第14回研究成果報告書(2008年)
[研究成果報告書 索引]
Abs.No.
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研究テーマ
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研究者
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植物ポリフェノール類の加工代謝物の解析と食品添加物としての機能性評価 |
石丸 幹二 佐賀大学農学部 |
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多糖類食品添加物の腸管免疫系に対する有用性 |
戸井田 敏彦 千葉大学大学院薬学研究院 |
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植物性タンパク質の水産練り製品用品質改良剤としての有用性の評価 |
谷口 正之 新潟大学自然科学系工学部 |
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天然由来アントラキノン系食品添加物の代謝物の構造ならびに安全性に関する研究 |
森田 博史 星薬科大学生薬学教室 |
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酵素処理イソケルシトリンのアレルギー疾患に対する有効性の検証 |
田中 敏郎 大阪大学大学院医学系研究科 |
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食品添加物の安全性評価に関する国際比較的調査研究 |
小西 陽一 国際毒性病理学会連合 |
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GABA含有漬物摂取による女子大生の腸内環境の改善 |
瀧井 幸男 武庫川女子大学生活環境学部 |
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腸管上皮細胞の免疫応答性を指標にした天然食品成分の安全性・有用性の評価 |
戸塚 護 東京大学大学院農学生命科学研究科 |
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遺伝子発現制御メカニズムの解明による酵酸化スクリーニング法の開発と薬物代謝及び抗酸化酵素遺伝子発現との相互作用 |
寺田 知行 大阪大谷大学薬学部 |
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天然着色料による有機塩素系化合物の排泄促進に関する研究 |
中西 剛 大阪大学大学院薬学研究科 |
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抗酸化ビタミン等含有機能性野菜の開発に関する研究 |
山本 浩文 東洋大学生命科学部 |
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ラットを用いた植物ステロール排泄機構の解明 |
池田 郁男 東北大学大学院農学研究科 |
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ケイ酸塩類の液状食品等への溶出挙動に関する基礎的研究 |
藤巻 照久 神奈川県衛生研究所理化学部 |
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ラベンダー花穂の揮発性成分の分析 |
落合 為一 東亜大学大学院総合学術研究科 |
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天然添加物の薬物代謝酵素の作用に及ぼす影響に関する基礎研究 |
伊東 秀之 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 |
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血管内皮細胞並びに前立腺癌細胞に及ぼすガラナエキスの影響と動態解析 |
臼井 茂之 岐阜薬科大学薬剤学教室 |
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ケルセチン配糖体の体内動態と酸化ストレス制御機構の解明 |
寺尾 純二 徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部 |
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ラット肝ミクロソーム/NADPH/ADP/鉄の反応溶液中のフリーラジカル生成に対する種々のポリフェノール類の影響 |
岩橋 秀夫 和歌山県立医科大学医学部 |
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食品素材由来桂皮酸類の体内動態と意義 |
五十嵐 喜治 山形大学農学部 |
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ザクロジュースによる前立腺癌予防治療のための基礎研究 |
朝元 誠人 名古屋市立大学大学院医学研究科 |
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天然系食用色素の腸管吸収性に対する食品タンパク質の影響 |
村本 光二 東北大学大学院生命科学研究科 |
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精神的ストレスにおける苦味飲料の効果について |
坂井 信之 神戸松蔭女子学院大学人間科学部 |
