第30回研究成果報告書(2024年)
〔研究成果報告書 索引〕
当財団の研究助成(2023年度)による研究成果報告書の抄録
抄録 No.
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研究課題
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研究者
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30-01
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線虫の多層化オミクス解析を用いた食品添加物の安全性評価 |
坂口 裕子 立命館大学 薬学部 |
30-02
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食品添加物「乳酸」の新たな視点 ~乳酸の経口摂取、運動併用による認知機能低下予防作用の解明~ |
津田 孝範 中部大学 応用生物学部 |
30-03
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食品中の残留高極性農薬の半自動同時分析法の開発に関する研究 |
穐山 浩 星薬科大学薬学部 薬品分析化学研究室 |
30-04
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適切な健康影響評価系の構築を目指した、経口曝露後の銀ナノ粒子の存在様式 変化を踏まえた体内動態解析 |
長野 一也 和歌山県立医科大学 薬学部 |
30-05
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pH による紅茶の色調変化機構の解析 |
松尾 洋介 長崎大学 生命医科学域 |
30-06
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固相マイクロ抽出法を用いた加工食品中のフラン及びその類縁体の分析法の開発 |
堤 智昭 国立医薬品食品衛生研究所 食品部 |
30-07
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天然由来糖類似甘味成分イミノ糖の新たな供給法としての酵素処理法の研究 |
高須 蒼生 岐阜薬科大学 薬品分析化学研究室 |
30-08
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胚環境操作マウスおよび難消化性オリゴ糖を用いた食品添加物の安全性・有効性の評価系構築 |
石山 詩織 山梨大学 大学院総合研究部 生命環境学域 |
30-09
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既存添加物収載タンニン(抽出物)の機能性代謝物の探索 |
伊東 秀之 岡山県立大学 保健福祉学部 栄養学科 |
30-10
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食品香料成分フェネチルアミンの体内動態および新規効能の解析 |
平田 祐介 東北大学大学院 薬学研究科 |
30-11
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ヒアルロン酸オリゴ糖の簡易微量定量法の確立と体内動態特性の解析 |
佐藤 夕紀 北海道大学大学院 薬学研究院 |
30-12
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デュアルスプリットバイオセンサーを活用した胎盤形成に不可欠な栄養膜細胞の分化・融合に対する食品添加物の作用評価 |
吉江 幹浩 東京薬科大学 薬学部 内分泌薬理学教室 |
30-13
