第24回研究成果報告書(2018年)

研究成果報告書 索引〕 

〔目次〕

Abs.No

研究テーマ

研究者

24-01

食品における酸化防止剤の能力を評価する方法の開発 長岡 伸一
愛媛大学理学部化学科構造化学研究室

24-02

食品添加物によるマグネシウム欠乏の予防に関する食品科学的研究 五十里 彰
岐阜薬科大学生命薬学大講座生化学研究室

24-03

食品添加物が歯周病原細菌に及ぼす影響の解析 神谷 重樹
大阪府立大学大学院総合リハビリテーション学研究科

24-04

化学合成によるカロテノイドの標品供給に関する研究 出水 庸介
国立医薬品食品衛生研究所 有機化学部

24-05

遺伝子組換え食品の検査に及ぼす食品添加物の複合影響に関する基盤的研究 中村 公亮
国立医薬品食品衛生研究所 生化学部

24-06

食品添加物の消化管ホルモンGLP-1(Glucagon-like peptide-1)の分泌促進作用とその機序解明 津田 孝範
中部大学応用生物学部

24-07

加工食品中のアクリルアミド生成を効率的に抑制する乳酸菌アスパラギナーゼの開発と食品添加剤としての乳酸菌アスパラギナーゼの有用性を検証する 若山 守
立命館大学生命科学部生物工学科

24-08

安全・高品質な国産サフラン生産拡大のためのアクションリサーチ:アグリセラピーへの応用と地域健康力の向上 髙浦 佳代子
大阪大学総合学術博物館

24-09

酵素処理イソクエルシトリンを用いた高付加価値機能性食品の開発 内山 博雅
大阪薬科大学製剤設計学研究室

24-10

食品添加物の安全性評価のためのヒ素発がん機序の解明 魏 民
大阪市立大学大学院医学研究科分子病理学

24-11

機能性関与成分として使用されている食品添加物の実態調査研究 政田 さやか
国立医薬品食品衛生研究所生薬部

24-12

魚類食中毒シガテラの原因物質シガトキシン類分析のための標準試料作製検討 大城 直雅
国立医薬品食品衛生研究所食品衛生管理部

24-13

肝前がん病変の生物学的特徴を考慮したfuran 類香料の肝発がん性評価の精緻化 高須 伸二
国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター病理部

24-14

自動前処理装置を用いた食品中のポリ塩化ビフェニル分析法の開発に関する研究 堤 智昭
国立医薬品食品衛生研究所食品部

24-15

末梢血白血球に発現する炎症性サイトカインを用いた食品添加物の安全性・有効性の評価系の構築 望月 和樹
山梨大学大学院総合研究部(生命環境学部地域食物科学科食品栄養学研究部門)

24-16

クルクミンのヒト腸内細菌代謝産物の化学構造に関する研究 丹羽 利夫
修文大学健康栄養学部

24-17

コンドロイチン硫酸存在下で抗炎症作用を発揮する腸内微生物由来代謝産物の探索 東 恭平
千葉大学大学院薬学研究院

24-18

食中毒菌の侵入・感染におよぼすアルギン酸ナトリウムと乳酸菌の影響 久田 孝
国立大学法人東京海洋大学学術研究院食品生産科学部門

24-19

細菌性スーパー抗原毒素の生体内影響の発現に対するポリフェノール系既存食品添加物の制御とその作用メカニズムの解明 島村 裕子
静岡県立大学食品栄養科学部

24-20

配糖体の消化管吸収過程におけるLPH の特性評価 寺坂 和祥
名古屋市立大学大学院薬学研究科生薬学分野

24-21

生活習慣病の分子標的制御に資する甘味料の効果とその背景機構に関する研究 煙山 紀子
東京農業大学応用生物科学部食品安全健康学科

24-22

既存添加物 酵素処理イソクエルシトリンの体内動態および生体影響に関する研究 渋谷 淳
東京農工大学大学院農学研究院 動物生命科学部門 病態獣医学研究分野

24-23

油脂の加熱調理における有害物質アクロレインの生成に対する乳化剤の抑制効果 遠藤 泰志
東京工科大学応用生物学部

24-24

有機酸を中心とした食品添加物の併用効果による食中毒菌由来バイオフィルムの制御 塚谷 忠之
福岡県工業技術センター生物食品研究所

24-25

乳清タンパク質酵素分解物による亜硝酸塩の食肉発色促進作用に関する研究-発色剤使用量低減を目指した研究 竹田 志郎
麻布大学獣医学部動物応用科学科

24-26

栽培環境により変動するハーブの二次代謝成分量の分析調査 加川 夏子
千葉大学環境健康フィールド科学センター

24-27

唾液分泌および唾液成分変化を利用した甘味に対する香の効果を評価する方法の開発 日下部 裕子
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構食品研究部門

24-28

イギリスにおけるアゾ系食用色素規制の調査 日髙 杏子
芝浦工業大学

24-01

食品における酸化防止剤の能力を評価する方法の開発

長岡 伸一
愛媛大学理学部化学科構造化学研究室・理工学研究科環境機能科学専攻

食品添加物として使用されているトコフェノール類(ビタミン E 類)、アスコルビン酸類(ビタミン C 類)、緑茶に含まれるカテキン類など(酸化防止剤)やカロテン類(着色剤・強化剤)は、一重項酸素・フリーラジカルなどによる酸化がもたらす食品の劣化を防止するのに有用であるだけではなく、生体中の色々な組織に存在し、一重項酸素・フリーラジカルを消去するなどして細胞の老化を防いでいる。本研究では、こうした食品添加物及びそれを含む食品自体が一重項酸素・フリーラジカルを消滅させる能力を評価する実用的で汎用的な方法(Aroxyl Radical Absorption Capacity (ARAC)、Singlet Oxygen Absorption Capacity(SOAC)、Alfa-Tocopherol REcycling Capacity (ATREC) 測定法)の開発を目指した。


