第22回研究成果報告書(2016年)

研究成果報告書 索引

〔目次〕

Abs.No

研究テーマ

研究者

22-01

希少糖の食品添加物としての可能性の探索と製造法の確立 林 昌彦
神戸大学大学院理学研究科  

22-02

麺加工食品からの小麦由来遺伝子組換えDNAの検知法の確立 宮原 平
東京農工大学大学院工学研究院  

22-03

親水性相互作用および溶媒分配分離分析に基づく既存添加物の網羅解析の構築 井之上 浩一
立命館大学薬学部  

22-04

食品添加物等の各種理化学情報検索システム構築に関する研究 杉本 直樹
国立医薬品食品衛生研究所食品添加物部

22-05

国産ワインにおけるフモニシン汚染発生原因菌の分類・同定と汚染機構の解明 中川 博之
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 食品総合研究所

22-06

消費者の食品添加物の安全性に対する意識及びその変遷 堀江 正一
大妻女子大学家政学部

22-07

水系食品中のアスコルビン酸とそのアシル誘導体の酸化促進および抑制作用機序の解明 渡邉 義之
近畿大学工学部

22-08

非遺伝毒性肝発がん物質ダンマル樹脂の発がんメカニズムの解明 鰐渕 英機
大阪市立大学大学院医学研究科

22-09

幼児期の人工甘味料の摂取が、腸内細菌叢と全身代謝に及ぼす影響の解明 上番増 喬
徳島大学大学院医歯薬学研究部

22-10

ベニバナの食品添加色素収量の増加及び安定化に向けた遺伝育種学的研究 笹沼 恒男
山形大学農学部

22-11

加工食品添加無機リンの定量法の開発 鈴木 麻希子
高知県立大学健康栄養学部

22-12

食品添加物と環境化学物質の混合曝露による複合免疫毒性発現の可能性 関本 征史
麻布大学生命・環境科学部

22-13

人工甘味料の慢性摂取が血糖や摂食の調節に関わる脳機能に及ぼす影響の神経科学的研究 八十島 安伸
大阪大学大学院人間科学研究科

22-14

「クチナシ赤色素」の化学構造および色素形成メカニズムの解明 伊藤 裕才
共立女子大学家政学部

22-15

香気成分エストラゴールの突然変異誘発過程における細胞増殖活性亢進機序の解明 石井 雄二
国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター病理部

22-16

高脂肪飼料及び酵素処理イソクエルシトリン摂取時の利尿作用及び脂肪低減作用に関する研究 吉田 敏則
東京農工大学大学院農学研究院

22-17

食品添加物による化学発がん感受性亢進作用に関する研究 吉成 浩一
静岡県立大学薬学部

22-18

メナキノン新規生合成経路をターゲットとした抗カンピロバクター活性を有する香辛料・香料の探索 大利 徹
北海道大学大学院工学研究院

22-19

食品添加物を利活用した高安定食品分散系の開発 小林 功
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 食品総合研究所

22-20

匂いセンサによる植物の香気成分動態の可視化 林 健司
九州大学大学院システム情報科学研究院

22-21

天然物からの微量有用食品添加物の新規抽出および回収方法の開発 三島 健司
福岡大学工学部

22-22

γ-グルタミル化による食品の塩味・甘味の増強効果を利用した塩分・糖分制限食の開発 鈴木 秀之
京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科

22-23

食品添加物を利用した高齢者用ゲル状食品の力学的特性と胃消化挙動の制御 市川 創作
筑波大学生命環境系

22-01

希少糖の食品添加物としての可能性の探索と製造法の確立

神戸大学大学院理学研究科化学専攻 林 昌彦


D-ガラクトースから容易に導かれる2,3-不飽和糖に対して触媒的不斉ジヒドロキシ化反応を行ったところ、保護基にベンゾイル体を用いた場合にはD-タロースが、かさ高いシリル体を用いた場合にはD-グロースが高選択的かつ高収率で得られた。これらの希少糖では従来の酵素法では合成が困難なものであり、これらの希少糖の効果的かつ大量合成法が確立されたことにより、今後、健康食品あるいは食品添加物としての応用が期待できる。