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体内動態を考慮したミリシトリン含有ヤマモモシクロデキストリン包接体の生体調節機能について |
芦田 均 武庫川女子大学 食物栄養科学部 食物栄養学科 |
30-14
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ビタミン系酸化防止剤が脳血管糖衣に及ぼす影響と効果に関する研究 |
米野 雅大 東京理科大学 |
30-01
線虫の多層化オミクス解析を用いた食品添加物の安全性評価
坂口 裕子
立命館大学 薬学部
線虫Caenorhabditis elegansは、全ゲノム配列からヒトと高い割合で相同遺伝子を有しており、哺乳類における毒性評価モデルとして用いられている。本研究では、線虫を用いたバイオアッセイにRNA-sequencing及びノンターゲットメタボロミクスを融合することにより、食品添加物の安全性評価のための線虫の多層化オミクス解析の実現を目指した。今回、対象物質として、ネオニコチノイド農薬(アセタミプリド; ACE及びクロチアニジン; CTD)を選択した。ACE及びCTDをL1幼虫に暴露し、そのRNAを次世代シーケンサーによって解析した。ノンターゲットメタボロミクスでは、幼虫の代謝物をLC-Q-TOF/MSによって分析した。その結果、有意に変動した遺伝子数及び代謝物がCTDと比較してACEで多く、ACEの毒性の強さが懸念された。これは、バイオアッセイにおいても同様の傾向であった。さらに、グルタチオン関連遺伝子や代謝物が有意に発現上昇していたことから、酸化ストレスによるネオニコチノイドの毒性発現が示唆された。線虫を用いることにより、多方面からの総合的な毒性評価が可能となることが示された。
30-02
食品添加物「乳酸」の新たな視点
~乳酸の経口摂取、運動併用による認知機能低下予防作用の解明~
津田 孝範
中部大学 応用生物学部
運動は全身に多様な恩恵をもたらす。例えば、運動はエネルギー消費と関連する体重のコントロールや糖・脂質代謝のホメオスタシス、インスリン感受性の改善に関わるが、運動で認知機能低下の予防や改善が可能なことが報告されている。運動で生成する乳酸は疲労物質ではなく、シグナル分子として重要な働きをしており、さらに運動による認知機能の向上に血中乳酸濃度の上昇が関わるとの報告もある。乳酸は日常的に食品からも摂取しているが、食品添加物としての乳酸摂取による効果の研究はない。以上の背景から本研究は乳酸の経口摂取で認知機能低下予防効果、あるいは運動併用でその効果の増幅を検証することを目的とした。この目的を達成するために実験動物と運動の方法を検討し、ICRマウスを用いた自発運動を用いることとした。さらに乳酸の経口投与による認知機能向上作用の検証を行い、有意な認知機能向上作用を示すことを明らかにした。以上の成果から次年度で実施予定の併用試験の条件設定を行うことができた。
30-03
食品中の残留高極性農薬の半自動同時分析法の開発に関する研究
穐山 浩
星薬科大学薬学部 薬品分析化学研究室
グリホサート(Gly)及びグルホシネート(Glu)は汎用されている除草剤である。海外では遺伝子組換え大豆の生産拡大により、Gly、Glu及びそれらの代謝物(N-acetylglyphosate(Gly-A), 3-methylphosphinicopropionic acid(MPPA), and N-acetylglufosinate(Glu-A))は我が国で残留規制対象に設定された。そのためGly、Gluの代謝物を含めた一斉分析が望まれているが、これらの物質は高極性で分析が困難である。本研究ではN-(tert-Butyldimethylsilyl)-N-methyltrifluoroacetamide(MTBSTFA)を用いた誘導体化とLC-MS/MSを用いた大豆中のGly、Glu及びそれら代謝物の一斉分析の開発を行った。