第23回研究成果報告書(2017年)
〔研究成果報告書 索引〕
〔目次〕
Abs.No
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研究テーマ
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研究者
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23-01
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大豆イソフラボンの乳幼児における安全性確立に向けた生殖内分泌学的研究 |
代田 眞理子 麻布大学獣医学部比較毒性学研究室 |
23-02
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授乳期における非糖質系甘味料の摂取が乳腺上皮細胞の乳汁分泌能に及ぼす影響 |
小林 謙 北海道大学大学院農学研究院細胞組織生物学研究室 |
23-03
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ニンジンのアントシアニン構造と色調に関する研究 |
宮原 平 東京農工大学大学院工学研究院生命機能科学部門 |
23-04
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アディポサイトカインの発現変化を指標とした食品添加物の新しい安全性評価系の開発 |
西塚 誠 名古屋市立大学大学院薬学研究科分子生物薬学分野 |
23-05
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国産ワイン原料におけるフモニシン産生菌の分子分類学的系統解析とフモニシン産生機構の解明 |
中川 博之 国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 食品研究部門 |
23-06
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食品添加物の消化管ホルモンGLP-1 (Glucagon-like peptide-1) の分泌促進作用とその機序解明 |
津田 孝範 中部大学応用生物学部 |
23-07
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食用植物由来のアントシアニン色素の発色と安定化機構の研究 |
吉田 久美 名古屋大学大学院情報学研究科 |
23-08
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幼児期の甘味料の摂取が腸内細菌叢と全身代謝に及ぼす影響の解明 |
上番増 喬 徳島大学大学院医歯薬学研究部予防環境栄養学分野 |
23-09
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香気成分エストラゴールの突然変異誘発過程における細胞増殖活性亢進機序の解明 |
石井 雄二 国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 病理部 |
23-10
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食品添加物等の各種理化学情報検索システム構築に関する研究Ⅲ |
杉本 直樹 国立医薬品食品衛生研究所 食品添加物部 |
23-11
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自動前処理装置を用いた食品中のポリ塩化ビフェニル分析法の開発に関する研究 |
堤 智昭 国立医薬品食品衛生研究所 食品部 |
23-12
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高脂肪飼料及び酵素処理イソクエシトリン摂取時の利尿作用及び脂肪低減作用に関する研究 |
吉田 敏則 東京農工大学大学院農学研究院 |
23-13
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ベニバナの食品添加色素収量の増加及び安定化に向けた遺伝育種学的研究 |
笹沼 恒男 山形大学農学部 |
23-14
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人工甘味料の慢性摂取が血糖や摂食の調節に関わる脳機構に及ぼす影響の神経科学的研究 |
八十島 安伸 大阪大学大学院人間科学研究科 |
23-15
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食品添加物と環境化学物質の混合曝露による複合免疫毒性発現の可能性 |
関本 征史 麻布大学 生命・環境科学部環境衛生学研究室 |
23-16
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食品添加物の安全性評価のためのヒ素発がん機序の解明 |
魏 民 大阪市立大学大学院医学研究科分子病理学 |
23-17
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魚類食中毒シガテラの原因物質シガトキシン類分析のための標準試料作製検討 |
大城 直雅 国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部 |
23-18
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薬物代謝酵素の発現および活性に及ぼす既存添加物ポリフェノールの影響とそのメカニズムの解析 |