24-02

食品添加物によるマグネシウム欠乏の予防に関する食品科学的研究

五十里 彰
岐阜薬科大学生命薬学大講座生化学研究室

食環境の変化や過度なストレス負荷により、現代の日本人は慢性的なマグネシウム欠乏状態にある。マグネシウム欠乏は心疾患、糖尿病などの生活習慣病のリスクを上昇させることが示唆されているが、有効な予防法は不明なままである。マグネシウム欠乏を改善するために大量のマグネシウム製剤やサプリメントを服用すると下痢を起こすことがあり、反対にマグネシウム欠乏状態が悪化する。そのため、マグネシウム吸収を促進させる新たな調節因子の同定が必要である。腎臓の遠位尿細管に分布する TRPM6 チャネルは、マグネシウムホメオスタシスの調節において重要な役割を果たす。本研究では、食品添加物であるクエン酸塩が TRPM6 の発現を増加させることを見出したので、そのメカニズムを分子レベルで検討した。その結果、クエン酸塩は NADPH オキシダーゼと EGFR/MEK/ERK/cFos 経路の活性化を介して、TRPM6 発現とマグネシウム輸送を亢進させることが示された。クエン酸塩は pH 調整剤としての役割だけでなく、マグネシウム吸収促進作用も併せ持つことが示唆される。


24-03

食品添加物が歯周病原細菌に及ぼす影響の解析

神谷 重樹
大阪府立大学大学院 総合リハビリテーション学研究科

歯周病は歯周病原細菌の感染により起こる炎症性疾患で、近年多くの全身性疾患との関連が示唆されている。食品や食品成分によって歯周病原細菌の増殖が影響を受ける報告はあるが、広く使用されている食品添加物が歯周病原細菌に与える影響について詳しくは分かっていない。そこで本研究では食品添加物が歯周病原細菌に与える影響について検討した。本研究では、歯周病原細菌 Porphyromonas gingivalis(P. gingivalis)を用いて実験を行った。まず食品添加物が細菌増殖に及ぼす効果を検討し、さらに食品添加物作用時の生存率やバイオフィルム形成量を測定した。6 種の食品添加物について調べたところ、そ の全てが P. gingivalis に対する増殖阻害作用、殺菌活性を示した。このうち 3種は、バイオフィルム内に存在する菌に対して殺菌活性を示した。また 4 種はバイオフィルム形成を阻害した。これらの知見は、歯周病やその関連疾患を予防する食品の開発に役立つ可能性があると考えられる。


24-04

化学合成によるカロテノイドの標品供給に関する研究

出水 庸介
国立医薬品食品衛生研究所 有機化学部

既存添加物の品質確保のためには、高精度な分析・評価手法を開発することで成分規格試験を確立することが重要である。本研究では、既存添加物の規格試験設定のために「化学合成によるカロテノイド類の標品供給」を行うことを目的とした。これらの添加物は天然原材料から得られ分析用の標品入手が困難であることから、定量用標準品の全合成ルートを確立することで新たな分析法の開発を行い、簡便且つ精確な規格試験法の設定を目指した。本年度は、クチナシ黄色に含まれるクロセチン、トウガラシ色素に含まれるカプサイシン、またカワラヨモギに含まれるカピリンを対象とした合成ルートの確立を行った。


24-05

遺伝子組換え食品の検査に及ぼす食品添加物の複合影響に関する基盤的研究

中村 公亮
国立医薬品食品衛生研究所 生化学部

伝子組換え(GM)食品は、国際的な流通拡大により、我が国においてGM食品が意図せず混入する可能性がある。安全性未審査のGM食品の流通は、食品衛生法により禁止されており、厚生労働省より通知されている通知試験法に基づいて、主に加工食品に対して混入に関する検査が行われている。GM食品の検査は、結果の社会的影響が大きい故に、検査の再現性が求められている。そのためには加工食品から食品由来のDNAを高い回収率と精製度で抽出精製し、そのDNAを検査に用いることが望まれる。しかし、加工食品の食品添加物の成分によっては、GM食品の検査の感度を下げている可能性が報告された。このような背景から、通知試験法の性能を向上するためには、GM食品検査に及ぼす食品添加物の影響を精査する必要がある。そこで本研究では、まず、ビーフンなどのコメ加工食品に使われている増粘剤、カルボキシルメチルセルロースナトリウム(CMC)が添加されたコメ粉やビーフンから抽出精製されるDNAの回収率、及び、精製度を調べ、GM食品検査の際のCMCによる影響を解析した。


24-06

食品添加物の消化管ホルモンGLP-1(Glucagon-like peptide-1)の分泌促進作用とその機序解明

津田 孝範
中部大学応用生物学部

GLP-1 は、食事摂取に伴い消化管から分泌され、膵β細胞に作用し血中グルコース濃度に依存してインスリン分泌を促すペプチド性の消化管ホルモンである。GLP-1 作用を高めることは糖尿病の予防・改善の点から重要である。本研究では食品添加物の中で色素として活用されているクルクミンの GLP-1 分泌促進作用を明らかにすることを目的とした。今年度は、これまでの研究成果を踏まえてクルクミンによる GLP-1 分泌促進作用経路の解明と動物個体でのクルクミン投与による GLP-1 分泌促進作用の立証を試みた。その結果、クルクミンの投与は細胞内 Ca2+を上昇させ、CaMKⅡを活性化することで GLP-1 の分泌を刺激していることを明らかにした。さらに動物個体でのクルクミン投与による GLP-1 分泌促進作用とこれを介した耐糖能改善作用を明らかにした。以上の結果、新たな視点としてクルクミンの機能を GLP-1 分泌促進作用の点から解明することができた。


