平成12年12月
厚 生 省
生衛発第121号(平成12年1月31日)による平成11年度第2次補正予算による食品添加物一日摂取量総点検調査の実施に関する報告書
国立医薬品食品衛生研究所 |
山田 隆 |
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石綿 肇 |
国立健康・栄養研究所 |
吉池 信男 |
東京都立衛生研究所 |
西島 基弘 |
日本食品添加物協会 |
川本 明男 |
協力機関及び協力者 食品購入・指導 |
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札幌市衛生研究所 |
木原 敏博 |
仙台市衛生研究所 |
大澤 テイ子 |
長野県衛生公害研究所 |
宮川 あし子 |
東京都立衛生研究所 |
西島 基弘 |
武庫川女子大学薬学部 |
伊藤 誉志男 |
島根県衛生公害研究所 |
後藤 宗彦 |
香川県衛生研究所 |
毛利 孝明 |
北九州市環境科学研究所 |
石橋 正博 |
沖縄県衛生環境研究所 |
玉城 宏幸 |
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分析担当 |
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食品薬品安全センター |
福原 克治 |
日本食品分析センター |
永江 美加 |
東京顕微鏡院 |
松野 伸広 |
日本食品衛生研究所 |
二宮 隆博 |
日本冷凍食品検査協会 |
松本 五郎 |
マーケットバスケット方式による年齢層別食品添加物の一日摂取量の調査
概要
食品添加物の安全性確保の一環として,年齢層別の摂取量調査を行った.
246種類の食品からなるリストを作製し,1~6歳(幼児),7~14歳(学童),15~19歳(青年),20~64歳(成人),65歳以上(高齢者)の5つの年齢階層別に,1日当たりの食品別平均喫食量を算出した.これをもとに全国9カ所で食品を購入し,これらの食品を7群(Ⅰ群:調味嗜好飲料,Ⅱ群:穀類,Ⅲ群:いも,豆,種実類,Ⅳ群:魚介,肉類,Ⅴ群:油脂,乳類,Ⅵ群:砂糖,菓子類,Ⅶ群:果実,野菜類)に分類した.これをホモジネートとし,100種類の化合物(食品添加物の種類として延べ281品目)の定量を行い食品添加物の濃度を求め,年齢層別の摂取量を算出した.
年齢層別の食品添加物の摂取量は,多くの場合,年齢層と共にやや増加する傾向が見られた.そのなかでも特徴的な変化として,サッカリンナトリウムは若年層に比べ成人層の摂取量が約10倍,キシリトールでは逆に1/10であることが認められた.今回の調査において年代別の摂取量に差が認められたことは,年代別摂取量調査の意義を示唆するものであり,今後さらに継続して行うことが必要と考えられる.
全体的には食品添加物の安全性について問題となるような知見は認められなかった.また,個々の物質の摂取量を一日摂取許容量(ADI)と比較した場合には,ほとんどの物質について,摂取量はADIを下回っていたが,硝酸塩の摂取量についてのみ,ADIを上回る結果となった.しかしながら,硝酸塩については,元々野菜に含まれている天然の硝酸塩に起因するものがほとんどであり,添加物に由来するものはごく僅かであると考えられ,食品としての野菜の有用性,これまでの食経験,JECFAの評価に見られるような国際的な認識等から考えると,現時点で問題があるとは考えられなかった.
目的
昭和40年代を境として,我々日本人の食生活は急激に変化し,また多様化した.特に,輸入食品の増加と加工食品の多様化は目を見張るものがある.食生活の変化と食品の多様化は,食品添加物の摂取量の変化を伴う.
食品添加物については,動物実験などで得られた毒性学的なデータに基づき厚生省により評価されており,その安全性が確保されている.安全性評価のもう一つの重要な因子は,我々の生活において食品添加物の一日あたりの摂取量が個々の物質に対して定められている一日摂取許容量(ADI<Acceptable Daily Intake>)の範囲内にあるか否かを知ることである.一日摂取許容量については,厚生省あるいはFAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA<Joint FAO/WHO Expert Committee on Food Additives>)において定められている1).食品添加物の摂取量は,食生活の変化と食品の多様化により変動するため,最新の調査結果を必要とする.わが国では,1980年代より食品添加物の摂取量調査が数種類の方法により精力的におこなわれてきた2-4).従来の摂取量調査でもマーケットバスケット方式が用いられているが,年齢層別摂取量等については詳細に検討されていなかった.