22-02

麺加工食品からの小麦由来遺伝子組換え DNA の検知法の確立

東京農工大学大学院工学研究院生命機能科学部門 宮原平、小関良宏
国立医薬品食品衛生研究所生化学部 中村公亮、近藤一成


近年、小麦などの主要食料作物に様々な機能を付与した遺伝子組換え作物が開発されている。日本における小麦の自給率は低く、その大半を輸入に頼っており、さらに多様な食文化から様々な調理・加工がされた数多くの小麦加工食品が流通している。公定法により遺伝子組換え作物の検知法は規定されているが、食品の加工法によっては内部のゲノム DNA が激しく断片化されており検知が難しい事例が報告されている。現在のところ、日本では遺伝子組換え小麦の流通は承認されていないが、加工食品に対する検知法を検討する必要がある。このため、本研究では小麦加工食品のうち、日本では多様性が高く、流通が盛んである麺食品を中心にゲノム DNA の断片化を調査した。麺食品 7 種、他の小麦加工食品および食品添加物 7 種からゲノム DNA を抽出し、定性 PCR によりゲノム DNA の断片化を調べた結果、ほとんどの食品では激しいゲノム DNA の断片化は起こっていないことが明らかとなった。しかし、長期間の発酵工程がある食品では 200 bp 程度まで断片化が進行していることが示された。これらの結果より、今回調査した小麦加工食品では現行の公定法を適用できることが示された。


22-03

親水性相互作用および溶媒分配分離分析に基づく既存添加物の網羅解析の構築

立命館大学薬学部 井之上 浩一


高極性成分や未知物質の分離分析において、天然物や機能性食品などでは、その網羅解析が注目されている。一方、既存添加物の成分規格や品質管理には、逆相分配系モード(ODSなど)を利用したクロマトグラムによる評価が一般的に用いられてきた。そこで、本研究では、逆相分配モードに頼らない網羅的な解析の有用性に関して、検討を実施した。特に、高速向流クロマトグラフィー(HSCCC)による2相の溶媒系を用いた分離手法を利用して、ベニバナ黄色素を解析した結果、逆相分配系LCでは検出されなかった成分が検出された。本成分を解析できる網羅分析のために親水性相互作用を利用した検出を実施した結果、TSK-gel Amide 80カラムで良好なピークを検出することができた。それらの結果より、今後、既存添加物などの規格基準を含めた網羅解析には、逆相分配モードのみに限らず、溶媒分配分離や親水性相互作用を利用することが重要であることが示唆できた。


22-04

食品添加物等の各種理化学情報検索システム構築に関する研究 II

国立医薬品食品衛生研究所食品添加物部 杉本直樹


東亜大学義平らの研究グループが構築した食品添加物の理化学情報のデータベースよりデータセットを抽出し,検索システムを再構築した.また,再構築した検索システムに,新たに約450の食品添加物または関連する化合物のqNMRスペクトルを追加し,現在,合計約730の製品についてのスペクトルデータを収納したデータベースをWeb上に公開した.次に,食品添加物の成分規格を管理・検索可能なデータベースを作成するため,そのデータセット構造を検討した.第9版食品添加物公定書の内容が確定次第,データベースにその内容を入力し,これを完成させる予定である.EU, JECFA等の規格試験法情報についてもリンクさせ,食品添加物の規格情報に関するポータルサイトの公開を予定している.


22-05

国産ワインにおけるフモニシン汚染発生原因菌の分類・同定と汚染機構の解明

1国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 食品研究部門 中川博之1
2千葉県衛生研究所 橋本ルイコ2
3奈良県保健研究センター 陰地義樹3、北岡洋平3


ワイナリーより分離したFusarium 属株について、従来コメやムギから分離されるFusarium 属株と差異があるかを調べるために遺伝子学的解析と、コメ培地培養によるフモニシン産生試験を行った。さらに、コメ培地にてフモニシン産生が顕著であった菌株についてブドウ果を用いた接種試験を行い、ブドウ果を侵襲し、ブドウにおけるフモニシン汚染の原因菌となりうるかについて検討を行った。


22-06

消費者の食品添加物の安全性に対する意識及びその変遷明

大妻女子大学家政学部食物学科  堀江 正一

消費者の代表である栄養士・管理栄養士課程に籍を置く学生148名に対して、「食品添加物のリスク評価や食品添加物の有効性」に関する講義を実施した。この講義を通して学生の食品添加物に対する意識がどの程度変化したかを調査した。また、諸外国で実施されている「消費者の食品添加物の安全性に対する意識調査」を収集し、日本との比較を行った。