大豆から水で抽出し、アセトニトリルで除タンパク質を行った。その後、Presh-SPE AXで精製並びに誘導体化を同時に行い、LC-MS/MSで分析した。添加回収実験では良好な回収率 (97 ~ 108%) と精度 (<9%) が得られた。Gly、Glu、Gly-A、Glu-Aおよび MPPA は、国内または他国の食用大豆からは検出されなかった。しかし、飼料用大豆および飼料用加工大豆粕を分析したところ、Gly、Glu、Glu-Aが検出された。本分析法は、迅速、簡単および信頼性の高い方法であると示唆された
30-04
適切な健康影響評価系の構築を目指した、経口曝露後の銀ナノ粒子の存在様式変化を踏まえた体内動態解析
長野 一也
和歌山県立医科大学 薬学部
近年、ナノ粒子の開発・実用化が進んでおり、意図的/非意図的に曝露せざるをえない状況にある。そのため、ナノ粒子のリスク評価も喫緊の課題となっている。特に、ナノ粒子は、生体内で凝集やイオン化、再粒子化されるため、曝露されたナノ粒子の物性のままではなく、その存在様式を変化させていることが知られつつある。しかし、生体内での存在様式変化を解析手法が乏しいこともあって、その実態は明らかにされていない。そこで本研究では、独自の生体試料応用型1粒子ICP-MS法を活用し、経口曝露後の銀ナノ粒子の存在様式変化を踏まえた体内動態を解析した。
銀ナノ粒子を経口投与したところ、吸収されて、血中で観察される銀の殆どは、投与した粒子でなく、イオンであったため、銀ナノ粒子は、消化管吸収される過程で存在様式を変化させることが示唆された。in vitroで吸収後にイオン化した可能性を検証したものの、吸収性試験で最も血中銀濃度が高かった投与後2時間においても、銀ナノ粒子は殆どイオン化されていなかった。その一方で、吸収過程では、銀ナノ粒子添加2時間において、検出された銀量は少なかったものの、細胞内でイオン化されており、吸収過程の寄与が推察された。
30-05
pH による紅茶の色調変化機構の解析
松尾 洋介
長崎大学 生命医科学域
紅茶は世界中で広く飲まれている嗜好飲料であり、その製造過程において茶カテキン類が酵素酸化を受けて紅茶特有の色素を含むさまざまなカテキン酸化生成物が生じる。レモンティーは紅茶にレモンを加えたものであり、レモンに含まれるクエン酸によって紅茶のpHが低下し、色調が赤色~薄いオレンジ色へ変化するが、その化学的なメカニズムについては明らかとなっていない。そこで本研究では、紅茶の色調変化に関わる色素成分について検討を行った。
市販紅茶を熱水や有機溶媒で抽出しPDA検出HPLC分析を行った結果、490 nmにおいてテアフラビン類およびトリセチニジンが主要ピークとして検出された。テアフラビンおよびトリセチニジンについて、さまざまなpHの緩衝液中においてUV/visスペクトルを測定したところ、いずれもpHの変化に伴い可視光領域においてスペクトルの変化が認められた。さらに、計算化学的解析により、pH変化に伴う化学構造の変化がUV/visスペクトルの変化を引き起こしていると考えられた。以上の結果から、pHの変化に伴う紅茶の色調変化において、テアフラビン類およびトリセチニジンが寄与していると考えられた。
30-06
固相マイクロ抽出法を用いた加工食品中のフラン及びその類縁体の分析法の開発
堤 智昭
国立医薬品食品衛生研究所 食品部
加工食品中に含まれるフラン及びその類縁体(2-メチルフラン、3-メチルフラン、2,5-ジメチルフラン)の分析法として、ヘッドスペース-SPME /GC-MSを開発した。インキュベーション及び抽出温度について最適化した後、フラン4種の分析性能を評価した。調製粉乳、味噌、煎餅、コーヒー、しょうゆを対象に添加回収試験を実施した。2濃度のフラン類4種を添加した試料を分析した結果、真度は76~103%、併行精度は6.8%以下、室内精度は12%以下であった。また、フラン類4種の濃度が付与されたコーヒー粉末試料を本分析法により分析した結果、z-スコアが2の範囲内に収まる良好な分析値が得られた。さらに、分析法の適用性を検証するため上記の加工食品5種(計30試料)を分析した結果、味噌のフラン-d4に妨害ピークが近接する問題はあったものの、概ね選択性に問題は無く、良好にフラン類4種を分析可能であった。本分析法は加工食品中のフラン類4種の分析法として有用であると考えられる。
