第29回研究成果報告書(2023年)

研究成果報告書 索引〕 

当財団の研究助成(2022年度)による研究成果報告書の抄録

抄録 No.

研究課題

研究者(複数の場合は代表者)

29-01

食品中の残留高極性農薬の半自動同時分析法の開発に関する研究 穐山 浩
星薬科大学 薬学部 薬品分析化学研究室

29-02

モノテルペンの精確な定量を指向したGC/FIDにおける相対モル感度を用いた定量法の開発 増本 直子
国立医薬品食品衛生研究所 食品添加物部

29-03

ビタミンCCD8T細胞の病原体に対する免疫応答に及ぼす影響の解明 近藤 健太
滋賀医科大学 生化学・分子生物学講座 分子生理化学

29-04

食品色素としての利用を目指した天然青色色素の全合成およびその微粒子の基礎物性評価 鈴木 龍樹
東北大学 多元物質科学研究所

29-05

固相マイクロ抽出法を用いた加工食品中のフラン及びその類縁体の分析法の開発 堤 智昭
国立医薬品食品衛生研究所 食品部

29-06

食品添加物の動物実験を用いない安全性評価のSystematic reviewに関する研究  第2報 小島 肇
1 国立医薬品食品衛生研究所 食品添加物部
2 国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 安全性予測評価部

29-07

ヒトiPS細胞由来骨格筋細胞を用いた食品添加物ビタミン類の筋萎縮抑制効果に関する研究 山内 祥生
東京大学大学院 農学生命科学研究科 応用生命化学専攻

29-08

mTORC1による免疫細胞の機能制御におけるアスパルテームの影響 小野寺 章
神戸学院大学 薬学部

29-09

泌乳期における非糖質甘味料の摂取が血液乳関門に及ぼす影響 小林 謙
北海道大学大学院 農学研究院 細胞組織生物学研究室 

29-10

体内動態を考慮したミリシトリン含有ヤマモモシクロデキストリン包接体の生体調節機能について 芦田 均
神戸大学大学院 農学研究科 生命機能科学専攻

29-11

食品添加物グレード二酸化チタンE171の糖脂質代謝系における安全性評価 松丸 大輔
岐阜薬科大学 生命薬学大講座 衛生学研究室

29-12

アルギン酸ナトリウムの慢性的経口摂取による血圧上昇抑制効果 丸山 紗季
神戸女子大学 家政学部 管理栄養士養成課程 予防医学研究室

29-13

炭酸水素ナトリウムの添加と高圧処理の併用による微生物初期汚染の低減の検討 筒浦 さとみ
新潟大学 農学部

29-14

クルクミンと食品添加物からなる共結晶の製造工程における物理的安定性ならびに保存安定性 鈴木 直人
日本大学 薬学部 薬剤学研究室

29-15

抗肥満成分としてのデンプン分解米胚乳タンパク質の可能性 久保田 真敏
新潟工科大学 工学部 工学科 食品・環境化学系


29-01

食品中の残留高極性農薬の半自動同時分析法の開発に関する研究

穐山 浩
星薬科大学 薬学部 薬品分析化学研究室

 本研究では、誘導体化を行わずに逆相カラムと陰イオンカラムの混合モードカラムを用いて、蜂蜜中の残留グリホサート、グルホシネート、およびそれらの代謝物N-アセチルグリホサート(Gly-A)、3-メチルホスフィニコプロピオン酸(MPPA)、N-アセチルグルホシネート(Glu-A)を同時定量する液体クロマトグラフ-タンデム質量分析法(LC-MS/MS)の確立を行った。水を用いてハチミツサンプルから抽出し、逆相C18カートリッジカラムと陰イオン交換NH2カートリッジカラムを使用し、LC-MS/MSで定量した。グリホサート、Glu-A、Gly-A、MPPAはネガティブイオンモードで検出し、グルホシネートはポジティブイオンモードで検出した。グルホシネート、Glu-A、MPPAは1~20 µg/kgの濃度範囲で、グリホサート、Gly-Aは5~100 µg/kgの濃度範囲で良好な直線性を示した。開発した方法にて、グリホサートとGly-Aを25 µg/kg、グルホシネートとMPPAとGlu-Aを5 µg/kg添加した蜂蜜試料を用いて妥当性評価を行った。妥当性評価の結果、良好な真度と精度を示した。開発したメソッドの定量限界は、グリホサートで5 µg/kg、Gly-Aで2 µg/kg、グルホシネート、MPPA、Glu-Aは1 µg/kgであった。確立した方法を市販ハチミツ試料の分析に適用したところ、グリホサート、グルホシネート、Glu-Aが一部のサンプルで検出された。確立した方法は、ハチミツ中の残留グリホサート、グルホシネートおよびその代謝物の定量に適用可能であることが示唆された。