22-07

水系食品中のアスコルビン酸とそのアシル誘導体の酸化促進および抑制作用機序の解明

近畿大学工学部  渡邉 義之


カテキンの水溶液中での酸化安定性に及ぼすアスコルビン酸とそのアシル誘導体の酸化促進および抑制作用機序の解明を目的として、種々の条件下でのカテキン酸化過程を速度論的に解析した。溶媒に超純水を用いた場合、いずれの温度においてもアスコルビン酸の共存によりカテキンの酸化が抑制されたが、その抑制効果とアスコルビン酸濃度との間に相関関係は認められなかった。pH 5.0の1 mmol/Lカテキン水溶液において、10 mmol/L以上のアスコルビン酸が共存した場合、酸化速度定数が増大した。未修飾のアスコルビン酸にもカテキンへの酸化促進・抑制に関わる濃度転換点が存在し、それはオクタノイルアスコルビン酸よりも高いことが示唆された。


22-08

非遺伝毒性肝発がん物質ダンマル樹脂の発がんメカニズムの解明

大阪市立大学大学院医学研究科  鰐渕 英機


ダンマル樹脂はフタバガキ科又はナンヨウスギ科の分泌液より得られたもので、主成分は多糖類であり、多くの飲食物に増粘安定剤として使用されている。これまでに我々は1年間慢性毒性試験および2年間発がん性試験を実施し、ダンマル樹脂がラット肝発がん性を有することを明らかにしてきた。また、in vivo変異原性を検索できるgpt deltaラットを用いて、ダンマル樹脂が非遺伝毒性肝発がん物質であることを明らかにした。これらの結果から、ダンマル樹脂は非遺伝毒性的な発がんメカニズムを介して肝発がん作用を示す可能性が考えられた。しかし、その肝発がん過程に非遺伝毒性分子機序がどのように関与するかについては未だ不明である。そこで、本研究ではダンマル樹脂の発がんメカニズムを解明することを目的とした。前年度までに、ダンマル樹脂がCyp1a1による水酸化の亢進およびゲノムワイドな低メチル化が誘導され、発がんに寄与している可能性が示唆されている。したがって、本年度ではダンマル樹脂投与による他のシトクロムP450の発現変動の検討およびDNAメチル基転移酵素の活性について検討を行った。その結果、前年度までに明らかとなっているCyp1a1の他に、Cyp2b1, 2b2, 2c6, 2e1, 3a1および3a2において、ダンマル樹脂投与群で明らかな発現増加がみられた。また、ダンマル樹脂投与群において維持メチル化に関わるDnmt1および新規メチル化に関わるDnmt3aおよび3bの活性減少がみられた。さらに、がん遺伝子Mycのダンマル樹脂投与群での遺伝子発現増加、核内移行による転写活性の増大がみられた。
以上の結果から、ダンマル樹脂投与による肝発がん過程においてDNAメチル基転移酵素の活性低下によるゲノムワイドな低メチル化の誘導、CYPsの誘導による核内受容体の発現亢進が重要な役割を演ずることが示唆された。