30-07
天然由来糖類似甘味成分イミノ糖の新たな供給法としての酵素処理法の研究
高須 蒼生
岐阜薬科大学 薬品分析化学研究室
イミノ糖は糖尿病予防に効果が期待される甘味物質であり、砂糖の摂取量を抑えながら甘味を楽しむ新しい食習慣を提案できる可能性を秘めている。イミノ糖が多く含まれる天然資源として桑葉が知られるが、天然由来であるがゆえに安定供給が課題である。本研究では、桑葉中のイミノ糖を効率的に利用するために、酵素分解による桑葉中のイミノ糖の生理活性の向上手法開発を目指した。まず、LC-MSを用いたイミノ糖の高精度な分析法を確立し、立体異性体の分離や新たなイミノ糖の検出に成功した。次に、食品添加物酵素を用いた酵素処理により、Gal-DNJの分解は確認できたが、他の配糖体(DABやファゴミン)の分解を確認できなかった。これらの分解条件を検討するとともに、LC-MS分析におけるマトリックス効果を解消し、アグリコンの定量的な評価を行う必要がある。今後は、分析法のさらなる改良を行い、酵素処理によるアグリコンの増加量を正確に評価することで、桑葉からのイミノ糖の効率的な供給方法の確立を目指す。
30-08
mTORC1による免疫細胞の機能制御におけるアスパルテームの影響
石山 詩織
山梨大学 大学院総合研究部 生命環境学域
【目的】フラクトオリゴ糖は、現在日本で一番用いられている難消化性オリゴ糖であるが、臓器障害を有する動物モデルにおけるフラクトオリゴ糖の効果についてはほとんどなく、臓器障害を有する人への安全性・有効性は不明である。本研究では、フラクトオリゴ糖は、肝臓や腎臓に障害があっても安全であり、有効性(臓器抑制)があるかを検証する。【方法】2型糖尿病自然発症NSYマウスにそれぞれ高脂肪・高ショ糖食と5%のフラクトオリゴ糖を添加した高脂肪・高ショ糖食を摂取させ、23週間飼育し、腎臓・腸における病理評価を実施した。【結果・考察】2型糖尿病自然発症NSYマウスにフラクトオリゴ糖を投与すると、腎メサンギウム領域の増大が抑制された他、空腸、回腸、盲腸にて、腸バリアを形成する杯細胞の数が増加した。特に、腎メサンギウム領域と腸杯細胞数の相関は、腸内細菌が少ない回腸にて最も強く観察された。さらに、小腸周囲のリンパ節が集まる腸間膜脂肪にて、樹状細胞表面タンパク質の発現が低下した。以上よりフラクトオリゴ糖は、腸内細菌の少ない小腸にて腸バリア機能を増大させることで、 樹状細胞等の免疫細胞の活性化を抑制し、腎症抑制に寄与する可能性があると考えられる。
30-09
既存添加物収載タンニン(抽出物)の機能性代謝物の探索
伊東 秀之
岡山県立大学 保健福祉学部 栄養学科
エラジタンニンやガロタンニンを含む加水分解性タンニンは、ポリフェノールの一種で、機能性食品素材や薬用植物など天然に広く存在し、抗酸化作用や抗炎症作用をはじめとする様々な機能性を有することが知られている。しかし、その吸収・分布・代謝・排泄といった生体内挙動については不明な点が多い。先行研究によりエラジタンニンとガロタンニンが豊富に含まれるトウビシエキスをラットに経口投与後の血漿および尿サンプルを保有していたので、本申請課題である既存添加物収載タンニン(抽出物)の機能性代謝物の探索の一環として、トウビシエキス投与後の生体サンプル中の代謝物の詳細な体内動態を評価した。
