第27回研究成果報告書(2021年)

研究成果報告書 索引〕 

当財団の研究助成(2020年度)による研究成果報告書の抄録

抄録 No.

研究課題

研究者(複数の場合は代表者)

27-01

トランス脂肪酸の腸 - 肝連関を介した2 型糖尿病発症機構の解明-統合オミクス解析を用いて- 岡村 拓郎
京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌代謝内科学

27-02

食品における酸化防止剤の能力を評価する方法の実用化に向けた発展研究 長岡 伸一
愛媛大学理学部化学科構造化学研究室・理工学研究科環境機能科学専攻

27-03

食品添加物クルクミンによる体内時計の調節機構の解明 平山 順
公立小松大学保健医療学部 臨床工学科

27-04

既存食品添加用色素を用いた胚移植の操作性及び視認性の向上 今井 啓之
山口大学共同獣医学部獣医解剖学教室

27-05

フコキサンチン添加ビスケットによるマウス大腸腫瘍微小環境抑制制御機構の解明 寺崎 将
北海道医療大学薬学部

27-06

新規サル消化管オルガノイドを用いた食品添加物が消化管上皮に与える影響の解析 岩槻 健
東京農業大学応用生物科学部食品安全健康学科

27-07

食品中のアクリルアミド生成の低減化を目指した調理加工条件に関する研究 鍋師 裕美
国立医薬品食品衛生研究所 食品部

27-08

固体 NMR を用いたクチナシ青色素の構造解析 堤内 要
中部大学 応用生物学部 応用生物化学科

27-09

メダカ非アルコール性脂肪肝炎(NASH)モデルを用いた食品由来 PPAR リガンド成分と治療薬の同時摂取による効果の評価 内田 雅也
有明工業高等専門学校創造工学科

27-10

qNMR 外部標準法によるアントシアニンの定量分析値の信頼性の向上 西﨑 雄三
国立医薬品食品衛生研究所 食品添加物部

27-11

食品添加物として使用されるフラボノイドによる選択的スプライシング制御機構の解明 増田 誠司
京都大学大学院生命科学研究科分子応答機構学

27-12

新規エキソ型アルギン酸リアーゼを活用した新しいアルギン酸定量法の開発 柴田 敏行
三重大学 大学院生物資源学研究科 生物圏生命科学専攻
三重大学海藻バイオリファイナリー研究センター

27-13

グリセロホスホコリンの吸収、および体内代謝に関する解析 矢中 規之
広島大学大学院統合生命科学研究科

27-14

食品添加物 ε- ポリ -L- リジンの細胞周期阻害による抗真菌活性発現機構の解明 井上 善晴
京都大学大学院農学研究科 応用生命科学専攻

27-15

人工甘味料が免疫組織・免疫細胞の機能に与える質的量的影響の解析 小野寺 章
神戸学院大学薬学部

27-16

食品中化学物質に対する三次元培養組織を用いた安全性評価系の確立に向けた動物試験による安全性評価成績との比較検討 美谷島 克宏
東京農業大学 応用生物科学部 食品安全健康学科