五十嵐 信智 星薬科大学薬動学教室 |
23-19
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食品添加物ビタミンK1 水素付加物(2',3'-PKH2) の生体内代謝機構に関する研究 |
廣田 佳久 芝浦工業大学システム理工学部生命科学科 |
23-20
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配糖体の消化管吸収過程におけるLPH の特性評価 |
寺坂 和祥 名古屋市立大学大学院薬学研究科生薬学分野 |
23-21
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生活習慣病の分子標的制御に資する甘味料の効果とその背景機構に関する研究 |
煙山 紀子 東京農業大学応用生物科学部食品安全健康学科 |
23-22
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食品添加物代謝プロファイル予測を目指した抱合代謝物ライブラリーの構築 |
生城 真一 富山県立大学工学部生物工学科 |
23-23
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食品添加物と加工法の最適化による液中分散食品成分の安定性制御 |
田原 耕平 岐阜薬科大学薬物送達学大講座 |
23-24
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呈味・フレーバー成分を安定に保持する複合化技術に関する研究 |
森部 久仁一 千葉大学大学院薬学研究院 |
23-25
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甘味受容と唾液分泌の関係を利用した甘味シグナルの伝達および認知機構の解明 |
日下部 裕子 国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 食品研究部門 |
23-26
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希少二糖を活用した賦形剤のガラス転移温度の調整によるフレーバーリリース速度の制御 |
安達 修二 京都大学大学院農学研究科食品生物科学専攻 |
23-27
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天然物からの微量有用食品添加物の新規抽出および回収方法の開発 |
三島 健司 福岡大学工学部化学システム工学科 福岡大学複合材料研究所 |
23-01
大豆イソフラボンの乳幼児における安全性確立に向けた生殖内分泌学的研究
麻布大学獣医学部比較毒性学研究室 代田 眞理子
化学物質のエストロゲン活性評価における陽性対照として汎用されている17?-ethtnylestradiol (EE)の新生期における経口曝露は、その後の雌性生殖機能に影響を及ぼし、その程度および影響が出現するまでの期間に用量反応関係のあることがラットで認められている。本研究では、大豆イソフラボン類の乳幼児における安全性確立を目的として、この用量反応関係が大豆イソフラボンの新生期曝露による影響評価にも適用し得るかどうかを、ダイゼイン(DZ)あるいはEEをSprague-Dawley系雌ラットに1日齢から5日間反復経口投与して、膣開口日における排卵に及ぼす影響を調べることにより検討した。その結果、DZ各投与群で排卵率が軽度に低下し、より強いエストロゲン活性を有するEE投与群では顕著な低下が認められ、エストロゲン活性に応じた変化が認められた。さらに詳細な検討が必要とされるが、大豆イソフラボン類の新生期曝露で生じる可能性のある影響を、EEに対する相対的なエストロゲン活性に基づき推定しうる可能性が本研究より示唆された。
23-02
授乳期における非糖質系甘味料の摂取が乳腺上皮細胞の乳汁分泌能に及ぼす影響
北海道大学大学院農学研究院 細胞組織生物学研究室 小林 謙
乳汁とは乳児の成長に不可欠な栄養素であり、泌乳期の乳腺上皮細胞が分泌する分泌液でもある。乳腺上皮細胞の乳汁分泌能は様々な内因性および外因性因子によって変化することが知られている。一方、乳汁分泌の質的・量的低下は、乳児の発育不全の原因ともなる。本研究では食品中に含まれる4種類の非糖質甘味料が乳腺上皮細胞の乳汁分泌能に及ぼす影響について検証した。検証モデルとして、マウス乳腺より単離した乳腺上皮細胞をプロラクチンとデキサメタゾンにより分化誘導し、乳汁分泌モデルを作製した。このモデルにおける主要乳成分であるカゼイン、および血液乳関門を構成するタイトジャンクション構成タンパク質の量的変化を中心として検証した。その結果、高濃度のスクラロース存在下において、乳腺上皮細胞のカゼイン分泌量が低下していた。また、高濃度のステビア処理が乳腺上皮細胞におけるタイトジャンクション構成タンパク質のCLDN4量が増加していた。一方、アセスルファムKとサッカリンは本研究の実験条件において、乳汁分泌能に対する作用は示さなかった。以上のことから、スクラロースとステビアは高濃度存在下において乳腺上皮細胞の乳汁分泌能に作用する成分であることが示唆された。
23-03
ニンジンのアントシアニン構造と色調に関する研究
東京農工大学大学院工学研究院生命機能科学部門 宮原 平
食品の着色料として使用されている紫ニンジンのアントシアニンは生体中に複数の構造が混在している。これまでは、アントシアニンを含む紫ニンジン抽出物の色調やその安定性が調査されてきたが、アントシアニン単一の構造に着目した研究は報告されていなかった。このため、本研究ではニンジンのアントシアニンを単離精製し、それぞれの構造の色調とその安定性を調査した。その結果、芳香族有機酸により修飾されているアントシアニンがもっとも色調に深みがあり、構造が安定していた。さらにゲノム解読データを活用した解析からアントシアニン配糖化酵素遺伝子を同定し、データ解析による未同定遺伝子の探索方法を確立した。