29-02

モノテルペンの精確な定量を指向したGC/FIDにおける相対モル感度を用いた定量法の開発

増本 直子
国立医薬品食品衛生研究所 食品添加物部

 相対モル感度(RMS)を用いた定量法(RMS法)は、定量対象とは別の安定な化合物を基準とし、これに対する定量対象のRMSが明らかであれば、定量対象の定量用標品を用いることなく定量可能な手法である。近年、既存添加物などの天然物由来製品に含まれる有用成分のうち、定量用標品の入手が困難な成分の定量に適用される例が増えている。しかし、RMS法のGC-FIDへの応用例は少なく、とくにRMS法における装置間差や設定するパラメータの影響の有無といった基本的情報はない。さらに、近年ヘリウム不足が問題となっているが、キャリアガス等のガス種を変更しても同一のRMSが使用可能かといった基礎データもない。
 本研究では、モノテルペン化合物をモデルとし、これらの基準物質に対するRMSがGC-FID分析条件のどのような要因によって影響されるか調査した。カラムの液相やキャリアガス等のガス種を変更すると、化合物によっては10%程度のRMSの変動があり、改めてRMSを決定し直す必要があることが示唆された。一方、キャリアガスの流速の変化ではRMSの変動は±2%程度の範囲内に収まり、他の要因と比較して影響が小さいことが示された。


29-03

ビタミンCがCD8T細胞の病原体に対する免疫応答に及ぼす影響の解明

近藤 健太
滋賀医科大学 生化学・分子生物学講座 分子生理化学

 近年、ビタミンCの新たな生理学的役割としてDNA脱メチル化促進作用が発見された。獲得免疫系の中心的役割を果たすCD8+ T細胞の免疫応答には、DNA脱メチル化により遺伝子発現が誘導されることが必要であるが、ビタミンCによるDNA脱メチル化促進作用が、これに関わるのかは不明である。
 本研究では、ビタミンC存在下でCD8+ T細胞を培養することにより、ビタミンCのDNA脱メチル化促進作用がCD8+ T細胞に及ぼす影響を検討した。その結果、ビタミンCはDNA脱メチル化促進作用によりIFNの発現量を増加させた。さらに、ビタミンCは転写因子 Batf3の発現量を増加させ、CD8+ T細胞の生存能とリステリア菌に対する免疫応答が亢進した。したがって、ビタミンCはDNA脱メチル化促進作用を介してCD8+ T細胞の免疫応答を調整している可能性が示唆された。本研究成果は、ビタミンCのDNA脱メチル化促進作用を標的にした機能性食品などの開発に繋がることが期待される。