27-17

ミョウバンによる腸管上皮損傷に伴う炎症・アレルギー誘導性損傷関連分子の放出の解析と免疫学的安全性評価の検討 若林 あや子
日本医科大学微生物学・免疫学教室

27-18

老齢マウスを用いた抗癌剤治療時におけるアルギニン摂取の重要性検証と体内動態・組織分布評価 小谷 仁司
島根大学医学部

27-19

食品由来高極性成分の定量法の開発と血中動態解明への展開 大嶋 直浩
国立医薬品食品衛生研究所 生活衛生化学部

27-20

食品包装開封後における食品添加物の安定性に関する基礎的研究 平原 嘉親
摂南大学農学部食品栄養学科

27-21

米飯の食中毒菌による汚染量がグリシンの効果に与える影響及びグリシンと併用可能な微生物抑制法の探索 筒浦 さとみ
新潟大学 研究推進機構 超域学術院

27-22

哺乳類嗅覚応答システムを模倣したフレーバー客観的評価技術開発 福谷 洋介
東京農工大学 大学院工学研究院生命機能科学部門

27-23

ミカン属植物に含まれるシネフリンおよび類縁アルカロイドの定量分析 辻本 恭
東京農工大学

27-24

鉄欠乏症改善のための食品添加物の利用効果の検証とその作用機序の解明 澤井 仁美
兵庫県立大学大学院生命理学研究科

27-25

大豆タンパク質にアミノ酸栄養強化剤および増粘多糖類を添加した高齢者・病者向けプロテイン飲料の開発 中村 衣里
武庫川女子大学 食物栄養科学部 食創造科学科

27-26

ファインバブルを用いた新たな食感デザインに関する研究 秦 隆志
高知工業高等専門学校


27-01

トランス脂肪酸の腸 - 肝連関を介した2 型糖尿病発症機構の解明
-統合オミクス解析を用いて-

岡村 拓郎
京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌代謝内科学

多くの栄養学的・疫学的研究により、トランス脂肪酸の大量摂取が、心血管疾患、糖尿病、がんなど、健康に悪影響を及ぼすことが示されている。本研究では,トランス脂肪酸を多く含む食事を与えたマウスを観察することで,トランス脂肪酸が腸内の自然免疫に及ぼす影響を調べた。C57BL6/Jマウスを用い、普通食(ND)または高脂肪・高ショ糖食(HFHSD)または高トランス脂肪酸・高ショ糖食(HTHSD)を12週間与えた。マウスの便サンプルでは16S rRNA遺伝子シークエンスを、マウスの血清および肝臓サンプルではフローサイトメトリー、リアルタイムPCR、リピドミクス解析を実施した。in vitro試験にはRAW264.7細胞を使用した。HTHSDを摂取したマウスは、HFHSDを摂取したマウスと比較して、血糖値が有意に高く、脂肪肝や腸の炎症が進行していた。さらに、HFHSDを摂取させたマウスと比較して、HTHSDを摂取させたマウスは、小腸におけるCD36の発現が有意に上昇するとともに、IL-22の発現が低下していた。さらに、HTHSDを摂取したマウスでは、小腸の固有層にILC1とT-bet陽性のILC3の集団が有意に増加していた。最後に、プロテオバクテリア門に属するDesulfovibrionaceae科の相対的な存在量は、HFHSDまたはHTHSDを摂取したマウスではNDを摂取したマウスよりも有意に高く、HFHSD群とHTHSD群の間では、HTHSD群の方がわずかに高かった。本研究により、飽和脂肪酸の摂取に比べて、トランス脂肪酸の摂取は、糖尿病や脂肪肝などの代謝性疾患を有意に悪化させることが明らかになった。


27-02

食品における酸化防止剤の能力を評価する方法の実用化に向けた発展研究

長岡 伸一
愛媛大学理学部化学科構造化学研究室・理工学研究科環境機能科学専攻

食品添加物として使用されているトコフェロール類(ビタミンE類)、アスコルビン酸類(ビタミンC類)、緑茶に含まれるカテキン類など(酸化防止剤)やカロテン類(着色剤・強化剤)は、一重項酸素・フリーラジカルなどによる酸化がもたらす食品の劣化を防止するのに有用であるだけではなく、生体中の色々な組織に存在し、一重項酸素・フリーラジカルを消去するなどして細胞の老化を防いでいる。本研究では、こうした食品添加物及びそれを含む食品自体が一重項酸素・フリーラジカルを消滅させる能力を評価する実用的で汎用的な方法(Aroxyl Radical Absorption Capacity (ARAC), Singlet Oxygen Absorption Capacity (SOAC), Alfa-Tocopherol REcycling Capacity (ATREC) 測定法)の実用化を目指した。


27-03

食品添加物クルクミンによる体内時計の調節機構の解明

平山 順
公立小松大学保健医療学部 臨床工学科

体内時計は、睡眠や代謝などの多様な生理機能に観察される日周変動を作り出す生体の恒常性維持機構である。これは、生物の全身の各細胞に存在する遺伝子発現のネガティブフィードバックループ(細胞時計)が基本単位である。黄色のポリフェノール化合物であるクルクミンは、スパイスや食品添加物として利用され、特に日本では、ウコン色素として着色料に指定されている。また、生物学的な特性として、遺伝子発現を調節することが認知されている。これまでの研究は、クルクミンが細胞時計に依存する遺伝子発現を制御することを見出してきた。本研究では、このクルクミンに依存した細胞時計の制御の分子機構の解明を目指した。


27-04

既存食品添加用色素を用いた胚移植の操作性及び視認性の向上

今井 啓之
山口大学共同獣医学部獣医解剖学教室

市販の培養液は、フェノールレッドの存在により淡赤色である。これはフェノールレッドのpH指示機能を活用するためのものである。一方、これら培養液を用いて胚移植を行う場合、培養液の色調と子宮の色調が類似するために、視認性が十分でなく、操作性が低い。本研究では、既存食品添加用色素を用いて胚培養液の視認性と操作性を向上させることを目的とした。本研究において、胚培養液の機能を維持しつつ、色調を変動せしめる色素を2種類同定した。これらの候補色素を用いて現在、継続して移植液に応用可能か検討中であるとともに、適用範囲の拡大を模索している。


27-05

フコキサンチン添加ビスケットによるマウス大腸腫瘍微小環境抑制制御機構の解明

寺崎 将
北海道医療大学薬学部

フコキサンチン(Fx)は、ワカメ等の食文化経験のある褐藻類に豊富に含まれるカロテノイドの一つであり、強力な抗癌・抗肥満・抗糖尿病効果を有する。最近、Fxはその機能性付与が期待され、日本の幾つもの自治体でパイ、ショートブレッド、おこし等の多くの食品の添加物の一つとして加工開発されてきている。しかし、Fx添加食品による機能性はほとんど明らかにされていない。そこで本研究では、大腸発癌モデルAOM/DSSマウスを用いて、Fx添加ビスケットによるがん予防効果の検討を行った。その結果、Fx添加ビスケットを投与したマウスは、コントロールマウスと比べて、明瞭な大腸癌予防効果を示した。また、Fx添加ビスケットを投与したマウスの大腸粘膜組織では、増殖と炎症に関連する多くの遺伝子群を増減させた。今後、Fx添加ビスケットによるがん予防効果の作用機序を詳細に調べる予定である。


