第8回研究成果報告書(2002年)
[研究成果報告書 索引]
Abs.No.
|
研究テーマ
|
研究者
|
|
魚肝ミクロソームを用いた抗酸化剤の効力評価法の確立―ラットに代わる新規実験動物の開発魚肝ミクロソームを用いた抗酸化剤の効力評価法の確立―ラットに代わる新規実験動物の開発 |
幡手 英雄 宮崎大学農学部 |
|
サフランの赤色色素クロシンの安定性についての研究 |
正山 征洋 九州大学大学院薬学研究院 |
|
キノアの抗酸化性と抗酸化性食品素材としての利用 |
渡辺 克美 近畿大学農学部 |
|
ムラサキイモ色素生産に関わる酵素遺伝子の精密機能解析 |
阿部 郁朗 静岡県立大学薬学部 |
|
食品添加物の脂肪細胞分化に対する影響に関する研究 |
今川 正良 名古屋市立大学大学院薬学研究科 |
|
N-ニトロソジメチルアミンの生成反応系におけるカンキツ精油およびテルペン化合物による抑制効果に関する研究 |
沢村 正義 高知大学農学部 |
|
天然食品添加物素材中の微量有害成分の高感度検出と構造決定 |
石橋 正己 千葉大学大学院薬学研究院 |
|
天然乳化植物ステロールの安全性確認のための体内動態の解明 |
米谷 芳枝 星薬科大学医薬品化学研究所創剤構築研究室 |
|
糖質と生命系色素(ポルフィリン類)との協同効果による生体機能の制御とバイオメカニズムの解明 |
矢野 重信 奈良女子大学大学院人間文化研究科 |
|
食用油脂へのパプリカ色素の適用性 |
松藤 寛 日本大学生物資源科学部 |
|
アントシアニン色素の発色と安定性の分子機構とエンジニアリング |
斉藤 和季 千葉大学大学院薬学研究院 |
|
食品品目別、日本人の1人1日平均喫食量の算定および将来補正方法の研究 |
山内 あい子 徳島大学大学院薬学研究科 |
|
食品添加物コンドロイチン硫酸を含むグリコサミノグリカンの吸収・代謝・機能性に関する研究 |
今成 登志男 千葉大学大学院薬学研究院 |
|
マウスの受精卵初期発生系を用いた食品添加物の内分泌かく乱物質の安全性評価法 |
三宅 正治 神戸学院大学薬学部 |
|
天然添加物コウリャンの抗食物アレルギー作用に関する検討 |
中西 剛 大阪大学大学院薬学研究科 |
|
ハーブ等天然添加物からの大腸発癌抑制物質スクリーニング |
吉村 吉博 星薬科大学薬品分析化学教室 |
|
アントシアニン生合成酵素遺伝子の強化による色素生産 |
山川 隆 東京大学大学院農学生命科学研究科 |
|
遺伝子工学・細胞工学的手法を活用したポリフェノールの機能性・安全性評価 |
長岡 利 岐阜大学農学部 |
|
抗酸化性を有する天然食用色素の酸化的変化とその制御研究 |
増田 俊哉 徳島大学総合科学部 |
|
乳化性海苔ポルフィランの脂質結合 |
高橋 幸資 東京農工大学農学部 |
|
食品用乳化剤を用いた未利用食品タンパク質の高機能化 -常温下でのゲル形成能の探索とその機構解析- |
太田 尚子 日本大学短期大学部 |
|
ラジカル捕捉、抗酸化活性を指標とした機能性物質の効率的生産系システムの開発 |
藤伊 正 東洋大学生命科学部 |
|
HPLCによる過酸化水素分析法の開発とその応用 |
熊澤 茂則 静岡県立大学食品栄養科学部 |
|
卵黄、大豆および牛乳由来ホスホペプチドの抗菌、抗ウィルス性および新規食品添加物としての応用の可能性 |
中村 宗一郎 鳥取大学教育学部 |
|
醗酵肉製品における微生物スターターの活性保持におよぼすアミノ酸関連化合物の影響 |
関川 三男 帯広畜産大学畜産学部畜産化学科 |
|
香味料有効成分の配糖化 ~第二報~ |
浜田 博喜 岡山理科大学理学部基礎理学科 |
|
難消化性多糖類の適正、適格な使用のモデル系の作成 |
大鶴 勝 武庫川女子大学生活環境学部 |
|
三栄源食品化学研究振興財団 特定研究 食品中の食品添加物分析法の開発及び改良に関する研究 |
伊藤 誉志男 武庫川女子大学薬学部 |
中澤 裕之 星薬科大学 |
8-01
魚肝ミクロソームを用いた抗酸化剤の効力評価法の確立
―ラットに代わる新規実験動物の開発
宮崎大学農学部 幡手 英雄
魚組織の抗酸化測定システムへの利用適性を明らかにするために、ティラピアの普通 筋、脳、肝臓および肝ミクロソームから抽出した脂質の脂肪酸を分析した。普通筋に含まれる脂肪酸は少なかったが、脳および肝臓はアラキドン酸やドコサヘキサエン酸などの多不飽和脂肪酸(PUFA)を多量に含んでいた。これらのPUFAは活性酸素種に対する感受性が高く、抗酸化剤の効力測定に実験動物組織を適用するさいには同組織に不可欠な成分である。さらに超遠心分離法によりティラピア肝臓から、抗酸化測定用の酸化基質として利用可能な多量のPUFAを含む肝ミクロソームの調製に成功した。ティラピアは餌なしで2ヶ月間以上生存できた。その間に肝重量を速やかに減じるとともに、抗酸化試料の測定の妨げとなる肝臓の内在性抗酸化剤であるα-トコフェロールも減じた。この結果は絶食させるだけで本研究で要求されるトコフェロール欠乏状態の実験魚が調製されることを示唆した。
8-02
サフランの赤色色素クロシンの安定性についての研究
九州大学大学院薬学研究院 正山 征洋
サフランの赤色色素であるクロセチン配糖体は多くの共役2重結合を持つため不安定であることが知られていた。各種の要因を設定してクロセチン配糖体の安定性を調査した結果、酸素の存在下、湿気がある場合室温下でも自動酸化が起こり、また、主成分のクロシンが内在性のb-gucosidaseにより加水分解されることが判明した。この事実を基にサフランおよびクロセチン配糖体を安定に長期保存し、各種の実験に供した。
サフランエキスをアルコール投与モデルマウスに前投与することにより、記憶・学習能力が改善されることを明らかにした。この改善作用は主成分であるクロシンにより起こることを明らかにした。また、サフランエキス、クロシンがアルコールにより阻害される長期増強(LTP)を改善することを示した。さらに本活性はNMDAレセプターを介していることを証明した。