22-09

幼児期の人工甘味料の摂取が腸内細菌叢と全身代謝に及ぼす影響の解明

徳島大学 大学院医歯薬学研究部 予防環境栄養学分野 上番増 喬


人工甘味料は、砂糖と比較して甘味が強く、少量でも十分な甘味を呈す。人工甘味料は、血糖値を上昇させず、天然甘味料と同じ甘味度であってもエネルギー含有量が少ないため、低エネルギー甘味料とも呼ばれている。現在、人工甘味料は、食品中のエネルギー含有量を減らすため、あるいは糖尿病患者の血糖コントロールのために、砂糖の代替品として利用されている。人工甘味料の使用は年々増加しているにも関わらず、その生体への影響については不明な点が多い。近年、人工甘味料の一つであるサッカリンが腸内細菌叢の組成の変化を介して耐糖能を悪化させることが報告された。すなわち人工甘味料の摂取は、腸内細菌叢を変化させ、生体代謝への影響を及ぼすこと懸念される。我々は昨年度の研究で、人工甘味料の中でも特に吸収率の低いスクラロースの摂取が、腸内細菌叢およびコレステロール胆汁酸代謝に影響を及ぼす可能性を見出した。そこで、本研究では、スクラロース摂取がコレステロール胆汁酸代謝に及ぼす影響を詳細に検討することと、本邦で最も使用量の多い人工甘味料であるアセスルファムカリウムの摂取が、腸内細菌叢および生体代謝に及ぼす影響について、マウスを用いて検討した。アセスルファムカリウムは、日本の許容摂取上限量である15mg/kg 体重を摂取させ、腸内細菌叢をPCR法、変性剤濃度勾配ゲル電気泳動法で解析した。アセスルファムカリウムの摂取は、相対的肝臓重量をわずかに増加させ、肝臓中コレステロール量をわずかに減少させた。一方で、盲腸内、糞便中の腸内細菌叢への影響は見られなかった。以上の事より、アセスルファムカリウムの摂取は、許容摂取上限量以下であれば、腸内細菌叢や生体代謝の及ぼす影響が少ない可能性が示された。スクラロースの摂取では肝臓中コール酸量を増加しており、コレステロール吸収を促進させている可能性が示された。


22-10

ベニバナの食品添加色素収量の増加及び安定化に向けた遺伝育種学的研究

山形大学農学部 笹沼 恒男


ベニバナの花弁収量の増加と安定性向上のためには、ベニバナの花弁色素合成機構の解明やそのための遺伝資源の評価が不可欠である。本研究では、北コーカサス、ジョージア、キルギスで採集した野生ベニバナ遺伝資源の形質調査とDNAマーカーを用いた系統・多様異性解析と、ベニバナ花弁色素合成候補遺伝子の組織・ステージ別の発現解析を行った。遺伝資源の評価では、33系統を山形大学農学部圃場で栽培したところ、幼苗期の葉の形から1から5のタイプに分類でき、そのうちの3タイプの違いがベニバナ属の種の同定と一致していることが分かった。分類既知の比較系統を含めたAFLPと葉緑体遺伝子間領域のシーケンシングに基づく系統解析により、葉型1または2に分類されたものが四倍性のCarthamus lanatus、葉型3に分類されたものがAゲノム二倍性種のC. glaucus、葉型5に分類されたものが栽培種と同じBゲノム二倍性種のC. oxyacanthaであることが推定された。葉型4に分類された1系統は、ベニバナ属ではなくアザミ属であることがわかった。多様性の比較では、AFLPに用いたC. lanatus 21系統間の平均遺伝距離が0.038、C. glaucus 5系統間の平均遺伝距離が0.093であり、地理的に限られた地域から採集された二倍体の方が、コーカサスと中央アジアから採集された四倍体よりも多様性が高いという結果が得られた。色素合成候補遺伝子の発現解析では、昨年度赤色系統の花弁から単離された候補遺伝子クローン3の組織・ステージ別の発現比較を行ったが、この遺伝子は、根、茎、葉など全身で発現しており、ステージに関してもつぼみ、初期花弁、後期花弁で発現量の明確な差異はないことが示唆された。しかし、この結果はプライマーの設計など実験手法の不完全性によるものかもしれず、次年度以降さらに詳細な解析に基づく結果の検討が必要である。


22-11

加工食品添加無機リンの定量法の開発~リン摂取量と血中動態との関係解明に向けて~

高知県立大学健康栄養学部健康栄養学科 鈴木麻希子


加工食品中の縮合リン酸塩の抽出方法を検討し、氷冷した10%TCA抽出による縮合リン酸塩の安定性は、水抽出の場合と変わらないことを明らかにした。また、10%TCA抽出により、安定した抽出を行うことができた。1×7.5 cmの陰イオン交換クロマトカラムを用いて直線的濃度勾配法により、オルトリン酸塩、ピロリン酸塩、トリポリリン酸塩、テトラポリリン酸塩の分離が可能であった。リンの定量はリンモリブデンブルー吸光光度法により行ったが、既報より少量での定量を行い、測定を省力化させることができた。今後、テトラポリリン酸塩は、不安定であるため、トリポリリン酸塩までは分けて定量し、それより長鎖の縮合リン酸塩については、まとめて定量することとする。乾式灰化後にバナドモリブデン酸吸光光度法を用いて冷凍パスタの総リン量を求めた結果は、食事摂取基準の耐容上限量に比べて、十分低かったが、縮合リン酸塩の吸収率は高く、また慢性腎臓病などによりリンの制限が必要な場合もある。今後、本法により、近年その種類および消費量が増加した加工食品の縮合リン酸塩量を明らかにし、総リン量を乾式灰化後にバナドモリブデン酸法で測定することで間接的に有機リン量を明らかにする。