27-06

新規サル消化管オルガノイドを用いた食品添加物が消化管上皮に与える影響の解析

岩槻 健
東京農業大学応用生物科学部食品安全健康学科

消化管は栄養素を消化・吸収する機能の他に、バリア機能、免疫機能、ホルモン分泌機能など様々な機能を有する器官である。それぞれの機能は高度に分化した消化管上皮細胞が担っているが、その中でも内分泌細胞は栄養素に反応し消化管ホルモンを分泌し、生体恒常性の維持に重要な役割を果たす。これまでの研究から、消化管に糖が流入するとそれを察知した内分泌細胞がインクレチン等を分泌し、血中のグルコース濃度をコントロールすることが知られている。最近、低カロリー嗜好の消費者が増え、高甘味度甘味料と呼ばれる砂糖の代替物が甘味料として多用されるようになった。しかしながら、これらの高甘味度甘味料が消化管内分泌細胞に及ぼす影響については、ほとんど研究されていない。そこで我々は、食品添加物として使われるサッカリン、アスパルテーム、スクラロースなどの高甘味度甘味料が消化管上皮細胞に及ぼす影響について、マウスおよびサル由来の消化管オルガノイドを用い解析することを目的とした。
現在までに、マウスの消化管オルガノイドはスクラロースに反応して内分泌細胞への分化が促進することが明らかとなっている。サルではスクラロースの影響を受けないという結果になった。


27-07

食品中のアクリルアミド生成の低減化を目指した調理加工条件に関する研究

鍋師 裕美
国立医薬品食品衛生研究所 食品部

アクリルアミド(AA)の生成抑制につながる調理加工条件の探索を目的として、フライドポテトにおける水さらしのAA生成抑制効果を検討した。常温水、温水、食酢水等を用いた水さらしの後、通常の揚げ調理(電気フライヤーでの加熱)および熱風循環による加熱調理(エアフライヤーでの加熱)によって生成したフライドポテト中のAA濃度をLC-MS/MS法で測定した結果、どちらの加熱方法においても、「水さらしなし」と比較して「水さらしあり」のフライドポテトでAA生成抑制効果が認められた。また、水さらし時間を延長することや、水さらし時間が同じ場合でも水交換の実施や温水、食酢水、食塩水を使用することによって、より効果的にAA生成を抑制できることが示された。一方、エアフライヤー加熱は、加熱ムラができやすく、高温・長時間の加熱となることから、フライドポテト中のAA濃度が電気フライヤー加熱よりも高くなった。さらに、油を使用しないエアフライヤー加熱では、油を使用した場合より顕著にAA濃度が高くなることが明らかとなり、エアフライヤー加熱(特にノンフライ調理)においては、通常の揚げ調理よりAA生成量が多くなる場合があることに注意が必要と考えられた。


27-08

固体 NMR を用いたクチナシ青色素の構造解析

堤内 要
中部大学 応用生物学部 応用生物化学科

ゲニピンを各種アミノ酸と反応させてクチナシ青色素(GB)を調製し、これらのアミノ酸を有するGB(GB-AAs)の特性解析を液体と固体の核磁気共鳴(NMR)スペクトル測定を用いて行った。溶液とした試料の液体NMRではほとんどピークを確認できなかったが、興味深いことに、固体NMRのスペクトルでは明確なピークを数多く確認することができた。それゆえ、我々はGB-AAsの分子構造をメチンと5H-2-ピリンジンとの交互共重合体(5H-2-ピリンジンのN原子の部位にアミノ酸が置換し、5位と7位でメチンと結合)であると決定した。この分子構造を確認するために、GB-AAsの熱分解ガスクロマトグラフィー-質量分析(GC/MS)を行った。その結果、ポリマー鎖の主な熱分解生成物として5H-2-ピリンジンとそのメチル化誘導体を確認することができた。さらに、GBの分子構造が青の呈色に合理的なものであることを確認するため、時間依存密度汎関数理論(TDDFT)を用いた紫外-可視(UV-Vis)吸収スペクトルの計算を行った。


27-09

メダカ非アルコール性脂肪肝炎(NASH)モデルを用いた食品由来 PPAR リガンド成分と治療薬の同時摂取による

〇内田 雅也 1、石橋 弘志 2、平野 将司 3、山元 涼子 4
1 有明工業高等専門学校創造工学科
2 愛媛大学大学院農学研究科生物環境学専攻
3 東海大学農学部バイオサイエンス学科
4 弘前大学農学生命科学部食料資源学科