SD雄性ラットにトウビシ果皮エキス100 mg/kgを経口投与後、経時的に採取した血漿および尿サンプルを脱抱合、酢酸エチルにより抽出し、分析用サンプルを調製した。調製したサンプルについて、12種類のurolithin類などのエラジタンニン関連代謝物および6種類のガロタンニン関連代謝物を分析対象として、HPLC-ESI-MS/MSにより定量を行った。血中濃度推移については、エラジタンニン関連代謝物は投与24時間前後で血中濃度が最大になるのに対し、ガロタンニン関連代謝物は投与1時間前後で血中濃度が最大となる傾向が認められた。尿中においても、エラジタンニン関連代謝物やガロタンニン関連代謝物が検出されたが、それぞれ異なる排泄パターンを示した。エラジタンニン関連代謝物はヒシエキス投与後72時間までシグモイド曲線様に尿中に排泄され、排泄が遅いことが示された。一方、ガロタンニン関連代謝物の多くは投与後24時間以内に排泄された。エラジタンニン関連代謝物は吸収、排泄に時間を要するが、ガロタンニン代謝物は速やかに吸収・排泄されることが示され、各代謝物が生体内で異なる挙動を示すことが明らかになった。以上の結果から、加水分解性タンニン含有食品素材の機能性の実証、活性本体の探究や投与設計につながる科学的基礎データを提供することができ、次年度の研究推進に基盤となるデータが得られた。
30-10
食品香料成分フェネチルアミンの体内動態および新規効能の解析
平田 祐介
東北大学大学院 薬学研究科
フェネチルアミンは、アルカロイドに属するモノアミンで、チーズ、ワイン、キャベツ、魚の加工品、ビールなどの様々な食品中に存在する美香成分であり、菓子、肉製品、冷凍乳製品類、清涼飲料水などの加工食品において、香りの再現・風味の向上の目的で添加される食品添加物であるが、その生体作用や効能に関しては、知見が乏しい。そこで本研究では、本化合物およびその代謝物(構造類似体)の生体作用機構の解明を目的として、研究に着手した。詳細な解析から、フェネチルアミンが、非アポトーシス性の制御性細胞死を低容量(nMオーダー)で強力に抑制する新規作用を見出した。フェネチルアミンの代謝物には抗酸化作用が認められたが、フェネチルアミン自体に抗酸化作用は認められなかった。一方興味深いことに、制御性細胞死の直前に起きる、細胞内外のカチオン(カリウムイオン、ナトリウムイオン)流出入が顕著に抑制された。以上の結果より、フェネチルアミンは、細胞膜上のカチオンチャネル抑制を介して制御性細胞死を抑制し、肝臓保護作用などの有益な作用を発揮することが示唆された。
30-11
ヒアルロン酸オリゴ糖の簡易微量定量法の確立と体内動態特性の解析
佐藤 夕紀
北海道大学大学院 薬学研究院
ヒアルロン酸(HA)は、グルクロン酸とN-アセチルグルコサミンの2糖を繰返す構造であり、近年、医薬品や化粧品の他、食品や食品添加物としても使用されている。HAは分析が困難であり、外因性のHAの体内動態など未解明な点も多い。そこで本研究では、低分子HAオリゴ糖に着目し、それらの同時定量法確立を目的とした。まず、HAオリゴ糖のカルボキシ基を縮合剤(DMT-MM)とジラール試薬Pで誘導体化し、親水系相互作用を利用した固相抽出によって前処理後、HA2, 4, 6, 8糖のピークをLC/MS/MSにより検出した。また本法に対してバリデーション試験を行った。さらに、HA製剤をWistar系ラットへ経口投与後、HA血漿中濃度を定量した。開発した定量法により誘導体化HAオリゴ糖を分析可能であることをMSスキャンで確認し、誘導体化HAオリゴ糖のピークを特定した。また、MS/MS条件を最適化し、検量線を作成したところ、HA 4, 6, 8糖において良好な直線性が示された。本法により、HA製剤経口投与後のHA4, 6, 8糖の血漿中濃度を測定可能であった。バリデーション試験のいずれの項目も規定範囲内であり、本法はHA 4, 6, 8糖を同時定量できる妥当な方法であることが示された。
30-12
デュアルスプリットバイオセンサーを活用した胎盤形成に不可欠な栄養膜細胞の分化・融合に対する食品添加物の作用評価
吉江 幹浩