22-12

食品添加物と環境化学物質の混合曝露による複合免疫毒性発現の可能性

麻布大学 生命・環境科学部 環境衛生学研究室  関本 征史


ヒト肺がんA549細胞およびヒト白血病THP-1およびK562細胞を用いて、食品添加物と環境化学物質のAhR活性化やサイトカイン遺伝子発現における複合影響の可能性を探索し、以下の結果を明らかとした。
1. A549細胞において、高濃度の環境化学物質(3-メチルコランスレン:MC)は芳香族炭化水素受容体(AhR)の活性化だけでなく、免疫系の活性化に関わる転写因子NF-kBの活性化や、サイトカイン遺伝子の発現変動を引き起こす。
2. A549細胞において、食品添加物であるチアベンダゾール(TBZ)が単独でAhRやNF-kB活性化を活性化し、また、低濃度MCによるこれら因子の活性化を増強した。
3. A549、THP-1およびK562細胞において、TBZ処理によるサイトカイン遺伝子の顕著な発現変動は認められなかった。
これらの結果は、食品添加物がある種の環境化学物質によるAhR活性化やNF-kB活性化を増強することで、免疫系の活性を制御しうる可能性を示唆している。


22-13

人工甘味料の慢性摂取が血糖や摂食の調節に関わる脳機構に及ぼす影響の神経科学的研究

大阪大学大学院人間科学研究科 行動生態学講座行動生理学研究分野 八十島 安伸


人工甘味料であるサッカリン、もしくはカロリーを持つショ糖を多量に摂取するように訓練を受けたマウスでは、糖負荷による血糖制御が通常マウスとは異なることを明らかとした。一方、ショ糖摂取を繰り返したマウスではインスリンの分泌には通常マウスとは相違はなかった。また、ショ糖摂取群ではグルコース投与による摂食抑制効果が弱まっていた。以上から、サッカリンのような人工甘味料を含む甘味刺激について、それらのいずれかを多量に慢性摂取すると血糖制御と血糖による摂食制御の生理機構が変化する可能性がある。今後、これらの変化のいずれもが他の人工甘味料の慢性摂取においても生じるのかどうかについて検討を続ける必要がある。


22-14

「クチナシ赤色素」の化学構造および色素形成メカニズムの解明

共立女子大学 家政学部 伊藤 裕才


既存添加物「クチナシ赤色素」は、クチナシ果実中のイリドイド配糖体geniposideのメチルエステルをアルカリ加水分解したgeniposidic acidをβ-グルコシダーゼ処理でアグリコンgenipinic acidとした後、アミノ基供与体としてタンパク質加水分解物を反応させて形成する赤色素である。色素は高分子化合物であるため化学構造および色素形成メカニズムは未解明である。一般的に「クチナシ赤色素」は窒素やアルゴンガス等を曝気した嫌気条件下でクエン酸を添加することで得られる。クチナシ果実より抽出して調製したgeniposidic acidをセルラーゼで加水分解した後、アミノ供与体のグリシンと還元剤のアスコルビン酸を添加して90℃で加熱した。その結果、520 nm付近に極大吸収波長をもつ赤色素の形成に成功した。酵素反応中にグリシンが存在した場合、生成したgenipinic acidがグリシンと反応して沈殿を形成することが確認された。またgenipinic acidの濃度を希釈し(78μM)、genipinic acidに対してアスコルビン酸とグリシンを過剰モル等量添加し、加熱して色素形成を行った結果と、色素形成時の沈殿形成を完全に抑制した。さらにHPLC分析の結果、高極性部位に赤色色素のピークを確認することができたので、その粗精製を試みた。


