第28回研究成果報告書(2022年)
〔研究成果報告書 索引〕
当財団の研究助成(2021年度)による研究成果報告書の抄録
抄録 No.
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研究課題
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研究者(複数の場合は代表者)
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28-01
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既存食品添加用色素を用いた胚移植の操作性及び視認性の向上 |
今井 啓之 山口大学 共同獣医学部 獣医解剖学教室 |
28-02
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単純糖質嗜好性抑制作用を有する希少糖の探索とその応用 |
松居 翔 京都大学大学院 農学研究科 食品生物科学専攻栄養化学分野
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28-03
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食品添加物の動物実験を用いない安全性評価のSystematic review に関する研究 |
小島 肇 国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 安全性予測評価部
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28-04
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ミカン属植物に含まれるアルカロイドの分析とメタボローム解析 |
辻本 恭 東京農工大学 工学部 |
28-05
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メタボロミクスを用いた糖アルコールの糖代謝改善メカニズムの解明 |
中西 尚子 京都府立医科大学大学院 医学研究科 内分泌代謝内科学
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28-06
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ヒトiPS 細胞由来骨格筋細胞を用いた食品添加物ビタミン類の筋萎縮抑制効果に関する研究 |
山内 祥生 東京大学大学院 農学生命科学研究科 応用生命化学専攻
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28-07
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ナツメグ成分malabaricone C による脂質メディエーター合成阻害と慢性炎症性疾患予防効果 |
山本 登志子 岡山県立大学 保健福祉学部 栄養学科 |
28-08
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蛍光標識人工甘味料の創製と安全性研究への応用 |
小野寺 章 神戸学院大学 薬学部 |
28-09
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カラメル色素Ⅲ・Ⅳに含まれる4-Methylimidazole の消化管上皮細胞への影響 |
瀧沢 裕輔 日本薬科大学 臨床薬剤学分野 |
28-10
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人工甘味料の摂取により活動し、その嗜好を駆動する神経細胞の全脳マッピング |
田中 大介 東京医科歯科大学 |
28-11
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ミョウバンによる腸管上皮損傷に伴う炎症・アレルギー誘導性損傷関連分子の放出の解析と免疫学的安全性評価の検討 |
若林 あや子 日本医科大学 微生物学・免疫学教室 |
28-12
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食用油中シス体カロテノイドの安定性評価と安定性向上に最適な抗酸化物質の選定 |