サフランエキスやクロセチン配糖体に抗腫瘍活性があることが知られていたが、マウスを用いた2段階法によるアッセイ系により抗皮膚ガンプロモーション活性があり、その本体がクロシンであることを明らかにした。脳神経細胞のアポトーシスに関するインビトロのアッセイ系によりクロシンはcaspase-3を阻害し、アポトーシスを回避することを証明した。
8-03
キノアの抗酸化性と抗酸化性食品素材としての利用
近畿大学農学部 渡辺 克美
キノアタンパク質は、主要な穀類であるコメやコムギと比較すると、アルブミン(35.7wt%)やグロブリン(21.9 wt%)を多く含んでおり、一方、コメやコムギには多く含まれているプロラミンやグルテリンは、それぞれ3.6 wt%、3.3 wt%とわずかにしか含まれていなかった。また、キノアタンパク質にはリジンや含硫アミノ酸が比較的多く含まれていた。これらの結果より、キノアタンパク質は良質なタンパク質であると考えられる。他方、キノアにはさまざまな抗酸化作用を示す水溶性や脂溶性の多くの物質が含まれており、キノアを代替えのタンパク質源や機能性食品素材として利用することが大いに期待される。
8-04
ムラサキイモ色素生産に関わる酵素遺伝子の精密機能解析
静岡県立大学薬学部 阿部 郁朗
ムラサキイモ(山川紫)色素生合成の鍵酵素となるカルコン合成酵素(CHS)は、1分子のクマロイルCoAをスター夕ーとして、3分子のマロニルCoAを順次縮合の後、共通のテトラケタイド中間体の生成を経て、新たに芳香環を形成する植物に特異的なポリケタイド合成酵素である。酵素以応のスターターユニットに対する基質特異性に焦点を紋り、化学的に合成した基質アナログを、大腸菌において発現させ、精製した組み替え酵素に作用させることによって、酵素変換を試みた。その結果、立体的にかさ高い塩素や臭素などの置換体を除いて、ほとんどすべての基質アナログが、酵素反応のスターターユニットとして機能し、マロニルCoAとの縮合反応および芳香環形成反応が進行して、カルコンやフロログルシノール誘導体などに加え、新規骨格を有する非天然型ポリケタイド化合物の生成が高収率で認められた。このようにCHS酵素が示す広範な基質特異性と触媒機能の多様性には目を見張るものがあり、今後のさらなる非天然型新規化合物ライブラリーの構築の可能性が示された。また、これら酵素反応により得られた非天然型化合物についてもカルコンなどと同様に多様な生理活性作用を示すことが予想される。ムラサキイモ色素生産の生合成工学を行う上できわめて重要な知見であり、天然色素が組み替え食品ならぬ「組み替え添加物」として使用される事態においても通用する規格設定の一助となるものと思われる。
8-05
食品添加物の脂肪細胞分化に対する影響に関する研究
名古屋市立大学大学院薬学研究科 今川 正良
脂肪細胞分化に対する食品添加物の影響について、3つの系を用いて検討した。まず、脂肪細胞分化のマスターレギュレーターといわれている転写因子、PPARgとそのコファクター(転写活性化因子)との相互作用を検出する系を確立した。次に、本来脂肪細胞に分化しないマウスNIH-3T3細胞にPPARgを強制発現する細胞を樹立した。これらの系を用いて、ソルビン酸(保存料)、亜硝酸ナトリウム(発色剤)などについて検討したが、顕著な差は見られなかった。次に、前駆脂肪細胞株を用いて脂肪細胞分化過程に及ぼす影響について検針した。その結果、酸化防止剤であるアスコルピン酸に分化促進作用が認められた。本研究における被験物質は8種類と少ないため、さらに多くの種類の添加物について検討する必要があると思われるとともに、分化過程における遺伝子群および蛋白質群の発現変化について、より網羅的に解析する必要があると思われた。
8-06
N-ニトロソジメチルアミンの生成反応系におけるカンキツ精油および
テルペン化合物による抑制効果に関する研究
高知大学農学部 沢村 正義
カンキツ精油およびその構成成分のN-ニトロソジメチルアミン(NDMA)の生成抑制に及ぼす影響について調べた。pH3.6に調整したジメチルアミンと亜硝酸ナトリウムからなる反応液にカンキツ精油または標準化合物を添加し、生成されるNDMAをHPLCにて検出波長220 nmで定量分析を行った。すべてのカンキツ精油は22~85%のNDMAの生成抑制効果を示すことが明らかとなった。とくに、ウジュキツ、ユズ、モチユ、ポンカンの精油は高いNDMA生成を抑制した。また、カンキツ精油に共通して含まれる成分のNDMAの生成抑制についても検討した。その結果、とくにミルセン、α-テルピネン、テルピノレンは80%以上の高い抑制効果を示すことが明らかとなった。また、カンキツ精油のNDMA生成抑制活性発現は、これら精油構成成分の中でも二重結合を多く有するテルペン炭化水素に基づくことが示唆された。また、植物性食品におけるユズ精油の抑制活性作用を追究した。25 種類の植物性食品の被検液をNDMA生成反応のモデル系に添加した場合、NDMA の生成抑制率は最大で40%であった。とくにタマネギ、ニラ、ホウレンソウに強い抑制効果がみられた。さらにユズ精油を添加した場合、NDMAの生成抑制効果は75~85%に増大し、とくに、モヤシ、ナス、ピーマンにおいて強い抑制効果がみられた。このことは、植物性食品被検液はNDMAの生成を抑制し、さらにユズ精油と共存することで、ユズ精油の抑制効果を増大させることを示唆するものである。したがって、ユズ精油は野菜被検液との共存下でもその機能性を失わないことが示唆された。
8-07
天然食品添加物素材中の微量有害成分の高感度検出と構造決定
千葉大学大学院薬学研究院 石橋 正己