今回,マーケットバスケット方式の基礎となる年齢層別の喫食食品の種類と喫食量を算定し,これに沿って年齢層別に食品をグループ分けして食品添加物の摂取量調査の試料とした.このようにして調製した試料から様々な分析法を用いて,試料中の含有量を測定することが可能と考えられる100種類の化合物,すなわち241品目の食品添加物の定量を行い,日本人における年齢層別の食品添加物の摂取量を把握し,食品の安全性と国民の健康を確保する事を目的とした.
方法
調査の実施に先立ち,実施要領(別添I及び別添II)を作成し,関係機関(者)に配布した.
1.調査対象食品添加物
調査対象化合物及びその食品添加物名を表1に示す.測定項目は100化合物で,この中には199品目の指定添加物と42品目の既存添加物,合計241品目の食品添加物が含まれる.また,例えばクエン酸カルシウムのようにクエン酸の測定とカルシウムの測定とが行われたものもあり,測定対象食品添加物の延べ数は281品目となる.最近食品添加物の削除等が行われたことから,数には若干の変更がある.
2.年齢層別食品喫食量の調査
国民栄養調査は,全国から無作為に抽出された約6,000世帯,1歳以上の者約15,000名を対象として,毎年11月に実施されている5).1995年より従来の世帯単位の食事調査方法が改められ,個人別の食品摂取量が求められるようになった6).したがって,今回の解析には,1995年以降データベース化の完了した1997年までのデータ(n=41,548)を用いた.
国民栄養調査においては,独自の食品番号体系が用いられ,全部で1,194種類の食物に対して食品番号が付されている6).そのうち,「加工食品」,「総菜」,「外食」,「給食」は,いわゆる"mixed dish"に分類され,他の"単品食品"(970種類;「なす」,「しょうゆ」等"食品成分表"に収載されているもの)が組み合わされたものとして,データが取り扱われている.したがって,それらについては,"単品食品"に分解された形で,ある個人が1日に摂取した食品番号と摂取重量(g)が「食品摂取量単品票」としてデータベース化されている7).
「食品摂取量単品票」を用い,970種類の食品について,11月のある平日1日に摂取した者の割合,非摂取者を含む平均摂取量および摂取者における平均摂取量を求めた.しかし,970種類の食品を個々に購入することは実際的ではないので,各食品の摂取実態(摂取頻度,摂取量),各食品の加工形態,食品添加物の使用基準などを考慮しながら,栄養士等が複数の食品を統合し,246種類の食品からなるリストを作成した.また,これらの食品をさらに7群8)(Ⅰ群:調味嗜好飲料,Ⅱ群:穀類,Ⅲ群:いも,豆,種実類,Ⅳ群:魚介,肉類,Ⅴ群:油脂,乳類,Ⅵ群:砂糖,菓子類,Ⅶ群:果実,野菜類)に分類した.1~6歳(幼児; n= 2,620),7~14歳(学童; n= 4,175),15~19歳(青年; n= 2,715),20~64歳(成人; n= 25,281),65歳以上(高齢者; n= 6,757)の5つの年齢階層別に,246種類の食品について,1日当たりの平均喫食量を算出した(表2).平均体重は,1~6歳が15.9 kg,7~14歳が37.1 kg,15~19歳が56.3 kg,20~64歳が58.7 kg,65歳以上が53.2 kgである.
3.食品の購入,検体の調製,及び分析の実施及び結果の報告
購入等に先立ち,食品購入等実施要領(別添I)と検体作成及び分析・定量調査実施要領(別添II)を作成し,要領に沿って購入等を行った.