23-04
アディポサイトカインの発現変化を指標とした食品添加物の新しい安全性評価系の開発
名古屋市立大学大学院薬学研究科分子生物薬学分野 西塚 誠
肥満や肥満を原因とする各種疾病に対しては予防が最も効果的である。特に食生活がこれら疾患に与える影響は極めて大きい。我々の食生活を考える際に、食品添加物はなくてはならない存在であり、それゆえ、これら食品添加物の生体に対する影響を評価することは極めて重要である。本研究では、アディポネクチンのプロモーターを単離しluciferase遺伝子とつなげたプラスミドを構築し、luciferase活性の測定のみにより、被験物質がアディポネクチンの発現に与える影響を評価できる新しいアッセイ系を構築した。その結果、アディポネクチンのプロモーター活性に影響を与える可能性のある食品添加物を見出すことができた。また、成熟脂肪細胞に各種食品添加物を添加することにより、アディポサイトカインの発現に影響を与える可能性のある食品添加物も複数見出した。
23-05
国産ワイン原料におけるフモニシン産生菌の分子分類学的系統解析とフモニシン産生機構の解明
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 食品研究部門 中川 博之
国内ワイナリーより分離したFusarium 属株のうち、フモニシン産生が顕著であったF. fujikuroi菌2株について分子分類学的手法による系統解析を行い、従来イネばか苗病菌として報告されているF. fujikuroi と同系統であるか否かを調べた。さらにワイン醸造に使われるブドウ果(小粒品種)を用いた接種試験を行い、ブドウ果を侵襲し、ブドウにおけるフモニシン汚染の原因菌となりうるかについて検討を行った。
23-06
食品添加物の消化管ホルモンGLP-1(Glucagon-like peptide-1)の分泌促進作用とその機序解明
中部大学応用生物学部 津田 孝範
GLP-1は、食事摂取に伴い消化管から分泌され、膵β細胞に作用し血中グルコース濃度に依存してインスリン分泌を促すペプチド性の消化管ホルモンである。GLP-1作用を高めることは糖尿病の予防・改善の点から重要である。本研究では食品添加物の中で色素として活用されているアントシアニン類およびクルクミンのGLP-1分泌促進作用を明らかにすることを目的とした。各種アントシアニンのGLP-1分泌促進作用を検討した結果、D3Rとクルクミンに顕著なGLP-1の分泌促進作用が認められ、これらの化合物とGLP-1分泌促進作用の構造活性相関を明らかにした。動物個体でのGLP-1分泌促進作用とこれを介する耐糖能改善作用の立証に向けた予備試験を行い、次年度に向けて条件設定を行うことができた。以上の結果、新たな視点として食品添加物の機能をGLP-1分泌促進作用の点から解明することができた。
23-07
食用植物由来のアントシアニン色素の発色と安定化機構の研究
名古屋大学大学院情報学研究科 吉田 久美
アントシアニンは現在、合成着色料にかわる安全かつ、鮮やかな色調を持つ着色料として大きく利用が伸びている。しかも、抗肥満、抗高血圧、抗がん作用などの様々なメタボロックシンドロームに対しても予防効果を持つ。現在、赤キャベツ、紫トウモロコシ、赤シソ、赤ダイコンなどのアントシアニンが着色料として利用されているが、価格、安定性、共存する匂い物質の除去、および発色範囲などにおいて課題が残る。特に、青色着色料については、現在まで、アントシアニンによるものは無い。申請者らはこれまで、多数の青色花に含まれるアントシアニンの化学構造と発色の研究を行ってきた。その中で、比較的単純な構造のアントシアニンが助色素との共存および金属錯体形成によって安定な青色を発色する機構を明らかにした。本研究では、食用豆類に含まれるアントシアニンを大量にかつ簡便に抽出して精製する方法の確立を目指した。さらに、これを用いて安定性と青色発色を調べた。 種皮が黒色のブラックタートル及び黒ダイズより10 Kgのスケールで色素を抽出し、アントシアニンを得る手法を確立することができた。即ち、塩酸--メタノールによる抽出、アンバーライトXAD-7ゲルによるバッチ式精製とカラムクロマトグラフィー精製、必要に応じてフラクションコレクタを用いたODS-LC分取を行なうことにより、1 gを越すアントシアニンを、数週間で得るスキームを提案できた。さらに、得られた色素を用いて安定性を調べた結果、水溶性の高いフラボンのフラボコンメリンを10当量程度加えることにより、強酸性、中性、弱塩基性条件で青色シフトと安定化効果が認められた。さらに強酸性において、3位が配糖化されているとアグリコンに比べ格段に安定性が高いことを見出した。また、デルフィニジン3-グルコシドにAl3+と5-カフェオイルキナ酸を共存すると、100 ?Mの希薄条件でも極めて安定な青色が得られることを明らかにした。さらに、その青色色素の分子種の比を質量分析によりアントシアニン:助色素:Al3+ = 1:1:1であると明らかにした。今後は、このような単純な系での青色発色の機構を明らかにしていくことで、実用化が期待できるものと考える。
23-08
幼児期の甘味料の摂取が腸内細菌叢と全身代謝に及ぼす影響の解明
徳島大学大学院医歯薬学研究部予防環境栄養学分野 上番増 喬