29-04

食品色素としての利用を目指した天然青色色素の全合成およびその微粒子の基礎物性評価

〇鈴木 龍樹、丸岡 清隆
東北大学 多元物質科学研究所

 食品業界における安全性への関心の高まりから、着色料として合成化学物質の代わりに天然色素の使用が進められている。しかし、現在食品で使用されている天然の青色着色料はアントシアニン、フィコシアニン、クチナシ色素の3種類に限られており、いずれも水溶性である。そのため、食品業界ではより幅広い食品の着色を可能にする候補化合物の探索が続けられている。我々は、食用青キノコであるLactarius indigoから単離された青色色素のアズレン誘導体に注目した。この顔料は脂溶性であるため、脂肪分の多い食品を均一に着色することができる。さらに脂溶性色素は微粒子化し分散製剤とすれば水系でも使用が可能である。しかし、この化合物の着色特性は未解明のままである。そこで本研究では、Ziegler‒Hafner法によるアズレン骨格の構築と、ジルコニウム錯体を用いたカルボメタル化によるエチニル基のイソプロペニル基への変換を組み合わせることで、世界で初めてアズレン誘導体の全合成を達成した。さらに、着色料への応用を検討するため、アズレン誘導体のナノ粒子の水分散液を調製した。この分散液は溶液と同様に濃青色を呈し、可視吸収スペクトルにおいて約600 nmに吸収ピークを示した。


29-05

固相マイクロ抽出法を用いた加工食品中のフラン及びその類縁体の分析法の開発

堤 智昭
国立医薬品食品衛生研究所 食品部

 加工食品中に含まれるフラン及びその類縁体(2-メチルフラン、3-メチルフラン、2,5-ジメチルフラン)の分析法として、ヘッドスペース-SPME /GC-MSを検討した。GC-MS測定については、重水素標識体を内標準物質として用いてSIM測定により分析対象物質を定量した。GCカラムは2,5-ジメチルフランとその構造異性体である2-エチルフランとの分離が良好であった中極性カラム(Rxi-624 Sil MS)を使用した。SPME条件についてコーヒー粉末試料を用いて検討した結果、インキュベーション温度とSPME Arrowファイバー(ジビニルベンゼン/ポリジメチルシロキサン)による抽出温度は40℃、インキュベーション時間は20分に設定することで、フラン類4種を感度良く安定して分析可能であった。フラン類4種の検量線は良好な直線性を有しており、目標とした定量下限値(1 ng/g)を十分に達成可能であった。フラン類4種の濃度が付与されたコーヒー粉末試料を本分析法により分析した結果、暫定ではあるもののz-スコアが2の範囲内に収まる良好な分析値が得られた。


29-06

食品添加物の動物実験を用いない安全性評価のSystematic reviewに関する研究  第2報

小島 肇
1 国立医薬品食品衛生研究所 食品添加物部
2 国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 安全性予測評価部

 世界的な動物実験の3Rs (Reduction, Refinement, Replacement) 原則の普及を受け、動物実験を用いない安全性評価の行政的な受け入れが加速している。この状況を受け、昨年度、食品添加物の動物実験を用いない安全性評価や規制のあり方を探るため、新規アプローチ法(NAM: New Approach Methodologies)を用いた安全性評価に関する関連する文献を抽出した。本年度、これら文献の中から、カフェインおよびクマリンのNAM事例報告をreviewし、有用性と限界を明らかにした。その結果、ヒト代謝物やその動物実験結果およびin silicoの情報を活用すれば、これら物質の安全性を担保することは可能と考えた。ただし、バリデートされていないin vitro試験を用いたPOD(Point of Departure:各種の動物試験や疫学研究から得られた用量反応評価の結果から得られる値)は活用しなかった。単に事例報告を踏襲することには懸念を感じた。
 今後、動物実験を用いない安全性評価の事例開発が加速することを期待しているが、それぞれにIndependent peer reviewされる必要性を再認識した。


