通知

 

環乳第99号

昭和48年07月23日

都道府県知事

政令市市長

殿

環境衛生局

 

 

魚介類の水銀の暫定的規制値について

 

 本年5月熊本大学医学部10年後の水俣病研究班により「10年後の水俣病に関する疫学的、臨床医学的ならびに病理学的研究(第2年度)」で調査対象地域とした有明地区で定型的水俣病と全く区別できない患者が発見されたという報告がなされたことから国民の間に魚介類の水銀汚染に対する関心が高まつているところである。

 このため厚生省としては「魚介類の水銀に関する専門家会議」(以下「専門家会議」という。)を5月30日に設置し魚介類に含まれる水銀の暫定的基準について検討を重ねてきたが、このたび別添1のとおり意見の提出があつた。
 厚生省は、この意見を検討しこれに示された暫定的規制値を行政上の指導指針として左記のとおり運用することとしたので遺憾のないようご配意願いたい。

 

 

1 暫定的基準設定の趣旨
(1) 水銀汚染防止対策については、環境庁を中心に関係各省庁からなる「水銀等汚染対策推進会議」を設置し、当面の緊急施策の推進に努めているところである(別添2参照)が、水銀による人の健康に及ぼす影響については重大な関心が払われなければならないということから魚介類の水銀に関する暫定的基準を定めることとした。
(2) 水俣病は、メチル水銀に汚染された魚介類を長期間にわたり食べ続けた結果、水銀の蓄積が1定の量に達して発病したものと判明している。他方微量のメチル水銀を長期間摂取し続けても一定限界以内であれば発症量に達しないという観点から専門家会議で暫定的基準について検討されたものである。
(3) 専門家会議では現在までに入手し得る限りの内外の研究資料に基づき十分な安全率をみこんで検討した結果、いわゆる総量規制として体重50kgの成人の1週間のメチル水銀の暫定的摂取量限度を0.17mgときめ、これを前提とし、国民の最大平均魚介類摂取量を基として魚介類の暫定的規制値を定めた。
(4) 従つて、この暫定的規制値をこえる魚介類を市場から排除すれば、国民の殆んどが今までどおり魚介類を摂食しても水銀による人体への健康被害は生じないものである。
(5) なお、今回の暫定的規制値は、魚介類について設定されたものであるが、魚介類以外の食品については水銀の含有量はきわめて微量であつて、それぞれの食品の摂取量を考慮してもなおとくに暫定的基準に影響を及ぼさないとされたものである。

2 魚介類の暫定的規制値
 魚介類の水銀の暫定的規制値は総水銀としては0.4ppmとし、参考としてメチル水銀0.3ppm(水銀として)とした。
ただし、この暫定的規制値は、マグロ類(マグロ、カジキおよびカツオ)および内水面水域の河川産の魚介類(湖沼産の魚介類は含まない)については適用しないものである。

3 検査方法について
(1) 検査のための魚介類のサンプリング方法は、別紙1に掲げるところによるものとする。
(2) 検査はまず総水銀の検査を行ないその結果が0.4ppmをこえる場合は、さらにメチル水銀の検査を行ない、その結果が0.3ppmをこえたものを暫定的規制値をこえた魚介類と判定する。
(3) 分析方法は、原則として総水銀については湿式分解還元気化法による原子吸光光度計により、メチル水銀については直接抽出法によるガスクロマトグラフィーにより行なうものとし、分析方法については、別紙2を参考とされたい。

4 暫定的規制値の運用について
(1) 暫定的規制値をこえる魚介類を市場に流通させないためには漁獲水域における当該魚介類の漁獲を禁止することがもつとも肝要であるが、流通段階の市場においても暫定的規制値の定められた魚介類を最重点として検査を強化し、暫定的規制値をこえる魚介類を流通させないよう効果的に運用されたい。
(2) 流通段階の検査により暫定的規制値をこえる魚介類を発見した場合は、当該魚介類を漁獲地で抑えることが効果的であるので直ちに漁獲水域を担当する部局(漁獲水域が他の都道府県にある場合は、当該都道府県とする。)に連絡する等関係部局と密接な連けいを保つとともに当該魚介類の廃棄、販売の自主的規制等の適切な指導を行なうものとする。
 なお、検査結果が判明次第、その都度当職あて別紙3の様式により報告されたい。
(3) この暫定的規制値の正しい運用によつて1般的には十分な安全が確保されるものであるが、妊婦および乳幼児に対しては、各方面の魚介類の調査結果と食生活の実態を考慮のうえ適切な食事指導にあたられたい。
また、マグロ類その他の魚介類を多食する者についても食生活の適正な指導を行なわれたい。