近年、生活習慣病として脂質異常症、糖尿病および非アルコール性脂肪肝炎(NASH)などの罹患者数が増加している。それらの予防や改善を期待した機能性食品の評価が求められているが、実験動物の削減や代替試験法の開発が急務の課題となっている。そこで本研究では、メダカNASHモデルを用いて、食品機能研究におけるメダカの代替モデル生物としての可能性を検討した。8週齢のメダカに高脂肪食(HFD)を12週間給餌したところ、体重、肝重量および肝臓重量指数(HSI)の有意な増加が見られた。肝臓の組織学的観察から、NASH発症には至っていなかったものの、脂肪肝の形成が確認された。そこで、機能性成分が脂肪蓄積を調節するメダカ ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体(PPARγ)に作用するかを調べるため、in vitroレポーター遺伝子アッセイによってメダカPPARγを介した転写活性化能を測定した。その結果、レスベラトロールはヒトPPARγにおける作用濃度と同程度でメダカPPARγを活性化することが確認できた。以上から、代替モデル生物としての有用性を評価する基礎知見を得た。今後は、効率よくNASH発症させるためのHFD投与条件の検討、作出したモデルを用いて、食品由来PPARリガンド成分/治療薬の単独/複合摂取を行い、その効果を実証する予定である。


27-10

qNMR 外部標準法によるアントシアニンの定量分析値の信頼性の向上

西﨑 雄三
国立医薬品食品衛生研究所 食品添加物部

外部標準法定量NMR(EC-qNMR)によるアントシアニンの絶対純度算出法について検討した。試薬会社から販売されているシアニジン塩化物(Cy塩化物)及びシアニジン3-グルコシド塩化物(Cy3G塩化物)をモデル試料として、測定溶媒の最適化を行った。最適化した測定溶媒を用いて、Cy塩化物6試料及びCy3G塩化物7試料に対して、EC-qNMRを実施したところ、試料間で約25%程度の純度差が確認された。このうち、純度が低かった試料では、Cl含量が他の試料よりも高いことが、イオンクロマトグラフィーにより明らかとなった。このことから、アントシアニン純度が低かった試料では、塩化物化する際に、過剰なClが最終製品に移行したと考えられた。算出したEC-qNMR純度を用いて、各試料中のアントシアニン濃度を補正し、LC-PDAにおける絶対検量線を作成したところ、それぞれの検量線は互いに近似した。そのため、本研究で算出したEC-qNMR純度は、正しい純度を算出していることが支持された。検討した試料のうち、最も高いEC-qNMR純度は、Cy塩化物が96.0%、Cy3G塩化物が91.9%で、残りの成分は水分であることが、Cy塩化物及びCy3G塩化物の水分吸脱着分析により示唆された。


27-11

食品添加物として使用されるフラボノイドによる選択的スプライシング制御機構の解明

増田 誠司
京都大学大学院生命科学研究科分子応答機構学

近年、抗ガン剤の創薬ターゲットとしてmRNAのスプライシング過程が注目されている。食品成分にはmRNAのスプライシングを制御できる化合物がいくつも見出されているが、これまで詳細な分子メカニズムの解析は行われていなかった。そこで、食品化合物によるスプライシング制御のメカニズムを解析すること、その解析を通して新たに見出される食品化合物によるスプライシング制御機構を解明する基本解析手法を提示することを目的とした。次世代シーケンサーと選択的スプライシング解析ツールであるrMATSによるスプライシング変化の解析に続いて、イントロン長、GC含量、5'および3'スプライスサイトスコア、分岐点配列スコアなどの特性を解析することは、食品化合物による選択的スプライシングの分子メカニズムを解析するのに有効なツールであることが示された。


27-12

新規エキソ型アルギン酸リアーゼを活用した新しいアルギン酸定量法の開発

柴田 敏行
三重大学 大学院生物資源学研究科 生物圏生命科学専攻
三重大学海藻バイオリファイナリー研究センター

4-Deoxy-L-erythro-5-hexoseulose uronic acid(DEH)は、アルギン酸からエキソ型アルギン酸リアーゼ(Exo-Aly)の作用によって生じる単糖である。DEHは,アルギン酸以外のグリクロナンからは生じないため、アルギン酸のスタンダードとなりうる唯一の化合物と考えることが出来る。この研究では、新規Exo-Aly(AlyFRB)を用いたアルギン酸のDEHへの分解とLC/MSによるDEHの定量を組み合わせたアルギン酸の新しい定量分析法を開発することを目的としている。海洋細菌Falsirhodobacter sp. alg1由来のExo-Aly(AlyFRB)のリコンビナントタンパク質(rAlyFRB)を調製し、アルギン酸(ポリマンヌロン酸)の完全分解のために必要な酵素反応の条件を確立した。rAlyFRBは、増粘多糖類(ペクチン、-カラジーナン、カルボキシメチルセルロースナトリウム)の共存下でも、アルギン酸をDEHへと完全に分解出来ることが分かった。市販のアルギン酸ナトリウム入り飲料(特定保健用食品)をサンプルとした試験を行い、rAlyFRBによる酵素反応とLC/MSを用いたDEHの定量分析法を組み合わせた方法が、アルギン酸の定量分析に適応出来ることを示した。