29-07

ヒトiPS細胞由来骨格筋細胞を用いた食品添加物ビタミン類の筋萎縮抑制効果に関する研究

山内 祥生
東京大学大学院 農学生命科学研究科 応用生命化学専攻

 超高齢社会に突入したわが国において、健康寿命の延伸は極めて重要な社会的課題となっており、加齢に伴う筋萎縮や筋量維持の分子機序を理解することの重要性が増している。骨格筋量を制御する最も主要な因子としてマイオスタチンが広く知られている。近年の研究より、マイオスタチンとアミノ酸配列の相同生が高いGDF11が筋萎縮に関与することが示唆された。また、フレイル患者において、血中のGDF11濃度が高いことが報告されている。一方、GDF11は"若返り因子"としてお老齢マウスの筋力を回復することが報告されており、骨格筋におけるGDF11の機能は世界的な論争となっている。GDF11の血中濃度はマイオスタチンの約1/10以下と微量であるが、これまでの報告では生理的濃度を逸脱した高濃度のGDF11が実験的に使われており、生理的濃度のGDF11が筋萎縮を誘導するかどうかは明らかにされていない。本研究では、ヒトiPS細胞から分化誘導した骨格筋細胞を用いて、フレイル患者で認められる病態生理的レベルのGDF11がSmad2/Smad3シグナルを活性化し、筋萎縮を惹起するか検討するとともに、GDF11依存的な筋萎縮を抑制可能な化合物やビタミン類の効果を検証した。


29-08

mTORC1による免疫細胞の機能制御におけるアスパルテームの影響

小野寺 章
神戸学院大学 薬学部

 人工甘味料の一つアスパルテーム(APM)は、生体内・細胞内ではエステラーゼやペプチダーゼによって加水分解され、天然型の2つのアミノ酸へと姿を戻す。これらアミノ酸は、通常の代謝経路を経てタンパク質合成に利用されると考えられるが、過量のAPM摂取による健康影響が危惧されている。APMを72時間曝露したヒト樹状細胞PMDC05は、TLR7のリガンドであるGardiquimodによるInterferon(INF)-alpha2、INF-betaのmRNA発現が減少した。さらに、Mechanistic Target of Rapamycin(mTOR)阻害剤のエベロリムス(Eve)を加えると、相乗的にこれらのmRNA発現が減少した。この細胞は、750nmの蛍光ポリスチレン粒子の取込み量、つまりファゴサイトーシスの機能も減少していた。TLR7はリソソームに局在しており、mTORを含めた複合体はリソソームを活性化の場としている。過量のAPMは、リソソームの恒常性を低下させることで樹状細胞の機能を低下させると考えられた。


29-09

泌乳期における非糖質甘味料の摂取が血液乳関門に及ぼす影響

小林 謙
北海道大学大学院 農学研究院 細胞組織生物学研究室 

 母乳とは乳児の発育に適した栄養源であり、適切な母乳育児は母子の健康増進に繋がる。しかし、母乳不足や異常乳分泌などの母乳トラブルに悩む人は多い。細胞生理学的に捉えると、母乳とは泌乳期の乳腺上皮細胞が産生する分泌液である。私たちの先行研究から、乳腺上皮細胞には甘味受容体T1R3が発現していることが見出された。本研究では乳産生と強固なタイトジャンクション(TJ)の形成を再現した培養モデルを用いて、非糖質甘味料のスクラロースが、乳腺上皮細胞の乳産生能力とTJ形成を制御するシグナル経路に及ぼす影響を調べた。その結果、グルコース非存在下においてスクラロースが乳腺上皮細胞における乳産生促進性の転写調節因子STAT5を活性化することがわかった。しかし、グルコース存在下の場合、スクラロースはSTAT5の不活性化と乳タンパク質分泌量減少を引き起こした。一方、スクラロースがTJタンパク質に及ぼす影響は検出されなかった。また、スクラロースによる負の影響は乳腺上皮細胞の頭頂部側細胞膜(乳汁側)を介したものであった。そのため、経口摂取された非糖質甘味料が血液乳関門に及ぼす影響は限定的であると考えられる。