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油状サプリメントの粉末化と錠剤化による保存安定性と機能性向上に関する研究 |
川島 嘉明 愛知学院大学薬学部 |
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光学活性を有する食品添加物の安全性評価のための基礎的研究 |
堀江 正一 埼玉県衛生研究所 |
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既存添加物の安全性評価のための基礎的調査研究 (Butyrospermum parkii KOTSCHY.(シアノキ)からHevea brasiliensis MUELL.-ARG.(パラゴムノキ)まで) |
義平 邦利 東亜大学 |
14-01
植物ポリフェノール類の加工代謝物の解析と食品添加物としての機能性評価
佐賀大学農学部 石丸 幹二
緑茶(Camellia sinensis)水性エキスをオートクレーブ後、3種のカビ(Penicillium sp., Fusarium solani また Rosellinia necafrix)でそれぞれ発酵処理した。ガレート型カテキン類(epigallocatechin gallate, gallocatechin gallate, epicatechin gallate, catechin gallate)は、発酵処理7日間で急速に減少した。非ガレート型カテキン類(gallocatechin, epigallocatechin, epicatechin and catechin) は、最初の7日間は若干増加したが、すべての発酵処理エキスにおいて徐々に減少した。これらのカビのエステラーゼ活性が強く、ガレート型カテキン類のガーリック酸のエステル結合をすみやかに分解したものと推察された。35日間の発酵処理期間において、カフェインは高含量(0.55-0.75 mg/ml) を維持した。F. solaniで処理したエキスにおいてのみrutin含量の増加(0.32 mg / ml 、28日目)が認められた。F. solaniで処理した茶エキスからは、rutinとともに、茶素材からは初めてblumenol Bも単離された。
14-02
多糖類食品添加物の腸管免疫系に対する有用性
千葉大学大学院薬学研究院 戸井田 敏彦
アルギン酸はそのナトリウム塩などが食品添加物として認可され、増粘剤、ゲル化剤あるいは安定化剤として、医薬品などにも広く使用されている。最近アルギン酸のコレステロール値低下作用,血圧上昇抑制作用等の生理的作用が注目を集めている。さらにアルギン酸の腸管免疫系への作用も期待され、その構造と活性相関を調べるために、二酸化チタンを用いた光分解法によるアルギン酸の低分子化法について検討を行った。その結果、酸加水分解法に比べて再現性良くアルギン酸オリゴマーを生成する方法を見出した。今後アルギン酸の分子量、構成ウロン酸の比率と腸管免疫系への作用を調査する予定である。
14-03
植物性タンパク質の水産練り製品用品質改良剤としての有用性の評価
新潟大学自然科学系(工学部) 谷口 正之
カマボコの製造において、加熱時に原料であるすり身中の種々の内在性プロテアーゼが作用し、カマボコの弾力や結着性を低下させる軟化現象、すなわち『もどり』という深刻な問題が生じている。このもどりを抑制するために、現在は、プロテアーゼインヒビターを含む卵白などの主に動物性タンパク質が使用されている。そこで、本研究では、既に米に含まれるプロテアーゼインヒビターであるオリザシスタチン(OC)をカマボコのもどり防止に利用することを目的として、第一に組換えタンパク質としてOCを調製し、その性質を明らかにした。また、OCを含む米タンパク質を添加したエソ(lizardfish)のすり身を用いた「モデルカマボコ」を調製し、米タンパク質の添加効果について評価した。
本年度は、これまでの成果を踏まえて、スケソウダラ(pollack)のすり身を例として、オートリシス(内在性プロテアーゼによる自己分解)に及ぼす温度、pHおよび食塩濃度の影響について、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)を用いた成分分析によって検討した。また、フードプロセッサーを用いて解凍したスケソウダラのすり身を混練し、すり身の温度が0~1℃になった時に各種濃度の食塩および米タンパク質などの添加物を加えた。その後、すり身の温度が10℃になるまですり身をさらに混練し、ミンチ状にした。ミンチになったすり身を折径48 mmの塩化ビニリデンフィルムに充填し、両端を糸で結んだ。その後、90℃で40分間保温した後、直ちに冷水に浸して冷却した。冷却後、4℃で保存した。調製したカマボコの物性として破断力(押し込み最大荷重)と弾性ひずみを測定した。また、約5 mmの厚さに輪切りにしたモデルカマボコの切断面に色彩色差計のセンサ部を置き、L(明度)およびaとb(色相と彩度)をそれぞれ測定し、ハンター白度を算出した。
SDS-PAGEによって分析した結果、スケソウダラのすり身のミオシン重鎖(MHC)は内在性プロテアーゼにより50~60Cの範囲で最も分解された。また、60℃以上ではアクチン(AC)がわずかに分解され、また、65℃以上ではトロポミオシン(TM)が増加した。また、pHが3の時に最もMHC、ACおよびTMが分解された。さらに、MHCは2%以上の食塩を添加することによって分解を抑制できることがわかった。カマボコの一般的な原料として使用されているスケソウダラのすり身を用いて抽出液を調製し、内在性プロテアーゼ活性に及ぼす米タンパク質の添加効果について検討した。その結果、米タンパク質は、スケソウダラのすり身抽出液中の内在性プロテアーゼ(Papain系プロテアーゼ)を部分的に阻害できることがわかった。この内在性プロテアーゼの活性は食塩濃度の増加につれて徐々に低下したが、いずれの食塩濃度においても米タンパク質を添加することによって、活性はさらに低下した。また、すり身に米タンパク質を添加して調製したモデルカマボコは、米タンパク質を添加していない対照のカマボコや卵白を添加したカマボコと比較して、その破断力とハンター白度が向上することがわかった。