27-13

グリセロホスホコリンの吸収、および体内代謝に関する解析

矢中 規之
広島大学大学院統合生命科学研究科

Cholineはリン脂質膜の構成やコリン作動性神経伝達に必須の栄養素であり、適切なcholine摂取は、健康維持に必要不可欠である。しかし、近年の先進諸国におけるcholine摂取量は充足しておらず、choline不足による肝疾患や認知症の発症との関連性が指摘されている。その一方で、近年cholineの多量摂取によって心血管疾患(CVD)のリスクが上昇することが報告されている。摂取したcholineの一部は、腸内細菌叢によってtrimethylamine (TMA)に変換された後、肝臓内でtrimethylamine N-oxide (TMAO)に代謝される。血中TMAO濃度はCVDの発症との関連性が示されており、choline摂取の安全性が問題視されている。
本研究では、choline供給の栄養素材としてphosphatidylcholineが脱アシルしたglycerophosphocholine (GPC)に着目した。GPC摂取によって血中、および肝臓中におけるcholine量、およびbetaine量が上昇し、さらに、海馬におけるcholine、およびbetaine量の増加が認められた。一方、血中TMAO濃度においてもGPC摂取群において上昇傾向が認められた。
また、GPCの代謝に関与するGDE5遺伝子の活性中心をコードするexon11の両端にloxP配列を有するGDE5 floxマウスはPITCh法を用いて作出しており、消化管上皮細胞特異的にCreリコンビナーゼを発現するVil-creマウスとGDE5 flox/floxマウスとの交配を行うことでVil cre+/-, GDE5 flox/-マウスの作出を行った。Vil cre-/-, GDE5 flox/floxマウスを作成することにより、小腸、および腸管粘膜層を回収し、GPC分解活性の解析、およびGPCの吸収機構の解析を行う予定である。


27-14

食品添加物 ε- ポリ -L- リジンの細胞周期阻害による抗真菌活性発現機構の解明

井上 善晴
京都大学大学院農学研究科 応用生命科学専攻

ε-ポリ-L-リジン(ε-PL)は出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeを含む真菌に対して抗真菌活性を示す。本研究では、ε-PLの抗真菌活性が細胞周期の阻害に起因する可能性について検討した。出芽酵母の野生株ならびにmpk1∆株を用いて、ε-PL が遺伝子発現に及ぼす影響をDNAマイクロアレイ解析により行い、カテゴリー#1(野生株で発現レベルが上昇したが、mpk1∆株では上昇しなかった遺伝子群)、カテゴリー#2(野生株で発現レベルが減少したが、mpk1∆株では減少しなかった遺伝子群)、カテゴリー#3(野生株では発現レベルの変動はみられなかったがmpk1∆株で発現レベルが上昇した遺伝子群)の3群に分類した。カテゴリー#1の遺伝子群には、サイクリン依存性キナーゼCdc28の標的で、細胞周期のG1/SトランジションのStartにおける転写抑制に関与するSRL3が含まれていた。このカテゴリーの遺伝子破壊株はε-PL感受性を示したことから、mpk1依存的にε-PLの抗真菌作用に対して抵抗性を示すのに必要な遺伝子であると考えられた。カテゴリー#2には、細胞周期のS期におけるBタイプサイクリンであるCLB6や、DNA合成に必要なリボヌクレオチド還元酵素のサブユニットの主要なアイソフォームであるRNR1が含まれていた。rnr1∆株はε-PLに対して超感受性を示した。カテゴリー#3に含まれる遺伝子破壊株は、ε-PLに対する感受性に関してとくに表現型を示さなかった。ε-PLはCdc28のTyr19のリン酸化を誘導したことから、G2/Mの移行を阻害している可能性が示唆された。


27-15

人工甘味料が免疫組織・免疫細胞の機能に与える質的量的影響の解析

〇小野寺 章、荒尾 大地、水野 遥菜、河合 裕一
神戸学院大学薬学部

低カロリー甘味料として清涼飲料や菓子類に含まれる人工甘味料 ( AS: Artificial sweeteners ) は、長期・大量摂取による様々なリスクが懸念されている。本研究では免疫機能・応答への影響を明らかにすることを目的に、培養ヒト単球細胞及びアレルギー性接触皮膚炎マウスを用いた細胞機能やT細胞応答へのASの影響を検討した。国内需要量の多いASのアセスルファムカリウム(Ace K)、アスパルテーム(APM)またはスクラロース ( SCL )をヒト単球細胞へ一定期間曝露すると、増殖能・貪食能が低下した。動物実験ではアレルギー性皮膚炎の発症過程にAPMを処置することで、本来は病態形成に関与しないCD8陽性の細胞傷害性T細胞の割合が増加した。以上の結果は、ASの直接もしくは間接的な免疫系への影響を示唆しており、免疫系細胞がどのようにASを認識するかの解明が望まれる。