29-10

体内動態を考慮したミリシトリン含有ヤマモモシクロデキストリン包接体の生体調節機能について

芦田 均
神戸大学大学院 農学研究科 生命機能科学専攻

 フラボノイドであるミリシトリン (Myr) は高濃度で高血糖抑制効果が報告されているが、水溶性が低く水溶液中での安定性が悪いため機能性が低い。そこで、Myrをγ-シクロデキストリン (γ-CD) で包接することで水溶性や安定性を改善した複合体 (W-Myr) が開発された。W-Myrは腸管内でγ-CDが外れてMyrになることから、本研究では、W-Myr とMyrの体内動態の検証を行い、その後、培養細胞を用いた生体調節能を探索した。マウスにW-MyrまたはMyrを経口投与した後、各組織におけるMyrとそのアグリコンであるミリセチン (Mce) 濃度をHPLCで測定した。投与4時間後の盲腸上皮におけるMyrとMceの合計量は、W-Myr投与群の方がMyr投与群より有意に多かった。しかし、回腸上皮や肝臓ではこの差が見られなかった。一方で、これらの化合物は食後高血糖の抑制効果を示し、W-Myrの方がMyrより強い効果を示した。次に、高血糖予防以外の機能性を探索すると、MyrとMceは肝細胞における抗酸化酵素の発現と脂肪蓄積の抑制、脂肪細胞の分化抑制、ならびに筋肉細胞における筋萎縮の抑制には効果を示さなかった。以上より、高血糖抑制効果も消化管に作用点があると考え、腸分泌細胞にMyrを作用させたところ、グルカゴン様ペプチド-1の分泌量の促進効果が認められた。したがって、W-MyrとMyrによる高血糖抑制効果の作用点は、消化管であり体内組織ではないことが推察された。


29-11

食品添加物グレード二酸化チタンE171の糖脂質代謝系における安全性評価

松丸 大輔
岐阜薬科大学 生命薬学大講座 衛生学研究室

 食品添加物グレードの酸化チタン(E171)には、酸化チタンのナノ粒子(TiO2-NPs)が混在している。TiO2-NPsは血糖値上昇等を誘導することから、E171も同様の影響を及ぼすことが懸念されている。本研究では、マウスにE171を60日間経口投与し糖脂質代謝に生じる影響を解析した。E171投与マウスでは、血漿マーカー等の異常は認められず、肝臓の組織像も正常であった。また、肝臓での糖脂質代謝関連遺伝子の発現にも大きな変化は見られなかった。これらの結果から、E171は糖脂質代謝系に影響しない可能性が示唆された。次に、大量のE171に曝露された際を想定し、TiO2-NPsによる毒性の発現メカニズムを解析した。TiO2-NPs投与マウスの肝臓では、脂肪滴蓄積が検出されたが、糖脂質代謝関連遺伝子の発現変化は認められなかった。そこで、TiO2-NPs投与マウスの小腸を解析した結果、炎症性サイトカインと酸化ストレス応答遺伝子の発現増加を見出した。TiO2-NPs投与マウスにN-アセチルシステインの飲水投与を行ったところ、脂肪滴蓄積が回復した。これらの結果より、TiO2-NPsによる肝臓の脂肪滴蓄積には、消化管での酸化ストレス応答が関連することが示唆された。


29-12

アルギン酸ナトリウムの慢性的経口摂取による血圧上昇抑制効果

丸山 紗季
神戸女子大学 家政学部 管理栄養士養成課程 予防医学研究室

 アルギン酸ナトリウム(ALG)は褐藻に含まれる多糖である。先行研究より、高血圧モデル動物では腸管バリア機能が低下しており、ALGは炎症性腸疾患モデル動物において腸管バリア機能の低下が抑制されることが報告されている。そこで、本研究では、1.0%(w/w)ALG添加餌または対照餌を2-kidney, 1-clip腎血管性高血圧モデルラット(2K1C)または疑似手術対照ラット(SHAM)に6週間摂取させ、各ラットの血圧に対する効果とともに、腸管バリアへの形態及び構造への影響を観察した。収縮期血圧は週ごとに、平均血圧は実験終了時に測定した。また、腸管粘膜の形態評価、腸管tight junction protein(Tjp)量及び血漿LPS濃度の評価を行った。2K1Cの血圧はSHAMよりも有意に上昇したが、この血圧上昇がALG摂取より有意に抑制された。2K1Cでは、腸の線維化面積及び筋層厚が増加し、杯細胞数、絨毛長及び腸管Tjpが減少したが、それらはALG摂取により改善した。血漿LPS濃度は動物モデル及び飼料によって差が認められた。本研究より、ALG摂取は腸管バリア機能の保持を介して腎血管性高血圧を緩和する可能性が考えられた。