キシリトールはミュータンス菌などの増殖を抑制する。そのためキシリトールは、虫歯予防のために食品などに添加されている。近年の研究成果において、腸内細菌叢は食事成分から様々な代謝産物を合成し、宿主の代謝に影響を及ぼす。我々はこれまでに、1.5から4.0g/kg体重/日のキシリトール投与が、高脂肪食摂取により引き起こされるラットの脂質代謝異常を改善することを報告している。しかしながら、より低用量でかつ現実的な量のキシリトール摂取が腸内細菌叢や脂質代謝に及ぼす影響は不明である。本研究では40-200mg/kg体重/日のキシリトール摂取が、マウスの腸内細菌叢および脂質代謝に及ぼす影響を検討した。本実験でマウスが摂取した40-194mg/kg体重/日のキシリトールは、糞便中の細菌叢を有意に変化させた。特に、Bacteroidetes門のBarnesiella属菌量は、194mg/kg体重/日のキシリトール摂取群で対照群と比較して有意に低値を示した。対照的にFirmicutes門のPrevotella属菌量は高脂肪食摂取時において、194mg/kg体重/日のキシリトール摂取群で対照群と比較して有意に高値を示した。腸内細菌叢の有意な変化とは異なり、40-200mg/kg体重/日のキシリトール摂取は対照群と比較して、宿主の血清脂質、肝臓中脂質含量には有意な違いは見られなかった。以上の結果より、40-194mg/kg体重/日のキシリトール摂取は腸内細菌叢を変化せせるものの、脂質代謝以上改善作用は示さなかった。
23-09
香気成分エストラゴールの突然変異誘発過程における細胞増殖活性亢進機序の解明
国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 病理部 石井 雄二
エストラゴール(ES)は齧歯類において肝発がん性を有する。最近我々は、ES特異的DNA付加体が用量依存的に形成するのに対し、突然変異は細胞増殖が認められた高用量でのみ生じることを明らかにした。これらの結果は、ES特異的DNA付加体から突然変異誘発の過程に細胞増殖活性の亢進が必要であること、低用量のESが突然変異誘発性を示さないことを示唆するものであるが、これらの事実をヒトへ外挿するためには、ESが引き起こす細胞増殖の詳細な分子メカニズムの解明が必要不可欠である。本研究では、gpt deltaマウスにESを単回投与し、ESの突然変異誘発に寄与するさまざまな因子の経時変化を検索した。11週齢の雌性B6C3F1系 gpt deltaマウス35匹を各群5匹に配し、ESを100 mg/kg体重の用量でそれぞれ単回強制経口投与し、投与後1、2、3、5、7及び14日に肝臓を採取した。投与後1日目にES特異的DNA付加体の形成がみとめられたものの、14日目までに肝臓における病理組織学的変化は認められなかった。また、cleaved caspase3陽性細胞の発現は認められず、TNFαの遺伝子発現レベルに変化は認められなかった。さらに、PCNA陽性細胞率及び細胞周期調節因子(Ccna2及びCcnd2)の遺伝子発現レベルにも変化は認められなかった。以上より、ESの細胞増殖作用には高用量投与によって生じたDNA損傷応答によるアポトーシスが寄与することが示唆された。さらに、ESの変異誘発に必要な細胞増殖作用には明らかな閾値があることが明らかになった。
23-10
食品添加物等の各種理化学情報検索システム構築に関する研究Ⅲ
国立医薬品食品衛生研究所 食品添加物部 杉本 直樹
我々は、約730製品についてのスペクトルデータを収納した食品添加物のスペクトル情報検索サービスをWeb上に公開した。このデータセットには、東亜大学義平らの研究グループが構築した食品添加物の理化学情報のデータベースより抽出した約230製品のデータと新たに追加したqNMRスペクトルが含まれる。また、我が国の食品添加物の規格基準等は食品添加物公定書に納められているが、その内容の内、成分規格及び試薬・試液の項をデータベース化した。さらに、これを食品添加物の成分規格基準検索サービスとしてWeb上に公開した。このサービスは第9版食品添加物公定書の内容が確定していないため、現時点では一部のユーザーのみに公開しているが、同書の内容が確定次第、データを更新し一般に公開する予定である。また、EU、 JECFA等の情報をリンクさせることを予定している。
23-11
自動前処理装置を用いた食品中のポリ塩化ビフェニル分析法の開発に関する研究
国立医薬品食品衛生研究所 食品部 堤 智昭
ポリ塩化ビフェニル(PCBs)分析前処理装置(三浦工業(株)社製)の魚中の総PCBs分析への適用性を検討した。魚試料はKOHエタノール溶液を加えてアルカリ分解後、ヘキサンを加え抽出した。抽出液は、硫酸シリカゲルカラムとアルミナ/金属担持アルミナ積層カラムの連結カラムを装着した前処理装置を用いて精製し、GC-MS/MSによりPCBsを測定した。PCBs全異性体(209異性体)を添加した魚抽出液からの各PCBs異性体の回収率は70%~100%であり、前処理装置において顕著な損失が生じるPCBs異性体は認められなかった。さらに、カネクロール混合液を添加した魚抽出液からの総PCBsの回収率も良好であり、2種の魚抽出液における回収率は92%と94%であった。次に、総PCBs濃度が100 ng/gになるようにカネクロール混合液を添加した魚試料を用いて、PCBs分析法の性能評価を実施した。5併行で実施した総PCBs分析値の真度と併行精度は、それぞれ93%及び0.9%と推定され、良好な結果であった。最後に、PCBsを種々の濃度で含む魚試料(10試料)を前処理装置により分析し、オープンカラムを用いた従来法の分析値と比較した。両者の総PCBs濃度の相関係数は0.99であり、一次回帰式の傾きは1、切片はゼロに近かった。以上の結果より、前処理装置は魚中の総PCBs分析の前処理に極めて有用であると考えられる。
23-12
高脂肪飼料及び酵素処理イソクエシトリン摂取時の利尿作用及び脂肪低減作用に関する研究
東京農工大学大学院農学研究院 吉田 敏則