24-07

加工食品中のアクリルアミド生成を効率的に抑制する乳酸菌アスパラギナーゼの開発と食品添加剤としての乳酸菌アスパラギナーゼの有用性を検証する

若山 守
立命館大学生命科学部生物工学科

加工食品中のアクリルアミドの生成を抑制するアスパラギナーゼを生産する乳酸菌の準網羅的スクリーニングを実施した。本研究では、8 属 16 種の乳酸菌のアスパラギナーゼ生産性を調査した。その結果、Pediococcus pentosaceus を除き、調査したすべての乳酸菌でアスパラギナーゼ活性が認められたが、いずれも弱い活性であった。そのなかで、Lactobacillus sakei, Streptococcus thermophiles, Lactobacillus brevis and Lactobacillus delbruekii は他の菌と較べて高い活性を示した。SDS-PAGE の結果、粗抽出液のアスパラギナーゼ活性が低いのは、酵素の分子活性が低いためではなく、酵素の遺伝子発現が低いことが原因と考えられた。これらの乳酸菌のうち、S. thermophiles and L. brevisのアスパラギナーゼ遺伝子をクローニングし、大腸菌での高発現系を構築したのち、精製した組換えアスパラギナーゼの諸性質を調べた。


24-08

安全・高品質な国産サフラン生産拡大のためのアクションリサーチ:アグリセラピーへの応用と地域健康力の向上

髙浦 佳代子
大阪大学総合学術博物館

古来医薬品、香辛料として珍重されてきたアヤメ科のサフラン Crocus sativus L.の雌蕊は、加工の煩雑さから高値で取引され、経済性の高い農作物であるが、現在は日本国内の消費量の大半がスペインやイランからの輸入で賄われている。国内でもわずかに栽培が行われており、特に独自の室内栽培法(竹田式)を導入している大分県竹田市が一大産地として知られるが、安価な海外産品の流入や高齢化等により、栽培農家は減少の一途を辿っている。本検討では、竹田式の利点を明らかにするとともに、技術の記録・継承を推進することで、高品質かつ安全性の高い国産サフランの供給量増大を達成することを目的とした。まずは文献等による歴史検証を行い、竹田式の成立・伝播の過程とこれまでの栽培技術発展の過程を明らかにした。また、篤農家への通年の取材・映像記録を行い、技術の保存を行うとともに、技術継承のための動画編集を行った。さらに、国内外からサフランサンプルを入手し、比較形態学的な観点から竹田産サフランの高品質性を明らかにした。


24-09

酵素処理イソクエルシトリンを用いた高付加価値機能性食品の開発

内山 博雅
大阪薬科大学 製剤設計学研究室

フラボノイド化合物には、難溶解性を示すものが存在するため、吸収性を向上させるために、溶解性改善は非常に重要となる。本研究では、酵素処理イソクエルシトリン(EMIQ) を溶解性改善のための機能性添加剤として新規応用し、高い溶解性を示す製剤の開発検討を行った。難溶解性のモデル化合物としてケルセチン (QUE)を用い、EMIQ と噴霧乾燥粒子を調製したところ、模擬消化管液において QUE 原末と比べ劇的な見かけの溶解度の向上を示した。また EMIQ による溶解性改善効果は EMIQ の添加量依存的に確認され、EMIQ と QUE の溶解度向上効果には直線関係が得られた。EMIQ の消化管への障害性を検討するため、Caco-2 細胞を用いて試験を行ったところ、EMIQ は高濃度の暴露においても細胞障害性を示さなかった。さらに、Caco-2 細胞に対する QUE の膜透過性を確認したところ、EMIQ との噴霧乾燥物は、5 倍もの透過性の向上を示した。以上のことから、EMIQが溶解性改善を可能にする機能性添加剤として応用できることが示された。


24-10

食品添加物の安全性評価のためのヒ素発がん機序の解明

魏 民
大阪市立大学大学院 医学研究科 分子病理学

これまでの我々の研究で、無機ヒ素化合物の主な体内代謝物である Dimethylarsinic acid (以下、DMA)を胎仔期に曝露した雄において、その成熟後 84 週齢の肝臓および肺において、発がん性を生じることをすでに明らかにしている。しかし、その詳細な発がん機序については未だ明らかとなっていない。本研究は DMA の経胎盤曝露による雄性新生仔マウス肺における影響について検討を行った。
妊娠期の雌 CD-1 マウスに DMA を 0、200 ppm の用量で胎齢 8 日から 18 日までの 10 日間飲水投与し、経胎盤曝露により作製した雄性新生仔マウスを出生後、直ちに剖検を実施して肺を回収後、以降に記す種々の解析を行った。
無処置群と比較して DMA 投与群の雄性マウス新生仔肺において、細胞増殖能の有意な増加がみられた。また HPLC/ICP-MS による肺におけるヒ素の定量的形態別解析の結果、無処置群と比較して TMAO の有意な変動がみられなかったのに対して、DMMTA および DMDTA が有意に増加していることが明らかとなった。さらにその代謝過程で Sadenosylmethionine (SAM)が有意に増加していること、ヒストンメチル基転移酵素である G9a の発現増加、ヒストン H3K9me3 が有意に増加していることが明らかとなった。
以上の結果から、DMA に経胎盤ばく露した雄性新生仔マウス肺において、ヒストンメチル化異常が生じていることが明らかとなり、有機ヒ素化合物 DMAVの経胎盤ばく露による発がんメカニズムとしてエピジェネティックな異常の関与が明らかとなった。