東京薬科大学 薬学部 内分泌薬理学教室
胎盤は、妊娠時の子宮における胎児発育に必須な器官である。胎児は、母体血で満たされた絨毛管腔に存在する絨毛を介して栄養供給、ガス交換、老廃物の排泄を行うとともに、胎児への異物の移行を制御する血液-胎盤関門として機能する。また、絨毛性ゴナドトロピンやプロゲステロンなどの妊娠維持に重要なホルモンを産生・分泌する内分泌器官としての役割も担う。胎盤絨毛は、細胞性栄養膜細胞とそれが分化・融合した多核の合胞体栄養膜細胞からなる2層で構成され、絶えず分化・融合が起こることで胎盤が形成・維持される。食品添加物の妊娠への影響については、実験動物における催奇形性評価などにより安全性が担保されているが、ヒト栄養膜細胞の分化・融合に対する食品添加物の作用に関する報告は乏しい。本研究では、胎盤形成・維持に不可欠な栄養膜細胞の融合を定量的に評価できる新規バイオセンサーアッセイ系を作製し、食品添加物の作用をスクリーニング評価した。栄養強化剤、pH調整剤、酸化防止剤、発色剤、防カビ剤にはこれらの過程に影響する可能性のある品目が存在すること、また、短鎖脂肪酸の酪酸は、栄養膜細胞の分化・融合を促進し、胎盤絨毛の形成・維持に寄与することが示唆された。
30-13
体内動態を考慮したミリシトリン含有ヤマモモシクロデキストリン包接体の生体調節機能について
芦田 均
武庫川女子大学 食物栄養科学部 食物栄養学科
フラボノイドであるミリシトリン (Myr)は高血糖抑制効果が報告されているが、水溶性が低く水溶液中での安定性が悪いため機能性が低い。そこで、Myrを-シクロデキストリン (γ-CD)で包接することで水溶性や安定性を改善した複合体 (W-Myr)を用いて、体内動態を考慮した高血糖抑制効果を調べた。体内動態の検証のために、マウスにW-MyrまたはMyrを経口投与して、血漿と各組織におけるMyrとそのアグリコンであるミリセチン (Mce)濃度をHPLCで測定した。その結果、血漿中には投与量の0.01%しか取り込まれなかったが、回腸と盲腸上皮中ではW-Myr投与群の方がMyr投与群より有意に多かった。経口糖負荷試験を実施すると、これらの化合物は食後高血糖の抑制効果を示し、W-Myr投与群の方がMyr投与群よりも強い効果を示した。W-Myrは血中GLP-1濃度と血中インスリン分泌を増加させたことより、W-Myrの高血糖抑制効果はGLP-1を介することが明らかとなった。MyrはCREBのリン酸化を促進させたが、細胞内cAMP濃度を変化させなかったことより、MyrのGLP-1分泌促進効果はcAMP-PKA経路以外の別の経路に依存することが判った。
30-15
ビタミン系酸化防止剤が脳血管糖衣に及ぼす影響と効果に関する研究
米野 雅大
東京理科大学
本研究ではアスコルビン酸 (AsA) およびその誘導体に脳梗塞により分解される血管内皮細胞の表面上糖鎖(糖衣)の分解抑制機能および脳梗塞への応用を検討した。まず、脳梗塞発生時に生じる脳血管内皮糖衣の分解を担うヘパラナーゼ1 (HPSE1) の発現抑制作用の検討をおこなった。ヒト血管内皮細胞株であるEA.hy926細胞に対して、ヒトHPSE1のプロモーター領域とルシフェラーゼを融合したプラスミドを用いたレポーターアッセイによりHPSE1 遺伝子の発現誘導レベルを測定した。AsA は濃度依存的にHPSE1 遺伝子のプロモーター活性を有意に抑制した。一方でAsA の誘導体ではHPSE1遺伝子のプロモーター活性に変化は認められなかった。次に脳梗塞モデルマウスにAsA およびその誘導体を投与したところ、AsA 群で脳梗塞体積の減少が認められた。脳梗塞体積減少作用のメカニズムを検討したが、HPSE1の遺伝子発現量やタンパク発現量に変化は認められなかった。一方で、AsA はLPS で刺激したマクロファージのTNF-α産生量を低下させた。以上の結果より、AsAは炎症性反応を抑制することで、脳梗塞の予後改善作用を有する可能性が考えられた。