村上 和弥 静岡県立大学 食品栄養科学部 |
28-13
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安心して在宅でトロミ剤を提供するためのトロミ度計測マドラーの開発 |
黒瀬 雅之 岩手医科大学 生理学講座 病態生理学分野 |
28-14
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食用昆虫の栄養評価ならびにビタミンB12アナログの安全性に関する研究 |
美藤 友博 鳥取大学 農学部 |
28-15
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食用昆虫タンパク質の生体内消化性および食品加工時の物性・抗菌性に及ぼす影響 |
落合 優 北里大学 獣医学部 動物資源科学科 栄養生理学研究室
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28-16
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食品・食品添加物の品質保証に関する薬学教育研究普及拡大のための調査研究 |
黒川 洵子 静岡県立大学 薬学部 生体情報分子解析学分野 |
28-01
既存食品添加用色素を用いた胚移植の操作性及び視認性の向上
今井 啓之
山口大学 共同獣医学部 獣医解剖学教室
市販の培養液は、フェノールレッドの存在により淡赤色である。これはフェノールレッドのpH指示機能を活用するためのものである。一方、これら市販の培養液を用いて胚移植や精子凍結などを行う場合、培養液の色調が淡いために視認性が十分でなく、操作性が低い。本研究では、既存食品添加用色素を用いて胚操作等の視認性と操作性を向上させることを目的とした。令和2年度においては、胚培養液の機能を維持しつつ、色調を変動せしめる候補色素を2種類同定した。今回、実際の胚移植への実証可能性について検証を行い、十分な安全性を確認できた。さらに既存の食品添加用色素を用いて胚等の凍結保存へ適用範囲の拡大を試みたが、細胞障害性が認められ実用化にあたって課題が残った。
28-02
単純糖質嗜好性抑制作用を有する希少糖の探索とその応用
松居 翔
京都大学大学院 農学研究科 食品生物科学専攻栄養化学分野
【背景】糖尿病や肥満症は世界的に増加している。我々は、糖質の欲求制御に関与するfibroblast growth factor 21 (FGF21)-oxytocin(OXT)系を発見し、報告した。同制御系を活性化するFGF21を誘導する物質は、無理のない糖質制限を可能にする新たな食事療法の開発に繋がることが期待される。【目的】FGF21誘導物質を探索し、その物質の飲酒欲求抑制効果を検証した。【方法】野生型マウスの初代培養肝細胞に46種類の希少糖を添加して、培地中のFGF21の分泌量を測定した。FGF21分泌を有意に促進する希少糖を野生型マウスに経口投与し、血中FGF21濃度と糖質嗜好性を評価した。【結果】D-sorbitol、D-psicose、D-tagatoseは初代培養肝細胞からのFGF21分泌を有意に促進した。これらの希少糖の野生型マウスへの経口投与は血中FGF21濃度を有意に上昇させた。加えて、D-sorbitol、D-psicose、D-tagatoseの経口投与は糖質嗜好性を低下させた。【結論】FGF21-OXT系を刺激する希少糖D-sorbitol、D-psicose、D-tagatoseは、糖質の欲求を抑制する効果を示す。
28-03
食品添加物の動物実験を用いない安全性評価のSystematic review に関する研究
小島 肇
国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 安全性予測評価部
世界的な動物実験の3Rs (Reduction, Refinement, Replacement) の普及を受け、動物実験を用いない安全性評価の行政的な受け入れが加速している。この状況を受け、本研究では、食品添加物の動物実験を用いない安全性評価や規制のあり方を探るため、新規アプローチ法(New Approach Methods : NAM)を用いた安全性評価の調査を行った。