14-04
天然由来アントラキノン系食品添加物の代謝物の構造ならびに安全性に関する研究
星薬科大学薬学部 森田 博史
アントラキノン系色素は、古来より着色料として利用されてきた。アントラキノン類は、アカネ科やマメ科由来の異なる構造の色素が存在し、食品添加物としての安全性においても差異があると考えられるが、これらを系統的に検討した研究は無い。アカネ色素は、アカネ科セイヨウアカネ(Rubia tinctorum)の根より得られる色素で、変異原性アントラキノン系色素である アリザリン、ルシジン、プルプリンなどを主成分とする。変異誘発性特異性とアカネ色素についての結果より、ルシジンの活性が主要なものと考えられている。
本研究は、アカネ色素中に含まれる可能性のある有毒ペプチドの微量分析を行うとともに、アントラキノン系色素の代謝物に関する構造を明らかにすることで、アントラキノン系食品添加物の安全性評価に寄与することを目的とする。今回の分析の結果、従来から知られている変異原性アントラキノンの存在の他、ナフトキノン類やペプチドの存在が疑われた。
ルシジンに関しては、遺伝子突然変異に関する多くの陽性結果が報告されており、十分な証拠が得られていると考えられるが、アカネ色素自体に関しては情報が限られている。さらに、アカネ色素に含まれるナフトキン類やペプチド類に関しての詳細な試験成績はなく、今後の検討課題である。
14-05
酵素処理イソケルシトリンのアレルギー疾患に対する有効性の検証
大阪大学大学院医学系研究科呼吸器・免疫アレルギー内科学講座 田中 敏郎
プラセボ対照比較群間二重盲検試験により、フラボノイドの酵素処理イソケルシトリンのスギ花粉症に対する有効性を検証した。プラセボもしくは酵素処理イソケルシトリン50mg含有カプセルを1日2回8週間服用し、症状スコア、日常生活動作スコア、生活の質スコア、血清中のサイトカイン、ケモカイン、IgE値、酸化物質の推移を指標として、酵素処理イソケルシトリンの効果を判断した。酵素処理イソケルシトリンの服用により、眼の症状が有意に抑制された。血清IgE値やTh2サイトカイン(IL-4、IL-5やIL-13)の減少は認められなかったが、ケモカインであるTARCは、酵素処理イソケルシトリンにより低下した。また、酸化物質である血漿酸化LDLも減少した。以上のことより、酵素処理イソケルシトリンの摂取が、スギ花粉症状の軽減に有効である事が明らかとなった。
14-06
食品添加物の安全性評価に関する国際比較的調査研究
国際毒性病理学会連合 小西 陽一
バイテク情報普及会 福冨 文武
本研究は昨年度の実績を基に継続して食品添加物の安全性評価についての情報を国際的に収集した。特にその情報収集は食品中にppm又はppbと低濃度に含まれ、化学構造は解明されているが毒性の未知は香料に焦点を絞った。米国と欧州連合(EU)に於いては、香料は他の食品添加物とは異なるカテゴリーで安全性評価がなされている。実際には米国ではJECFAのみならずFEMAにて、又、欧州連合ではEFSAに於いて香料の安全性評価に対しTTCの概念が活用されている。
しかしながら、わが国では香料は他の食品添加物と同じカテゴリーのもとに安全性評価がなされ、その作業に化学構造、遺伝毒性と動物を用いた反復投与試験の結果が要求されている。
一方、動物を用いる2年間の発がん試験については、昨年度に報告した如く行政側はその代替法は危険性(hazard)の検出法としては認めるが発がん性の検出法とは認められていない。新しい発がん性検索の代替法として遺伝毒性の検出と13週間の動物試験にて標的臓器における細胞増殖誘発能の検出と被検物質の閾値の存在の検出が提案されている。閾値の検出は化学物質の安全性評価に対し将来問題を提起するであろう。NOAELは新薬のヒトの臨床試験に用いられる投与量決定に際し重要な意義を持っている。然しながらNOAELは種々の因子に影響されそれ自体を正確に決定することは困難で、毒性検出のプロトコール中に複数のパラメーターを挿入することが必要であろう。
何はともあれ、代替法の進歩とNOAELの正確性を期する研究の追跡は必要である。更に、現在用いられているわが国の香料の安全性評価に対する判断樹は再検討されるべき時期に来ているものと考える。
14-07
GABA含有漬物摂取による女子大生の腸内環境の改善
武庫川女子大学生活環境学部 瀧井 幸男
γ-アミノ酪酸:γ-aminobutyric acid (GABA) は、生体内でTCAサイクルを経てグルタミン酸から生じる非タンパク質構成アミノ酸で、高血圧者における降圧効果が知られている。Lactobacillus brevis (L. brevis) はGABAを生産する乳酸菌として知られているが、ヒト腸内においては、βグルクロニダーゼの活性を抑制し、腸内菌叢を改善する機能を有することが報告されている。本研究では、インフォームドコンセントが得られた健康な女子大生56名(平均年齢18.3歳)について、2重盲検法を採用し、L. brevisにより乳酸発酵させた漬物食品摂取後の便秘改善効果を検討した。
その結果、GABA含有漬物摂取後、便秘群、 非便秘群とも、血中脂肪酸に有意な変化は見られなかったが、摂取前は排便後に残便感を感じるものが多い便秘群において、摂取後は減少し、何も感じないものが増加することが観察された。すなわちGABA含有漬物の摂食により、若干の排便日数の増加、便の形状の改善、排便後の感覚の改善が見られ、総体的に緩やかな便秘改善効果が見出された。
14-08
腸管上皮細胞の免疫応答性を指標にした天然食品成分の安全性・有用性の評価
東京大学大学院農学生命科学研究科 戸塚 護
腸管上皮細胞(IEC)は腸管粘膜におけるバリア構築を担うが、腸管免疫系の調節にも重要な働きをしている。本研究では、IECの免疫調節機能に及ぼす影響を指標として食品成分の安全性・有用性を評価することを目的として、その新たな評価法の構築と、IECのサイトカイン産生に対して食品成分が及ぼす影響の解析を行った。