高脂肪飼料 (HFD) 給餌ラットを用いた二段階発がんモデルを用いて、酸化防止剤酵素処理イソクエルシトリン (EMIQ) 及び利尿剤カンレノ酸カリウム (PC) の脂肪肝及び肝前がん病変に対する影響を検討した。ラットに基礎飼料またはHFDを給餌し、HFD群には、PCを飲水投与する群とPCを飲水投与し、かつEMIQを混餌投与する計4群を設けた。試験10及び11週時に、糖負荷試験を行ったところ、HFD群では耐糖能が低下し、PCとEMIQの併用によりそれを軽減する傾向がみられた。試験11週及び12週時に一晩絶食後に血液、肝臓及び腹腔内脂肪等を採取した。HFD群では基礎飼料群に比較し、摂餌量は減少したものの体重及び腹腔内脂肪重量の増加がみられ、鉄及びトランスフェリン飽和度の高値が観察された。肝重量は対照群に比較し減少したが、病理組織学的検査では非アルコール性脂肪性肝疾患指標が有意に増加した。肝前がん病変指標であるglutathione S-transferase placental form (GST-P) 陽性巣の数及び面積が軽度に増加し、アポトーシス指標cleaved caspase-3陽性細胞の発現率がGST-P陽性巣内で増加傾向を示した。PC群では摂餌量への影響はなかったが、HFD給餌による体重、腹腔内脂肪重量及び肝臓の脂肪性肝疾患指標が減少し、EMIQとの併用群でも同様の影響がみられた。一方、GST-P陽性巣の面積はPC群ではHFD群に比較して増加し、この増強作用はGST-P陽性巣内のcleaved caspase-3陽性細胞の増加を伴っていた。EMIQとの併用投与ではPC投与によるGST-P陽性巣及び陽性巣内のcleaved caspase-3陽性細胞の増加は抑制された。肝遺伝子発現解析では、脂質及び鉄代謝、NADPX oxidase を含む酸化ストレス関連遺伝子がHFD給餌またはPC投与により変動し、Catalaseの遺伝子発現がPCとEMIQとの併用により増加した。以上の結果より、EMIQはPC投与条件下で、HFD給餌によるラットの肥満を低下させ、抗酸化作用を介して脂肪肝及び肝前がん病変を抑制することが示唆された。
23-13
ベニバナの食品添加色素収量の増加及び安定化に向けた遺伝育種学的研究
山形大学農学部 笹沼 恒男
ベニバナの色素収量増加のために、ベニバナ遺伝資源18系統を用いた開花日、草丈などの基本形質、花序中の全花弁長などの花弁関連形質、手摘みによる花弁収量、および、吸光度を用いた花弁中の色素含量の調査と、色素合成関連候補遺伝子の器官、成長ステージ、花色の異なる品種間の比較発現解析と、RACE法による候補遺伝子の完全長cDNAの決定を行った。形質調査では、山形県の品種である最上紅花が、年次間安定性、花弁収量で良好な形質をもつことが明らかになったが、海外の品種でも、最上紅花よりも花弁が多く、3mm以上の長い花弁が多い系統があり、育種母本として有望であることが明らかになった。色素含量調査では、最上紅花は特に良好な値は示さず、海外の品種の中に他の系統よりも80倍以上赤色色素の含量が多い系統が見られたが、これは収穫条件によるものと思われ、色素含量には収穫条件が重要であることが示唆された。色素合成関連候補遺伝子クローン3の発現解析では、つぼみでの発現がもっとも顕著であるが、花弁だけでなく、根、茎、葉でも発現していること、赤花、黄花、白花の各系統間の発現に有意な差は見られないことが明らかになった。RACE法により、クローン3のcDNA全長1,116bpの決定に成功したが、この配列はいずれの読み枠でも複数の終止コドンが生じることから、この遺伝子は転写されてもタンパク質に翻訳されない長鎖non-coding RNAの一つであることが示唆された。発現解析の結果と合わせ、クローン3遺伝子は、ベニバナ花弁色素合成経路に直接関係する遺伝子ではないと考えられる 。
23-14
人工甘味料の慢性摂取が血糖や摂食の調節に関わる脳機構に及ぼす影響の神経科学的研究
大阪大学大学院人間科学研究科 八十島 安伸
人工甘味料であるサッカリンの慢性摂取が血糖値の調節機構に影響するのかどうかを探るために、サッカリン溶液のみ、もしくは蒸留水のみを24日間摂取したマウスの群間において糖負荷試験による血糖上昇について比較した。サッカリン摂取群と蒸留水摂取群において血糖値の変動に群間での有意な差異はみられなかった。しかしながら、サッカリン群においては、血糖値の増減について個体差がより大きくなることが示唆された。摂食行動の生理的な調節機構を探るためには、内臓が栄養物で刺激された場合における生理的反応の検討が注目されている。人工甘味料によって内臓を刺激した場合と比較するためには、ショ糖のようなカロリーを有する糖類によって内臓を刺激した場合の生理的反応を明らかとしておく必要がある。そこで、まず、腸管から放出されるペプチドホルモンの一つであるペプチドYY(PYY)に着目し、ショ糖を多量に摂取するように訓練を受けたマウス(ショ糖過剰摂取群)とショ糖は摂取したがそれを多量に摂取はしなかったマウス(ショ糖経験群)との間で、内臓刺激によって生じるPYYの放出について比較した。ショ糖過剰摂取群では、ショ糖経験群に比べて有意に血中PYY量は少なかった。以上から、サッカリンの慢性的な摂取によって血糖制御に大きな影響は生じないものの、サッカリンの慢性摂取の影響は動物毎で異なる可能性があることがわかった。また、カロリーを含むショ糖を過剰摂取すると腸管ホルモンの一種であるペプチドYYの放出が低下することも示唆された。今後は、サッカリンの慢性摂取が腸管ホルモンの放出に影響するかどうかを調べる必要がある。
23-15
食品添加物と環境化学物質の混合曝露による複合免疫毒性発現の可能性
麻布大学 生命・環境科学部環境衛生学研究室 関本 征史