本研究では食品添加物、スパイス等、食用として用いられているものを中心に数種の熱帯植物について、微量化学成分の検索を行い、微量成分の化学構造を明らかにする研究を行った。まず、甲殻類の一種Artemia salinaに対する毒性を指標として検索を行った結果、6種の植物に顕著な活性が認められた。抽出物に活性が認められた植物の中で材料を量的に確保できたCantimbium speciosum(ショウガ科)とLancium domesticum(センダン科)を選別し成分研究の対象とした。前者からはピノセンブリン他4種のフラボノイドを、後者からは数種の新規オノセラン型トリテルペノイドを単離した。一方、リンパ球細胞に対する毒性を指標にして検索を行った。抽出物に活性が認められた植物の中で材料を量的に確保できたBridelia siamensis(トウダイグサ科)を選別し、その成分研究を行った。その結果、9種の化合物BS-1およびBS-5~BS-12を単離したが、これらのうちBS-7、8、12は新規化合物であった。また、今回得られた化合物の中でBS-1、 BS-5についてはリンパ球細胞に対する毒性をもつことが確認された。
8-08
天然乳化剤植物ステロールの安全性確認のための体内動態の解明
星薬科大学医薬品化学研究所創剤構築研究室 米谷 芳枝
天然添加物の植物性ステロールであるシトステロール(Sit)は加工食品の品質向上、製造工程の改善のためにo/w型エマルションの乳化剤として用いられている。しかし、Sitの小腸および肝臓での安全性については不明であることから、本研究ではSitとコレステロール(Chol)の三種類の微粒子(エマルション、リポソーム、ナノパーティクル)を作り、この作用について検討した。
Sit微粒子は、Chol微粒子と同様にモデル薬物であるFITC-dextran 4,400 (FD-4)の小腸からの吸収には影響を与えないことが明らかとなった。また、肝細胞においては高濃度(1,205 mM)のSitおよびCholでは、FD-4の取り込みが見られたが、低濃度(25 mM)のSitおよびCholでは、FD-4の取り込みはほとんどみられず、膜透過性に影響しないことが明らかとなった。しかし、このときSitおよびCholナノパーティクルの細胞内在化が共焦点レーザー顕微鏡により確認された。高濃度での肝細胞への影響は、特にナノパーティクルにおいて顕著に表れた。
本研究の結果、植物性ステロールは小腸および肝臓への取り込みによる膜透過性の影響は、Cholとほぼ同じくらい低く、安全性が高いことを明らかにした。
8-09
糖質と生命系色素(ポルフィリン類)との協同効果による
生体機能の制御とバイオメカニズムの解明
奈良女子大学大学院人間文化研究科 矢野 重信
光線力学的療法(Photodynamic Therapy,PDT)に使用する光増感剤に、水溶性と組織透過性を考慮し糖分子を含む水溶性のクロリン誘導体の合成と細胞毒性の評価を行った。骨格にはポルフィリン核のピロールの一つを還元したテトラフェニルクロリンを選択した。また、連結する糖分子として合成が容易であったD-グルコース、D-ガラクトース、D-キシロース、D-アラビノースを選択し、クロリン1分子あたり4分子の糖が結合した光増感剤を合成した。また、それらの化合物のHeLa細胞に対する光毒性の評価を行った。暗所毒性の結果、比較物質であるp-THPP、p-THPC、m-THPP、m-THPC(Foscan)においてm-THPC以外の化合物は暗所毒性を示したが、本研究で合成された糖置換化合物では暗所毒性が劇的に軽減された。
また光毒性において、free-baseのパラ置換化合物において従来のどおり糖水酸基を脱保護した水溶性化合物においてm-THPC同等またはそれ以上の活性がみられた。しかし、Zn含有化合物ではほとんど活性が見られなかったメタ置換化合物では、free-base体でもZn体でも糖水酸基を脱保護した水溶性化合物においてm-THPCと同等またはそれ以上の活性が見られた。しかし、ガラクトース連結化合物はあまり活性が見られなかった。これらの結果から、ポルフィリンは糖水酸基を保護した化合物において活性が見られたのに対し、クロリンでは糖水酸基を脱保護した水溶性化合物において活性見られたことからクロリンのガン細胞に対する活性の違いは、ガン細胞による糖認識が主に関係しているのではないかと推測された。
以上のことより糖連結クロリンはm-THPCと同等以上の活性が見られたことからm-THPCより優れた光増感剤として期待できることがわかった。
8-10
食用油脂へのパプリカ色素の適用性
日本大学生物資源科学部 松藤 寛
パプリカ色素をリノール酸に添加し、光および空気存在下での抗酸化性および色素の減少について検討を行った。光もしくは空気中で貯蔵することにより、その効果は弱まるものの、パプリカ色素はリノール酸の酸化を抑制した。a-トコフェロールをパプリカ色素に添加することにより、光に対する安定性が増したことから、パプリカ色素とa-トコフェロールを併用し、これらによるリノール酸の酸化抑制について検討した。パプリカ色素のみの試験区およびa-トコフェロールのみの試験区と比較し、併用した試験区はその酸化抑制効果を増加させた。また、パプリカ色素の消失前後において、リノール酸の急激な酸化劣化が起こっていたことから、パプリカ色素は抗酸化剤として、また色素の残量(色の消失)から油脂の酸化度合いを視覚的に推察できるインディケーターとしても利用できる可能性が示唆された。
8-11
アントシアニン色素の発色と安定性の分子機構とエンジニアリング
千葉大学大学院薬学研究院 斉藤 和季、北田 千佳、山崎 真巳
