径が小さい銀ナノ粒子ほど、細胞内、及びbasolateral側の銀量が高い傾向が認められた。従って、小さい銀ナノ粒子ほど、細胞内へ取り込まれる効率・腸管透過性が高いことが明らかとなった。次に、素材の違いによる動態の変化について検討する目的で、粒子径90、50、10 nmの金ナノ粒子をapical側に添加し、24時間後の細胞内、及びbasolateral側の金量を測定した。その結果、粒子径が大きい金ナノ粒子ほど、細胞内の金量が多い一方で、basolateral側の金量は粒子径の違いにより変化は認められなかった。本結果は、細胞内・basolateral側共に、粒子径が小さいほど多く移行していた銀ナノ粒子とは異なる傾向であった。従って、ナノ粒子の細胞内取り込みや腸管透過性は、粒子の素材によっても規定されることが明らかとなった。次に、銀ナノ粒子の基底膜側から管腔側への透過性を評価する目的で、銀ナノ粒子、銀イオンをbasolateral側に添加し、24時間後の細胞内、apical側の銀量を測定した。その結果、apical側には、粒子径が小さい銀ナノ粒子ほど多くの銀が同定された一方で、細胞内には粒子径が大きい銀ナノ粒子ほど銀が同定された。これは、apical側に銀を添加した結果と比較して、小さい粒子ほど高い腸管透過性を示すという点で同様の傾向が認められた一方で、細胞内への取り込みについては、粒子径と逆の相関が認められた。従って、ナノ粒子の細胞内への取り込み経路や効率が、apical側とbasolateral側で異なる可能性が示された。以上、本研究では、ナノ粒子を経口摂取後の吸収性を精査する目的で、in vitroの単層膜モデルを用いて腸管透過性を評価した。ナノ粒子の腸管透過性について、物性との連関を解析した知見は乏しいことから、本結果は、ナノ粒子の経口摂取後の吸収性を考えるうえでの重要な基礎情報となると考えられる。
21-14
放射性核種の吸収・分布・排泄に及ぼす多糖類の影響に関する基礎的研究
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科医薬品機能分析学分野 榎本秀一
東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所事故により、137Cs、131I、90Srを含む様々な放射性核種が環境中へ放出された。事故以降、放射線防護への社会的関心も高まり、内部被曝低減のための放射線防護剤の探索が課題となっている。一方、ペクチンの摂取が137Csの体外排出を促進するとの報告はあるが、未だ科学的なエビデンスは得られていない。そこで我々は、前年度に引き続き、ペクチンが放射性核種の生体内分布および排泄に与える影響について評価するとともに、その作用機序の解明を目的として研究を行った。
分子量50~360 kDaの性質の異なる7種類(サンプルA~G)のペクチンをそれぞれ137Cs、131I、85Sr、54Mn、59Fe、65Zn の6核種混合溶液と混合し、3 kDaのアミコンウルトラを用いて限外ろ過を行うことで、低分子画分(分子量3 kDa以下)、フィルター吸着画分、高分子画分(分子量3 kDa以上)に分画した。その後、それぞれの放射能を高純度ゲルマニウム半導体検出器により測定することにより、ペクチンと放射性核種との結合特性を評価した。さらに、137Cs、131I、85Sr の三核種混合溶液を経口投与したBALB/c マウスに、放射性核種投与1時間後にペクチンを経口投与し、複数の放射性核種を同時にイメージングできるGREI(Gamma-Ray Emission Imaging)を用いてリアルタイムイメージングを行うことにより、ペクチンが放射性核種の生体内分布および排泄に与える影響について評価を行った。
ペクチンサンプルD、E、Fと85Srをインキュベートしたところ、高分子画分に存在する放射能が増加し、低分子画分の放射能が減少する結果が得られ、サンプルD、E、Fが85Srを吸着する可能性が示された。また、GREIによるイメージング実験により、サンプルDが85Srの体外排出を促進している画像を得ることができた。以上の結果は、ペクチンサンプルDが85Srを吸着することで、85Srの体外排出を促進する可能性を示し、ペクチンが放射線内部被曝低減効果を有することを示唆した。
21-15
「クチナシ赤色素」の化学構造および色素形成メカニズムの解明
共立女子大学家政学部 伊藤裕才