我々はこれまでに、ヒト肝がんHepG2細胞において、食品添加物(チアベンダゾール:TBZ)と環境化学物質(3-メチルコランスレン:MC)の複合処理により芳香族炭化水素受容体(AhR)の相乗的な活性化が起こることを見いだしている。過度なAhR活性化は免疫異常の原因になることから、本研究では未分化/マクロファージ様に分化させたヒト白血病THP-1細胞を用いて、TBZとMCのサイトカイン遺伝子発現における複合影響の可能性を探索した。その結果、PMAで分化過程にあるTHP-1細胞で、MCとTBZの複合処理によりTNFaやIL-8の顕著な発現誘導が認められた。また、AhR標的遺伝子の発現を指標として、他のヒト細胞株(HepG2、A549、Caco-2、MCF-7、Hela、Ishikawa、およびLNCaP)を用いてTBZとMCの複合影響について検討した結果、全ての細胞株でこれら現象が認められた。このことから、TBZとMCの複合曝露によりサイトカイン遺伝子の発現変動が引き起こされること、また、TBZとMCの複合影響は多くの細胞株に共通して起こる現象であることが示された。
23-16
食品添加物の安全性評価のためのヒ素発がん機序の解明
大阪市立大学大学院医学研究科分子病理学 魏 民
本邦において、ヒ素の主要な曝露源は食用の海産動植物であり、これらに多く含まれる有機ヒ素化合物の健康影響評価が求められている。疫学的にヒトのヒ素発がんの主原因と推察される無機ヒ素化合物の主な体内代謝物であるDimethylarsinic acid (以下、DMA )の経胎盤曝露による発がんリスクに関する知見は未だ報告されていない。一方、無機ヒ素は成熟マウスに発がん性を示さないが、胎仔期に曝露した仔マウスが成熟後、肝臓、肺、副腎および卵巣に発がん性を引き起こすことが報告されていることから、DMAの経胎盤曝露による仔マウスの発がん影響について早急に検討する必要がある。そこで、本研究はDMAの経胎盤曝露による仔マウスへの発がん影響について検討を行った。 妊娠期の雌マウスにDMAを0、200 ppmの用量で飲水投与し、経胎盤曝露により作製した仔雌雄マウスを84週齢まで無処置で経過観察し、解剖の後、発がん性を検索した。 病理組織学的解析の結果、DMA曝露群の雄仔マウスでは、肺細胞がんおよび総肺腫瘍(腺腫+腺癌)が有意に増加した。さらにDMA曝露群の雄仔マウスでは、肝細胞がんが有意に増加し、総肝腫瘍(肝細胞腺腫+肝細胞がん)も増加傾向が認められた。一方、DMA曝露群の雌仔マウスでは、肝腫瘍および肺腫瘍の発生に影響は認められなかった。 以上の結果から、DMAの経胎盤曝露で雄仔マウスにおいて肺発がんおよび肝発がんを誘発する可能性が示された。さらに、肺および肝臓は無機ヒ素の経胎盤曝露の標的臓器でもあること、DMAは無機ヒ素の主要な体内代謝物であることから、DMAが無機ヒ素の経胎盤曝露による発がん性に関与することが強く示唆された。
23-17
魚類食中毒シガテラの原因物質シガトキシン類分析のための標準試料作製検討
国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部 大城 直雅
世界最大規模の魚類による食中毒の原因物質であるシガトキシン類(CTXs)は、天然試料中の濃度が極微量であるため、入手は極めて困難である。CTXSの標準物質調製について検討するために、各地からバラハタ、オジロバラハタ、イシガキダイ等の魚試料を収集し、LC-MS/MS分析に供した。その結果、沖縄産バラハタとオジロバラハタからは高極性CTX1B類縁体だけが検出されたが、小笠原産バラハタはすべて検出限界未満であった。また、イシガキダイについては太平洋沿岸域を中心に試料を収集し、分析に供したが沖縄産の2個体だけから検出されたのみであった。
23-18
薬物代謝酵素の発現および活性に及ぼす既存添加物ポリフェノールの影響とそのメカニズムの解析
星薬科大学薬動学教室 五十嵐 信智
ポリフェノール類は、酸化防止剤として既存添加物名簿に記載されているが、最近、ポリフェノールに様々な薬理効果が見出されており、高濃度のポリフェノールを含んだ健康食品や特定保健用食品が広く用いられている。本研究では、高濃度の緑茶ポリフェノール(GP)長期摂取の安全性について、薬物動態学的立場から基礎研究を行った。その結果、高濃度GPは肝臓特異的に薬物代謝酵素cytochrome P450 3A(CYP3A)の発現量を低下させ、CYP3A基質薬物の血中濃度を上昇させることを明らかにした。さらに、このCYP3Aの発現低下は、GPの主要成分であるエピガロカテキンガレート(EGCG)が直接関与しているのではなく、EGCGが大腸に到達したあと、リトコール酸(LCA)産生菌量を減少させ、大腸内LCA濃度を低下させることがその原因であると考えられた。現在、日本では健康食品や特定保健用食品の安全性を担保するために、動物を用いた一般的な安全性試験やヒト試験を行っている。本研究の結果から、GPは単一では安全性が担保されているものの、薬物動態学的観点からすると、CYP3Aで代謝される薬物の血中濃度を上昇させる可能性が示唆された。今後、健康食品や特定保健用食品、食品添加物の安全性を担保するためには、これまでの一般的な安全性試験に加え、薬物動態学的視点からの試験も重要であると考える。
23-19
食品添加物ビタミンK1 水素付加物(2',3'-PKH2) の生体内代謝機構に関する研究
芝浦工業大学システム理工学部生命科学科 廣田 佳久