シソ(Perilla frutescens var. crispo)にはアントシアニン蓄積の異なる 2つの変種、いわゆるアカジソとアオジソが存在する。フラボンおよびアントシアニンの生合成に関与する 2つのcytochrome P450タンパク質であるflavone synthase II (FSII)およびflavonoid 3'-hydroxylase (F3'H)をコードするcDNAをアカジソから単離して解析した。FSII cDNAは、57.1kDaのタンパク質をコードし、これをCYP93B6と命名した。F3'H cDNAは57.5kDaのタンパク質をコードし、これをCYP75B4と命名した。どちらのタンパク質にもcytochrome P450に特徴的ないくつかのアミノ酸配列モチーフが件在した。酵母で発現させた組換えCYP93B6は、フラバノンであるnaringeninおよびeriodictyolをそれぞれフラボンであるapigeninおよびluteolinに変換し、それぞれの反応におけるKm値は、それぞれ8.8mMおよび11.9mMであった。組換えCYP75B4は、フラバノンであるnaringenin、apigeninおよびdihydrokaempferolの3'-水酸化を触媒し、それぞれ対応する化合物eridictyol、luteolinおよびdihydroquercetinに変換し、それぞれの反応のKm値は18-20 mMであった。CYP93B6転写産物は、アオジソとアオジソの葉において同程度蓄積しており、これは葉におけるフラボンの蓄積パターンと致した。一方、CYP75B4転写産物は、アカジソ特異的に発現し、他のアントシアニン生合成酵素遺伝子と同様に光による発現誘導を受けた。
これらの結果から、F3'Hを含む一連のアントシアニン生合成酵素遺伝子がアカジソ特異的に発現し、しかも協調的に制御を受けているのに対して、FSIIは、アカジソおよびアオジソ間で同様な制御を受けることが示された。
8-12
食品品目別、日本人の1人1日平均喫食量の算定および
将来補正方法の研究
徳島大学大学院薬学研究科 山内 あい子
食品中の栄養成分、添加物あるいは汚染物質等の日本人の1人1日平均摂取量計算には、旧厚生省国民栄養調査に基づく「食品群別栄養素等摂取量」の数値が分析値とともに用いられている。しかし、国民栄養調査には、①抽出人口が少ない、②季節変動が避けられない、③詳細な食品品目毎のデータがない等の問題がある。そこで、本研究は、平成7年度から平成11年度の統計法に基づく各種統計を用いて、国民栄養調査値の補正または補完、および同数値の再評価を行うことを目的として実施された。
今回は、動物性食品等の日本人1人1日喫食量について検討した。数値の補正・再評価のために、生鮮食品については種々農林水産統計を用い、年間生産量を基本に輸出入補正し、流通中損失、廃棄率(歩留まり)を可能な限り考慮し、供給(純)食料を求めた。季節食品は、総理府家計調査年報の品目別月次購入量を用いて年平均化した。さらに、各種統計の比較により、統計理論上の外食率と供給後廃棄率を試算した。
その結果、①国民栄養調査の季節変動補正値、②家計調査購入量の喫食量への変換補正値、③生産輸出入を考慮した国内供給食料をもとに、食品品目別の日本人1人1日当たり平均喫食量と、外食(等)率および供給後廃棄率が算出された。さらに、これらの値を比較・評価考察することにより、国民栄養調査に無い品目をも含めた、食品品目別の喫食量を求めることができた。
8-13
食品添加物コンドロイチン硫酸を含むグリコサミノグリカンの
吸収・代謝・機能性に関する研究
千葉大学大学院薬学研究院 |
今成 登志男、戸井田 敏彦、豊田 英尚、酒井 信夫 |
国立医薬品食品研究所 食品部 |
穐山 浩 |
コンドロイチン硫酸は関節炎などに効果が期待される機能性食品、あるいは食品添加物として注目を集めている天然酸性多糖類の一種である。しかし、由来する原料によりその分子量、硫酸含量、硫酸基の結合位置など多様性に富み、食品添加物としてコンドロイチン硫酸の物性を評価する試験法は十分な分析体制が整備されてないのが現状である。そこで、天然品由来の様々なコンドロイチン硫酸を用いて,核磁気共鳴法及び酵素分解法など種々の物理的・化学的分析法の開発及び適用を検討した。その結果、新たに高分子酸性多糖類のHPLCによる分子量測定法を確立した。また核磁気共鳴スペクトルから、コンドロイチン硫酸構造、すなわち硫酸化のパターンに由来する特徴的なシグナルにより同定することを可能にした。また、夾雑する他のグリコサミノグリカンの検出法についても検討を行った。さらに経口投与されたコンドロイチン硫酸の代謝的運命を調べるための、生体試料前処理法についても詳細に検討し、簡便で迅速な方法を確立した。一方、コンドロイチン硫酸の機能性に関する検討では、実験的関節炎を惹起したマウスにコンドロイチン硫酸を経口投与すると、治療効果が観察された。今後、コンドロイチン硫酸の生理機能及び代謝経路についての検討が期待される。
8-14
マウスの受精卵初期発生系を用いた食品添加物と
内分泌かく乱物質の安全性評価法
神戸学院大学薬学部 三宅 正治、河合裕一
近年、野牛生物に生殖異常などの異変が多数報告されるようになった。これらの原因の一つとして考えられているのが内分泌攪乱物質(EDs;Endocrine Disruptors)である。また、個々の食品添加物には安全性の指標として一日許容摂取量(ADI)が設けられている。しかし我々が日常摂取する食品には複数の添加物が併用されており、しかも継続的にそれらを摂取することから、それらの生体への影響を正確に把握することは容易でない。そこで、これら化合物の生体に対する影響を調べる目的で食品添加物と内分泌かく乱物質とを用い、マウス受精卵の初期胚発生に対する影響を検討した。その結果、いずれのEDsも、濃度依存的にマウス初期胚の発生を阻害し、内分泌かく乱物質と疑われている化合物とb-エストラジオールはほぼ同じ濃度で、初期胚の発生を阻害した。また、食用色素についてはいずれの化合物においても、ADIまでの濃度では初期胚の発生に全く影響せず、安全基準内でこれらの物質を摂取している限りほとんど危険はないことが明らかとなった。さらにこれらの添加物と内分泌かく乱物質とを同時に添加したところ、いずれの色素においても相加効果は認められたが相乗効果は認められなかった。
8-15
天然添加物コウリャン色素の食物アレルギー作用に関する検討
大阪大学大学院薬学研究科 中西 剛