既存添加物「クチナシ赤色素」は、クチナシ果実中のイリドイド配糖体geniposideのメチルエステルをアルカリ加水分解したgeniposidic acidをb-グルコシダーゼ処理でアグリコンgenipinic acidとした後、アミノ基供与体としてタンパク質加水分解物と反応させて形成する赤色素である。色素は高分子化合物あるため化学構造および色素形成メカニズムは未解明である。一般的に「クチナシ赤色素」はアルゴンガス等を曝気した嫌気条件下でクエン酸を添加することで得られる。クチナシ果実より抽出して調製したgeniposidic acidをb-グルコシダーゼで加水分解した後、グリシンとアスコルビン酸を添加して90℃で加熱した。その結果、520 nm付近に極大吸収波長をもつ赤色素の形成に成功した。アスコルビン酸を添加しない場合は赤色素ではなく青色素が形成した。またグリシン濃度をgeniposidic acidに対して5倍モル等量添加すると、色素形成時の沈殿の生成を抑制することができた。アミノ基供与体としてグリシンの替りにアラニン、グルタミン、グルタミン酸、リシンを用いてもアスコルビン酸存在下で同様の赤色素を形成した。一方でチロシンおよびシステインの場合は黒褐色の沈殿を生じ、赤色素は形成されなかった。
21-16
非遺伝毒性肝発がん物質ダンマル樹脂の発がんメカニズムの解明
大阪市立大学大学院医学研究科分子病理学 鰐渕英機
ダンマル樹脂はフタバガキ科又はナンヨウスギ科の分泌液より得られたもので、主成分は多糖類であり、多くの飲食物に増粘安定剤として使用されている。これまでに我々は1年間慢性毒性試験および2年間発がん性試験を実施し、ダンマル樹脂がラット肝発がん性を有することを明らかにしてきた。また、in vivo変異原性を検索できるgpt deltaラットを用いて、ダンマル樹脂が非遺伝毒性肝発がん物質であることを明らかにした。これらの結果から、ダンマル樹脂は非遺伝毒性的な発がんメカニズムを介して肝発がん作用を示す可能性が考えられた。しかし、その肝発がん過程に非遺伝毒性分子機序がどのように関与するかについては未だ不明である。そこで、本研究ではダンマル樹脂の発がんメカニズムを解明することを目的とし、経時的に遺伝子発現変動及びDNAメチル化レベルの変動について検討を行った。動物は6週齢のF344ラットを用いて、無処置群および2%ダンマル樹脂投与群の2群を設定し、4週、13週、32週および52週で剖検を実施し、得られた肝臓について検討を行った。その結果、CYP1A1の持続的な発現増加およびde novo DNAメチル基転移酵素がダンマル樹脂投与によって発現減少がみられた。さらに4週間投与肝臓におけるgenome DNA全体のメチル化率を検討するためにトランスポゾンであるLINE-1のメチル化率を検討した結果、ダンマル樹脂投与群でメチル化率の減少傾向がみられた。以上より、ダンマル樹脂がシトクロムP450による水酸化の亢進およびエピジェネティック修飾機構の異常によるゲノム全体に低メチル化を誘導し、発がんに寄与している可能性が強く示唆された。
21-17
ベニバナの食品添加色素収量の増加及び安定化に向けた遺伝育種学的研究
山形大学農学部 笹沼恒男
食品色素の原料としてのベニバナの花弁収量の増加と安定性向上のために、ベニバナ遺伝資源の基本形質調査と花弁収量調査、及び、ベニバナにおける色素合成関連遺伝子の単離を目指す研究を行った。形質調査では、14系統のベニバナ遺伝資源を山形大学農学部附属農場にて栽培し、開花日、草丈、花序数、花序直径、花弁数、最大花弁長等の基本20形質を計測した。また、これらに加え、約30個体を農家と同じ条件で密植、手摘みによる花弁収穫を行い、収穫量調査を行った。その結果、花序数は年次間変動が非常に大きいこと、山形県で染料用として栽培されている最上紅花は、個々の形質で最高値を示すことはないものの、花弁収量は最もよく、年次間で安定性が高いこと、密植でも花序が減らないこと、最大花弁長が長いことから、染料用として優れた品種であることが明らかになった。遺伝資源の中にも、個々の形質では優れたものがあり、またKKB27のように最上紅花とは違った特徴を持つ花弁高収量品種が存在することも明らかになり、今後の育種に利用できる可能性が視された。色素合成関連遺伝子の単離に関しては、PCR-based cDNAサブトラクション法を用い、赤花系統と白花系統の発現を比較し、赤花で特異的に発現が増加している遺伝子の単離を試み、候補遺伝子1つを単離した。
21-18
メタボロミクスを用いたショウガ品種の分類と含有化学成分の観点から見た特徴の調査
星薬科大学薬化学教室 若菜大悟