1)食品の購入
表2の食品喫食量表に従って,表3に示した全国9カ所の調査参加機関(地方衛生研究所及び大学)の地域で市販の食品を購入した.購入期間は,平成12年1月18日から1月21日の間とした.購入した食品は,付着しているどろの除去,魚の内臓の除去等必要最小限の処理を行った.食品ごとに食品の通し番号を付し,群別識別カラーテープを付け,群ごとに梱包し,冷凍状態で日本食品分析センター多摩研究所に送付した.
2)検体の調製
別添I別紙3によった.すなわち,送付された食品は,群別に確認し,粉砕した後,食品喫食量表にそって年齢層別に秤量した.適当量の水を加え,群ごとにホモジナイズした(5年齢層×7群=35検体).これを酸化防止剤不含ポリエチレンボトルに小分けし,冷凍し,冷凍宅配便で各分析担当機関に発送した.成人用は添加回収実験にも用いるため,他の年齢層の倍量の検体を作成した.
3)分析法
特に問題のない限り,通知による食品中の食品添加物の分析法9,10)によった.分析法は必要に応じて改良等を行った.分析の担当機関及び分析法は表4の通りで,いずれも指定検査機関である.結果の報告は,別添I-別紙5の様式に従ってディスクに入力し,日本食品添加物協会に送付し,整理,集計した.報告項目は,年齢層別,食品群別に,含有量,一日摂取量,定量限界値,検出限界値,添加回収実験における添加量と回収率,その他.
結果及び考察
1.調査結果と推定摂取量
年齢層別の食品添加物の推定摂取量を表5に示した.ADIが定められている品目について,推定摂取量のADIに占める割合(対ADI比)を表6に示した.また,表7に今回の調査における成人(20~64歳)の推定摂取量と他の調査報告による推定摂取量(日本人の平均値)とを対比して示した.
本調査で得られた推定摂取量は,食品中に存在する目的物質の含有量から算定されたものである.従って、本来自然界に存在するような物質例えば,硝酸やリン酸については,食品添加物として使用された量だけでなく,野菜,果実,食肉等に自然に含まれている量も合わせて定量することとなり,算定された推定摂取量もこれらを併せたものである.
1)年齢層別摂取量について
食品添加物の摂取量は,多くのもので年齢層別変化はあまり見られないか,年齢層と共にやや増加する傾向がみられた表5.これは食品の喫食量による影響を強く受けているものと考えられる.
特徴的変化の見られたものがいくつかあった.サッカリンナトリウムは年齢層が高くなるほど摂取量が高くなり,成人,高齢者群では幼児の10倍弱であった.供給源はIV群(魚介・肉類)とVII群(果実・野菜・海草類)であった.若年層ではIV群から,成人以降ではVII群からの摂取が多くなり,成人及び高齢者における漬け物類の喫食量の増加の反映と思われる.逆に,キシリトールは若年層で高く,以後年代と共に減少した.高齢者では幼児,学童の約1/10程度であった.主たる供給源は若年層ではVI群(砂糖・菓子類),成人以降ではI群(調味料・嗜好飲料)であった.キシリトールは清涼感のある甘味料で,アメやチューインガムに汎用されることから摂取量の年齢層別の変化が見られたものと考える.
摂取量の多かったものは乳酸で,全ての年齢層で最高値を示した.すなわち,幼児で1.5 g,学童で2.0 g,青年で2.2 g,成人と高齢者で2.6 gであった.ついで,クエン酸(成人で2.1 g),リン酸(成人で2.1 g),リンゴ酸(成人で1.7 g)であった.いずれも若年層で摂取量が少ない傾向が見られた.
表5の結果は,定量値を基に摂取量を推定したもので,定量限界値以下は摂取量をゼロとして算出したものである.また,定量値は回収率補正を行っていない.従って,この点では推定摂取量は若干過少見積もりとなる.表5の結果を基に,不検出の場合は検出限界値を,また,検出はしているが定量するまでの濃度がない場合には定量限界値を加算して算出した最大推定摂取量を表8に示した.表5に示した結果に比べて差が出たものは,当然のことながら含有量が検出限界以下の食品添加物である.従って,表8に示した最大推定摂取量と表5に示した推定摂取量には大きな違いはなかった.なお,今回の調査では生鮮食品は調理を行っておらず,調理,加工による損失は減算していない.生鮮食品のように一般的に水洗いあるいは煮沸といった処理が行われるような食品については,含有する添加物や天然成分の量が調理,加工の過程において減少すると考えられる.従って,実際の摂取量は,本調査による結果よりも低くなると考えられる.