通常生体内で小腸IECは、外来抗原の提示に必須なMHCクラスII分子を発現しているが、IECによる抗原提示の特性は不明である。我々が樹立したマウス小腸IEC株を用いて、DO11.10マウスから調製した小腸上皮細胞間に存在するCD4+T細胞(CD4+IEL)を、MHCクラスII分子を介して抗原特異的に活性化した。その結果、小腸IEC株は脾臓由来の抗原提示細胞と比較して、CD4+IELに低い増殖応答しか誘導しないにもかかわらず、顕著に高いIFN-γ産生を誘導した。この効果は他組織のCD4+T細胞に対しては認められなかった。IFN-γは腸管免疫系の恒常性維持に重要な働きをしていることから、この実験系を用いた食品成分の腸管免疫系への作用の検索が有効と考えられる。
また、マウス小腸IEC株およびヒト結腸IEC株Caco2を、菌体成分あるいは炎症性サイトカインで刺激した場合のサイトカイン産生に対して、影響を及ぼす天然食品成分を検索したところ、メラトニンが両細胞においてIL-6産生を抑制する作用を有することを見いだした。メラトニンはmRNAレベルでIL-6産生抑制作用を示す一方、MCP-1,IL-8などのケモカインの分泌、mRNA発現は抑制しなかった。ナッツ類などの食品にも含まれるメラトニンの腸管免疫系における新たな働きが明らかとなった。
14-09
遺伝子発現制御メカニズムの解明による抗酸化剤スクリーニング法の開発と
薬物代謝及び抗酸化酵素遺伝子との相互作用
大阪大谷大学薬学部 寺田 知行
アルド-ケト還元酵素 (AKR) は、NADPH-依存的にアルデヒド、ケトンやキノンなどのカルボニル化合物を還元する活性を有する酸化還元酵素で多数のタンパク質からなっている大きなファミリーを形成している。AKR は、真核生物、原核生物を問わず多くの種あるいは組織から、その発現が認められるとともにそれらの遺伝子も同定されている。AKR は、AKR1A1 からAKR15A1 までシステマティックに命名されている。AKR の抗酸化機能は、還元活性を通して、プロオキダントであるカルボニル化合物の除去にある。AKR 遺伝子の発現制御は、細胞の抗酸化応答の典型的な例としてよく検討がなされている。このような結果を踏まえて、本研究においては、典型的な AKR として、非小細胞性肺癌細胞株 A549 及び H23 からのAKR1B10 遺伝子の転写制御メカニズムを明らかにした。また、RT-PCR により A549 細胞にのみ AKR1B10 の発現が求められることも併せて明らかにした。加えて、AKR1B10 遺伝子を単離し、発現制御領域での CT-rich 領域の多様性について明らかにした。そして、その多様性の発現制御に及ぼす影響を解析する目的で、AKR1B10 遺伝子の5'-上流域 (約 3,000 bp) をルシフェラーゼ遺伝子の上流に連結してレポータープラスミドを構築した。このシステムを用いて酸化剤としての過酸化水素と抗酸化剤としてのエトキシキンの AKR1B10 発現に及ぼす影響を検討した。レポーターアッセイの結果、以下の2点を明らかにした。
1. CT-rich 領域の多型は、AKR1B10 の基本的な発現に影響を与えなかった。
2. Nrf2 (抗酸化応答制御因子) は、AKR1B10 遺伝子の発現制御に有効に作用した。
これらのことと、各種化合物の抗酸化機能の評価システムとしてのAKR1B10 遺伝子の発現制御と昨年報告した GSTP1 の結果を考慮に入れるなら、本システムが非常に有用な評価法になる可能性があると結論づけた、
14-10
天然着色料による有機塩素系化合物の排泄促進に関する研究
大阪大学大学院薬学研究科 中西 剛
ダイオキシン類などの有機塩素系化合物によるヒトへの健康障害の防止や事故等により大量暴露した際の根本的な治療法の確立を目指して、本研究では昨年度の研究において、生体内に蓄積した2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin(TCDD)の排泄を促進する可能性を示したアナトー色素についてより詳細な検討を行った。ICRマウスに3H-TCDDを腹腔内投与し(day0)、day9から1~10%のアナトー色素含有食を8日間与えた。その結果、1%含有食摂取群において3H-TCDDの糞中および尿中への排泄がコントロール食接種群と比べ有意に上昇していた。また実験終了時(day16)における各臓器の3H-TCDDの濃度について検討を行ったところ、先の結果を反映してTCDD の主要な蓄積臓器である肝臓中の3H-TCDD 濃度が有意に減少していることが確認された。一方で2%以上の含有食摂取群においては、体重減少や食餌量の減少等の毒性が認められ、1%含有食摂取群ほどTCDD排泄促進効果が認められなかった。さらにアナトー色素の効果について詳細に検討するために、0.01~1%の濃度についてより長期的(摂取期間20日)な検討を行った。その結果、0.01%含有食摂取群においても3H-TCDDの排泄促進傾向が認められたが、有意な排泄促進効果が認められたのは1%含有食摂取群のみであった。またその効果は摂取直後から顕著に表れるが、糞中、尿中排泄ともに摂取10日後以降は減弱する傾向が認められた。以上の結果から、アナトー色素は生体内に蓄積したTCDDの排泄を促進する作用を有し、その作用は摂取後速やかに表れることが明らかとなった。
14-11
抗酸化ビタミン等機能性野菜の開発に関する研究
東洋大学生命科学部 山本 浩文、下村 講一郎