別紙1

魚介類のサンプリング方法
 

 同1漁獲水域の同1魚種について、次により行なう。

1 小魚類
 無作為に10匹を選び、それぞれの可食部から約30gずつをとつて混和した約300gをもつて1検体とする。1匹の可食部が約30g未満の小魚類にあつては、可食部の総量が約300gに相当する匹数をもつて1検体とする。
 貝類および部分的に食品となるすじこ、たらこ類は小魚類に準ずる。
参 考: 小魚類は、体長約20cm未満の魚類であつて、例えばハゼ、セイゴ、アナゴ、イワシ類、シラス等をいう。

2 中魚類
 無作為に5匹を選び、それぞれの可食部から約60gずつをとつて混和した約300gをもつて1検体とする。
参 考: 中魚類とは、体長約20cm以上60cm未満の魚類であつて、例えば、タイ、サバ、ハマチ等をいう。

3 大魚類
 無作為に3匹を選び、可食部からそれぞれ約100gずつをとつて混和した約300gをもつて1検体とする。
参考: 大魚類とは、体長約60cm以上の魚類であつて、例えば、ブリ、サケ、サメ等をいう。
 


別紙2

1 総水銀の分析方法
 均1した試料5gを500ml容分解フラスコにとり水15mlおよび30%過酸化水素10mlを加え、さらに硫酸30mlを冷却しながら加え、還流冷却管をつけて30分間放置し、つぎに静かに1時間加熱し水で冷却した後、過マンガン酸カリウム1gを加え再び加熱する。過マンガン酸カリウムの紫色が消失したならば、冷却して再び過マンガン酸カリウム2gを加えて加熱する。この操作を過マンガン酸カリウムの紫色が消失しなくなるまで行ない、冷却後過マンガン酸カリウムの紫色が消えるまで20%塩酸ヒドロキシルアミン溶液を添加し、水で100mlに定容として非燃焼式原子吸光測定を行なう。

    (注) この方法によれない場合は石英管燃焼分解吸収法、酸素ボンブ燃焼法、AOAC法等によることができるものとする。

 原子吸光測定は試料液20mlを発生ビンにとり、蒸留水四0ml、20%塩化第1すず2・5mlを加えた後直ちに密栓し、エアーポンプを作動させ、発生してくる水銀の原子蒸気を送り石英セル中で波長2537Åで波高を測定し、1定の波高が得られた時点で測定を終了し検量線より濃度を求める。

2 メチル水銀の分析方法
 試料10gをブレンダーカップにとり、水55mlのうち適当量を加え3分間中速度でブレンドし、250ml容の分液ロートに試料を移し、カップを残りの水で洗い分液ロートに入れる。次に濃塩酸1四ml、食塩10gを加え混合したのち、ベンゼン70mlを加え、振とう器で5分間振とう抽出する。250ml遠心分離管に移し、2,000rpmで10分間遠心分離をし、これより50mlのベンゼン層をとり、60ml容の分液ロートに移し、システイン溶液(システイン塩酸塩1水塩:1g、酢酸ナトリウム3水塩:0.775g、無水硫酸ナトリウム:12.5gを水で100mlに定容)6mlを加え、振とう器で2分間振とう抽出する。10分間静置後、35mlの遠心分離管に移し3,000rpmで20分間遠心分離する。水層2mlを30mlの分液ロートにとり、6N塩酸1.2ml、ベンゼン4mlを加え、2分間振とう器で振とう、10分静置する。水層をすて、無水硫酸ナトリムウ少量を加え脱水し、試験溶液とする。
測定はガスクロマトグラフを使用し、塩化メチル水銀を標準品として検量線を作成し、定量を行う。

ガスクロマトグラフの分析条件
 カラム: ガラスカラム 3mm×2,000mm、5% phenyl Diethanol amine Succinate(HIEFF10B)on Chromosorb W 80~100 mesh 又は、Diethylene Gricol Succinate
 温度: カラム 170℃、注入口 200℃、検出器 200℃
 キャリヤーガス: N2120ml/mm
 検出器: ECD63Ni



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