27-16

食品中化学物質に対する三次元培養組織を用いた安全性評価系の確立に向けた動物試験による安全性評価成績との比較検討

美谷島 克宏
東京農業大学 応用生物科学部 食品安全健康学科

動物福祉の観点から実験動物を取り巻く環境は厳しく、香粧品業界を中心に3R原則に基づき、化学物質の安全性評価から動物実験を排除する傾向にある。一方、化合物の安全性を担保するため新規の動物実験代替法の開発・普及が世界的に求められており、食品業界も含めメカニズムに基づく試験系の確立が切望されている。
本研究では、消化管における実験動物代替法により食品成分の安全性評価を構築することを目的として、in vivo実験系で得られた消化管の毒性学的変化とin vitro実験系で観察された変化を比較検討に取り組んだ。
オルガノイドは、複数細胞種からなる特定組織をin vitroにて3次元的に構築し、生体内の組織または臓器の特徴を保持する培養システムである。これにより幹細胞から分化した組織の機能が再現され、構成細胞間、細胞及びマトリックスとの相互作用を観察することが可能とされている。具体的には、マウス腸管由来のオルガノイド培養を用いて、カビ毒の一種であるデオキシニバレノール(DON) や粘膜障害作用を有するデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)などの化学物質の影響について、オルガノイドの形態及びその形成率、腸管幹細胞の性状、粘膜関連遺伝子の発現などに注目して解析した。また、マウスにDON並びにDSSを実際に投与し、腸管粘膜への影響を評価した。これらの両実験系を比較することで、オルガノイド評価系の妥当性・有用性を明確にし、動物実験代替法として、新たな腸管機能解析につながるin vitro評価系の確立を視野に入れ検討を進めている。このうちDONの暴露については、培地中への添加並びにオルガノイド組織内へのマイクロインジェクションにより管腔側と基底膜側からの影響を比較することが可能であり、それはマウスの腹腔内投与でより顕著となった毒性所見と一致する傾向が示された。
食品中化合物の安全性について、腸管オルガノイド培養系を用いた評価により、食品に含まれる新規化合物の安全性や、新規化合物及び既存化合物との相互作用などを、速やかに評価が可能な実験系へと発展につながる成果が得られたものと考えられた。


27-17

ミョウバンによる腸管上皮損傷に伴う炎症・アレルギー誘導性損傷関連分子の放出の解析と免疫学的安全性評価の検討

若林 あや子
日本医科大学微生物学・免疫学教室

マウスを用いた研究により、ミョウバン(硫酸カリウムアルミニウム)やアンモニウムミョウバン(硫酸アンモニウムアルミニウム)のようなアルミニウム含有食品添加物を経口摂取した場合、腸管において好酸球の浸潤が誘導されることが示された。こうした好酸球性炎症の誘導には、アポトーシス関連スペック様カード蛋白質(ASC)の凝集塊であるASCスペックの形成を伴う腸上皮細胞の炎症性細胞死によるIL-33の放出が起点となる可能性がある。マウス腸上皮細胞にはASC, Casp1, Casp4, Gasdmd, Il18, Nlrc4, Nlrp6といったインフラマソーム形成や炎症性細胞死に関わる遺伝子の発現が見られ、それらは腸管オルガノイドにも発現していた。マウスおよび腸管オルガノイドを用いたミョウバン刺激による腸管上皮細胞におけるインフラマソーム形成と炎症性細胞死の分子機構の解明は、食物アレルギーや腸管炎症の発症・進行の予防に発展すると期待できる。


27-18

老齢マウスを用いた抗癌剤治療時におけるアルギニン摂取の重要性検証と体内動態・組織分布評価

小谷 仁司
島根大学医学部

骨髄由来免疫抑制細胞(MDSCs)は、担癌状態における免疫抑制に重要な役割を果たすことが知られている。MDSCsはアルギナーゼIという酵素を発現し、アルギニンを代謝することによりレベルを下げ、T細胞の分化増殖などをはじめとする機能を抑制する。本研究では、抗癌剤治療時におけるアルギニン摂取の重要性を検証するため、マウス大腸癌細胞株であるCT26およびMC38細胞を用いた担癌モデルマウスに抗癌剤治療をおこなう際に、アルギニンを摂取させることによる抗腫瘍効果の解析をおこなった。我々はこれまでに抗癌剤治療時の若齢マウスにアルギニン摂取をおこなうことで、抗腫瘍効果の増強作用を報告してきた。本年度の研究では、実臨床に近い老齢マウスを用いた検討をおこない、その結果、アルギニンの摂取は抗癌剤であるシクロフォスファミドおよび5-フルオロウラシル+オキサリプラチンの多剤併用抗癌剤治療群での治療効果を増強する傾向を示した。さらに、これらの多剤併用抗癌剤治療の効果に、免疫細胞が関与している結果が得られたため、免疫チェックポイント(PD-1)阻害抗体も併用した治療群にアルギニンを摂取させる実験をおこなったところ、アルギニンの摂取により治療効果が増強される結果が得られた。
マウスの加齢により免疫細胞の割合に変化が起きていることを考え、様々な月齢のマウスの免疫細胞組成を調べたところ、加齢とともに免疫抑制に働く制御性T細胞や免疫疲弊を起こしたPD-1+ CD4+ T細胞の割合が増加することと、naïve T細胞の割合が減り、effector/memory T細胞の割合が増加していることが明らかとなった。本研究により、加齢により免疫力が低下する結果が示唆されたが、老齢での抗癌剤治療時におけるアルギニンの摂取も、これまでに報告してきた若齢での効果と同じく、癌治療効果を高める可能性が示唆された。