2)ADIに対する摂取量の比率
対ADI比において,算定された推定摂取量がADIを超えたものは硝酸塩のみであり,他の物質の摂取量は全てADIを下回るものであった表6.
硝酸塩の摂取量はいずれの年齢層においてもADIを超え,幼児では摂取量がADIの約2倍と算定された.これは,幼児の硝酸塩の摂取量は成人の1/2以下であったが,体重が成人の約1/4であるため,相対的に対ADI比が高くなったものである.食品添加物として使用された硝酸塩の量は,生産量に基づいた調査3)や行政検査に基づいた調査4)では1 mg 程度あるいはそれ以下であり,食品添加物由来と考えられる硝酸塩の摂取量について,対ADI比は1%以下であると報告されている.これに対し,厚生科学研究によるマーケットバスケット方式による摂取量調査2)では,硝酸塩の摂取量は232 mgで,ADIの125%を示しており,摂取量の80%以上は生鮮食品に由来している.今回の調査では,硝酸塩は,各年齢層共に96%以上をVII群(果実・野菜・海草類)より摂取していた.すなわち,硝酸塩については,元々野菜に含まれている天然の硝酸塩に起因するものがほとんどであり,添加物に由来するものはごく僅かであることが本調査においても確認された.硝酸塩の摂取については,JECFAにおいても評価されており,「硝酸塩の摂取量は主に野菜に寄与している.しかしながら,野菜を摂取することの利点はよく知られており,硝酸塩の生物学的利用能において野菜がどの様な作用を持っているかは明らかではなく,野菜から摂取する硝酸塩の量を一日摂取許容量と直接比較することや,野菜中の硝酸塩量を限定することは適切でない.」と報告されている11).従って,本調査において得られた硝酸塩の摂取量についても,添加物に起因する摂取はごく僅かであると考えられ,食品としての野菜の有用性やこれまでの食経験等から考えると,現時点で問題があるとは言えない.また,本調査においては,水洗い,加熱等の調理,加工の過程が考慮されておらず,野菜を水洗い,加熱等した際には,硝酸塩の含有量が減少すると考えられることから,実際の摂取量は,本調査により算定した推定摂取量よりも少ない可能性がある.より精密な摂取量を算定するためには今後さらに検討が必要である.
そのほかの食品添加物ではいずれの年齢層でもADIを超えるものはなかった.摂取量の対ADI比は,一般に若年層で高く,年齢層と共に減少する傾向がみられた.これは,摂取量が年齢層によってそれほど大きく変わらず,体重が若年層で少ないことによる.その中でも,サッカリンナトリウムとアジピン酸の対ADIは特徴的な傾向を示した.サッカリンナトリウムの対ADI比は若年層(幼児,学童,青年)で0.1%であったのに対し,成人層(成人,高齢者)では0.3%であった.アジピン酸の対ADI比は,幼児で0.3%で,以後順次増加し,高齢者で0.7%となった.
幼児において対ADI比が10%を超えたものは,D-α-トコフェロール(17.5%),亜硝酸塩(11.5%),リボフラビン(15.1%),酒石酸(29.6%),リン酸(38.4%),アルミニウム(32.5%),鉄(45.1%)であった.成人で対ADI比が10%を超えたものは,リン酸(16.1%),アルミニウム(13.1%),鉄(20.1%)であった.