22-15

香気成分エストラゴールの突然変異誘発過程における細胞増殖活性亢進機序の解明

国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター病理部  石井 雄二


エストラゴール(ES)は齧歯類において肝発がん性を有する。最近我々は、ES特異的DNA付加体が用量依存的に形成するのに対し、突然変異は細胞増殖が認められた高用量でのみ生じることを明らかにした。これらの結果は、ES特異的DNA付加体から突然変異誘発の過程に細胞増殖活性の亢進が必要であること、低用量のESが突然変異誘発性を示さないことを示唆するものであるが、これらの事実をヒトへ外挿するためには、ESが引き起こす細胞増殖の詳細な分子メカニズムの解明が必要不可欠である。本研究では、gpt deltaマウスにESを単回投与し、ESの突然変異誘発に寄与するさまざまな因子の経時変化を検索した。11週齢の雌性B6C3F1系 gpt deltaマウス35匹を各群5匹に配し、ESを300 mg/kg/dayの用量でそれぞれ単回強制経口投与し、投与後1、2、3、5、7及び14日に肝臓を採取した。投与後1日目にES特異的DNA付加体量が最大値を示し、p53のser15及び392のリン酸化蛋白が増加した。2日目には、小葉中心性の肝細胞のアポトーシス像と共にCaspase 3陽性細胞の増加とPP2Aのtyr307のリン酸化蛋白の増加が認められた。3日目には、辺縁部における肝細胞の核分裂亢進が認められ、PCNA陽性細胞率及び細胞周期調節因子(Ccna2、Ccnb1及びCcne1)の遺伝子発現レベルが最大値を示した。7日目以降、病理組織学的変化は認められず、14日目にgpt変異体頻度の有意な上昇が認められた。以上より、TNFαを介したAktシグナルの活性化がその後の細胞増殖に寄与することが示唆された。さらに、同時期に認められたPP2Aのリン酸化は、細胞増殖誘発のシグナル伝達に寄与するものと考えられた。


22-16

高脂肪飼料及び酵素処理イソクエシトリン摂取時の利尿作用及び脂肪低減作用に関する研究

東京農工大学 大学院 農学研究院
動物生命科学部門 病態獣医学研究分野 吉田 敏則


酸化防止剤酵素処理イソクエルシトリン(EMIQ)及び利尿剤スピロノラクトン (SR)の血中脂質および肝内酸化ストレスへの影響を高脂肪 (HFD) 給餌ラットを用いた二段階発がんモデルを用いて検討した。ラットに基礎飼料またはHFDを給餌し、HFD群には、SRを混餌投与する群とSRとEMIQ (飲水投与) を投与する計4群を設け、試験9週時に血液および肝臓サンプルを採取した。HFD群では基礎飼料群に比較し、体重および腹腔脂肪重量の増加がみられ、血漿総コレステロール、中性脂肪およびアルカリフォスファターゼの高値が観察された。肝重量に影響はなかったが、肝細胞の脂肪化と伴に前がん病変指標であるglutathione S-transferase placental form (GST-P) 陽性巣の数及び面積が増加し、酸化ストレス発生源であるNADPH oxidase (NOX) 構成分子p22phox及び細胞増殖指標Ki-67陽性細胞の発現率がGST-P陽性巣内で増加した。SR投与によりこれらの値が減少し、EMIQとの併用群ではさらにその抑制作用が増強された。この抑制作用は、肝組織中の脂肪合成関連遺伝子 (Scd1Fasn) 及びNOX関連遺伝子 (P67Phox) の発現低下、抗酸化酵素関連遺伝子 (Catalase) の発現増加を伴っていた。以上の結果より、EMIQはSR投与条件下で、ラットの高脂血症を低下させ、肝臓における酸化ストレス指標の増減に関連して脂肪肝及び肝前がん病変を抑制することが示され、酸化防止剤が肥満に関連した病態に対し予防効果を与える可能性が示唆された。


22-17

食品添加物による化学発がん感受性亢進作用に関する研究

静岡県立大学薬学部 衛生分子毒性学分野 吉成浩一


最近、我々は、異物応答性の核内受容体であるPXRの活性化は、単独では肝細胞増殖作用を 示さないが、肝発がんプロモーターや成長因子による肝細胞増殖を増強することを明らかにしている。本研究では、食品添加物がPXRを活性化することで、肝細胞増殖刺激作用を示すか否かを明らかにすることを目的として研究を行った。その結果、ヒト摂取量が比較的多い食品添加物25化合物のうち、培養細胞を用いたレポーターアッセイ及びマウスインビボ解析により、イマザリルがマウスPXR活性化物質である可能性が示された。イマザリルはまたCAR活性化作用も有することが示唆された。現在、イマザリルがマウスCAR活性化物質によるマウス肝細胞の増殖を増強するか否か解析している。