24-11

機能性関与成分として使用されている食品添加物の実態調査研究

政田 さやか
国立医薬品食品衛生研究所 生薬部

食品添加物は、本来、食品の加工若しくは保存の目的で使用するものであるが、機能性表示食品制度において、機能性関与成分として届出られる例が見出されている。本研究では、食品添加物の使用実態に即した新たな規制に資する基礎データの収集を目的として、機能性表示食品の実態調査と製品の品質評価を行った。機能性表示食品930製品を対象として、機能性関与成分の本体を調査した結果、25種類の食品添加物が機能性関与成分として届出られていた。このうち、グラブリジンあるいは3%グラブリジン含有甘草抽出物を機能性関与成分とする機能性表示食品について、LC/MSデータを用いた多変量解析により既存添加物であるカンゾウ油性抽出物との化学的同等性を検討したが、今回の実験条件では、同等性の実証には至らなかった。引き続き、食品添加物を機能性関与成分として使用している機能性表示食品の実態調査を進め、両者の区分や規制の在り方の議論に繋がる基礎データを収集することが重要であると考えられた。


24-12

魚類食中毒シガテラの原因物質シガトキシン類分析のための標準試料作製検討

大城 直雅
国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部

世界最大規模の魚類による食中毒の原因物質であるシガトキシン類(CTXs)は、天然試料中の濃度が極微量であるため、入手は極めて困難である。CTXS の標準物質調製について検討するために、沖縄産ドクウツボ試料を収集し、LC-MS/MS 分析に供した。その結果、高極性 CTX1B 類縁体だけが検出されたが、その含量はバラハタやバラフエダイと比較して低かった。
バラハタ筋肉を試料として魚肉凍結乾燥粉砕試料を調製し、安定性などについて検討した。


24-13

肝前がん病変の生物学的特徴を考慮したfuran 類香料の肝発がん性評価の精緻化

高須 伸二
国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 病理部

Furan 類香料の基本骨格である furan はげっ歯類において肝発がん性を示す。Furan の肝発がん過程における遺伝毒性機序の関与を検討した結果、furanは肝臓中のレポーター遺伝子突然変異頻度に影響を与えないにも関わらず、GST-P 陽性細胞巣を増加させることが報告されている。さらに、我々はdiethylnitrosamine 誘発 GST-P 陽性細胞巣は DEN 休薬後に増加するのに対して、furan 誘発の GST-P 陽性細胞巣は furan 休薬後に減少することを見出した。本研究では、furan 類香料の投与によって生じる生物学的特徴が異なるGST-P 陽性細胞を峻別する手法を確立するために、退縮する GST-P 陽性細胞がfuran 類香料に共通して認められるかを検討した。6 週齢の雄性 F344 ラットに2-furan (2-MF)または 2- pentylfuran (2-PF)をそれぞれ 30 mg/kg 体重/日または 100 mg/kg 体重/日の用量で 13 週間強制経口投与した。その後、7 週間の休薬期間を設けた。投与終了後及び休薬期間後に肝臓を摘出し、GST-P 陽性細胞巣の定量的解析を行った。その結果、投与終了後の 2-MF および 2-PF 投与群の GST-P 陽性細胞巣の数および面積は何れも対照群に比して有意な高値を示したことから、GST-P 陽性細胞巣の誘導は 2-MF および 2-PF にも共通した変化であり、その作用には furan 骨格が関与している可能性が考えられた。今後、休薬後の GST-P 陽性細胞巣の定量的解析を実施し、furan で認められた退縮するGST-P 陽性細胞巣が furan 類化合物に共通した特徴であるかを検討する。


24-14

自動前処理装置を用いた食品中のポリ塩化ビフェニル分析法の開発に関する研究

堤 智昭
国立医薬品食品衛生研究所 食品部

ポリ塩化ビフェニル(PCB)分析前処理装置(三浦工業(株)社製)を用いた魚介類中の PCB 分析法の性能を評価した。PCB(カネクロール混合混合物)を添加した魚介類 2 種(マグロ及びハマグリ)を用いた添加回収試験(5 併行)により PCB 分析法の性能を評価した結果、総 PCB の真度(回収率)は 92%及び94%、併行精度は共に 0.5%と推定された。総 PCB の指標異性体として用いられる 7 異性体(PCB 28, 52, 101, 118, 138, 153, 180)の真度は両試料で 95~105%、併行精度は 3.1%以下と推定された。また、認証標準試料(魚肉粉末)を分析した結果、分析値は認証値が付与されている PCB 異性体の信頼区間の範囲内であった。さらに、種々の濃度の PCB を含有する魚試料(5 種 16 試料)を用いて本分析法とオープンカラムを用いた従来法の比較試験を実施した。本分析法で得られた総PCB濃度は、従来法の総PCB濃度の0.9~1.1倍の範囲であり、両者の相関係数は 0.99 であった。指標異性体についても概して両者の濃度は良く一致し、相関係数は 0.99 であった。PCB 分析前処理装置は短時間で試験溶液の調製が可能であり、迅速化・省力化が期待できることから、魚介類中の総 PCB分析法の前処理として極めて有用であると考えられる。


24-15

末梢血白血球に発現する炎症性サイトカインを用いた食品添加物の安全性・有効性の評価系の構築

望月 和樹
山梨大学大学院総合研究部(生命環境学部 地域食物科学科 食品栄養学研究部門)