27-19

食品由来高極性成分の定量法の開発と血中動態解明への展開

大嶋 直浩
国立医薬品食品衛生研究所 生活衛生化学部

食品由来成分の体内動態を理解することは、食品の機能性や安全性を考える上で重要である。本研究では、食品中のフラボン-C配糖体を含む植物抽出物をマウスに経口投与し、血清中の成分を汎用性のある高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析し、簡便な分析法の開発を行った。種々の条件で分析前処理法を検討したところ、ブタノール処理を行うことでフラボン-C配糖体であるvicenin-2のピークを検出することができ、微量の親水性化合物の定量に成功した。本研究で得られた成果は、血清中の親水性成分を安価な機器で分析できることを示したものであり、食品由来成分の体内動態評価のさらなる発展に寄与できるものである。


27-20

食品包装開封後における食品添加物の安定性に関する基礎的研究

平原 嘉親
摂南大学農学部食品栄養学科

食品包装開封後における食品添加物の有用性を把握する目的で2種類の酸化防止剤と6種類の保存料の加熱および保存中における安定性をLC-MS/MSを用いて検討を行った。水中の室温、冷蔵および冷凍条件において室温でのみbutylated hydroxytoluene(BHT)が1か月間の保存期間中に50%減少したが、他はいずれも安定であった。水中の食品添加物は、95℃の水浴中5分間および電子レンジで3分間の開放系での加熱によってBHTが100%消失したが他の添加物はいずれも安定であった。250℃のホットプレート上、1分間の加熱ですべてが減少した。このことから、焼く、炒めるなど固体表面上での加熱料理後には添加物の効果は弱まるが、ゆでる、煮るなど水中加熱や電子レンジの加熱後ではBHT酸化防止効果以外の保存料による保存効果は高く維持されることが示唆された。これらの結果から、食品包装開封後、調理や保存中に残存した食品添加物が食品の安全性確保に寄与していることが示唆された。


27-21

米飯の食中毒菌による汚染量がグリシンの効果に与える影響及びグリシンと併用可能な微生物抑制法の探索

筒浦 さとみ
新潟大学 研究推進機構 超域学術院

本研究では、米飯に黄色ブドウ球菌をはじめとした食中毒細菌及び食品の腐敗細菌を異なる濃度で接種し、菌の増殖に対する塩化ナトリウム(NaCl)や加熱処理等と併用した際のグリシンの影響について調べた。グリシンとNaClの併用では、低汚染の場合には、0.5%のグリシンを添加した米飯の保存初期にNaClの濃度依存的に黄色ブドウ球菌の菌数は減少傾向にあり、エンテロトキシンA(SEA)は検出されなかった。一方で、1%のグリシンでは、NaClに関わらず、菌の増殖を抑え、24時間後でも菌数は減少傾向でSEAは産生されなかった。続いて、加熱処理とグリシン添加による黄色ブドウ球菌の抑制効果についても調べた。加熱により106 CFU/g程度から102-3 CFU/g程度に菌数が減少し、グリシン添加により24時間のみならず、72時間後にも菌の増殖抑制効果が認められた。加熱及びグリシンの併用について黄色ブドウ球菌以外の大腸菌及び枯草菌芽胞に対する効果を確認したところ、大腸菌では十分な菌数抑制効果が認められた。枯草菌芽胞ではグリシン添加に加熱処理を併用しても菌の生育抑制効果の増強は認められなかったものの、低汚染の場合には1%のグリシンでも十分に増殖が抑制された。本研究の結果から、米飯保存時のグリシンの微生物抑制効果には、保存前の米飯の汚染度が影響することが示され、汚染度を下げることが重要であることが示された。


27-22

哺乳類嗅覚応答システムを模倣したフレーバー客観的評価技術開発

福谷 洋介
東京農工大学 大学院工学研究院生命機能科学部門

フレーバーには様々なにおい分子が混合されている。生物は複数の嗅覚受容体の応答を利用して、複雑なニオイを識別していると考えられる。本研究では、ヒト嗅覚受容体発現細胞を利用したアッセイ法により、香料に応答するヒト嗅覚受容体のスクリーニング手法の構築を行った。単一のニオイ分子として、シナモン香の主成分であるシンナムアルデヒドに対して応答するヒト嗅覚受容体の同定を行った。さらに、同定したヒト嗅覚受容体がシナモン粉末から揮発した気相成分に応答するか検証した。その結果、シンナムアルデヒドに応答を示したヒト嗅覚受容体の一部はシナモンの揮発成分にも応答した。本アッセイシステムが実用されている固体香料に対しても応用可能であることを実証した。


27-23

ミカン属植物に含まれるシネフリンおよび類縁アルカロイドの定量分析

辻本 恭
東京農工大学

本研究は、ミカン属植物に含まれるシネフリンおよび類縁物質であるアルカロイドの検出および定性定量条件の開発と、植物種およびその部位での蓄積量の違いを明らかにし、それを利用した様々なミカン加工食品、食品添加物、健康食品などからの定性定量を行い、安全性確保に資することを研究の目的とした。そのためのアルカロイド分析条件の検討、ミカン属植物由来加工品の成分分析、メタボローム解析を行った。