22-18

メナキノン新規生合成経路をターゲットとした抗カンピロバクター活性を有する香辛料・香料の探索

北海道大学大学院工学研究院応用化学部門 大利 徹


メナキノン(MK)は人間にとっては血液凝固に必須なビタミン(ビタミンK)であり、微生物においては呼吸の際の電子伝達系の補酵素として生育に必須な物質である。乳酸菌や大腸菌におけるメナキノンの生合成は、コリスミ酸から o-スクシニル安息香酸を経る経路が既に明らかにされている。しかし当研究室では、胃がんの原因として知られているピロリ菌(Helicobacter pylori)を含む一部の微生物において、既知経路とは異なるフタロシンを経由する新規な経路でメナキノンを生合成することを見出した。乳酸菌や大腸菌などの有用腸内細菌は既知経路でメナキノンを合成することから、フタロシン経路の阻害剤はピロリ菌に特異的に働く抗生物質になると期待される。本研究では香辛料からフタロシン経路阻害剤の探索を行い、阻害化合物の単離および構造決定を行った。
当研究室では病原菌であるピロリ菌を扱うことができないため、2種の近縁のバチルス属細菌を用いて候補サンプルのスクリーニングを行った。フタロシン経路保有株としてBacillus haloduransを、既知経路保有株としてBacillus subtilis を用いてペーパーディスク法による阻止円検定を行い、B. halodurans のみを特異的に阻害するサンプルを探索した。さらに候補サンプルについて、実際にフタロシン経路を阻害していることを確認するため、液体培養でメナキノン添加による生育回復アッセイを行った。スクリーニングにより選別された唐辛子粉末の活性成分を溶媒抽出やクロマトグラフィーで精製した。単離した化合物についてLC/MSおよびGC/MSで分析した結果、活性本体はcis-リノール酸であることを明らかにした。


22-19

食品添加物を利活用した高安定性食品分散系の開発

国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 食品研究部門 小林 功


エマルション等の食品分散系の諸特性は、食品添加物を利用して制御可能である。静電積層法は、食品分散系の中に存在している微小液滴や微粒子の表面改質に有望な手法である。本研究の目的は、静電積層法を利用して食品用水中油滴(O/W)エマルションの安定性向上である。当初作製された鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)の微小油滴の表面は、負の電荷を持つリゾレシチンにより安定化されている。前記のMCT油滴の表面をさらに被覆するために、荷電を持つ二種類の水溶性多糖類(キトサン、カルボキシメチルセルロース)を用いた。高速回転式ホモジナイザーを用いて作製された基材O/Wエマルション(分散相割合:20 wt%)のザウター平均径と相対スパンは、それぞれ28.3 mと0.99であった。O/Wエマルションの粒度分布におけるメインピークの位置は、静電積層処理によってわずかにシフトした程度であった。しかし、静電的相互作用によって作製された数 mサイズの複合微粒子の存在を示す低いピークが、静電積層処理後に出現した。O/Wエマルション(pH 5)のゼータ電位は-67.4 mVであり、リゾレシチンによって安定化された微小油滴が負に帯電していることが示された。静電積層処理後における微小油滴のゼータ電位は、最外層を構成している水溶性多糖類の電荷に依存することが分かった。静電積層法の利用により、微小油滴の保存安定性が電荷の異なる水溶性多糖類を交互に被覆によって向上することが示された。本研究で得られた成果は、安定性および消化性が高度に制御されたプレミアム食品分散系の設計・開発に有用であると期待される。


22-20

匂いセンサによる植物の香気成分動態の可視化

九州大学大学院システム情報科学研究院  林 健司


匂いの可視化技術を植物の香気成分の動態観測に用いるための基礎研究を行った。まず、ショウガの香気成分に対する可視化プローブとして蛍光色素を探索し、硫酸キニーネやカルボキシフルオレセインがショウガの香気成分に応答することを確認した。その上で探索で得られた可視化プローブをゲルで薄膜化した匂い可視化フィルムによりショウガ香気成分の標準物質の匂いの流れを可視化できた。さらに、GC-MSでショウガ抽出物の香気成分を分析し、またショウガの部位ごとに香気成分の含有量が異なることを確認した。以上の成果に基づき、植物性体内の匂い物質の分布や移動といった動態を計測・モニタリングする技術として匂いイメージセンシング技術が有効であると言える。一方で、香気成分の選択的な検出および高感度応答については探索したプローブでは不足しており、可視化には金属ナノ粒子などによる高機能化が必要であった。