具体的には、NAMを用いた食品添加物の安全性評価を前提に、1)国内外の専門家へのヒアリングを通し、トキシコキネティックおよび動物実験を用いない毒性試験の情報を収集するとともに、国内外の行政機関におけるNAMを用いた全身毒性評価の現状をまとめた。2)特定非営利活動法人 国際生命科学研究機構(International Life Sciences Institute : ILSI)-Japan食品領域における動物実験代替法推進プロジェクトが令和3年11月に開催したILSI代替法国際ワークショップ(非公開)に協力した。3)上記情報をもとに、食品添加物や機能性成分に関する安全性評価に関する関連する文献を抽出し、systematic reviewを実施した。
これにより、我が国においても、国際的な状況を考慮した食品添加物の安全性評価の目標が定まり、新規の食品添加物の開発や、これまで、国際市場で販売できなかった日本独自の食品添加物の諸外国への申請が容易になると考えている。
28-04
ミカン属植物に含まれるアルカロイドの分析とメタボローム解析
辻本 恭
東京農工大学 工学部
今年度は、昨年度の結果をふまえ、ミカン属植物に含まれるアルカロイド化合物のシネフリンに注目して、その検出と種同定に適用可能なNMRおよびLC-MS を用いた一斉解析法の適用を試みた。その結果、NMRを用いた方法によりシネフリンを一斉解析法において特異的に検出できることが明らかとなった。また、昨年の結果も合わせ、LC-MSによる方法により、フラボノイド化合物をターゲットとしたメタボローム手法と種同定において、同時にシネフリンの検出が可能であることを示すことができた。
28-05
メタボロミクスを用いた糖アルコールの糖代謝改善メカニズムの解明
中西 尚子
京都府立医科大学大学院 医学研究科 内分泌代謝内科学
糖アルコールの一種であるエリスリトールは、砂糖の代替品として糖尿病や肥満の患者の食事に広く使用されている。本研究ではC57BL/6Jマウスを用いて、高脂肪食による代謝異常に対するエリスリトールの効果を、自然免疫の変化に着目して検討した。高脂肪食を摂取させ、エリスリトールを5%含む水を投与したマウス(Ery群)は、対照マウス(Ctrl群)に比べ、有意に体重増加が抑制され、耐糖能が改善し、基礎代謝量が上昇した(n=6)。さらに、Ery群はCtrl群と比較して、肝臓の脂肪沈着が少なく、脂肪細胞のサイズも小さく、小腸の炎症所見も有意に改善した。Ery群の血清、糞便、白色脂肪組織中の酢酸、プロピオン酸、酪酸などの短鎖脂肪酸(SCFA)濃度は、Ctrl群に比べ有意に高値であった。自然免疫に関与する自然リンパ球をフローサイトメトリーにより評価した。Ery群では小腸粘膜固有層の3型自然免疫系リンパ球(ILC3)数、白色脂肪組織のILC2数がCtrl群に比べ著明に増加した。遺伝子発現解析では、Ery群の小腸におけるIl22発現量はCtrl群に比べ有意に高かった。 エリスリトールは腸管内のSCFA産生を増加させ、腸管や脂肪組織の自然免疫の変化を介して、高脂肪食による肥満、耐糖能異常、脂質異常症、内蔵脂肪蓄積などの代謝障害を改善させることが示された。
28-06
ヒトiPS 細胞由来骨格筋細胞を用いた食品添加物ビタミン類の筋萎縮抑制効果に関する研究
山内 祥生
東京大学大学院 農学生命科学研究科 応用生命化学専攻
超高齢社会に突入したわが国において、健康寿命の延伸は極めて重要な科学的・社会的課題となっている。健康寿命の延伸を実現する上で最も重要な課題の一つは、加齢性筋萎縮症(サルコペニア)を予防し、高齢者の身体機能を維持することである。医療費を抑制するためにも、薬に頼らない日常生活での「食」による健康寿命の延伸が重要である。骨格筋量を制御する最も主要な因子であるマイオスタチンは、Smad2/3シグナルを活性化することで骨格筋量を負に制御する。したがって、マイオスタチンおよびそのシグナルは筋ジストロフィーやサルコペニアの治療標的として着目されている。本研究では、我々がHEK293細胞を用いたスクリーニングによって同定したマイオスタチンシグナルを抑制する食品成分のうちビタミン類について、それらの筋萎縮抑制活性について検討した。また、ヒト骨格筋における効果を検証するため、我々はヒトiPS細胞から分化誘導して得られたヒト骨格筋細胞を利用し、マイオスタチン依存的な筋萎縮モデルを確立し、ビタミン類の効果を解析した。
28-07
ナツメグ成分malabaricone C による脂質メディエーター合成阻害と慢性炎症性疾患予防効果
山本 登志子
岡山県立大学 保健福祉学部 栄養学科