今回測定を行った食品添加物のうち,厚生省が栄養所要量12)を定めているものには,β-カロテン(ビタミンAとして),D-トコフェロール類(ビタミンEとして),L-アスコルビン酸類(ビタミンCとして),チアミン(ビタミンB1),リボフラビン(ビタミンB2),カルシウム,リン酸(リンとして),鉄,マグネシウムがある.これらのうち,上述の対ADI比が10%を超えたものについて栄養所要量と比較検討すると,D-トコフェロール類(α,β,γ,δ)の摂取量をα-D-トコフェロール等量に換算した値は,どの年齢層においてもビタミンEの所要量とほぼ等しかった.一方,リボフラビンでは,特に若年層(1~6歳,7~14歳)で,栄養所要量の2倍程度であった(但し,リボフラビンでは許容上限摂取量は設定されていない).また,鉄及びリン酸(リンに換算)については,栄養所要量より摂取量が若干低い傾向にあった.いずれも,許容上限摂取量を超えることはなかった.
参考までに,表8を基にした最大推定摂取量から対ADI比を求め,表9に示した.亜硝酸塩の対ADI比が20%台となったことと,亜硫酸塩の対ADI比が3~7%となった他は,ADIに対する比率で大きな影響を受けたものはほとんどなかった.
3)他の調査方法による推定摂取量との比較
これまでに我が国における食品添加物の摂取量調査は,マーケットバスケット方式2),生産量に基づく方式3),一部の食品添加物であるが行政検査結果に基づく方式4)の3種類の方法で行われている.これらの調査結果は日本人全体の平均値で示されている.今回行った方法は年齢層別マーケットバスケット方式である.今回の調査における成人(20~64歳)の推定摂取量と上記の他の調査方法による推定摂取量(日本人の平均値)とを表7に対比して示した.
今回の調査結果は,1995-1996年に行われたマーケットバスケット方式2)による調査結果と非常に近い値が得られた.この理由として,調査時期や年齢層別が異なるとはいえ,調査方法が基本的に同じであることが考えられる.食品添加物の用途別に見ると,調味料や強化剤ではほぼ同じ値であった.酸味料は今回の調査結果がやや高い値を示し,保存料ではやや低い値を示した.生産量に基づく方式3)による調査結果との比較では,当然のことながら,天然成分としても存在するもの(B群食品添加物)では今回の調査の結果が高い値を示している.反対に天然成分として存在しないもの(A群食品添加物)ではやや低い値を示している.行政検査結果に基づく方式4)による調査結果との比較では,今回の調査は一般に低い値を示している.この理由は,食品添加物の行政検査は使用が許可されている食品を中心に検査されていることと,本調査で用いたマーケットバスケット方式のように食品を混合せずに単品の食品で食品添加物を測定しているために定量値を得やすく,高い値が算出されることなどが考えられる.
今回初めて調査対象となった食品添加物は,ノルジヒドログアヤレチック酸,ナリンジン,ヘスペリジン,コウジ酸,アスパラギン,グルタミン,シスチン,ヒドロキシプロリンである.これらのADIはいずれも設定されていない.摂取量が最も高かったものはグルタミンであった.ノルジヒドログアヤレチック酸,ナリンジン及びコウジ酸は検出されなかった.
2.食品添加物の分析に関する基礎データ
基礎資料として,表10-1 表10-2 表10-3 表10-4 表10-5に年齢ごとの食品群別に摂取量の内訳を示す.表10を整理したものが表5である.表11-1 表11-2 表11-3 表11-4 表11-5には,各年齢層ごとの群別喫食食品中の食品添加物の濃度を示した.ここで得られた濃度に群別喫食を乗じたものが表10に示した摂取量である.成人(20-64歳)の食品を用いて確認した検出限界値を表12に,定量限界値を表13に,検出限界あるいは定量限界値を代入した場合の食品中の含有量を表14-1 表14-2 表14-3 表14-4 表14-5に,添加回収率を表15に示した.回収率は,一部の測定項目でやや低い値を示したものもあった.これは,一般に行われている食品別の食品添加物分析と異なり微量分析を必要とし,かなり低濃度で添加回収試験を行ったためと考えられる.試料中の食品添加物の測定値は,回収率補正は行っていない.