22-21

天然物からの微量有用食品添加物の新規抽出および回収方法の開発

福岡大学工学部化学システム工学科福岡大学複合材料研究所 三島 健司


天然物には、希少な有用な食品添加物として有望な、グレープフルーツの果皮に含まれるノートカトンのような生理活性物質が含まれている。本研究では、天然物からの微量有用食品添加物の新規抽出方法の開発として、食資源生産限界のある植物などの天然物から微量有用成分を効率的に抽出・回収する新規抽出・回収方法を開発し、得られた目的物質の脳への影響を近赤外光脳機能イメージング装置により嗅覚官能試験として評価した。まず、従来の抽出法により、天然香料基原物質である柑橘類、バニラ、コーヒー豆などの天然物を対象として、抽出ならびに分析を行い、リモネン、ミルセン、ヌートカトン、シクロテンとマルトール、テルペン類、バニリンなどの成分を同定した。次に、これらの柑橘類果皮などの天然物から超臨界二酸化炭素抽出で有効成分の抽出を行った。その結果、超臨界二酸化炭素抽出では、抽出後の脱溶媒行程を必要とせず、従来法よりも効率的に目的物質を回収できることが示された。さらに、我々は、超音波照射を併用した超臨界二酸化炭素抽出が、より効率的な抽出を可能とすることを示した。


22-22

γ-グルタミル化による食品の塩味・甘味の増強効果を利用した塩分・糖分制限食の開発

京都工芸繊維大学 鈴木秀之、中藤裕子 


グルテンを分解し、グルタミンを多く蓄積させるプロテアーゼの検索を行い、プロチンSD-AY10を選抜した。NaOHでpHを9に調製した3%(w/v)のグルテン水溶液30 mLに0.09 gのプロチンSD-AY10を添加し、45℃、8時間反応させることにより最も多量のグルタミンを蓄積できることを明らかにした。その後、pHを10に調整し、グルタミナーゼ(GGT)で処理したところ、HPLC分析によりγ-グルタミルペプチドと予想されるピークが見られた。


22-23

食品添加物を利用した高齢者用ゲル状食品の力学的特性と胃消化挙動の制御

1筑波大学 生命環境系
2国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 食品研究部門
市川 創作1、小林 功2、神津 博幸1、2


高齢化の進行に伴い、消化機能の不全を訴える人々が増加している。このため、易消化性あるいは消化管運動促進のための難消化性といった消化性が制御された食品の開発が求められている。食品の三大栄養素の一つである脂質は、高カロリーでありエネルギー源として有効であり、脂溶性機能成分の吸収や代謝、さらには脳や各臓器、神経などの機能維持に不可欠な成分である。このため、高齢者が不快感無く、油脂を効率的に摂取できる食品の開発が求められる。本研究では、高齢者用脂質含有ゲル状食品のモデルとして大豆油滴を包含したエマルションゲルを作製し、in vitro胃消化装置である「ヒト胃消化シミュレーター(Gastric Digestion Simulator: GDS)」を用いてその消化挙動を解析することを目的とした。寒天を添加したエマルションゲルでは、GDSのぜん動運動によってゲル粒子が形状崩壊しながら微細化される様子が見られた。また、微細化に伴いエマルションゲルに包含した大豆油滴が放出される様子が観察された。寒天とネイティブ型ジェランガムを混合させたエマルションゲルでは、寒天を用いたエマルションゲルと比較して、GDS消化試験におけるゲル粒子の微細化の程度、およびゲル中の大豆油の放出量が低下することがわかった。一方、脱アシル型ジェランガムを添加した系では、ゲル粒子が形状崩壊せず、ゲル内の水分のみが放出されて収縮し、大豆油はほとんど放出されなかった。これらの結果から、食品添加物であるゲル化剤の選択や組合せにより、ゲル状食品に含まれる脂質の胃内での放出量を制御できることがわかった。得られた成果は、高齢者が不快感無く油脂を効率的に摂取できるゲル状食品の開発する基礎的知見として有用である。

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