これまでに我々は、全身免疫系のT細胞、B細胞、抗原提示細胞に対するコウリャン色素の影響について検討した結果、コウリャン色素が抗原特異的な刺激に対する増殖応答やIFN-g産生に対して促進的に働くことを明らかにし、コウリャン色素の免疫機能食品としての可能性を見出した。本研究では、コウリャン色素の作用機構の解明を試みるべく、コウリヤン色素の作用スペクトルと作用成分の同定、およびin vivoでの効果について検討を行った。コウリャン色素は、マウスの全身免疫系リンパ球と同様、粘膜免疫系のリンパ球であるパイエル板細胞に対しても増殖促進効果を示した。また、マウスのみならずヒトの抹消血リンパ球においても増殖促進効果を示した。次にHPLCを用いてコウリャン色素を分離し、マウスリンパ球増殖に対する影響を検討した。その結果、親水性の高いフラクションにB細胞増殖能が、比較的疎水性の高いフラクションにT細胞増殖活性能が認められた。またコウリャン色素中の色素成分であるフラボノイド類が、マウスリンパ球の増殖に与える影響について検討を行ったところ、apigenin、apigeninidin、luteolinidin、luteolinにおいてリンパ球増殖促進効果が認められた。しかしこれらの効果は、コウリャン色素よりも弱く、コウリャン色素のリンパ球増殖促進効果は、これらのフラボノイド類の複合効果である可能性が示唆された。さらに、抗原特異的な刺激に対するT細胞応答が低下しているために起こると考えられているガン生着に対して、コウリャン色素の抗原特異的なT細胞増殖を促進するという特性が、抑制的に機能しうるかについて検討を行った。その結果、コウリャン色素はC57BL/6マウスにおけるEL細胞の生着を抑制することは出来なかった。腫瘍免疫系に対するコウリャン色素の効果については、今後さらなる検討が必要であると考えられた。
8-16
ハーブ等天然添加物からの大腸発癌抑制物質スクリーニング
星薬科大学薬品分析化学教室 吉村 吉博
ヒトがんの原因として注目されている2-amino-1-methyl-6-phenylimidazo[4,5-b]pyridine (PhIP)はラットの大腸、前立腺、膵などにDNA付加体を形成すると共にこれらの臓器に発がん性があることが知られている。そこで今回、植物中に広く分布し、抗酸化作用を有するシアニジン(Cyanidin-3-glucoside:Cy)、アセトシド(Acctoside:Ac)、およびロズマリー酸(Rosemaric acid:Ro)とPhIPをそれぞれ単独あるいはPhIPと併用で2週間ラットに投与し、PhIP発がんに対する化学予防作用についてPhIP-DNA付加体形成および細胞増殖活性を指標として検索した。その結果、PhIP-DNA付加体形成はPhIPと、5%シアニジンの併用投与群で近位大腸及び膵腺房細胞、5%ロズマリー酸の併用投与群で近位大腸、遠位大腸及び腹部前立腺で有意な抑制が認められ、さらにこれらの臓器ではBrdUによる細胞増殖活性も抑制された。従って、これらの物質によりPhIPによる大腸、膵や前立腺発がんが抑制される可能性が強く示唆された。
8-17
アントシアニン生合成酵素遺伝子の強化による色素生産
東京大学大学院農学生命科学研究科 山川 隆
共同研究者:静岡県立大学薬学部 野口 博司
ムラサキイモ(アヤムラサキ)の生産するアントシアニン色素生合成能力を強化するために、アントシアニン生合成経路上の酵素、ジヒドロフラボノールレダクターゼ(DFR)に注目し、山川紫のDFR遺伝子を大腸菌で過剰発現させて得られた酵素タンパク質を解析し、この遺伝子のサツマイモへの導入を試みた。大腸菌で発現したタンパク質の酵素活性は検討中であるが、Agrobacterium rhizogeneを用いて山川紫のDFR遺伝子のサツマイモ毛状根への導入を試みたところ、DFR遺伝子が導入されたと思われる毛状根が16系統得られた。
8-18
遺伝子工学・細胞工学的手法を活用したポリフェノールの
機能性・安全性評価
岐阜大学農学部 長岡 利
大豆イソフラボンは、化学構造がエストロゲンと類似しておりエストロゲン作用をもつことから、種々のガン、骨粗鬆症などに対する好影響が注目されている。抗動脈硬化因子であるアポリポタンパク質A-I(ApoA-I)レベルは、エストロゲンなどのホルモンによって変動することが知られており、大豆イソフラボンにも同様な活性が期待される。しかし、ApoA-I遺伝子発現に対する大豆イソフラボンの影響は、ほとんど検討されていない。そこで本研究では大豆イソフラボンであるゲニステインを用い、ApoA-IとApoA-I mRNAレベルに与える影響、及びその作用メカニズムについて検討した。HepG2細胞へのゲニステイン添加により分泌されたApoA-Iは、対照と比べて有意に上昇した。また、ApoA-I mRNAレベルの上昇傾向が見られた。エストロゲン受容体(ER)a発現プラスミドを導人したHepG2細胞へのゲニステイン添加によりApoA-I遺伝子転写活性は、対照と比べて有意に上昇した。しかし、エストロゲン受容体(ER)b発現プラスミドを導入したHepG2細胞へのゲニステイン添加によりApoA-I遺伝子転写活性は、対照と比べて有意な変化は見られなかった。これらの結果から、HepG2細胞において、ゲニステインはエストロゲン受容体(ER)aを介してApoA-I mRNAレベルを上昇させることにより、ApoA-Iレベルを上昇させることを初めて明らかにした。
8-19
抗酸化性を有する天然食用色素の酸化的変化とその制御研究
徳島大学総合科学部 増田 俊哉
天然食用色素にフェノール系物質が多いことに着目し、 その抗酸化性を測定し、 そのうち強力な抗酸化性を示した色素について、 抗酸化性と抗酸化反応に伴う呈色の変化について解析を行った。 今年度は抗酸化反応において比較的呈色の安定性の認められたウコン色素の主成分であるクルクミンを用いて詳細な解析を行った。 クルクミンの脂質に対する抗酸化反応における安定性生物のHPLC分析ならびに反応物の精製単離、 および単離物質の構造解析の結果から、 クルクミンの抗酸化反応機構を新たに提唱した。 加えて、 クルクミン呈色の安定性に関して、 クルクミン由来の抗酸化反応物の色素としての機能の保持がクルクミン色素の安定性に寄与していることを示唆した。