ショウガ (Zingiber officinale) は温暖な地域で広く栽培される香辛料であり、国内では主に高知県や熊本県などで栽培されている。ショウガをヘキサン、アセトン及びエタノールを用い抽出エキスを作成し、その 1H-NMR スペクトルを用いて多変量解析による検討を行った結果、抽出溶媒の判別モデルの構築は可能だった。これにより、市販ショウガ製品に用いられている抽出法の予測が可能だと考えられる。
21-19
食品添加物メントールによる薬物の体内動態変動要因の解析
星薬科大学薬動学教室 五十嵐信智
最近、ワルファリン服用中の患者がメントールを摂取した際に、ワルファリンの抗凝血作用が減弱したとの報告がなされた。本研究では、メントールによるワルファリンの抗凝血作用減弱メカニズムを薬物動態学的観点から解明した。また、cytochrome P450 3A(CYP3A)の基質であるトリアゾラムと、CYP2Cの基質であるフェニトインをそれぞれ用いて、これらの薬物動態に及ぼすメントールの影響を調べた。その結果、メントール投与群のワルファリンの血中濃度は、コントロール群に比べて約25%低下し、クリアランスは1.3倍上昇した。メントール投与群の肝臓におけるCYP2CおよびCYP3Aのタンパク質発現量は、コントロール群に比べて有意に増加した。一方、メントールを投与すると、マウスの血中トリアゾラム濃度およびフェニトイン濃度が低下し、クリアランスが上昇した。本研究の結果から、メントールは肝臓のCYP2CおよびCYP3Aの発現量を増加し、ワルファリンの代謝を亢進することにより、ワルファリンの抗凝血作用を減弱していることが明らかとなった。加えて、メントールはトリアゾラムおよびフェニトインの血中濃度を低下させることが明らかとなった。したがって、メントールとCYP3AあるいはCYP2Cの基質となる薬物を同時に服用する際には、注意が必要であると考えられた。
21-20
天延由来食品添加物オイゲノールの麻酔作用に関する研究
山口大学 肥塚崇男
ベンゼン環(C6)に直鎖状のプロペン側鎖(C3)を基本骨格に持つオイゲノールは、バジルやクローブ、ナツメグなどスパイスやハーブに含まれる植物香気成分として知られており、特徴的な香気特性を持つことから香料や化粧品原料、食品添加物として利用されている。一方で、オイゲノールはフグなど高級魚のワクチン接種や輸送の際における天然由来の麻酔剤としても知られており、養殖水産業において注目を集めている。しかしながら、オイゲノール類の麻酔作用について、その作用機序を分子レベルで明らかにした事例はほとんどない。そこで、本研究では小型魚類のモデル動物であるゼブラフィッシュを用い、オイゲノール類の麻酔作用を明らかにすることを目的とした。本研究では、NMDAで中枢神経系を直接活性化させてもオイゲノールの麻酔作用が見られた。これに加え、カフェインによる強制的筋収縮でも麻酔作用が認められたことから、オイゲノールは筋での小胞体からのカルシウム放出以降のプロセスに作用することが考えられた。一方でオイゲノールが複数の作用部位をもつ可能性もあるので、筋に加えて中枢神経系でも作用する可能性を否定するものではない。現在まで、オイゲノールは天然由来であり、数種の魚類•甲殻類に対して麻酔剤の効果があるという実用例から通用されていたのが現状であるが、本研究によりオイゲノールの麻酔効果における作用機序の一端が明らかになった。
21-21
硫酸抱合化ポリフェノールの体内動態と機能性発現機構に関する研究
徳島大学大学院医歯薬研究部 河合慶親
食事由来の主要なポリフェノールであるケルセチンは多彩な機能が報告されているが、経口摂取した際にヒト血漿中に認められる硫酸抱合体の機能性や作用機構については不明な点が多かった。そこで、ケルセチン硫酸抱合体を化学合成し、マクロファージ細胞株を用いた抗炎症作用について詳細な検討を行った。その結果、ケルセチン硫酸抱合体は、マクロファージ細胞によって脱抱合されるグルクロン酸抱合体とは異なり、脱抱合されることなくリポ多糖によって誘導される一酸化窒素(NO)産生を抑制することが明らかとなった。本研究により、食事として摂取し、代謝を受けたケルセチン硫酸抱合体が体内においても抗炎症作用を有することが示唆された。
21-22
配糖化によるクルクミンの消化管吸収改善とそのメカニズムに関する研究
名古屋市立大学大学院薬学研究科生薬学分野 牧野利明
ウコンに含まれる機能性成分であるクルクミンを配糖体化することで水溶性を高め、消化管吸収を改善する試みを行った。クルクミン配糖体は、ニチニチソウ由来の配糖化酵素により合成した。ラットにクルクミンおよびそのグルコース配糖体をクルクミンとして同用量経口投与したところ、最高血中濃度は約8倍、血中濃度曲線下面積は約7倍に増加した。ラット小腸上皮ホモジネートはクルクミン配糖体を速やかに加水分解したことから、クルクミン配糖体は腸内細菌ではなく、小腸上皮に存在しているとlactose-phlorizin-hydrolase (LPH)で加水分解される可能性が示唆された。そこで、ヒトとラットのLPHをそれぞれヒト胎児腎細胞由来のHEK293細胞に導入することで、LPHによる加水分解反応を選択的に評価できる実験系を確立した。今後、クルクミン配糖体がLPHの基質となっているか否かについて、検討を続ける予定である。