本研究では、抗酸化作用を有し食品添加物に頻繁に用いられる β カロテンや、食後高血糖を抑制する食品成分1-デオキシノジリマイシン(DNJ)を含む桑の葉をモデルとし、食品添加物を含む食品成分の有効性や安全性の評価系を構築することとを目的とした。
まず β カロテンの代謝がヒトに近いスナネズミに高脂肪食および高脂肪食に低濃度のカロテンを添加した食餌(食餌中濃度 0. 001%)、高濃度のカロテンを添加させた食(食餌中濃度 0. 004%)を摂取させ検討を行った。その結果、高濃度のカロテンを摂取させたスナネズミの肝臓では、繊維化面積の増加や繊維化時に発現が増大する Matrix metalloproteinase -9 タンパク質の増加が観察された。
次に、β カロテンの過剰障害が白血球細胞に及ぼす作用を単球様培養細胞である THP-1 細胞において検討した。その結果、高グルコース環境において、βカロテンを投与すると活性化した単球で発現する接着因子 CD11a の発現が増大するとともに、抗酸化関連遺伝子(GSR、PRDX2、PRDX6、TXNRD1、TXNRD3)の発現が上昇した。
最後に、2 型糖尿病モデルである NSY マウスに、食後高血糖抑制効果を有する 1-DNJ を含有する桑の葉を含む食餌(低桑の葉食、高桑の葉食、対照食)を投与した。その結果、桑の葉の摂取により随時血糖の抑制効果が観察された。
さらに、桑の葉投与によって末梢血白血球における Cat, Gpx1, Sod1 等の抗酸化関連遺伝子の発現が顕著に低下することが明らかとなった。一方、高桑の葉食投与には、末梢血白血球における炎症性サイトカインである Il1b の上昇傾向が観察され、過剰投与により炎症が増大する可能性も考えられた。
これらをまとめると、抗酸化食品成分や食後高血糖を抑制する食品成分の適正量の摂取は、食後高血糖や炎症を低下させ生活習慣病発症進展のリスクを低減させるが、過剰摂取は、かえって炎症を悪化させる可能性があることが明らかとなった。さらに抗酸化食品成分や食後高血糖を抑制する食品成分の有効性・安全性の評価には、末梢血白血球における炎症関連遺伝子や抗酸化関連遺伝子の発現測定が有効であること、β カロテンの有効性・安全性の評価にはスナネズミが有効であることが明らかとなった。


24-16

クルクミンのヒト腸内細菌代謝産物の化学構造に関する研究

丹羽 利夫
修文大学健康栄養学部

我々はこれまでに、クルクミンのヒト由来腸内細菌代謝産物を精製・単離し、その推定構造として 3-hydroxy-1,7-bis(3,4-dihydroxyphenyl)heptane を考えている。しかしながら、クルクミンの化学構造に由来する分子の対称性から、通常もちいられる二次元 NMR による解析が困難であったことから、その化学合成による検討を行った。クルクミンの接触還元によりテトラハイドロクルクミンとともに副生するヘキサハイドロクルクミンを原料として、クルクミンのヒト由来腸内細菌代謝産物のメチル化により得られる物質と TLC およびHPLC 上一致する物質を得た。
しかしながら、この生成物は 3-hydroxy-1,7-bis(3,4-dihydroxyphenyl)heptane と同一の平面構造を持つ市販の rubranol からは得られなかった。


24-17

コンドロイチン硫酸存在下で抗炎症作用を発揮する腸内微生物由来代謝産物の探索

東 恭平
千葉大学大学院薬学研究院

私達はこれまで、糞便上清が脾細胞由来リンパ球によるTh1サイトカイン、すなわちIL-2とIFN-γの産生を抑制することを見出した。更に、アンピシリンを投与したマウスから調製した糞便上清は、その免疫調節活性が減少することを見出している。私達は、コンドロイチン硫酸の抗炎症効果について研究を行ってきたが、糞便上清の免疫調節物質が活性本体と考えている。そこで本研究では、糞便上清に含まれる免疫調節物質の探索を行った。はじめに、Bio-Plex Pro Mouse Cytokine 23-Plex Immunoassay kitを用い、脾細胞由来リンパ球による23種のサイトカイン産生に対する産生糞便上清の効果を調べた。その結果、IL-1α、IL-2、IL-3、IL-4、IL-9、IL-17、GM-CSF、IFN-γ、KC(CXCL1)、MIP-1α、MIP-1βおよびRANTESの産生量が糞便上清により減少し、その効果はアンピシリン投与によって消失した。そこで、アンピシリンの有無で調製した糞便上清をCE-TOFMSを用いてメタボローム解析を行った。その結果、26種の成分がアンピシリン添加により変化した。そこで、26種の成分を脾細胞由来のリンパ球に添加してIL-2の産生を検討したが、ほとんど影響を及ぼさなかった。以上の結果より、腸内微生物から産生される低分子オリゴ糖か、脂肪酸がTh1活性の阻害に関与していることが考えれる。


24-18

食中毒菌の侵入・感染におよぼすアルギン酸ナトリウムと乳酸菌の影響

久田 孝
国立大学法人東京海洋大学学術研究院食品生産科学部門

本研究においては、機能性食品(飲料)素材用に粘性を低くした低分子化ア ルギン酸 Na (LM-Na、50kDa)と、ドングリ由来 L. plantarum Tennozu-SU2 を同 時に投与した際の Salmonella Typhimurium (ST) 感染抑制効果について、in vitro および BALB/c マウスを用いて検討した。さらに、腸内菌叢に及ぼすTennnozu-SU2 投与の影響についても検討した。LM-Na、Tennozu-SU2 ともにヒト腸管上皮様 HT-29-Luc 細胞への ST 付着・侵入を抑制したが、相乗効果は認められなかった。Tennozu-SU2 懸濁液を BALB/c マウスに飲料として投与した場合、ST の腸管定着(糞便菌数の増加)および肝臓への感染を抑制した。しかしLM-Na の効果、および相乗効果は認められなかった。健常 BALB/c マウスにTennnozu-SU2 を投与した場合、腸内では Tennnozu-SU2 以外に増減する腸内常 在の L. plantarumL. reuteri が認められた。これら常在乳酸菌の変動の ST抑制への関与は、今後検討すべきである。