3.コラボレイティブスタディーによる分析値の比較
摂取量の比較的多いと考えられるサッカリン,ソルビン酸,プロピレングリコール,及びアミノ酸17種について東京都立衛生研究所においても分析を行い,分析担当機関からの報告値との比較を行った.両機関における分析値を表16に示した.測定対象試料は成人(20-64歳)用を用い,サッカリンはIV群とVII群を,ソルビン酸はIV群とVI群を,プロピレングリコールはI群と高齢者(65歳以上)用のII群を用いた.また,アミノ酸では試料が粘性を有する成人(20-64歳)用のIV群と粘性のないIII群とを対象とした.
全体として,両者の分析値に大差は無かったが,一部の試料では粘性が原因と考えられる差異が認められた.
1.サッカリンのIV群とVII群及びソルビン酸のIV群とVI群では,東京都立衛生研究所と分析担当機関とにおいて同様の結果が得られた.
2.プロピレングリコールでは,成人用I群では東京都立衛生研究所と分析担当機関とにおいて同様の結果が得られたが,高齢者用のII群では分析担当機関の結果が46μg/gであったのに対し東京都立衛生研究所では17μg/gと結果が異なった.この原因として,II群の試料が外見上は均一に見えるが,粘性を有するため不均一な部分があったために結果が異なった事が考えられた.
3.アミノ酸では,試料が粘性を有するIV群と粘性のないIII群とを用い,東京都立衛生研究所と分析担当機関において試料を相互に交換して定量を行った.食品添加物として最も多く利用されていると考えられるグルタミン酸とグリシンにおいてはいずれも大きな差は認められなかった.
以上の結果から,東京都立衛生研究所と分析担当機関における定量結果はほぼ同程度であった.しかし,粘性が原因と考えられる差異も見られることから,今後試料の作製にあたっては,粘性の強い試料では均一性に対し,より留意する必要があると考えられる.
4.総括
100化合物,241品目(延べ281品目)の食品添加物の摂取量をマーケットバスケット方式により推定した.今回の調査の特徴は,年齢層別(5段階)に食品の喫食量を算出し,これに基づいて年齢層別に摂取量を推定したことにある.
今回の調査の範囲においては,食品添加物の摂取量に関する安全性について問題となるような知見は認められなかった.しかしながら,各年齢層間において食品の喫食量には明らかな差が認められ,これらの差は食品添加物の摂取量においても差を生む要因となっていると考えられる.年齢層別の食品添加物の摂取量について調査した経験がこれまでになく,今回の調査のみをもって断定的な判断を下すことは出来ないが,年齢層間の食品添加物の摂取量の差が今回初めて明らかとなったことには,今後,食品の安全性を検討していく上で意義がある.近年の食生活の多様化により,各年齢層における食生活の違いは今後ますます大きくなると考えられ,食品添加物の摂取量について,各年齢層間における差異を考慮する必要性はさらに増大すると思われる.従って,硝酸塩の摂取量を含め,今後さらに年齢層別摂取量調査を継続し,特定年齢層において摂取量が著しく大きくなっている食品添加物の有無や食品添加物摂取量の年次的推移を把握することが重要と考えられる.これらの調査を継続することにより食品添加物の摂取量についてより詳細な実態を把握することができ,その結果は適正な基準策定の基盤となり,食品添加物の安全性を一層確保していく上で有用であると考える.