21-23
ポリフェノール系既存添加物による新規食中毒制御法の開発
静岡県立大学食品栄養科学部 島村裕子
昨年度、公益財団法人日本食品化学研究振興財団の助成を受け、黄色ブドウ球菌の毒素staphylococcal enterotoxin A (SEA) 分子と結合するポリフェノール系既存食品添加物を探索したところ、いくつかの既存の食品添加物に含有するポリフェノール類がSEAと結合親和性を有することを見出した。そこで、本年度は、これら活性物質のうち、アップルフェノン (AP) およびテアビゴの主成分である(-)-epigallocatechin gallate (EGCG) に着目し、SEA上の結合部位と毒素活性阻害能との関連、またその作用メカニズムの解明を目的に研究を行った。APおよびEGCGがSEAの毒素活性発現部位と結合しているかを明らかにするため、その活性部位に特異的な4種の抗-SEA抗体を作製し、Western Blot解析を行ったところ、いずれも毒素活性発現部位と結合していることが推察され、特にA-6領域 (アミノ酸配列81-100) と強い結合親和性を示した。さらに、これらの物質は、SEAが誘発するinterferon の産生を有意に抑制したことから、スーパー抗原活性を抑制できる可能性が示唆された。また、体内でのSEAと物質との結合の可逆性を評価するために、各種pH (pH2.4~8.0) 条件下での結合親和性について検討したところ、いずれの物質も生体内でのpH条件下で結合を維持できることが明らかになった。本研究の成果および今後の更なる研究により、これらの物質を用いた新たな毒素型食中毒制御法の開発が期待される。
21-24
天然香料成分の抗肥満・血糖低下効果の機能解析
東京大学大学院農学生命科学研究科・応用生命化学専攻 佐藤隆一郎
胆汁酸は胆汁酸受容体TGR5を介して、抗肥満、血糖降下作用を発揮する。小腸、大腸に存在するL細胞に発現するTGR5を介して、インクレチンGLP-1分泌が上昇し、インスリン感受性の改善、血糖値の低下がもたらされる。骨格筋、褐色脂肪組織においては、熱産生に関する遺伝子発現を上昇させ、エネルギー消費亢進を介して抗肥満効果を発揮する。この様な事実に基づき、ヒトTGR5を培養細胞に発現させ、天然香料成分を培地に添加し、胆汁酸機能を発揮する成分の探索系を構築した。香料成分300種類の中から、顕著な活性を有する化合物を見出す事に成功した。
21-25
ぜん動運動を備えたヒト胃消化シミュレーターによる高齢者用油脂含有食品の消化挙動の評価
筑波大学生命環境系1,農研機構・食品総合研究所2 市川創作1、小林功 2、神津博幸1,2
高齢化社会に伴い、栄養を効率的に摂取できる高齢用食品の開発が求められている。油脂は高カロリーな栄養源であるが、食品中の油脂の含有量を高めるほど、胃での油脂の放出量も増加し、胃がもたれるなどの理由から摂取が敬遠されていると考えられる。本研究では、大豆油エマルションゲルを油脂含有食品のモデルとし、in vitro胃消化装置、「ヒト胃消化シミュレーター(Gastric Digestion Simulator: GDS)」を用いて大豆油エマルションゲルの胃消化挙動を解析することで、高齢者用油脂含有食品の開発に関する基礎的知見を得ることを目的とした。GDSはヒト胃内で食品粒子の微細化を担うぜん動運動を模擬しており、固形食品の胃消化挙動の解析に有用である。GDS消化試験の過程を直接観察した結果、ぜん動運動によってゲル粒子が微細化される様子が観察された。また、微細化に伴い、胃内容物の液中に大豆油エマルションが放出される様子が観察された。寒天を用いたエマルションゲルと比較して、寒天とネイティブ型ジェランガムを混合したエマルションゲルでは、GDS消化試験におけるゲル粒子の微細化の程度、およびゲル中の大豆油の放出量が低下することがわかった。これらの結果から、ゲル化剤を調整することにより、等量の油脂をゲルに包括させた場合においても、胃内での油脂の放出量を制御できる可能性が示された。本研究で得られた成果は、胃内での油脂の放出量を抑制し、高齢者が胃もたれなく摂食できる高カロリーな油脂含有食品を開発する基礎的知見として有用である。