24-19

細菌性スーパー抗原毒素の生体内影響の発現に対するポリフェノール系既存食品添加物の制御とその作用メカニズムの解明

島村 裕子
静岡県立大学 食品栄養科学部

ブドウ球菌エンテロトキシン A (staphylococcal enterotoxin A; SEA) は、黄色ブドウ球菌が産生するスーパー抗原毒素であり、食中毒や毒素性ショック症候群等の重要な病原因子である。これまでに、貴財団の助成を受け、ポリフェノール系既存食品添加物に SEA の産生および毒素活性阻害活性があることを見出している。そこで、本研究では、SEA と相互作用を示したポリフェノール系既存食品添加物のうち、緑茶抽出物製品「Teavigo® (テアビゴ)」と SEA との相互作用様式について、SPR (Biacore)、NMR、IR および ITC を用いて網羅的に解析した。また、ドッキングシミュレーション等の in silico の手法と組み合わせて、テアビゴの主成分である(-)-Epigallocatechin gallate (EGCG) と SEA との相互作用結合様式を予測した。さらに、SEA によって発現が変動する遺伝子をDNA マイクロアレイ法を用いて網羅的に解析した。Biacore、NMR および IR により、EGCG と SEA との相互作用が認められたことから、ITC を用いて、その相互作用様式を検討した。その結果、SEA と EGCG の相互作用により、発熱反応を生じ、EGCG は、SEA の複数の結合サイトと疎水的相互作用することが示唆された。さらに、ドッキングシミュレーション解析の結果、EGCG のガロイル基と EGC の A環は、SEA の毒素活性発現部位の A-6 領域の Y91 と相互作用することが予測された。マイクロアレイ解析の結果、マウス脾臓細胞への SEA の暴露により、Th1 細胞の応答を顕著に誘導することが明らかとなった。現在、SEA が誘導する毒素活性および、Th1 細胞の誘導応答に対するテアビゴの影響について解析している。


24-20

配糖体の消化管吸収過程におけるLPH の特性評価

寺坂 和祥
名古屋市立大学 大学院薬学研究科 生薬学分野

LPH (lactase-phlorizin hydrolase) は小腸の刷子縁に存在する二糖加水分解酵素である。本研究において前年度確立した組換え LPH 発現細胞由来の粗酵素液において、これまでにフラボノイド類の配糖体の加水分解が LPH 依存的に行われることを示してきた。また、LPH の基質認識については、フラボノイド配糖体の糖鎖だけでなくアグリコンの基本骨格も認識している可能性が示された。そこで、本年度は生薬の有効成分や食品添加物となっている配糖体を基質とした加水分解反応を行い、天然化合物の配糖体に対する基質特異性を検討したところ、アグリコンがフラボノイドでない場合、加水分解されにくい傾向が見られた。さらに、フラボノイド配糖体に対する基質認識について解析するため、糖鎖付加の位置の異なる quercetin 配糖体で加水分解速度を比較した。その結果、加水分解されやすい糖鎖付加の位置があることが示された。このことから、LPH にはアグリコンや糖鎖の構造の違いだけでなく、糖鎖付加の位置までを判別する厳密な基質認識機構があることが示された。


24-21

生活習慣病の分子標的制御に資する甘味料の効果とその背景機構に関する研究

煙山 紀子
東京農業大学 応用生物科学部 食品安全健康学科

本研究の目的は、動物モデルを用いて、甘味料が生活習慣病の病態と背景メカニズムに及ぼす影響を解明することである。本研究は、生活習慣病として非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)と炎症性腸疾患(IBD)を、甘味料としてラカンカ抽出物(ラカンカ)を、NASH 動物モデルまたは大腸炎モデルとしてラットまたはマウスにおけるコリン欠乏メチオニン低減アミノ酸(CDAA)食連続投与モデルとデキストラン硫酸(DSS)投与大腸炎モデルを、それぞれ用いて以下の 3 実験を実施した。本年度は、以下の 3 実験を実施した。
実験 1 では、6 週齢の Hsd:Sprague Dawley(Hsd)系と Fischer 344(F344)系雄性ラットに、CDAA 食または基礎食を、3 日間・2 週間・4 週間・3ヶ月間・6 ヶ月間投与し、NASH 様病態を比較検討した。その結果、血漿中アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)及びアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)活性の上昇と胎盤型グルタチオン S-トランスフェラーゼ(GST-P)陽性の前癌性肝細胞巣数の誘発は F344 ラットでのみ認められ、肝線維化は F344 ラットで Hsd ラットより顕著であった。したがって、ラットにおける CDAA 食による NASH 様病態誘発性に系統差があることが明らかとなった。
実験 2 では、オリジナル CDAA 食に対する感受性の低いマウスにおける CDAA食モデルの開発と、同モデルにおけるラカンカの効果を検討するため、C57BL6/J 系雄性マウスに改変した CDAA(mCDAA)食または基礎食を投与すると共に、ラカンカ(サンナチュレ RM50)を 0・0.2・0.6・2%の濃度で純水に溶解して混水投与した。投与期間は 7 カ月間とし、その期間中は一般状態を観察し、体重・摂餌量・摂水量を測定した。動物は、投与期間終了後に解剖し、剖検・臓器重量測定・血漿生化学的検査及び病理組織学的検査を実施した。その結果、基礎食群ではラカンカの投与に起因した毒性学的変化を認めなかったのに対し、mCDAA 食投与群では血漿中 AST・ALT 活性が上昇し、肝において退色と腫瘤が肉眼的に散見された。ラカンカの併用投与は、mCDAA 食によるこれらの変化に顕著な影響を与えなかったが、現在詳細を解析中である。
実験 3 では、DSS 誘発マウス大腸炎モデルにおけるラカンカの効果を検討するため、1 週間の DSS 投与による急性モデル(実験 3-1)と 5 日間毎に DSS の投与および休薬を 2 回繰り返した 4 週間の亜急性モデル(実験 3-2)の2実験を実施した。実験 3-1 では、C57BL/6JJcl 系雄性マウスを各群 5 匹の 6 群に分け、それぞれ対照・1.5% ラカンカ(混餌)・1.25% DSS(混水)・1.25% DSS+0.15% ラカンカ・1.25% DSS+0.5% ラカンカ・1.25% DSS+1.5% ラカンカ群として 1 週間飼育した。その結果、DSS 群では、一般状態が悪化し、体重が減少し、大腸粘膜において炎症・細胞浸潤・粘液細胞の減少・E-cadherin の染色性増加を観察し、脾・肝における炎症関連遺伝子と大腸の MCP-1 遺伝子の発現が増加した。これらの変化は、ラカンカの給餌によりいずれも軽減する傾向を示した。実験 3-2 では、DSS の 5 日間投与後に 5 日間休薬期間を設け、休薬期間中にはラカンカを混餌摂取として、これを 2 周期繰り返した後に解剖した。その結果、DSS 群では大腸炎の病態発生が認められ、DSS 休薬期間中においても一般状態の悪化が継続し、DSS の間歇投与により、DSS の間歇投与により、大腸のみならず非特異的な全身状態への影響認められた。このような状態では、ラカンカによる明らかな効果を確認することができなかった。これら2実験の結果から、ラカンカ抽出物は、DSS 誘発大腸炎モデルの一定の条件において抑制的に作用する可能性が示された。
以上の結果より、CDAA食のラットNASH様病態誘発性は系統により感受性が異なることが判明し、昨年度に低感受性Hsdラットで得られたラカンカの抑制効果について、来年度に高感受性F344系ラットを用いて検索することが有意義であるものと示された。mCDAA食によるマウスNASH様病態に対するラカンカの効果については、来年度により詳細な解析を行う。DSS誘発マウス大腸炎モデルでは、ラカンカが少なくとも急性期の大腸炎病態を抑制する可能性が示された。したがって、ラカンカは、生活習慣病の発生と進展を抑制的に制御する機能を有する可能性を持つものと示唆された。