ヒトやマウスの生体内では、摂取したPKは小腸で側鎖が切断され側鎖を持たないMDとなり、各組織中でUBIAD1によってMK-4へ変換される。これまでにビタミンK側鎖切断機構は全く明らかでなく、側鎖切断酵素の探索も難航している。欧米では、加工した植物油やバターの形状を安定化させるために行う水素添加により食品中のPKが還元された2',3'-PKH2が含まれる食品が多く流通している。これまでの研究から、2',3'-PKH2は、ヒトやラットが多量に摂取しても血中のMK-4濃度が増加せず、ビタミンKとしての機能をほとんど示さないことをが報告されているため、2',3'-PKH2の生体内代謝機構の解明を行った。 はじめに、本研究で新たに合成した2',3'-PKH2-d7は、ビタミンK活性としてGGCX活性をPK-d7と同様に示した。そこで、2',3'-PKH2をMG63細胞およびC57BL/6J系マウスに与えたが、これまでの報告と同じようにMK-4-d7への変換活性は認められなかった。次に、2',3'-PKH2-d7の生体内代謝機構を明らかにする目的で、門脈またはリンパ管をカニュレーションしたラットに2',3'-PKH2-d7を投与した。その結果、MK-4変換反応の中間体であるMDはリンパ液中に全く検出されなかったことから、2',3'-PKH2は側鎖切断反応を受けないビタミンK誘導体であることが分かった。 本研究の結果より、ビタミンK側鎖切断酵素はPKの側鎖に存在する2位と3位の2重結合を選択的に認識し、切断していると考えられる。今後、ビタミンK側鎖切断酵素を同定することが出来れば、摂取したビタミンKがどのようなメカニズムで代謝吸収され、生理機能を発揮しているかが明らかになる。このため本研究は、生体におけるビタミンKの分子栄養学的な重要性を明らかにする上で非常に重要な知見になると考えられる。
23-20
配糖体の消化管吸収過程におけるLPH の特性評価
名古屋市立大学大学院薬学研究科生薬学分野 寺坂 和祥
LPH (lactase-phlorizin hydrolase) は小腸の刷子縁に存在する二糖加水分解酵素である。これまでにフラボノイド類の配糖体の加水分解反応への関与も示唆されていたものの、その詳細な加水分解の特性については明らかとなっていなかった。そこで、本研究ではヒトおよびラットのLPHを組換えタンパク質として安定的に発現させる系を構築するとともに、その系で得られた組換えLPHを用い、天然化合物の配糖体に対する基質特異性を検討した。ヒトおよびラットLPHをHEK293細胞で発現させた結果、どちらも既知の基質であるphlorizinではほぼ同等に加水分解したことから、本研究で構築した系においてLPHの特性を詳細に分析することが可能と考えられた。続いて、様々なフラボノイド配糖体を基質として加水分解反応を行ったところ、糖鎖部分に関してはガラクトース配糖体やラムノース配糖体は加水分解されず、グルコース配糖体のみが基質になることが示された。一方、アグリコン部分に関しても加水分解されやすい構造が推察され、LPHには厳密な基質認識機構があることが示唆された。
23-21
生活習慣病の分子標的制御に資する甘味料の効果とその背景機構に関する研究
東京農業大学応用生物科学部食品安全健康学科 煙山 紀子
本研究は、動物モデルを用いて、甘味料が生活習慣病の病態と背景メカニズムに及ぼす影響を解明することである。2016年度は、生活習慣病として非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)を、甘味料としてラカンカ抽出物(ラカンカ)を、NASH動物モデルとしてラットにおけるコリン欠乏メチオニン低減アミノ酸(CDAA)食連続投与モデルを、それぞれ用いた。実験は、6 週齢のHsd:Sprague Dawley:SD系に雄性ラット(1群6匹)に、CDAA食または基礎食を給餌する一方、ラカンカ(サンナチュレRM50)を0・0.06・0.2・0.6・2・6%の濃度で純水に溶解して混水投与した。投与期間は3カ月間とし、その期間中は一般状態を観察し、体重・摂餌量・摂水量を測定した。動物は、投与期間終了後に解剖し、剖検・臓器重量測定・血液生化学的検査及び病理組織学的検査を実施した。基礎食群では、ラカンカの投与に起因した毒性学的変化を認めなかった。CDAA食投与群において、投与期間中の評価指標や解剖時の肉眼的所見にはラカンカの投与に起因する変化を認めなかったが、血漿中肝逸脱酵素活性が上昇し、肝において顕著な脂肪化・架橋形成を伴う線維化・肝細胞のアポトーシスが誘導された。ラカンカの併用投与は、これらの内、肝の脂肪化を除く全ての変化を抑制した。以上の結果より、ラカンカは、それ自身で毒性学的な影響を示さない用量域において、CDAA食の連続投与によりラットに誘発されるNASH様病態を抑制することが判明した。このことは、ラカンカがヒトのNASHの発生と進展を抑制的に制御する機能を有する可能性を示唆するものである。
23-22
食品添加物代謝プロファイル予測を目指した抱合代謝物ライブラリーの構築
富山県立大学工学部生物工学科 生城 真一
食品中の添加物や機能性化合物は異物として認識され、第Ⅱ相反応に属する異物抱合酵素であるUDP-グルクロン酸転移酵素(UGT)、硫酸転移酵素(SULT)やカテコール-o-メチル化酵素によって抱合代謝され、その一部機能については抱合体形成に依存する場合がある。我々は出芽酵母を用いた哺乳動物由来抱合化酵素発現系により食品成分の代謝物生合成システムを確立した。複数の抱合化部位をもつ化合物に対して適切な分子種を選択することにより、部位特異的な修飾を受けた抱合体を得ることが可能となった。これら出芽酵母発現系による食品中機能性成分の抱合代謝物合成系は、食品中の添加物や機能性成分の安全性、機能性及び体内動態解明に対して強力なツールとして用いることができる。
23-23
食品添加物と加工法の最適化による液中分散食品成分の安定性制御
岐阜薬科大学薬物送達学大講座 田原 耕平
機能性食品成分は難水溶性であることが多く、経口投与後の吸収性には十分留意する必要がある。吸収性の改善には溶解性改善が必須であり、我々は微細化法の一つである高圧晶析装置PureNano?(Microfluidics社)を用いた微細化によって難水溶性化合物の溶解性を改善可能であることを報告してきた。本研究では、難水溶性健康食品成分であるクルクミンを本プロセスに適用し、溶解性の改善を目的として検討を行った。クルクミンの溶媒としてエタノール、貧溶媒として各種水溶性ポリマー(分散安定化剤)溶液(蒸留水)を用い、高圧晶析装置により微粒子懸濁液を調製した。得られた微粒子懸濁液を凍結乾燥法にて粉末化し、溶解特性は局方に準じた溶出試験により評価した。高圧晶析処理により、サブミクロンサイズのクルクミン微粒子調製が可能であり、微細化による溶出性の顕著な改善が確認された。