8-20
乳化性海苔ポルフィランの脂質結合
東京農工大学農学部 高橋 幸資
乾海苔をオートクレーブ処理してポルフィランを抽出し、エタノール沈澱およびサイズ排除クロマトグラフィーを行って、タンパク質を含まない精製ポルフィラン標品を調製した。精製ポルフィランを用いて調製したO/Wエマルションの水相中のポルフィラン含量を定量した結果、油滴界面にポルフィランが結合することが示された。また、エマルション水相にトルイジンブルーを加えて吸収スペクトルを測定した結果、ポルフィランとトルイジンブルーの複合体形成によるgピークが減少し、遊離型のaピークおよびbピークが増加したことから、ポルフィランの油滴界面への吸着が支持された。
8-21
食品用乳化剤を用いた未利用食品タンパク質の高機能化
-常温下でのゲル形成能の探索とその機構解析-
日本大学短期大学部 太田 尚子
(共同研究者:日本大学生物資源科学部 杉本幹雄、前川裕一、同短期大学部 堀内章弘)
ゴマ13Sグロブリンやb-ラクトグロブリンのような幾つかの食品タンパク質を用いて、その加熱誘導ゲル形成に及ぼす脂肪酸塩添加の影響を調べた。ゴマ13Sグロブリンはカプリン酸塩やラウリル硫酸ナトリウムの添加によって柔らかな保水性の高いゲルを形成することを見出した。一方、ゴマ13Sグロブリンやb-ラクトグロブリンはシュークロースモノラウレートやDK-エステルの添加ではそれぞれのコントロール(無添加)に類似したテクスチャーを有するゲルを形成した。これらの結果から、ゲルの保水性はイオン性の脂肪酸誘導体の添加によって増加することが示唆された。また、b-ラクトグロブリンは食品添加物(0.1M以下のキャロットパウダー)の添加によって加熱処理によりコントロールに比べ柔らかく保水性の高いゲルを形成することが判った。FT-IR分光分析によりこの際のタンパク質二次構造変化を調べたところ、ゲルのテクスチャーと分子間b-シートの増加量に相関性が見られた。更に、ゴマ13Sグロブリンや米g-グロブリンは脂肪酸塩添加と24時間以上の室温(25℃)でのインキュベーションにより凝集物を形成し得る現象が新たに観察された。
8-22
ラジカル捕捉、抗酸化活性を指標とした機能性物質の
効率的生産系システムの開発
東洋大学生命科学部 藤伊 正
べニアズマ及びタネガシマムラサキの2種サツマイモの生及び蒸かした試料に対して、各々の皮及び皮以外の食用部分に切り分け、ラジカル捕捉活性を測定した。その結果、タネガシマムラサキの皮において、生及び蒸かした試料共に顕著なラジカル捕捉活性(1mg/mL試料.において34.7及び26.1%)が認められた。また、ベニアズマ(皮:赤色、食用部分:クリーム色)及びタネガシマムラサキ(皮:白色、食用部分:深赤色)において、アントシアニン系色素とラジカル捕捉活性との関連を調査した結果、色素形成と活性との間に関連はなく、両試料共に皮部分に高いラジカル捕捉活性が認められた。また、アヤムラサキ及びタネガシマムラサキの培養シュートから毛状根を誘導したところ、タネガシマムラサキ培養シュートから色素を生産する毛状根は得られなかったが、アヤムラサキ培養シュートからは、薄桃色の毛状根が2クローン得られた。さらに、これら2クローンについて色素形成している及び形成していない部分に分けてラジカル捕捉活性を調査したが、色素形成に関係なく、クローン2の方が高い活性が得られ、クローンによる活性の差が確認された。
ムラサキ培養シュートにおいては、エチレンが色素生産に関与している可能性が示唆されたため、シコニン形成に対するエチレンの効果を検討した。培養容器にエチレンを添加するとシュートのシコニン誘導体含量は、コントロールと比較して優位に上昇した。エチレン阻害剤AgNO3またはAVGを添加して培養した結果、各阻害剤でシコニン誘導体の含量はコントロールと比較して低い値を示した。これらの結果より、エチレンがシコニン生産を誘導する因子の1つであることが判明した。
8-23
HPLCによる過酸化水素分析法の開発とその応用
静岡県立大学食品栄養科学部 熊澤 茂則、中山 勉
過酸化水素を選択的に感度良く分析するため、電気化学検出器(ECD)を用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法を開発した。この分析法を、エピカテキン(EC)、エピカテキンガレート(ECg)、エピガロカテキン(EGC)、エピガロカテキンガレート(EGCg)などの茶カテキン類の酸化において生成する過酸化水素の定量に応用した。過酸化水素の生成量はカテキン類の化学構造、pH、温度、インキュベーション時間に依存した。EGCやEGCgなどのガロカテキン類では、B環のガリル基が、過酸化水素生成に寄与していた。スーパーオキシドディスムターゼ(SOD)はガロカテキン類の酸化を抑制し、過酸化水素生成も抑制した。チャイニーズハムスターV79細胞を用いたコロニー形成法では、ガロカテキン類はECやECgよりも高い細胞毒性を示した。ガロカテキン類の細胞毒性はカタラーゼやSODで抑制された。これらの結果から、ガロカテキン類はスーパーオキシドによって酸化されて過酸化水素を生成し、それらの細胞毒性効果は過酸化水素の生成によるものと考えられた。
8-24
卵黄、大豆および牛乳由来ホスホペプチドの抗菌、抗ウィルス性および
新規食品添加物としての応用の可能性
鳥取大学教育学部 中村 宗一郎