24-22

既存添加物 酵素処理イソクエルシトリンの体内動態および生体影響に関する研究

渋谷 淳
東京農工大学 大学院 農学研究院
動物生命科学部門 病態獣医学研究分野

酸化防止剤アルファグリコシルイソクエルシトリン (AGIQ;酵素処理イソクエルシトリンとも称される) は特定保健用食品の成分に指定されており、一般消費者だけではなく病気療養中の患者も日常的に摂取を継続する可能性が高い。本研究では、マウスを用いてAGIQの主要代謝物であるケルセチンの血中レベルを測定するとともに、日本において増加傾向にある炎症性腸疾患を想定したマウス大腸炎モデルを用いてAGIQの腸炎に対する悪影響の有無、特に腸炎に伴う粘膜再生に対する影響を検討した。まず、マウスにAGIQを単回投与し、投与1及び3時間後の血漿中のケルセチンを測定したところ最大0.4 μg/mLの濃度で検出されたが、4%デキストラン硫酸ナトリウム (DSS) 誘発性大腸炎モデルに1.5%AGIQを2週間混餌投与したところ血漿中のケルセチンは検出されなかった。同モデルを用いて、大腸炎後の回復期間中に1.5%AGIQを投与したところDSS処置により体重、下痢及び血便スコアが増加し、回復期間中にそれらの項目が改善したが、AGIQ投与による悪影響はなかった。回復7日及び14日後に剖検し、大腸炎の指標である大腸長を測定したところ、DSS投与により大腸長の短縮が認められたが、AGIQ投与による影響はなかった。大腸の病理組織学的検査では、DSS投与により粘膜の剥離及び炎症が認められ、回復期間の進行とともにそれらの所見が改善したが、有意な変化ではないもののAGIQ投与によりさらに改善する傾向がみられた。潰瘍部表層にみられる1層の粘膜上皮を指標にした再生指標restitution rateでは、回復期間の進行に伴う再生により、それらの値が減少したが、AGIQ投与による再生促進により、より減少する傾向が確認された。潰瘍・再生部の粘膜固有層にみられる上皮細胞塊unrestituted cellは回復期間の進行とともにAGIQ投与により増加する傾向にあった。以上の結果、AGIQは大腸炎モデルマウスに対し悪影響を示すことなく、大腸炎後の粘膜再生を軽度に促進することが明らかとなった。しかし、本試験条件では血中の主要代謝物であるケルセチンは検出されず、他の代謝物や抱合体についてさらに検討する必要が考えられた。


24-23

油脂の加熱調理における有害物質アクロレインの生成に対する乳化剤の抑制効果

遠藤 泰志
東京工科大学応用生物学部

加熱調理による油脂からのアクロレインの生成に及ぼす乳化剤の抑制効果を調べた。乳化剤として 2 種類のポリグリセリン脂肪酸エステル(S-28D, B100D)を用い、大豆油に 0.05~0.2%の濃度で添加した後、180℃で加熱した。加熱後、油脂のカルボニル価とアクロレイン量を測定した。ポリグリセリン脂肪酸エステルを添加した大豆油と無添加大豆油において、加熱後のカルボニル価とアクロレイン量に有意な違いは見られなかった。実験に使用したポリグリセリン脂肪酸エステルは、油脂の加熱におけるアクロレインの生成を抑制しなかった。