23-24
呈味・フレーバー成分を安定に保持する複合化技術に関する研究
千葉大学大学院薬学研究院 森部 久仁一
これまでの研究において、脂質の一種である植物ステロールエステル及びr-シクロデキストリン(CD)を用いて複合体を形成することで、辛み成分のマスキングが可能となることが報告されている。一方、複合体中における各成分の詳細な分子状態については未だ不明であった。本研究は、脂質/r-CD複合体の構造及びゲスト分子の封入様式の解明を目的とし、植物ステロールエステルの主成分であるオレイン酸コレステリル(OCE)及びr-CDを用いたOCE/r-CD複合体ナノ懸濁液を溶媒拡散法で調製した。そして、調製条件の検討及び複合体の構造評価を行った。動的光散乱法による粒子径分布測定の結果、調製直後の懸濁液は体積平均粒子径約200 nmの単峰性の粒子径分布を示した。また、一日保存後においてもほぼ同様の粒子径分布が得られた。ナノ懸濁液について溶液1H NMR測定により評価した結果、OCEはOCE/r-CD複合体ナノ粒子の内側のコアに存在していることが示唆された。ナノ懸濁液の粒子径分布は凍結乾燥・水再分散の前後で同様であり、その高い再分散性が認められた。以上の結果より、溶媒拡散法により、高い保存安定性及び再分散性を有するOCE/r-CD複合体ナノ懸濁液が得られることが示された。
23-25
甘味受容と唾液分泌の関係を利用した甘味シグナルの伝達および認知機構の解明
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 食品研究部門 日下部 裕子
味覚の情報伝達研究は2000年以降大きく飛躍した。本研究では、最近の味覚研究の知見を利用した簡便な甘味度評価方法の開発を目的とした。甘味情報伝達の初期段階を利用した評価方法として甘味物質と甘味受容体の相互作用の解析を行い、甘味情報伝達の最終段階である知覚や生理応答を利用した方法として、官能評価および唾液分泌量の変化の解析を行った。甘味として高甘味度甘味料4種類と、ショ糖およびキシリトールを選択し、ヒト甘味受容体hT1r2/hT1r3を導入した培養細胞HEK293の応答、甘味の強さ、嗜好性および唾液分泌量を測定した。これらの結果を比較したところ、高甘味度甘味料については、甘味受容体の応答、甘味の強さおよび唾液分泌量が強く相関することが明らかになった。一方、甘味の嗜好性は、甘味受容体の応答、甘味の強さ、唾液分泌のどれとも相関が低かった。また、ショ糖とキシリトールについては甘味の強さと唾液分泌に高い相関性があることが観察された。味刺激に対する唾液分泌は嗜好に関与しない無条件反射によるものであることが以前から知られていたが、本結果はそれを支持するものとなった。唾液分泌量の測定は、官能評価のようなトレーニングを必要としないため、簡便な甘味強度測定法として利用できる可能性がある。
23-26
希少二糖を活用した賦形剤のガラス転移温度の調整によるフレーバーリリース速度の制御
京都大学大学院農学研究科食品生物科学専攻 安達 修二
170~220℃の亜臨界含水エタノール中でラクトースおよびセロビオースをそれぞれ対応する希少二糖であるラクチュロースおよびセロビウロースに異性化した。エタノールの含有率が高いほど、希少二糖の収率は高かった。また、液体クロマトグラフィーによるラクトースとラクチュロースの分離には、架橋度が5%でCa2+形の陽イオン交換樹脂がもっとも適していた。マルトデキストリンに比較的ガラス転移温度の低いフルクトースを混合した系で定速昇温条件下におれる色素であるベタインの退色過程を解析し、賦形剤のガラス転移温度を求める新たな方法を開発した。さらに、各種の糖類で粉末化したd-リモネンのリリース過程の解析より、フレーバーのリリースには賦形剤のガラス転移温度が大切な因子であるが、他の因子が関与する場合もあることを示した。
23-27
天然物からの微量有用食品添加物の新規抽出および回収方法の開発
福岡大学工学部化学システム工学科 福岡大学複合材料研究所 三島 健司
柑橘類は、多くの有用成分を含んでおり、医療や食品の分野でその天然有効成分が注目されている。特に柑橘果皮には、希少な有用な食品添加物として有望な、グレープフルーツの果皮に含まれるノートカトン、ゲンコウに含まれるノビレチン、タンゲレチンなどのポリメトキシフラボノイドのような生理活性物質が含まれている。ゲンコウは、佐賀県の特産品としてその生産体制も確立しており、ブランド化を目指す食品産業界では、実用化の可能性の高い有望な天然資源である。本研究では、天然物からの微量有用食品添加物の新規抽出方法の開発として、食資源生産限界のある植物などの天然物から微量有用成分を効率的に抽出・回収する新規抽出・回収方法を開発し、得られた目的物質の脳への影響を近赤外光脳機能イメージング装置により嗅覚官能試験として評価した。昨年に引き続き、従来の抽出法により、ポンカン、伊予柑、グレープフルーツ、ゲンコウなどの柑橘類の果皮に含まれるノビレチン、タンゲレチン、リモネン、ミルセン、ノートかトンなどの抽出ならびに分析を行い、成分を同定した。次に、これらの柑橘類果皮などの天然物を対象として、超臨界二酸化炭素抽出で有効成分の抽出を行った。その結果、超臨界二酸化炭素抽出では、抽出後の脱溶媒行程を必要とせず、従来法よりも効率的に目的物質を回収できることが示された。さらに、我々は、超音波照射を併用した超臨界二酸化炭素抽出が、より効率的な抽出を可能とすることを示した。さらに、得られた目的物質の吸引実験を行い、抽出物質の人の脳への影響を、近赤外光脳機能イメージング装置による脳血流測定にて観測し、嗅覚官能試験として評価した。