我々は、消費者が安心できる美味しい機能性野菜を供給することを目的として、葉菜類の栽培条件や収穫後の保存条件と機能性や味との関係について検討している。コマツナを有機質栽培したときに旨味が強くなる原因について調査し、有機質栽培したコマツナにおいてリンゴ酸の蓄積が増加することを見いだした。さらに、有機質栽培と化成肥料栽培を比較したところ、前者の土壌中生菌数が著しく増加していることを明らかにし、化成肥料栽培時に蛍光シュードモナスを共生させることにより、コマツナの旨味が増加することを明らかにした。さらに、コマツナを低温保存あるいは加熱することによりβ-carotene含量が増加する現象についても検討を加え、コマツナ中に存在するsucroseなどの糖類が、前駆体として関与している可能性が示された。また、浸透圧ストレスによってもβ-carotene含量が増加することが明らかとなった。また、健康に有害とされるシュウ酸および硝酸イオン含量の低いホウレンソウの育種を目的として検討を行い、シュウ酸の蓄積は遺伝的要因の関与が大きいことを見いだし、日本在来のホウレンソウは比較的シュウ酸含量が低いのに対し、ヨーロッパ在来種は含量が高い傾向があることを明らかにした。一方、硝酸イオンについては、遺伝的要因よりは、むしろ肥料組成やその使用量などの栽培環境による影響が大きいと考えられた。
14-12
ラットを用いた植物ステロール排泄機構の解明
東北大学大学院農学研究科 池田郁男、加藤正樹
我々は以前に、脳卒中易発症高血圧自然発症ラット(SHRSP/Izm)およびその親系統であるWKYラット(WKY/NCrlCrlj)は、Wistarラットに比べ、体内に植物ステロールを高蓄積することを見いだした。その後、前者の2系統には、ATP binding cassette transporter G5(ABCG5)に変異があることを報告した。ABCG5およびATP binding cassette transporter G8(ABCG8)はヘテロダイマーを形成し、植物ステロールを小腸細胞から小腸内腔へ、肝臓から胆汁へ排泄することが示唆されている。これらトランスポーターのいずれかに変異があると、それらの機能が障害を受け、植物ステロールが体内に蓄積すると考えられる。我々は、ABCG5/ABCG8の植物ステロール排泄能を定量的に把握するため、植物ステロールの小腸からの吸収、および、胆汁からの排泄を、SHRSP/IzmとWistarラットで比較した。しかし、リンパへの植物ステロールの吸収は、両系統で差がなかった。ABCG5/ABCG8の発現を亢進するliver X receptor(LXR)アゴニストを投与すると、リンパ吸収は低下したものの、両系統間での差はなかった。これらのことは、SHRSPにおけるABCG5の変異は植物ステロール吸収に影響しないことを示唆する。一方、植物ステロールを摂食させた後の、植物ステロールの胆汁への排泄量は、SHRSPでWistarラットよりも低くはなかった。胆汁への排泄量を肝臓での蓄積量で割った排泄効率は、LXRアゴニストを与えた場合、SHRSPでWistarラットよりもかなり低く、ABCG5/ABCG8の機能低下が示唆された。いずれにしても、SHRSPにおいて植物ステロールが蓄積する原因は明らかとならなかった。WKY/Izmラットを用いて、植物ステロールの胆汁への排泄や体内への蓄積を調べたところ、Wistarラットと同様の挙動を示し、ABCG5/ABCG8が機能低下しているとは考えられなかった。そこで、WKY/IzmラットのABCG5の遺伝子配列を調べたところ、WKY/NCrlCrljラットとは異なり、変異は認められなかった。
14-13
ケイ酸塩類の液状食品等への溶出挙動に関する基礎的研究
神奈川県衛生研究所理化学部 藤巻 照久
食品の安全性確保は世界各国の共通の問題であり、特に食糧自給率の低い我が国では、輸入品の安全性に関する関心は高い。国際的に安全性が評価され広く使用されているにも関わらず、未だ我が国では使用が認められていない食品添加物も多く、未指定添加物の安全性評価が進められている。その一例として、ケイ酸塩類があげられる。国際的な整合性を図るため、食品安全委員会では食品健康影響評価が行われ、ケイ酸塩類の指定に向けた検討が進められている。JECFA(FAO/WHO合同食品添加物専門家会議)では、ケイ酸塩類は水への溶解性がないことからADIを特定しないという評価がされている。
欧米におけるケイ酸塩類の使用状況は、主として食塩及びその代替塩の固結防止剤として用いられている。従って、ケイ酸塩類を固結防止剤として用いている食塩等が各種食材とともに調理過程で繁用され、食酢など様々な液状食品への混入が想定される。
そこで、ケイ酸塩類(アルミノケイ酸ナトリウム、ケイ酸カルシウム及びケイ酸マグネシウム)とすでに食品添加物として許可されている不溶性鉱物性物質(活性白土、花こう斑岩及び珪藻土)について、食品擬似溶媒などを用い、各種元素の溶出挙動について検討した。前報と異なる点は、ケイ酸塩類の一部に米国食品化学物質規格集(FCC:Food Chemicals Codex)第5版の規格に適合したものを用いた点と溶出溶媒に食品擬似溶媒の他に人工胃液を用いたことである。
14-14
ラベンダー花穂の揮発性成分の分析
東亜大学大学院総合学術研究科 |
大井 和裕、荒木 和美、落合 爲一*、中野 昭夫、義平 邦利 |
三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 |
今吉 有里子、岩渕 久克 |
*主任研究者
ラベンダー(Lavandula angustifolia Mill)の試料を 5箇所(4品種)から採取時間を変えて採取した。花穂部分をジクロルメタン抽出し、揮発成分の分析を行い、品種、採取場所、時間による差異について検討した。GC/MS分析により、54種の成分の存在が確認され、そのうち45種が同定あるいは推定された。成分としていずれのサンプルにも共通するものとして、群を抜いて多いものがlinalyl acetate(1)であり、 2番目に多いのがlinalool(2)である。3番目以降は品種、採取地により異なるが、トップ10までに共通しているものに、lavandulyl acetate (3)、coumarin (4)、(E)-beta-farnesene (5)、7-methoxycoumarin (6)、beta-caryophyllene (7)がある。いずれの場合も、トップ5で全体の63~79%を占める。coumarin (4), 7-methoxycoumarin (6)を除けば、いずれもモノテルペノイド類、或いはセスキテルペノイド類に属する。成分のパターンは、品種について若干の差異を示し、このような分析が品種の判断に使用できる可能性を示唆した。またラベンダーには時間によって香りが異なるとの言い伝えがあるが、今回の検討では、いずれの品種採取場所のものも、採取時間のみが異なるサンプルは相関が極めて高く、差異は見出せなかった。