表
表1.pdf |
表1 |
調査対象食品添加物(化合物名)と品目名 |
表2.pdf |
表2 |
年齢別食品喫食量 (g/日/人) |
表3.pdf |
表3 |
食品購入機関及び所在地 |
表4.pdf |
表4 |
分析分担及び分析法 |
表5.pdf |
表5 |
食品添加物の年齢別摂取量 (mg/日/人) |
表6.pdf |
表6 |
ADIに対する年齢別摂取量の比率(%) |
表7.pdf |
表7 |
本調査結果と文献値との比較 (mg/日/人) |
表8.pdf |
表8 |
最大推定摂取量 (mg/日/人),不検出試料に検出限界値または定量限界値を代入したときの値 |
表9.pdf |
表9 |
食品添加物不検出食品には検出限界値を,定量限界以下の食品には定量限界値を代入したときの推定摂取量とADIに対する年齢別摂取量の比率(%) |
表10-1.pdf |
表10-1 |
年齢別食品群別摂取量,幼児,1-6歳 (mg/日/人) |
表10-2.pdf |
表10-2 |
年齢別食品群別摂取量,学童,7-14歳 (mg/日/人) |
表10-3.pdf |
表10-3 |
年齢別食品群別摂取量,青年,15-19歳 (mg/日/人) |
表10-4.pdf |
表10-4 |
年齢別食品群別摂取量,成人,20-64歳 (mg/日/人) |
表10-5.pdf |
表10-5 |
年齢別食品群別摂取量,高齢者,65歳以歳 (mg/日/人) |
表11-1.pdf |
表11-1 |
食品群別の食品添加物の濃度,mg/kg,(1-6歳,幼児) |
表11-2.pdf |
表11-2 |
食品群別の食品添加物の濃度,mg/kg,(7-14歳,学童) |
表11-3.pdf |
表11-3 |
食品群別の食品添加物の濃度,mg/kg,(15-19歳,青年) |
表11-4.pdf |
表11-4 |
食品群別の食品添加物の濃度,mg/kg,(20~64歳,成人) |
表11-5.pdf |
表11-5 |
食品群別の食品添加物の濃度,mg/kg,(65歳以上,高齢者) |
表12.pdf |
表12 |
検出限界値(20~64歳の試料を用いた),μg/g |
表13.pdf |
表13 |
定量限界値(20~64歳の試料を用いた),μg/g |
表14-1.pdf |
表14-1 |
不検出試料に検出限界値または定量限界値を代入したときの群別食品添加物の濃度(mg/kg),(1-6歳,幼児) |
表14-2.pdf |
表14-2 |
不検出試料に検出限界値または定量限界値を代入したときの群別食品添加物の濃度(mg/kg),(7-14歳,学童) |
表14-3.pdf |
表14-3 |
不検出試料に検出限界値または定量限界値を代入したときの群別食品添加物の濃度(mg/kg),(15-19歳,青年) |
表14-4.pdf |
表14-4 |
不検出試料に検出限界値または定量限界値を代入したときの群別食品添加物の濃度(mg/kg),(20-64歳,成人) |
表14-5.pdf |
表14-5 |
不検出試料に検出限界値または定量限界値を代入したときの群別食品添加物の濃度(mg/kg),(65歳以上,高齢者) |
表15.pdf |
表15 |
添加回収率,n=3の平均 (20-64歳の食品を使用) |
表16.pdf |
表16 |
コラボレーティブスタディーによる定量値(μg/g)の比較 |
文献
1)日本食品添加物協会:"平成9年度食品添加物マニュアル",p.281-310 ,日本食品 加物協会,東京,1998.
2)伊藤誉志男:食品添加物一日摂取量調査の現状と方法.食品衛生研究,50, (7), 89-125 (2000).
3)藤井正美:生産統計を基にした食品添加物の摂取量の推定.平成10年度厚生科学研究報告書(1999).
4)石綿肇,山田隆:1996年度の行政検査結果を基に推定した食品添加物の食品中の濃度と摂取量.食品衛生研究,50, (7), 7-34 (2000).
5)厚生省保健医療局地域保健健康増進栄養課:"国民栄養の現状-平成7年国民栄養調査成績",第一出版,東京,1997.
6)吉池信男,清野富久江,河野美穂,井上浩一,大谷八峯:国民栄養調査の現状と今後の動向-統計学的な観点を踏まえて.食品衛生研究 47,(12), 53-68 (1997).
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10) 厚生省生活衛生局食品化学課:"第2版食品中の食品添加物分析法"(2000).
11) JECFA:Evaluation of Certain Food Additives and Contaminants. WHO Technical Report Series 859, 32-35 (1995).
12) 健康・栄養情報研究会:第六次改訂日本人の栄養所要量-食事摂取基準,第一出版 東京,1999.