24-24

有機酸を中心とした食品添加物の併用効果による食中毒菌由来バイオフィルムの制御

塚谷 忠之
福岡県工業技術センター生物食品研究所

本研究では、水溶性テトラゾリウム塩を用いた微生物検出法と96ピン付きマイクロプレート蓋へのバイオフィルム形成法を組み合わせたバイオフィルム殺菌(撲滅)活性スクリーニング法を用いて、黄色ブドウ球菌や大腸菌など食中毒菌のバイオフィルムに対して殺菌活性を有する食品添加物を探索・選抜した。その結果、フマル酸が単独で黄色ブドウ球菌や大腸菌のバイオフィルム両方に対して高い殺菌活性を示した。さらに、フマル酸を中心に複数の食品添加物を組み合わせることによる併用効果を検討したところ、フマル酸、乳酸、フェルラ酸の組み合わせが幅広い菌種のバイオフィルムの制御に有効であることが明らかとなった。この酸味料と酸化防止剤の組み合わせは、従来の保存料を使用しない新しいバイオフィルム制御剤としての利用が期待できる。


24-25

乳清タンパク質酵素分解物による亜硝酸塩の食肉発色促進作用に関する研究-発色剤使用量低減を目指した研究

竹田 志郎
麻布大学 獣医学部 動物応用科学科

本研究では、乳清および鶏卵由来のタンパク質酵素分解物添加による加熱食肉製品の肉色への影響について検討した。動物性食品副産物として、市販の 80%乳清濃縮物(WPC)と鶏卵由来卵白(EW)を使用した。また酵素分解物として、乳清酵素分解物(WPP)、卵白酵素分解物(EWP)および卵殻膜酵素分解物(ESP)を用いた。本試験用のモデルソーセージは、豚モモ挽肉に対し、NaCl 2%、亜硝酸塩 30ppmおよび各副産物またはその酵素分解物を 5%の割合で混合後、75ºC で 40 分間加熱し、その a*値と発色率について評価した。
WPP、EWP、ESP 添加区の a*値は、無添加区よりも有意に高い値を示した(p < 0.05)。発色率は、WPP、EWP、ESP 添加区において無添加区よりも高い発色率を示した。特に EWP、ESP 添加区においては、無添加区よりも有意に高い値を示したため、EWPとESPには著しい発色促進作用があることが示唆された(p < 0.05)。各動物性食品副産物を SDS-PAGE に供試したところ、WPP、EWP および ESP は、WPCや EW に比べ低分子化していることが確認できた。また酵素分解産物についてエタノールを用い、抽出した試料を使用して作成したソーセージにおいては WPP とESP 添加区で a*値と発色率の向上が認められた。従って、これらの低分子成分中に食肉加工における亜硝酸塩の発色を促進する成分が存在することが示唆された。


24-26

栽培環境により変動するハーブの二次代謝成分量の分析調査

加川 夏子
千葉大学環境健康フィールド科学センター

ハーブには特有の植物二次代謝成分が含まれ、香料や食品添加物として用いられる。これらの植物由来成分は植物代謝によってつくられるため、生育場所やシーズンによりその含有量が変動する。そこで、人工光型植物工場技術を用いて、身近なハーブであるシソの成分が、生育環境の違いに対してどのように定量的に応答するのか詳しく調査した。本研究は、量と質を担保した植物性食品原料の増産技術の開発に資するものである。


24-27

唾液分泌および唾液成分変化を利用した甘味に対する香の効果を評価する方法の開発

日下部 裕子
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 食品研究部門

本研究では、食品の味や嗜好度をより簡便に評価する方法を開発することを目的とし、味と香り刺激による生理応答反応の解析を行った。味刺激として基本味のうち甘味、うま味、塩味、酸味を、香りとして甘味を想起させる小豆フレーバー、うま味を想起させる松茸フレーバーを用いた。昨年度、甘味の強さと唾液分泌量が相関することを見出したため、本年度は生理応答反応として唾液分泌量の変化と唾液成分の変化を観察した。唾液成分変化としてストレス反応の評価を行うこととし、唾液中アミラーゼ活性の変化を測定した。これらの結果を官能評価による嗜好度評価結果と比較した。まず、基本味のみの刺激に対する評価を行ったところ、唾液分泌量は甘味刺激と酸味刺激で有意に増加した。また、アミラーゼ活性は、酸味刺激によってのみ有意に増加し、塩味刺激によって減少する傾向が観察された。次に香りの添加による評価を行ったところ、甘味にマッチした小豆フレーバーを加えることにより、有意差はつかないものの唾液分泌量が増加し、アミラーゼ活性が減少する傾向がみられた。一方、うま味については香りの添加による影響は観察されなかった。また、味にマッチしない香りの添加は嗜好度を有意に低下させたが、生理応答への影響は観察されなかった。嗜好度、唾液分泌量、アミラーゼ活性の間における相関を解析したところ、相関が観察されたのは甘味に関係する2点に限定された。これらの結果より、味や香り刺激が生理応答に与える影響は、味や香りの質によってそれぞれ異なることが示された。今後、異なる味や香りを混合した食品の評価において、本研究成果のような単純な系による基礎的な知見を参照することが有効であると考えられる。


24-28

イギリスにおけるアゾ系食用色素規制の調査

日髙 杏子
芝浦工業大学

本研究調査では、色彩学・食生活学の視座から、イギリスにおけるアゾ系食用色素の添加規制の背景を調査したものである。2007 年、サザンプトンの大学調査グループが、アゾ系食用色素を児童に摂取させる実験を行った。この実験で、8~9 歳児に多動性障害(ADHD)の発症例が見られたため、イギリスでは使用禁止の食用色素のひとつとなった。当調査グループがイギリス食品基準庁へ実験結果を報告したが、その報告内容が論文査読を受ける前に新聞報道され、社会問題として使用禁止になったのである。

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