14-15
天然添加物の薬物代謝酵素の作用に及ぼす影響に関する基礎研究
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 伊東 秀之
食品-医薬品間相互作用には様々な要因があるが、なかでも医薬品の代謝に関与する薬物代謝酵素シトクロム P450 (CYP) の阻害や誘導が主因とされるものが多い。そのため CYP 阻害や誘導を引き起こす成分を含む食品は、特定の医薬品と併用した場合、副作用を誘引するリスクを生じる可能性がある。本研究では、既存添加物30種について CYP2C9 および CYP3A4 の阻害活性を系統的に評価した。その結果、ほとんどの添加物は阻害活性を示さなかったが、ウコン色素およびコウリャン色素は、CYP2C9 と CYP3A4 の両酵素に対して阻害活性を示した。また、ブドウ果皮色素およびカカオ色素は、いずれも CYP2C9 に対し、パーム油およびマリーゴールド色素は、いずれも CYP3A4 に対して顕著な阻害活性を示した。これら阻害活性を示した添加物は、ある種の医薬品と相互作用を有する可能性があることから、今後、活性を指標とした分離、精製を行い、阻害活性成分を特定すると共に、活性成分の生体内動態の検討や、 in vivo 系実験による阻害活性を示した既存添加物の医薬品の血中動態に及ぼす影響などについて、さらに検討を進める予定である。
14-16
血管内皮細胞並びに前立腺癌細胞に及ぼすガラナエキスの影響と動態解析
岐阜薬科大学医療薬学大講座 臼井 茂之、平野 和行
ガラナエキスの効果をヒト血管内皮細胞(HUVEC)、ヒト前立腺癌由来細胞(LNCaP, PC-3)及びヒト大腸癌由来細胞(Caco-2)を用いて検討した。HUVEC、LNCaP及びPC-3の細胞増殖はガラナエキスによって抑制され、また、ガラナエキスに対する感受性はこれら細胞で異なっていた。HUVECに対するガラナエキスの増殖抑制は、ヌクレオソーム単位でのDNAの断片化や核クロマチンの小球状凝集像が観察されたことから、アポトーシスに基づくことが示唆された。更に、このガラナエキスによるアポトーシス誘導は、カスパーゼ3の活性化を伴うことが判明した。また、ガラナエキスがin vitroにおけるHUVECの血管新生を阻害することを見出した。一方、ガラナエキスは、アクアポリン(AQP)3 mRNA発現を抑制した。これらの知見は、ガラナエキスの新たな有用性を示唆するものである。
14-17
ケルセチン配糖体の体内動態と酸化ストレス制御機構の解明
徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部 寺尾 純二、室田 佳恵子、河合 慶親
ケルセチンはタマネギなどの主要なフラボノール型フラボノイドであり、植物界に広く分布している。多くの in vitro研究によりケルセチンは多彩な生物作用を有することが知られているが、それらの作用の少なくとも一部には抗酸化活性が寄与すると考えられる。タマネギ中のケルセチンは主に配糖体の形態で存在するが、摂取後は腸管吸収の過程で第II相酵素によりグルクロン酸抱合体や硫酸抱合体に代謝される。この反応は外来異物がその毒性を失うための解毒過程である。われわれは、ヒト血流を循環するケルセチン代謝物は大部分が血漿アルブミン画分に局在し、低比重リポタンパク(LDL)には存在しないことを確かめた。また、ヒトボランティアによるタマネギ摂取では酸化LDL生成に対するアルブミン画分の抗酸化性を高めることはできなかった。したがって、通常の食事摂取から予想される血漿ケルセチン代謝物濃度では、食事由来ケルセチンが生体内で抗酸化活性を発揮するには不十分であると思われる。一方、われわれはケルセチン代謝物がヒト大動脈硬化巣に蓄積することを確認した。興味深いことに正常動脈への蓄積はみられなかった。マクロファージ様培養細胞を用いたIn vitro 実験では、ケルセチン代謝物が酸化LDLに対するスキャベンジャー受容体の発現を抑制することにより、マクロファージからの泡沫細胞生成を阻止する可能性が示された。この受容体発現抑制作用は食事由来のケルセチンによる心疾患予防のメカニズムのひとつに挙げられる。
14-18
ラット肝ミクロソーム/NADPH/ADP/鉄の反応溶液中の
フリーラジカル生成に対する種々のポリフェノール類の影響
和歌山県立医科大学医学部 岩橋 秀夫
ラット肝ミクロソーム/鉄/ADP/NADPH反応系のEPR分析、HPLC-EPR分析、HPLC-EPR-MS分析およびその系のラジカル生成に対するカフェ酸の影響について検討した。ラット肝ミクロソーム/鉄/ADP/NADPH反応系のEPR分析により特徴的なEPRスペクトル(αN=1.58mT and αHβ=0.26 mT)が得られた。ミクロソームあるいは鉄を除くとシグナルが得られず、ミクロソームと鉄がこの反応に必須であることがわかった。また、鉄キレート剤であるEDTA、クエン酸、ADPを添加するとEPRシグナルが大きく変化した。これらのことにより鉄イオン状態が本反応に重要な影響をあたえると思われる。ラット肝ミクロソーム/鉄/ADP/NADPH反応系のHPLC/EPR分析を行うと保持時間19.4、22.5、27.3、29.8、31.4分にそれぞれピークが得られた。それぞれのピークを同定するためにHPLC/EPR/MS分析を行った。その結果ヒドロキシペンチルラジカル及びエチルラジカルがこの反応液中に生成していることが判明した。この反応溶液中にポリフェノールの一種であるカフェ酸を添加すると、EPRスペクトルはほぼ完全に消失した。このことよりカフェ酸はラット肝ミクロソーム/鉄/ADP/NADPH反応系におけるヒドロキシペンチルラジカル及びエチルラジカルの生成を阻害することが分かった。