29-13

炭酸水素ナトリウムの添加と高圧処理の併用による微生物初期汚染の低減の検討

筒浦 さとみ
新潟大学 農学部

 高静水圧処理(高圧処理)は非加熱の処理であるが故に、一部の微生物では殺菌・制御が難しい。健康な人が保菌する黄色ブドウ球菌は食中毒細菌であることから、食品を調理・加工する上で安全性を保つために制御が必要不可欠であるが、本菌は耐圧性をもつことから圧力単独では制御が困難である。本研究では、高圧処理時の炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)添加の有効性を明らかにすることを目的として、NaHCO3を液体培地に添加して高圧処理を施した際の黄色ブドウ球菌の殺菌及び保存中の増殖や死滅に与える影響を調べた。高圧処理直後の黄色ブドウ球菌の菌数は植菌時に比べてほとんど減少せず、NaHCO3には高圧処理の殺菌を強める効果はなかった。しかし、その後の冷蔵環境下での培養中に菌数が減少し、0.4-0.7 M NaHCO3添加培地では30日保存後の菌数がほぼ検出限界まで減少した。食品では培地の場合と比べて保存中のNaHCO3による殺菌効果が低下したことから、今後は食品を用いて、高圧処理及び保存の条件をさらに検討する必要があると考えられた。本研究の結果から、高圧処理後の保存を低温環境下で長期的に行うことにより、NaHCO3が保存中に菌を死滅させ、効果的に殺菌することが示唆された。


29-14

クルクミンと食品添加物からなる共結晶の製造工程における物理的安定性ならびに保存安定性

鈴木 直人
日本大学 薬学部 薬剤学研究室

 共結晶とは2成分以上から構成される結晶性分子複合体であり、医薬品分野では薬物の物理化学的特性の改善に利用される。共結晶を利用する場合、製造工程や保管中における共結晶の解離を回避するため、物理的安定性の高い共結晶を選定する必要がある。本研究では、難水溶性のクルクミンと5つのコフォーマー(レゾルシノール、ヒドロキシキノール、ヒドロキノン、カテコール、ピロガロール)からなり溶解性の改善された共結晶について、キャラクタリゼーションならびに保存安定性試験を実施した。クルクミンと各コフォーマーとの共結晶を溶媒蒸発法により新たに調製したところ、既報のこれら共結晶のキャラクタリゼーションと一致することが明らかとなった。また、ヒドロキノン、カテコール、ピロガロールからなる共結晶は、温度あるいは湿度の影響を受け解離が認められたのに対して、レゾルシノール、ヒドロキシキノールからなる共結晶は、相対的に安定であることが示唆された。したがって、レゾルシノール、ヒドロキシキノールからなる共結晶は、製造あるいは保存時に解離することなく、共結晶化により改善された溶解性を維持することが期待される。


29-15

抗肥満成分としてのデンプン分解米胚乳タンパク質の可能性

久保田 真敏
新潟工科大学 工学部 工学科 食品・環境化学系

 米は、エネルギー源としてだけではなく重要なタンパク質供給源でもあり、機能性に注目した研究も報告されつつある。しかし、これまでの機能性研究ではアルカリ抽出米胚乳タンパク質を用いたものがほとんどであり、デンプン分解米胚乳タンパク質(SD-REP)を用いたものは少ないのが現状である。そこで本研究ではこのSD-REPに注目して、特に肥満に与える影響を明らかにすることを目的とした。供試動物として6週齢の雄性C57BL/6マウスを用い、カゼインあるいはSD-REPをタンパク質源とした高脂肪・高ショ糖飼料を10週間給与した。なお、試験群は高脂肪・高ショ糖カゼイン(HC)群、高脂肪・高ショ糖SD-REP(HR)群、標準カゼイン(NC)群の計3群を設けた。飼養試験の結果より、HC群と比較してHR群で有意に体重増加が抑制され、脂肪組織重量も同様に有意に低値を示した。また血中の肝機能マーカーであるアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、アラニンアミノトランスフェラーゼは、HR群で有意に低値を示した。以上、本研究の結果よりSD-REPは抗肥満作用を有し、肝機能障害抑制作用を有している可能性が示された。

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