アラキドン酸由来の炎症誘導性脂質メディエーターであるプロスタグランジン(PG)E2とロイコトリエン類(LTs)は、様々な炎症性疾患に関与する。炎症時のPGE2とLTsの過剰産生には、PGE2合成の終末酵素である誘導型ミクロソームPGE合成酵素-1(mPGES-1)と、LT合成の鍵酵素である5-リポキシゲナーゼ (5-LOX) が働く。ナツメグに含まれるmalabaricone Cは、mPGES-1をIC50 = 40.5μMで非競合阻害し、5-LOXをIC50 = 0.2μMで競合阻害することを見出した。5-LOX 代謝産物のLTB4が、増悪化に関わる慢性炎症性皮膚疾患の乾癬のモデルとして、イミキモドクリーム塗布により誘発したマウス皮膚において、malabaricone Cは表皮の過形成と炎症性細胞の浸潤を低下させ、乾癬関連遺伝子S100a9、Krt1、Il17a、Il22の発現を抑制した。リピドミクス解析では、malabaricone Cが、他の脂質メディエーター産生への代謝シフトなしに、LTB4のレベルを著しく低下させることが示された。これらの発見は、malabaricone Cが、LTsが関与する炎症性疾患を予防する可能性を示唆している。
28-08
蛍光標識人工甘味料の創製と安全性研究への応用
〇小野寺 章、荒尾 大地、水野 遥菜、日高 興士、 河合 裕一
神戸学院大学 薬学部
人工甘味料はアレルギー反応の増悪や免疫力の低下など負の認識が広まっており、種々視点からの安全性研究が望まれる。本研究は人工甘味料の細胞内・体内動態に基づく安全性研究の確立・応用を目的に、日本国内で使用される代表的な人工甘味料の一つ、Aspartame (APM) のFluorescein isothiocyanate (FITC) 標識体の創製を試みた。APMにはFITCの標識が可能と考えらえれるアミノ基 (NH2) とメトキシ基 (CH3O) があり、これらにFITCを標識したFITC-APM 及びAPM-CH2NH-FITCの合成に成功した。培養細胞を用いた解析ではこれらFITC標識APMが短時間で取込まれること、FITCの取込みが強い・多い細胞(FITCHigh)と弱い・少ない細胞(FITClow)が存在すること、及びAPM-CH2NH-FITCの取込みがマクロピノサイトーシスに関与することを見出した。これらFITC標識APMの体内動態は、胃ゾンデによる経口投与では約1時間後に大半が回腸の糞便中に存在していた。本稿ではこれら解析の詳細と共に安全性研究への有用性について概説する。
28-09
カラメル色素Ⅲ・Ⅳに含まれる4-Methylimidazole の消化管上皮細胞への影響
瀧沢 裕輔
日本薬科大学 臨床薬剤学分野
清涼飲料水の含有成分および各種成分の含有量は特許等に守られ開示されていないため、日常的な摂取による消化管への予期せぬ影響も懸念されている。コーラに代表されるカラメル色素含有清涼飲料水に含まれるカラメル色素ⅢあるいはⅣは、製造過程において4-Methylimidazole (4-MeI)および2-Acetyl-4-tetrahydroxybutylimidazole (THI)が副産物として生成される。これらは長期的かつ高濃度暴露により毒性が懸念されている一方で、消化管上皮細胞への影響に関しては報告されていない。本研究では、カラメル色素ⅢおよびⅣに加えて、4-MeIおよびTHIの消化管上皮細胞への影響を検討した。その結果、清涼飲料水から摂取されると考えられる量の範囲においては、細胞増殖や上皮細胞バリア能への有意な影響は認められなかった。一方で、高濃度条件においては、消化管上皮細胞のバリア機能に変化が認められた。本研究の検討条件は、各物質の単独暴露条件のみであり、暴露条件も限られたものであることから、さらなる検討が望まれる。本研究結果は、日常的に摂取する食品の安全性に直結するため、コーラなどの清涼飲料水に含まれる4-MeIやTHIの消化管上皮細胞への影響を詳細に明らかにすることが重要である。
28-10
人工甘味料の摂取により活動し、その嗜好を駆動する神経細胞の全脳マッピング
田中 大介
東京医科歯科大学