14-19
食品素材由来桂皮酸類の体内動態と意義
山形大学農学部 五十嵐 喜治
カカオ、コーヒーなどに含まれ、酸アミド結合(ペプチド結合)を有するクロバミド(カフェオイルドーパ)およびその構成成分としてのコーヒー酸が四塩化炭素誘発肝障害に及ぼす影響についてマウスを用いて検討した。四塩化炭素の腹腔内投与によるALT、AST 活性の上昇は予め、クロバミド、コーヒー酸を経口投与することによって緩和された。クロバミド、コーヒー酸を投与したマウスの血清にはクロバミド、コーヒー酸のほか、これらと類似の吸収スペクトル示す化合物が確認され、腸管腔から吸収されたこれら化合物あるいはこれらの代謝産物が四塩化炭素誘発肝障害の抑制に作用していることが推察された。四塩化炭素の暴露によりラット初代培養肝細胞から放出されるALT、AST の活性はクロバミド、およびその構成成分のコーヒー酸の培地への添加によって抑制されたが、DOPAに添加による改善はみられなかった。この結果から、コーヒー酸部分がクロバミドの効果と強く関わっていることが推察された。
14-20
ザクロジュースによる前立腺癌予防治療のための基礎研究
名古屋市立大学大学院医学研究科 朝元 誠人
前立腺癌ラットモデル(TRAP)においてザクロジュースは前立腺癌の進展を抑制する事を組織学的に明らかになった。そこでそのメカニズム解明のためヒト前立腺癌細胞(LNCaP)を用いてザクロジュース投与による効果を検討したところ強いアポトーシル誘導効果があり、ほとんどすべての前立腺癌細胞が24時間以内に死滅することが観察された。そのアポトーシル誘導メカニズムにはConnexin43が深く関与する事が明らかとなった。
14-21
天然系食用色素の腸管吸収性に対する食品タンパク質の影響
東北大学大学院生命科学研究科 村本 光二
食素材に含まれる糖鎖認識結合タンパク質(レクチン)が天然系食用色素の腸管吸収性に対して及ぼす影響を、ヒト結腸ガン由来Caco-2細胞を用いた腸管上皮モデル系を用いて調べた。糖鎖結合特異性が異なるレクチンは、それぞれその結合特性に応じてタイトジャンクション経路、モノカルボン酸トランスポーター経路、細胞内受動輸送、p-糖タンパク質経路、そして多剤耐性関連タンパク質を介した輸送経路における色素の輸送を正や負に調節した。また、レクチンで処理したCaco-2細胞のプロテオーム解析によって、レクチンがシャペロンや細胞骨格に関連するタンパク質を中心とした細胞内のタンパク質発現を調節することが明らかになった。
14-22
精神的ストレスにおける苦味飲料の効果について
神戸松蔭女子学院大学人間科学部 坂井 信之
1.精神的ストレス課題の検索と効果:従来の研究では精神的ストレス課題として、コンピュータ作業や内田クレペリンテストなどが用いられてきた。本研究では最初にこれらの課題が精神的ストレス課題として適切かどうかを検討するために、ストレス状態の変化を正確に検知できるテストバッテリー(質問紙や生理計測などの組み合わせ)により、精神的ストレスの程度を定量的に測定した。
2.精神的ストレスを解消させるために効果的な方法を検索するため、音楽の聴取、アロマ、飲料摂取などの方法を比較し、結果として、飲料を摂取することが最も効果的に精神的ストレスを緩和させる効果を持つことが明らかとなった。
14-23
油状サプリメントの粉末化と錠剤化による保存安定性と機能性向上に関する研究
愛知学院大学薬学部 川島 嘉明、山本 浩充、田原 耕平
高齢化社会などの社会構造や、食生活の変化に伴い、様々な疾病を患っている人口が増加し、これに伴って医療費も増加傾向にある。増加する医療費を抑制するためには、疾病予防や健康増進が必要とされ、健康食品やサプリメントの普及が進んでいる。サプリメントの中にはビタミンEやDHAなどの油状の化合物もある。これらの化合物は一般的に取り扱いがしにくく、また保存時の安定性が低いといった問題点を有している。本研究では、ビタミンEをモデル油状薬物として用い、ビタミンEを粉末化して取り扱いやすくすると共に、服用性を高めるための錠剤化を試みた。また、これら製剤化したときのビタミンEの保存安定性について検討した。その結果、フローライトを、吸油剤として採用することで、効率良く粉末化できることを明らかにした。この粉末を直接粉末圧縮法により錠剤化しようと試みたところ、キャッピングやラミネーション等の打錠障害が発生した。これに対し、乾式顆粒圧縮法を適用することにより、打錠障害が発生することなく、実用硬度を有する錠剤を調製することができた。また保存安定性に関しては、粉末に比べ、錠剤化した方がビタミンEの安定性は高かった。また、粉末についても油を担持させた粒子の表面を水溶性高分子で被覆することにより、安定性を向上することができた。
14-24
光学活性を有する食品添加物の安全性評価のための基礎的研究
埼玉県衛生研究所 |
堀江 正一*、石井 里枝 |
星薬科大学 |
斉藤 貢一、伊藤 里恵、岩崎 雄介、中澤 裕之 |
畿央大学 |
辻 嗣美、吉井 麻名美、浦戸 大輔、井﨑 宏治、北田 善三 |
三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 |
須子 慎一郎、伊藤 澄夫 |
神奈川県衛生研究所 |
岸弘子 |
* 主任研究者
食品添加物の中には,アミノ酸,糖,有機酸などの様に光学活性を有する化合物が含まれている.光学活性を有する化学物質においては,光学異性体により生体に対する影響が大きく異なるものがある.しかし,現在のところ食品添加物の成分規格の中には光学異性体の割合(光学純度)を正確に評価する試験項目がない.そこで,今回,光学純度をより正確に評価できる試験法の開発をこころみた.