安全な食品由来の抗菌、抗ウィルス剤を開発するために、卵黄、大豆および牛乳カゼイン由来のホスホペプチドを調製し、サルモネラ菌(Salmonella enteritidis)およびロタウィルス(Rotavirus Wa 株)に対する効果を調べた。さらに食品への応用を考えて、メイラード反応の初期に起こるシッフの塩基形成反応を利用して平均分子量15,000のガラクトマンナンを用いて多糖修飾し、同様の実験を行なった。その結果、すべてのホスホペプチドおよびそれらの多糖修飾体は、サルモネラ菌およびロタウィルスに対して優れた抗菌、抗ウィルス性を示すことが明らかにされ、それらの効果は、多糖修飾によって上昇することが示された。また、多糖修飾によって、すべてのホスホペプチドにおいて、分子表面機能特性が上昇することが示された。卵黄、大豆および牛乳カゼイン由来のホスホペプチドおよびそれらの多糖修飾体の食品衛生学的安全性を変異原性試験によって調べたところ、すべて陰性であることが示された。以上のことから、今回調製されたホスホペプチドおよびそれらの多糖修飾体は、安全な食品素材として応用することの可能性が示唆された。
8-25
醗酵肉製品における微生物スターターの活性保持におよぼす
アミノ酸関連化合物の影響
帯広畜産大学畜産学部畜産化学科 関川 三男
本研究では、醗酵肉製品用のスターターとして用いられているStaphylococcus carnosus およびPediococcus acidilactici を供試菌として食塩による生育阻害に対するアルギニン等の作用を検討した。MRS液体培地に食塩あるいはアルギンニンを添加して振盪培養を行うと、培養後の培地pH、硝酸塩還元活性およびタンパク質分解活性には差が認められなかった。しかし、生菌数はアルギニンの添加で食塩による低下が軽減され、特にSta. carnosusで著しかった。
添加したアルギニンは両供試菌によって代謝され培地中の含量は低下し、特に、Sta. carnosusでは枯渇した。しかし、食塩あるいはアルギニンの添加は乾燥菌体のアミノ酸組成に大きな影響を与えなかった。
走査型電子顕微鏡像から、両供試菌ともに食塩の添加は菌体の膨化、凝集を促し、アルギニンの添加によってP. acidilactici では、この傾向が低減し、Sta. carnosusでは、さらに菌体表面に皺様の構造が観察された。
以上の結果から、今回用いた供試菌において添加したアルギニンは確実に資化され形態に影響を及ぼし、食塩による生育阻害に対してアルギニンは緩和的に作用するものと考えられた。
8-26
香味料有効成分の配糖化 ~第二報~
岡山理科大学理学部基礎理学科 浜田 博喜
香味料有効成分へのグルコシル化を行い、水浴性を高めるなど、有用かつ高機能な新規香味料を創製することを本研究の目標として、植物培養細胞の優れた物質変換能力を応用し、チモール及びカルバクロールの効率的な配糖化に成功した。
8-27
難消化性多糖類の適正、適格な使用のモデル系の作成
武庫川女子大学生活環境学部 大鶴 勝
(共同研究者:松浦寿喜、升井洋至、竹田由里、堀尾拓之)
市販されている多精類を食した時、糞量や糞水分率の増減、糞に含まれる脂質が多糖類の種類によってどのように変化するのかを調べる為に、市販17種の多糖類についてラットに投与した時の糞量の変化、糞水分率の変化、糞脂質含量、糞ミネラル含量及び血液中の脂質成分に対する影響を調べた。
使用したラットはSD系雄ラットで、1群5匹としてコントロール食を基本として、それに多糖類を5%混ぜて1週間自由に摂食させた。実験食投与期間終了の最後の3日間の摂食を測定するとともに、糞を採取して糞中の脂賃成分を分析した。
使用した多糖類は、カラギナン(3種)、アルギン酸、ロガストビーンガム、グアーガム、アラビアガム、トラカントガム、カラヤガム、ペクチン、キサンタンガム、ジェランガム、大豆多糖類、セルロース、グルコマンナンである。
糞中中性ステロール値は海藻抽出物でやや高値を示し、胆汁酸は海藻抽出物を中心に殆どが高値を示した。糞中ミネラル、特にNa+、K+は海藻抽出物で高値を示した。
8-28
三栄源食品化学研究振興財団 特定研究
食品中の食品添加物分析法の開発及び改良に関する研究
武庫川女子大学薬学部 星薬科大学 愛知県衛生研究所 神奈川県衛生研究所 横浜市衛生研究所 武庫川女子大学薬学部 三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 神戸市衛生研究所 埼玉県衛生研究所 大阪府立公衆衛生研究所 大阪府立公衆衛生研究所 |
伊藤 誉志男 中澤 裕之 岡 尚男 岸 弘子 笹尾 忠由 扇間 昌規 中村 幹雄 浜野 孝 堀江 正一 堀 伸二郎 山崎 勝弘 |
1. LC/PDA/MSを用いた食品中ベニバナ黄色素の分析
本研究では、黄色系天然色素に注目し、新たな分析法の構築を目指している。黄色系天然色素は、主に飲料、菓子、カレー、漬物等に利用され、需要も増加傾向にある。主な色素は、カロチノイド系クチナシ黄色、フラボノイド系ベニバナ黄色、ジケトン系ウコン色素が挙げられる。そこで、本年度は、フラボノイド系ベニバナ黄色素に着目し、液体クロマトグラフィー(LC)法を利用た新規分析法を検討した。
2. 逆相TLC/スキャニングデンシトメトリーによる食品中の赤キャベツ色素の分析
食品中の赤キャベツ色素を簡便迅速に同定するため、逆相TLC/スキャニングデンシトメトリーによる分析法を検討した。TLCプレートは逆相C18を用い、展開溶媒としてアセトニトリル-0.2mol/Lトリフルオロ酢酸=1:2を使用することにより、赤キャベツ色素は4つのスポットに分離し、その主スポットのRf値は0.39と0.34であった。この条件で分離したTLC上の主スポットにスキャニングデンシトメータを用いて、可視部吸収スペクトルを測定したところ、良好なスペクトルが得られた。市販の食品をC18カートリッジにより精製し、逆相TLC/スキャニングデンシトメトリーを適用したところRf値は良好な再現性を示し、そのスペクトルは標準品のそれと完全に一致した。このことから本法は、赤キャベツ色素の分析に有効であることが明らかとなった
3. 液体クロマトグラフィー/質量分析法を用いた食品中の赤キャベツ色素分析法の開発