心地良さの経験は、我々の人生を豊かにする上で必要不可欠な、重要な経験である。人工甘味料を摂取すると、おいしい心地良さを経験することができるが、その神経基盤の全容は未だ明らかになっていない。人工甘味料であるサッカリンを摂取したマウスは、舌の突出など、ヒト新生児でも見られる特有の快の味覚反応(快反応)を示すことが知られており、また、この快反応は心地良さを反映していると考えられている。島皮質の前部には快情動と関わる細胞が分布していると考えられているが、これまでのところ、それら細胞の活動と、人工甘味料の摂取や快反応の発動との関係は明らかになっていない。本研究において、我々は生体内カルシウムイメージング法を用いることで、サッカリンおよびスクラロースの摂取により、島皮質の前部の神経細胞が活動することを見出した。しかしそれら細胞の活動は口腔内への刺激そのものと相関している傾向があり、快反応そのものとの相関は検出されなかった。また、それら細胞を人為的に活動させても、明確な快反応は誘導されなかった。これらの結果より、島皮質の神経細胞は人工甘味料の摂取により活動する一方で、快反応と直接関わっている可能性は低いことが示唆された。
28-11
ミョウバンによる腸管上皮損傷に伴う炎症・アレルギー誘導性損傷関連分子の放出の解析と免疫学的安全性評価の検討
若林 あや子
日本医科大学 微生物学・免疫学教室
我々はこれまで、アルミニウム含有食品添加物であるミョウバンを経口投与したマウスの小腸では、腸上皮細胞の細胞死と好酸球の浸潤が有意に増加することを示した。
本研究では、マウスの小腸上皮細胞のRNAシークエンスを施行してトランスクリプトーム解析を行うことにより、ミョウバンによる腸上皮細胞における遺伝子の発現変動を網羅的に解析した。その結果、ミョウバンは小腸上皮細胞において、炎症性細胞死の誘導に関わるカスパーゼ4の遺伝子Casp4、炎症性サイトカインの遺伝子Tnf, Il17c、一酸化窒素合成酵素の遺伝子Nos2といった、グラム陰性細菌に対する反応および炎症反応に関与する遺伝子の発現を増加させた。また2型免疫炎症反応の促進に関わるIl33遺伝子の発現も誘導した。これらの結果より、ミョウバンは腸内細菌に対する抗菌反応と炎症誘導の亢進、炎症性サイトカインTNF-αとIL-17cの産生、カスパーゼ4活性化を介した炎症性細胞死、およびIL-33分泌による好酸球の活性化と浸潤を誘発する可能性が示唆された。
本研究により、食品添加物であるミョウバンは、腸上皮細胞において細菌に対する炎症反応や炎症性細胞死に関与する遺伝子の発現を増加させることが明らかになった。ミョウバンは腸上皮細胞死とIL-33の放出を促すことにより腸管炎症を誘発する可能性が考えられ、食品添加物としての利用については今後さらなる研究と検討が必要であると考える。
28-12
食用油中シス体カロテノイドの安定性評価と安定性向上に最適な抗酸化物質の選定
村上 和弥
静岡県立大学 食品栄養科学部
天然色素のカロテノイド類は、自然界では分子内の全ての共役二重結合がトランス型のオールトランス体として存在しているが、溶媒中での加熱等により幾何異性体であるシス型カロテノイドに異性化する。このシス型カロテノイドはその高い抗酸化能力と体内吸収性の高さから近年注目を集めており、シス型カロテノイドの実用化が期待されている。しかし、シス型カロテノイドは不安定で分解されやすく、また容易にオールトランス型へと異性化することから、実用化に向けてシス型カロテノイドの安定化技術の確立が課題である。そこで本研究では、代表的なカロテノイドであるリコピンを用いて、シス体を92%含有したリコピンを25種類の食用油中でそれぞれ保管し安定性を評価した。そして食用油間でシス型リコピンの安定性に有意に差があることを明らかにした。更に、オリーブ, グリーンナッツ, 白ゴマオイルを用いて5種類の抗酸化物質を添加した際の保管安定性を比較し、最適な食用油と抗酸化物質の組み合わせを探索した。
28-13
安心して在宅でトロミ剤を提供するためのトロミ度計測マドラーの開発
黒瀬 雅之
岩手医科大学 生理学講座 病態生理学分野
急速に進む高齢化は、高齢者や障害者ケアの主体を在宅に移行させてきた。摂食嚥下障害者にとって誤嚥のリスクが最も高い食品は水であり、トロミ剤を付けることで誤嚥リスクを低減させている。しかし、作成したトロミ度は定性的評価に依存しており、定量的な評価は大型機器の導入が可能な施設に限られている。そこで、研究代表者らは、トロミを簡単に検出するマドラー(粘度計)開発に着手し、小型多軸センサを用いたシステム開発を行いトロミ度検出に成功してきた。そこで、本研究では、検出レベルの改善を目的に、流れを産み出す攪拌翼の形状を検討した。様々な攪拌翼を装着出来るよう粘度計の先端を改良し、数種類の形状の攪拌翼を3Dプリンタを用いて作成を行った。様々な濃度のグリセリンと市販のトロミ剤を溶解させた溶液を準備し、高精度レオメータと開発粘度計を用いてトロミ度(粘度)を検出し、出力値間で比較検討を行った。攪拌翼の形状により、検出される値は異なり、特にオール型形状の攪拌翼が最も検出が良く、レオメータの出力値との相関も高かった。本研究により、在宅への応用を視野に入れたマドラー(粘度計)開発の基礎データを得ることが出来た。