1. キラルカラムLC/MSによる光学活性食品添加物の分析
キラルカラムを用いた高感度且つ選択性に優れた高速液体クロマトグラフィー質量分析法(LC/MS)による清涼飲料水,醤油,もろみ酢等の発酵食品中に含まれるアミノ酸の光学異性体の分析法を検討した.分離カラムには,光学異性体認識能力に優れているCHIROBIOTIC Tを用いた.本法を用いることにより清涼飲料水,醤油,もろみ酢中に含まれる20種のアミノ酸を高感度且つ選択的に測定することが可能であった.
2. 紫外部吸収検出器付高速液体クロマトグラフィーによる食品添加物アミノ酸の光学異性体分析
食品添加物の調味料、栄養強化剤及び品質保持剤として使用が許可されているアミノ酸の光学異性体の分離分析法を開発した。HPLCの測定条件は、カラムとしてSUMICHIRAL OA-5000のパーティクル型とモノリス型を、移動相として0.5mM~2mM硫酸銅溶液(移動相A)と2mM硫酸銅のイソプロピルアルコール溶液(移動相B)を組み合わせたものを、流速は0.8 mL/minまたは1.0 mL/minを、そして検出はUV 254 nmを用いた。Asn、Cystine及びSerのラセミ体は、パーティクル型のカラムだけでは分離が困難であったために、パーティクル型カラムの後にモノリス型カラムを連結して使用した。それ以外のアミノ酸のラセミ体はパーティクル型カラム単独で概ね良好に分離した。定量限界は理論段数の小さかったCysを除いて1 μg/mL以下であった。
3. キラル配位子交換クロマトグラフィーによる清涼飲料水中α-アミノ酸の光学異性体分析
紫外部吸収検出器付きキラル配位子交換クロマトグラフィーによる清涼飲料水中α-アミノ酸の光学異性体の簡便で効率的な定量法を開発した。アミノ酸光学異性体の分析は、逆相分配型のオクタデシルシリカゲルにN,S-ジオクチル-D-ペニシラミンを被覆したカラムSUMICHIRAL OA-5000(パーティクル型)と硫酸銅を含んだ移動相を用いて行った。D体とL体の溶出順は、常にL体の方がD体より前であった。9つのD -アミノ酸について検量線を求めたところ、5~100 μg/mLの範囲で直線性が得られた。清涼飲料水に50 μg/mL濃度となるように添加したアミノ酸の回収率は98%を超え、そして9つのD-アミノ酸の定量限界は5 μg/mLであった。
4. プロリンのキラル分析(LC/MSを用いた発酵食品中プロリンのキラル分析)
光学活性を有するプロリンは,L体のみが既存添加物として指定されているのに対し,D体は神経毒性を有することが報告されている.そのため、食品の安全性を確保するためにD-プロリンの存在の有無を確認する必要がある。本研究ではLC/MSによる発酵食品中のプロリンおよびヒドロキシプロリンの高感度かつ高精度な分析法を構築した。LCのキラルカラムにはAstec社製CYCLOBONDⅠ2000RNを使用した。本分析法を発酵食品分析に適用したところ、中国産および欧米産の一部の食酢などからD-プロリンが検出された.
14-25
既存添加物の安全性評価のための基礎的調査研究
(Butyrospermum parkii KOTSCHY.(シアノキ)からHevea brasiliensis MUELL.-ARG.(パラゴムノキ)まで)
東亜大学大学院 |
義平 邦利 |
自然学総合研究所 |
水野 瑞夫 |
西日本食文化研究会 |
和仁 晧明 |
小林病院 |
小林 公子 |
お茶の水女子大学 |
佐竹 元吉 |
徳島文理大学香川薬学部 |
関田 節子 |
長崎国際大学薬学部 |
正山 征洋 |
大阪大学大学院医学系研究科 |
米田 該典 |
三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 |
加藤 喜昭、森本 隆司 |
食品天然添加物は,平成7年以降,厚生労働大臣により許可されたもの以外は使用することが出来なくなった.平成7年までに,使用されていた天然添加物は,既存添加物名簿に収載され,引き続き添加物として,使用が認められている.厚生労働省は,これら添加物のうち,既存添加物450品目については,次のように整理,分類している(平成17年3月現在)。
(1)FAO/WHO Joint Expert Committee on Food Additives (JECFA)により国際的評価がなされており,基本的な安全性が確認されているもの,および入手した試験成績により基本的な安全性を評価することができるもの:247品目。
(2)基原,製法,本質から,安全性の検討を早急に行う必要はないものと考えられるもの:132品目。
(3)安全性に関する資料の収集が不足,安全性の確認を迅速かつ効率的に行う必要があるもの:71品目。
本研究は,(3)の「安全性の検討を早急に行う必要のある既存添加物」と(1)の「基本的な安全性が確認されているもの,および入手した試験成績により基本的な安全性を評価することができるもの」について,安全性評価のための基礎的調査研究を行うことにした.既存添加物の安全性を評価するには,原材料の動植物が確かであること,歴史的な食経験があること,原材料の動植物は有害でないこと,有害成分を含有しないこと等が必要であるので,これらの課題について調査研究を行い,基原動植物の規格案の作成と,それらに由来する既存添加物の規格案を作成することにした.ただし,鉱物および酵素類は対象から除外した。
なお,(3)の「安全性の検討を早急に行う必要のある既存添加物」と(1)の「基本的な安全性が確認されているもの,および入手した試験成績により基本的な安全性を評価することができるもの」については,ここでは,「急がない既存添加物以外の添加物」とした。