LC/MSを用いた食品中の赤キャベツ色素の分析法を検討した。赤キャベツ色素は疎水性の異なる多くの成分から構成されていることからグラジエント溶出法を採用した。移動相のpHが中性付近であると、分離カラムへの保持が十分でないことから、0.2%ギ酸-アセトニトリル系を移動相に用いることにした。イオン化モードは、赤キャベツ色素は極性が高いこと、及び酸性条件下ではプラスにチャージしていることからエレクトロスプレーイオン化(ESI)、positiveモードとした。本条件により赤キャベツ色素の主要成分であるRC-1、RC-2、RC-3の分子イオン(M+)が感度良く検出された。前処理には、ギ酸水溶液で抽出後、 OASIS HLBカートリッジを用いてクリーンアップする方法を採用した。本法による赤キャベツ色素主要成分(RC-1、RC-2、RC-3)の添加回収率は、清涼飲料中に50 ppm相当添加時において86.2-93.5%であった。
4. HPLC法によるステビア抽出物、ステビア末及びカンゾウ抽出物の分析法
既存添加物リストに収載されているステビア(ステビア抽出物、ステビア末)及びカンゾウ(カンゾウ抽出物)は、代表的な天然甘味料で併用されている例も多い。平成13年度は、食品中のステビア及びカンゾウの高速液体クロマトグラフィーを用いた系統的な分析法を検討した。
5. キャピラリー電気泳動を用いたコチニール色素・ラック色素の分析法の検討
キャピラリー電気泳動(CE)を用いたコチニール・ラック色素の、日常業務に適した分析法を検討した。
15mmol/L Na2B4O7 緩衝液(pH9.2) だけではピーク形状が崩れたが、2mmol/L EDTA-2Naを加えて分析を行なったところ、コチニール色素とラック色素は7分以内に泳動され、分離した。
0~500ppmにおいて直線性は良好で、検出下限は10ppmであった。添加回収実験を行ったところ回収率は50~60%であった。
アルカリ下で両色素の吸光度が低下したため、回収率を低くする原因の一つとしてアルカリの影響が考えられた。
6. キャピラリー電気泳動によるモナスカス色素の分析
キャピラリー電気泳動によりモナスカス色素の分析を行った。モナスカスは多成分1)のためメーカーごとに成分及び比率が異なる。そのため25mMリン酸緩衝液で泳動しても単一ピークにならなかったが,主ピークは認められた。また分析条件を検討した結果,ピーク形状は泳動液の種類・濃度に依存せずpHで若干の改善が見られた。泳動液にSDSを添加した場合,単一のピークを得られた。
検量線は色価0.1~1の範囲で良好であった。しかし実際の食品中から抽出して測定する場合は感度に問題があると思われた。
7. HPLC法による食品中のペプシンの分析法
ペプシンは、たんぱく質分解酵素として食品工業を始め、様々な分野で利用されており、酸性領域で活性を示すプロテアーゼとして既存添加物名簿に記載されている。今回、高速液体クロマトグラフィ-(HPLC)による食品中のペプシンの測定法を検討した。
8. GLCによる結晶セルロースと粉末セルロースの分析法
結晶性セルロースと粉末セルロースはセルロースの1種であるので、分析はセルロースの測定法を確立することであるいえる。セルロースはグルコース残基がβ-1、4 グリコシド結合した直鎖状の多糖類であり、分子の重合度は3000-10000位といわれている。セルロースは植物細胞壁を構成する主要成分であるため、結晶性セルロースや粉末セルロースとして添加されたものだけでなく、もともと食品に含有されている物質でもある。セルロースは不溶性食物繊維として知られており、分析法としては食物繊維として重量を測定する方法や加水分解を行った後、グルコースを測定する方法がある。また、構成糖であるグルコースの測定法としては他の単糖類とともに液体クロマトグラフ(HPLC)やガスクロマトグラフ(GLC)で分別定量する方法がある。そこで前処理としては食物繊維の測定法1)を参考にして、食品のデンプン、タンパク質を酵素で分解し、水溶性物とした後、ろ過によりセルロースと分別することとした。セルロースの定量法としては、セルロースを硫酸による加水分解でグルコースに分解し、グルコースを誘導体化し、その誘導体をGLCにより測定する方法を用いることとした。
9. HPLC法による植物タンニンの分析法
食品中からの植物タンニン(タンニン酸)の簡便で迅速な分析法を検討した。まず、C18カートリッジを用いた固相抽出による前処理法を検討し、さらにHPLCによる分析条件について検討した。この方法を用いて食品にタンニン酸を添加し、回収率を検討した結果、キャンディー、ドロップ、ゼリー等では非常に良好な回収率が得られたが、油脂や脂肪分が多いプリン、アイスクリームでは低い回収率であった。
10. 自動アミノ酸分析計によるアミノ酸の分析法
アミノ酸は一般に調味料及び強化剤として、非常に多くの食品に使用されている。今回、アミノ酸21種類(中性アミノ酸:グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、スレオニン、シスチン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、プロリン、ヒドロキシプロリン、アスパラギン、グルタミン、酸性アミノ酸:アスパラギン酸、グルタミン酸、塩基性アミノ酸:アルギニン、リジン、ヒスチジン)について、自動アミノ酸分析計を用いた食品からの分析法を検討した。
11. 旋光度検出器を用いたHPLC法によるアラビアガムの分析法の開発
アラビアガムは,マメ科アラビアゴムノキ(Acacia senegal Willdenow)又はその他同属植物の分泌液を乾燥して得られたもの,又はこれを脱塩して得られたものをいう。多糖たん白複合体で構成され,他のハイドロコロイドに比べ低粘性,水に高濃度に溶解するという特性がある。食品中においては,精油や油脂等の乳化剤及び粉末化基剤等に用いられている。
アラビアガムに関する分析法は,GPCを用いた分析法が既に報告されているが,食品中からのアラビアガムの分析法は報告されていない。本研究では,アラビアガムが旋光性を有することを利用し,食品中からのアラビアガムの分析について施光度検出器付き高速液体クロマトグラフ法(HPLC/ORD)により検討した。