28-14
食用昆虫の栄養評価ならびにビタミンB12 アナログの安全性に関する研究
美藤 友博
鳥取大学 農学部
『昆虫食』は世界の食糧問題の解決手段として期待されている。食用昆虫は良質なタンパク質源であることは良く知られているが、その一方、タンパク質以外の栄養素(脂質・ミネラル・ビタミン等)の特性を詳細に解析された例が極めて少ない。食の安全が求められる現在、科学的根拠に基づくより安全な昆虫食の導入を提唱するためにも食用昆虫に含有される種々の栄養素を解析することは極めて重要である。本研究では、日本を代表する食用昆虫をはじめ、世界で食されている食用昆虫のビタミンB12含量を評価すると共に、ヒトに不活性なビタミンB12アナログが含有されているかどうか検討を行った。
日本を含め世界で食されている12種の食用昆虫製品のビタミンB12化合物含量は0.04 ng~7.17 μg/100 gであったが、複数の食用昆虫製品からシュードビタミンB12をはじめとする複数のビタミンB12アナログが検出された。モデル生物である線虫Caenorhabditis elegansに単離したビタミンB12アナログを供した結果、食餌性ビタミンB12欠乏線虫と同様のビタミンB12バイオマーカーの変動を示した。これらの結果より、ビタミンB12の良質な供給源になる食用昆虫が存在することを示すと共に、多量のビタミンB12アナログを含有する食用昆虫をタンパク質源として多量に摂取する場合は、真のビタミンB12を含有する食用昆虫を選抜する必要があることが明らかになった。
28-15
食用昆虫タンパク質の生体内消化性および食品加工時の物性・抗菌性に及ぼす影響
落合 優
北里大学 獣医学部 動物資源科学科 栄養生理学研究室
代替食資源である食用昆虫の主要栄養素はタンパク質であるが、その生体内消化性については明らかでない。また、昆虫には脂質、食物繊維キチン、ポリフェノール類なども含まれるため、抗酸化性など機能性の付与も期待されるが十分に検討されていない。本研究では、食用昆虫としてトノサマバッタ(バッタ)粉末を用い、そのタンパク質の消化特性を人工消化液とラットを用いて栄養生化学的に検討した。また、食品科学特性に及ぼすバッタ粉末の影響について、パン作製時の物性と保存時の微生物増殖に及ぼす影響を検討した。消化性試験について、絶食ラットにバッタ粉末10%含有食または対照食を摂取させ、その2時間後の消化管内容物のタンパク質消化性を評価した。その結果、胃での消化性は低いが、小腸での消化性は高く、最終的に消化されることが示唆された。加工食品の物性について、作製直後のパンの物性には影響を及ぼさなかった。一方で、パン保存時の微生物評価について、一般生菌と黄色ブドウ球菌の増殖を抑制することが示唆された。本研究より、バッタ粉末は消化管における消化特性を有し、加工食品の保存期間の延長に貢献する食資源として有用であることが示唆された。
28-16
食品・食品添加物の品質保証に関する薬学教育研究普及拡大のための調査研究
黒川 洵子
静岡県立大学 薬学部 生体情報分子解析学分野
超高齢化社会を迎えたわが国では、「健康寿命の延伸」および「生活習慣病の発症・重症化の予防」を実現することは、持続可能で安定な社会を保つための鍵となる。本観点から特に、薬学においては、医薬品には分類されない経口摂取物である、「保健機能食品(特定保健食品、栄養補助食品、機能性表示食品)、健康食品、サプリメント等」に関する研究教育の充実が喫緊の課題であることが、全国の薬学部・薬科大学を対象としたアンケートによる「健康食品・保健機能食品等の品質保証に関する薬学研究教育の実態調査」により明らかとなった。なお、本アンケートは、2019年度日本食品化学研究振興財団からご支援を受け(阪大薬・堤教授)、日本学術会議薬学委員会医療系薬学分科会が主体となり、日本薬学会との連携のもと行った。本研究では、薬学教育関連機関等に向けて実態調査の結果を情報提供することにより、医薬品以外に関する法制度や研究の重要性に対する認識を普及拡大し、報告の発出、学会発表等により領域外の専門家とも議論を重ねることで教育研究の底上げを目指して活動した。