27-24

鉄欠乏症改善のための食品添加物の利用効果の検証とその作用機序の解明

澤井 仁美
兵庫県立大学大学院生命理学研究科

すべての生物は「鉄」を栄養素として取り込み、感知・輸送・貯蔵・再利用することにより維持している。体内の鉄は、呼吸により取り込まれた酸素の運搬貯蔵・エネルギー生産・遺伝子などの重要物質の合成・毒素の分解といった生命維持に重要な生理機能を担うため、鉄は生きていくために必須の金属元素である。しかし、体内に蓄積された余剰な鉄は活性酸素の発生源となるため、体内の鉄量は厳密に制御されている。ヒトなどの哺乳類には、制御可能な鉄の排出経路がないため、鉄の吸収調節が生体内鉄濃度の恒常性維持における最も重要なステップとなる。通常、ヒトは十二指腸の柔毛の粘膜上皮細胞で鉄を吸収することが、唯一の鉄獲得手段となっている。食物を消化して獲得した鉄イオンは、十二指腸の柔毛表面を覆う粘膜上皮細胞の腸管腔側の細胞膜に局在する膜貫通型鉄還元酵素Dcytb (Duodenal cytochrome b) によって酸化鉄Fe3+から還元鉄Fe2+に還元された後、2価金属トランスポーターDMT1 (Divalent metal transporter 1) により腸管細胞内へと輸送される。これらの膜タンパク質の機能不全により鉄代謝のバランスが崩れると、鉄欠乏あるいは鉄過剰となり生命維持に危険をもたらすことが知られている。そのため、鉄イオンの輸送に関わるタンパク質の機能メカニズムを詳細に解明することは、鉄イオンの効率的で無害な摂取方法や鉄代謝に関わる疾病への理解につながる。
本研究では、Dcytbを過剰発現させた「ヒト腸管モデル細胞」を用いて、ヒトの腸管における鉄イオンの吸収をプラスチックプレート内で再現できる機能評価系を構築した。それを用いて、鉄イオンの吸収に影響を与える食品添加物の探索とそれらの化合物のDcytbに対する作用機序の解明を目指した。本研究の成果は、鉄栄養素の効率的な摂取方法や鉄代謝異常による疾病への理解につながり、世界人口の約25%(約16億人)以上を苦しめる鉄欠乏症の新たな予防治療法の開発の一助となるだろう。


27-25

大豆タンパク質にアミノ酸栄養強化剤および増粘多糖類を添加した高齢者・病者向けプロテイン飲料の開発

中村 衣里
武庫川女子大学 食物栄養科学部 食創造科学科

高齢者や病者は、一般に良質なタンパク質の補給が必要にもかかわらず、消化吸収機能が低下している場合が多く、食事から十分なタンパク質を摂取することが困難であることから、容易に摂取可能なプロテイン飲料による栄養補給が有効な手段であると考えられる。
先の研究で、大豆プロテインに7種類の必須アミノ酸を配合することで、大豆プロテインの欠点を補う優れたアミノ酸バランスを有する必須アミノ酸強化プロテイン(ES)飲料を開発した。
本研究では、ESに水溶性食物繊維であるペクチンを添加する(EPS)ことで、必須アミノ酸添加による投与直後の血中遊離必須アミノ酸濃度の急激な上昇が抑制できるか、さらに消化管のエネルギー源であるグルタミンを添加する(EPGS)ことで、タンパク質やアミノ酸の消化吸収が向上するかについて、ラット消化吸収機能低下モデルを用いて検討した。
まず、ESにペクチンを添加した(EPS)ときの門脈血中遊離アミノ酸濃度の経時的変化を調べたところ、添加した7種類の必須アミノ酸うち、5種類の必須アミノ酸で最高血中濃度到達時間(Tmax)遅延による血中遊離アミノ酸濃度の上昇を抑制することはできたが、アミノ酸の総吸収量は減少傾向を示した。
次に、ESにペクチンおよびグルタミンを添加した(EPGS)ときの門脈血中遊離アミノ酸濃度の経時的変化を調べたところ、ほとんどすべてのアミノ酸でEPSに比し吸収の促進が認められ、ESに比しても同等かそれ以上の吸収促進が認められた。また、アミノ酸の総吸収量においてもESおよびEPSに比し高値傾向が認められた。
以上の結果より、大豆プロテインに必須アミノ酸、ペクチンおよびグルタミンを添加することで、投与直後の血中遊離アミノ酸濃度の急激な上昇は抑えられなかったものの、消化吸収機能低下時においても効率良く、バランスの取れたアミノ酸が補給できる高齢者・病者向け新規プロテイン飲料を開発することができた。


27-26

ファインバブルを用いた新たな食感デザインに関する研究

秦 隆志
高知工業高等専門学校

ファインバブルを用いた新たな食感デザインに関する研究を実施した。穀物類を対象としたテクスチャーにおいては、食材を柔らかくする傾向を示した他、ウルトラファインバブルとマイクロバブルでは異なる効果を示すことを確認した。これらの要因としてはファインバブル処理による表面張力などの水の物性変化が関与している可能性を確認した。他方、ウルトラファインバブル中への香料封入や、窒素を内包させることでウルトラファインバブルに吸着した物質の酸化防止といった食品加工や保存に関する新たな技術とした展開が期待できる結果を得た。

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